ザ・グレート・展開予測ショー

悪夢 最終夜


投稿者名:ライス
投稿日時:(03/ 5/26)



「あなたは………、」



















































































「ル、シ、オ、ラ………!?」




「お久しぶりね、美神さん……」

 信じられなかった。死んだはずのルシオラがココにいる。私は驚きのあまりに声が出なかった。

「……そんなところに立ってないで、座ったら?」

 目の前にはいつの間にか、テーブル。そしてその上にはティーポッとティーカップ。ケーキもある。

「さぁ……、ココへどうぞ。今、紅茶も入れるわね。」

 導かれるままに私は、椅子に座った。ルシオラは私とは反対側の椅子に座る。

「さて、なにから話しましょうか……?」

























 ここは病院。その一角の診察室。そこには美智恵、横島、そして西条の三人が座っている。その前には、例のメガネの医師が椅子に腰掛けていた。彼は難しそうな顔をしている。

「先生、ウチの娘の症状は一体……。」

「ウ〜ム、日々進歩を遂げる現代医学をもってしても、原因が分からないのですよ、これが。というよりは、娘さんに悪い所は一つもない。健康体なわけです。念のため、脳波も調べましたけれども、異常は見つからりませんでした。ただ……、」

「だた、なんです?」

「いや、ある発見……、というよりは面白いことが分かりましてな……。」

「面白いこと?」







「そうね、まず、なんであなたがここに居るか、聞きたいわね?」

 私は紅茶を一口飲むと、ルシオラにこう言った。

「ま、当然の質問ね。私は今ここに『存在』してるわけだけど、肉体その物が存在してるわけではないの。元の体は知っていると思うけど、既に『存在』しないわ…。ここにいる私は、いわば意識のみの『存在』よ。」




 医師は看護婦を呼ぶと、一通の大きな封筒を持ってこさせた。その中から、彼は一枚のレントゲン写真のようなものを取り出すと、それを横にある蛍光板に張り出して、三人に見せる。

「これは彼女のある器官の中を映し出したものです。分かりますか?」

 男二人はそれがなんだか訳が分からず、首を横に振る。しかし、美智恵は違っていた。

「まさか……、そうなんですか?」

 美智恵のその言葉を聞くと、医師は首を縦に振った。





「……それがなんだっていうの?」

「最後まで聞いて。意識だけの『存在』っていうのはとても不安定なもので『存在』するためには、肉体が必要になってくるわ。現在の私の状態を説明すると、私は美神さん、あなたと肉体を『共有』している状態なの。つまり、意識も『共有』しているわけ。」

「? どういうこと?」

「これだけ言っても分からないわけ?あなたも鈍い人ね、こういうことに関しては。女性が、肉体的に機能を『共有』している時なんて、一つしかあり得ないじゃない!?」

「………えぇ!?まさか、そんなこと……。」




 医師は続けて、ある映像を流す。それは写真の中の映像と同じだった。

「ココに動く黒い影あるでしょう?」

「えぇ……。これが何か?」

「コホン、これを調べたところ、心音らしき音が聞こえてきました。実を言うと、これは彼女の子宮内の映像なのです。」

「え?と、ということは……?」
 
「そうです、彼女は……」


「そうよ、あなたは……」







































「妊娠しているのです(よ!!)」







































「この大きさからいくと、妊娠三カ月ほどだと思われます。」

「そういう事よ、おめでとう。私もとうとうお婆ちゃんかぁ。」

「いや、まさか、妊娠とはな……。君達が結婚した時にある程度はこうなるだろうと思って,諦めはついていたが、ショックだな。まぁ、

とにかくおめでとう、横島クン。」

 美智恵は、横島の肩を叩いた。西条も負け惜しみ交じりのような祝福をした。しかし、横島は複雑な顔をしている。

「……有難うございます。でも、まだ美神さんが起きたわけじゃないですし…。」

「問題はそこです、どうして妊娠だけなのに意識不明というのはあまりにも不可解な事ばかりで。」

 医師が困惑する中、三人はあることに気付く。

「妊娠って言うことは、まさかルシオラが……?」

「その可能性はあるかもしれないわね……。横島クンの体内に残った彼女の霊体が令子に何らかの影響を与えているのかも……。」

「では、我々はどうすれば……。」

「どうすることも出来ないわ。魂への干渉は人格を壊しかねないから、あの娘が起きるのを待つしか……」

 待つしかなかった。三人は再び重い表情を浮かべる。そして、外では寒空に冷たい雨が降り始めるのであった……。










「つまり、私と横島クンは既に結婚していて、今、あなたがいるのは私が妊娠していて、体を共有しているからって事なのね?」

「そうよ、信じられないでしょうけど。」

「まぁ、薄々は感じてたけどね。(じゃなかったら、横島クンにあんな真っ向から告白なんてしないし。)ということは、今まで私が見てきたことも、もしかしてあなたのせい?あなたの能力を持ってすれば、脳内に干渉することなんて容易いものね。」

「えぇ、そうよ。」

「……あんまり趣味のよくないこと、するわね?」

「……けないのよ。」

 ルシオラはポツリと小声で言う。美神はそれを聞き取れず、聞き返す。

「え、なに?」

「美神さんがいけないのよ!!いつまで経っても、ヨコシマに対して素直にならないから……!それにヨコシマには、私の時のように悲しませたくない……。だから、私は強硬手段に出させてもらったわ。ついでにあなたがヨコシマの奥さんに相応しいのかも見るためにね……。結果は思ったとおりだったわ。」

「なるほどね……。最初からあなたの手の内だったわけね……」

「えぇ、悪いとは思ったけど、ヨコシマのことを考えて、良かれと思ってした事よ」

「それじゃあ、私も一言、言わせてもらうわ……!」

 そう言うと美神は席を立って、ルシオラに近付く。そして彼女の頬目掛けて、手を振り下ろした。手は頬に勢いよく当たる。ルシオラは頬に手を当て、

「なにするのよ!?」

「うるさい!!私の性格を知ってるでしょう?私ね、人に操られるのは嫌いなの!!第一ねぇ、あなたが出てこなくても、私は素直になってたわよ!横島クンの奥さんに相応しいかどうか?ハッ…、イイ?私の旦那になる男が軟弱で勤まるわけが無いわ!!」

「……確かにそうね、フフフ……。」

 ルシオラは微笑む。すると、美神も微笑み返す。そして二人の声は次第に大きな笑い声に変わっていった……。

「ハハハ……、! もう時間だわ。」

 笑い声がやむと、ルシオラの体は破片が風に舞うように散らばっていく。

「もう限界ね。新しい人格になる為の作業が始まったみたい。前世の記憶のデリートね。こうなると、もうよっぽどのことが無い限り、前世の人格は甦らないわ。……最後に言うけど、ヨコシマに何かあったら、只じゃ済まないんだから!!」

「ウチのヤドロクはそんなヘマしないわ、いいえ、何があってもさせないわよ!!」

「フフッ、相変わらずね……、まぁ、そこが美神さんのいい所だけど。」

 そう言うと、彼女は跡形も無く消え去っていく。と、同時に自分の視界も真っ暗になり、私の意識は途絶えた。

























 診察室の扉を開ける看護婦。相当慌てて、何かを言う。それを聞いた医師と三人は急いで立ち上がると、病院の廊下を駆け抜けていく。目的地は言わなくても、誰もが知っていた。そして、その目的地のドアが勢い良く開いた。窓の外はいつの間にか雨が上がり、朝日が差している。それをベットから見つめる患者服の女性がいる。彼女はドアの音に気付くとゆっくりと、そのドアの方を振り向いて言った。

「おはよう。」と。

 医師は驚いた。西条はニッコリと微笑み、美智恵はうっすらと頬に涙を流す。そして横島は……、

「きゃ、きゃあ!?なによ、いきなり……。みんなが見てる前で恥ずかしいわよ……。」

 彼は黙ったまま、彼女を固く、固く抱きしめる。そして、そのまま泣き崩れる。彼女もまた、その姿を見てニッコリと微笑む。

「……長い夢を見てたみたいね。(ねぇ、ルシオラ……)」

 彼女はお腹をさすると、再び窓の外を見る。



 外は雲ひとつ無い、太陽の照り輝く澄み切った青空であった。



 〜FIN〜

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