ザ・グレート・展開予測ショー

優しい気持ち


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 5/25)


 忠夫さん。

 何だ?

 ちょっと、挑戦してみたいんでござるよ。

 何に?

 お料理にでござる。

 ほほう・・・。

 お肉ばかりでは忠夫さんの身体に悪いでござる・・・。

 そうだな。

 だから、菜食のメニューも増やそうかと。

 うん、なかなかいい心構えだ。

 とりあえず、キャベツの千切りを。

 ふむ。



 「・・・んで、これは何だ?」

 「キャベツの千切りでござる」

 「俺にはどう見てもレタスにしか見えん」

 「れたす?」

 「・・・やり直し。いや、まぁ、これはこれで美味しく頂くけれども」

 ドレッシングをかけて食ってみた。
 うん、美味い。
 決してこれは、キャベツではないけれども。





 忠夫さん。

 何だ?

 ちょっと挑戦してみたいんでござるよ。

 何に?

 掃除にでござる。

 ほほう・・・。

 ごちゃごちゃと散らかしっぱなしの部屋は衛生上良くないでござるよっ!

 そうだな。お前がどこで衛生上・・・なんて難しげな言葉を覚えてきたんだか分からんが。そうだな。

 だから、散らかった部屋を片付けるでござるよっ!

 うん、なかなか良い心がけだ。

 まずは、雑誌類をまとめようかと。

 ふむ。



 「んで、何で、こうなる?」

 「何がでござるか?」

 「何というか、だな。その、雑誌の種類があまりにも・・・だ」

 「置いておきたいもの、捨ててしまったほうがいいもの、とりあえず保留、の箱と分けて片付けは行なったほうが良いと本に書いてあったでござるよ」

 「・・・まぁ、そのやり方は良いかもしれない。だが、あまりにも一つのダンボールに・・・その、何だ・・・アレ系が固まりすぎていやしないかとだな」

 「あれとは?」

 「いや、そんな・・・そんな悲しげな目で見られても・・・」

 「忠夫さんは・・・拙者では役不足なんでござるな・・・この、半裸っていうか、殆ど全裸の女性のような方が好きなんでござるな」

 「な、何がだっ!!っていうか、俺、お前にそういう事した事ないしっ、する気も・・・っ!」

 「やっぱり忠夫さんは・・・ら、らぶりーでぷりちーだけど、貧相な拙者なんて・・・好きでも何でも無いんでござるなっ・・・眼中にないんでござるな・・・ど、同棲までしてるのにっ・・・よよよ」

 「そんなわきゃねえだろがっ!!す、少なくとも、貧相だとは・・・思わないしな・・・」

 「忠夫さん(ぽっ)」

 「いや、そ、そうじゃなくてっ!!(汗)」





 忠夫さん。

 何だ?

 ちょっと、挑戦してみたいんでござるよ。

 何に?

 お洗濯にでござる。

 ほほう・・・。

 洗い物が溜まってしまうと部屋の中が狭くなってしまうでござる・・・。

 そうだな。

 だから、洗濯機を使うのと同時に、お洗濯を行なうのはどうかと。

 うん、なかなかいい心構えだ。

 とりあえず、洗濯板を持って、外の水洗い場に洗いに行くでござるっ。

 ふむ。




 「・・・んで、これは何だ?」

 「えっと、トランクス・・・でござるよ」

 「お前にはこれがトランクスに見えるのか?」

 「見え・・・ないでござる・・・えへへへ」

 「笑って誤魔化すんじゃないっ!」

 「だ、誰がこんなことをしたんでござるかっ!ぷんぷん!」

 「怒るな、あらぬ方向を向いて誰かのせいにしようとするな・・・」

 「・・・しゅん」

 「それで良いんだ・・・多分」

 「洗濯板で、張り切ってごしごし、としていたらそうなってしまったんでござるよ・・・」

 「まぁ、被害がトランクスだけで良かったけどな・・・」

 「そ、それが・・・」

 「そ、それは・・・俺の・・・ジーパン・・・」


 「・・・通りがかりの奥様方にひそひそと呟かれてたのは・・・この所為だったんでござるな・・・」

 「今は、朝だな」

 「そうでござるな」

 「で、お前はトランクスを洗ってたと」

 「そうでござるよ」

 「・・・物凄い勢いで真剣に」

 「そうでござる」

 「朝、俺のトランクスを洗う、同棲している犬系美少女・・・」

 「び・・・美少女なんて、照れるでござるよ・・・って、拙者はっ!」

 「何というか、ご近所の皆さんに誤解を解きたい気分で一杯だけども・・・」

 「ごかい・・・?」

 「・・・気にするな」









 台所から聞こえてくる君の歌声。
 そんなに歌が上手いわけじゃない。でも、彼女の歌声は俺に安らぎを与えてくれる。
 音が外れる時もあるけど。そんな時、がくん、と肩を落としながらも、安心したりする。



 何でも出来るようになった君に。
 頼もしさを感じるのと共に。
 ちょっとした寂しさを感じている今・・・思う。

 あぁ、シロっぽい、と。

 支えあってる、そんな実感を日々感じてる。
 充実してる・・・それでも―――
 昔のように君がドジをしてくれることを望むんだ。
 時々は―――。

 テレビを見る視線を、台所で食器洗いをする君に向ける。
 機嫌良さげに、ぶんぶんと上下に振られたしっぽ。
 華奢な身体。
 まるで、抱きしめれば折れてしまうのではないかと思うほどに。

 ―――君の後ろ姿を思うたびに、離れる日を思う。

 幼い心を持った君を―――愛した故の不安。
 離したくない―――でも、君を愛するが故に、束縛をするつもりもなくて。

 いつか、憧れを浅はかな過ちと思い、俺の元から離れていくかもしれない君が。
 俺の心の中で、今のように、優しく綺麗に―――不変しないで残りつづけることはありえない。
 路地裏に貼られたポスターのように、悪戯という名の風雨に晒されて色褪せる事はきっと、否めない。
 だから―――そう。

 俺が君と作る思い出は、未完成のままで良い。

 何故か涙が一筋零れた。
 戸惑いながら、Yシャツの裾で拭う。
 ネガティブな心を誤魔化すように。

 拭いながら。
 カッコ悪いなぁ・・・俺。
 と、思いはしたけれど。
 でも、そんな日が実際に来るとするなら、こんなもんじゃすまない。
 情けないほど取り乱して。
 縋って。
 きっと、軽蔑されるような言葉をかける。
 なじるだろう―――好きな人と離れるときに、淡白でいられる自信なんてない。
 そんなものは要らないとさえ思う。

 涙は、止まらなかった。
 最低でも、彼女がこの部屋に入ってくるまでには止めなきゃ。
 そう思って、必死で心を落ち着ける。





 拙者には恋している人がいるでござる。
 その人のことが愛しくて、恋しくて仕方がなくて―――思わず、身を抱くほどに。
 きっと、一日24時間、一年中。ずっと傍に居ても飽きない。
 いや、一生飽きたりなんてしない。ずっと、幸せな気持ちに浸ってられるでござるっ!
 何というか、その人のことを考えると胸の奥が言いようのない、じゅん、とした不思議な優しい気持ちに駆られて。
 何でもしてあげたくなる。不器用な我が身に、悲しくなるくらいの無力感に苛まれるけれど。
 それでも、めげたりはしない。その先にある笑顔が嬉しいから。
 優しく頭に手を乗せてくれる彼の熱が温かいから。

 微笑む、いつもよりも深く。

 私は、頑張れる。

 洗剤のついたスポンジで、軽く水に浸したお皿を洗う。綺麗になるように。
 あまり力は入れすぎない、前はそれでお皿を壊してしまったから。微妙な力加減でお皿を洗って、拭う。
 二人分だから数は少ない、だから、直ぐに終わる。
 直ぐに彼に会える。―――それだけで嬉しくて。
 微笑みがいつも磨いていてぴかぴかのシンクに映って―――綺麗。
 幸せそうでござるっ!―――そう、彼女に向かって呼びかけて。
 彼女が返してくれた言葉にますます、笑みが深まって。
 幸せの連鎖―――崩れる事もなくて。
 拙者はそこに居た。
 そこから出れば、彼の元。
 そうすれば、もっと幸せになれる。
 本当に―――心の底から―――あなたを思う。
 そして、拙者は何よりも優しくなれる気がする。

 嬉しいでござるよ、忠夫さん!





 忠夫さん。

 何だ?シロ。

 拙者、忠夫さんのことが好きでござるよ。

 何だ?突然。

 忠夫さんは拙者の事、好きでござるか?

 へ・・・あ、あのなぁ・・・

 忠夫さんは拙者の事・・・好きでござるか?

 ・・・す、好きだよ。当たり前じゃねえかっ。

 それなら、笑って欲しいでござるよ。

 は?

 拙者は忠夫さんと一緒にいられるなら・・・幸せでござる。
 だから、ずっと、笑ってられる。だって、それ以外の表情なんて、作れないから。
 忠夫さんはいつも苦しそうな顔をしてるでござる。
 拙者は、そんな顔、見たくないでござるよ・・・。

 俺は―――。


 なぁ、シロ。

 何でござるか?

 ずっと、一緒にいてくれるか?

 ?

 俺と、一生、ずっと一緒にいてくれるか?

 ・・・勿論っ!で、ござるよっ!

 俺は・・・

 ―――ずきっ、と胸の奥を貫く痛み。
 彼女をまるで罠にかけたようで―――

 俺は

 彼女の視線の先に、俺の瞳に映る彼女の姿を見つめる彼女がいる。
 彼女は、その自分の顔にどんな思いを抱いたんだろうか?
 そう思って、少し、照れる。

 「・・・好きだよ。絶対」


 彼女が俺に向ける満面の笑顔。
 その中で。
 俺は幸せを甘受した。
 少し切ない胸、痛みはやわらいだだけ、まだ残るけど。
 この約束で、彼女と俺の絆は深まった。
 幸せにしてやりたい―――今よりずっと。
 思ってたい、彼女が自分を思う以上に。
 他の男に目移りなんてさせない。
 約束が彼女にとっての茨の城にならぬように。
 甘く、幸せに充ちた、離れる事の出来ない犬小屋であるように。

 俺は彼女の体を抱き寄せた。

 「・・・ふに」

 「・・・狭い部屋の中だけど、幸せであるように・・・」

 「・・・ふに・・・♪―――忠夫さん・・・ずっと一緒にいるでござるよっ♪」



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