ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記(その20)


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 5/25)


キュ、キュ・・

シューズと体育館の床が独特の音を奏でる中、ひのめは幸恵を抱きかかえ結界フィールドから出て行く。
そしてゆっくりと床へ寝かせると、ジャージの上着を脱いで枕にしそれを幸恵の頭の下へとひいた。

「じゃ、やってくるわ」

ひのめは静かに眠る親友の頭をポンポンと叩くと、スクっと立ち上がり再び結界フィールドへと入る。

「けっ、負け犬が何の用だよ!」
「ああ、全くだ。てめぇもそのダチも弱ぇったらありゃしない!」
「それとも、もう一度ボコられたいのかよ?」

不良三人組は次々とひのめに対し罵詈雑言を吐く。
よっぽどひのめに威圧されたのがムカツいたのだろう、あんなものハッタリだと自分達を鼓舞するように言い聞かす。
前回は勝ったという実績がその口を動かしていた。
しかし・・・

「その口黙らせてあげるから早くかかって来なさいよ・・・・・クズ先輩」

ひのめの静かな挑発に激怒する三人組。次の瞬間には猛牛の如く駆け、ひのめに迫ってくる。
しかし、ひのめは構えはおろか避けるそぶりも見せずその場に立っているだけだった。


ドガ!ドス!ガスっ!


三人組の拳がひのめの頬、みぞおち、わき腹に突き刺さった。
その光景に誰もがひのめが崩れ落ちると目を丸くする。
しかし・・・・目を丸くするのはここからだった。

「決まりましたわね・・・」
「え?」

京華の呟きに取り巻きの一人が不思議そうな表情を浮べる。
ひのめの負けが決まったのだろう・・・そう思ったそのとき。


「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!」

咆哮。それとしか言えないひのめの声が体育館に轟いた瞬間。


ドガンっ!!!!!!!!!!!


一撃、たった一撃で不良三人組がまるで何か引っ張れるように結界フィールドの外まで吹っ飛んだ。
二転三転、まるでボールのように転がる三人は自動車事故に遭ったかのようにその身体をグタっとさせたまま動かない。
ひのめはそんな三人に興味がないように『ふぅ〜』と息を吐きながら残心の構えを解いた。

「な、なにあれ?」
「どうして吹っ飛んだの?」
「気合?」

周囲のギャラリーは一体何事か、何があったのかと騒ぎ出す。
あの三人の影、一番隅っこの結界フィ−ルドで死角や、見れる人数が少なかったせいもあるが、
果たしてひのめが何をしたか理解した生徒は何人いるのだろうか。

「ね、ねぇ・・・京華さん一体何があったの?
 美神さんが叫んだ瞬間あの三人が吹っ飛んだように見えたけど」

5人いる取り巻きの一人がおどおど京華に聞いてみる。
京華はそんな取り巻きに軽い嘲笑を浮べると、自分の右隣にいる生徒に声をかけた。

「かすみ、あなたは分かったの?」
「バカにしないでよ」

橘(たちばな)かすみ。
1−B組20番。容姿はタレ目とツインテールの髪型。
三世院京華とは子供の頃からの付き合いで、小、中、高と一緒に過ごしてきた。
霊力、知力、体力ともにTOPクラスで総合的に見れば京華に次ぐ実力の持ち主。

「・・・咆哮・・・というより空手の呼吸法の一つだと思うけど・・・
 まあ、とにかくその次の瞬間には正面の相手に右手で掌底、そのまま右の相手に肘、
 それと同時に最後は左手で裏拳・・・しかも打撃音が一度しか聞こえないってことはそれだけ体のこなしと拳速が早いってことね」

「そういうことですわ」

京華は自分の相方の説明を聞いてたかという表情で周りの取り巻きを見回した。
取り巻きの彼女達はまるで見えなかったという驚きと京華に追随するかすみの実力に恐れを浮べた。

(もっとも・・・・あの三人が殴りかかった瞬間にショートアッパーでアゴを打ち上げて意識を刈り取ってましたけどね、
その上で結界フィールドの外にまで吹っ飛ぶほどの攻撃・・・・・クス・・・そういう容赦ないやり方は好きですわよ・・・)

今、京華の思考を読み取ることが出来たなら取り巻きはさらに畏怖の念にかられることになるだろう。
歯向かう者には容赦しない・・・・そんな冷酷な一面があらわに出ているのだから。

(・・・・・・・・潰すか?)

その心の言葉と同時に京華の霊圧・・・・ひのめに対する敵意というものが一気に膨れ上がる。
周囲の生徒の肌にビリビリと突き刺さるソレはすぐさま体育館中へと広がった。
敵意、これをもう少し上げれば殺気とも言われるそれを抑えてこそ一流なのだが、
今の京華はあえてそれを抑えようとはしなかった。

「京華やめときな」

友人の言葉に京華はクスリと笑うとゆっくりと霊圧を下げていく。
そして、タイムアップ。


キーンコーン、カーンコーン・・・・


体育館の緊張感とは裏腹にのどかなチャイムが流れる。
それと同時に周囲の生徒はホーと安堵の息を吐いた。

「ふん、かすみ・・・行くわよ」

「了解了解」

かすみはよっと立ち上がるとスタスタと体育館を出て行く京華を追う。
その後を取り巻きのメンバーが慌てるようについていくのだった。

(面白いじゃない・・・・どうやって力を手に入れたか知りませんけど・・・)

京華は歩きながら両拳に力を入れる。

(否定してあげる・・・あなたのその力を、存在を・・・そして美神家を)


肩を震わせ冷たい笑いをあげる京華。そんな彼女に思わず道を開けてしまう六道の生徒達だった。









「戦えると思ったんだけどな・・・。
 ま、いっか。さっちゃん運ばなくちゃ」

ひのめが静かに眠る幸恵に近づいたとき。

「コラァ・・・美神。お前このまま帰れる思っとんかぁ・・・」

さっきの三人か?
そう思い振り向いたひのめの背後にいたのは

「き、鬼道先生!!?」

「組み手の授業言うたろ───っ!
 遅刻したうえに何対戦者ぶっとばしとんのや!!!?」

「ちょ、ちょっと待て下さいよ!!
 これには事情がある上にケンカ売ってきたのはあっちなんですよ!!?」

「ふぅ・・・まぁ分かっとるわ。とはいえ、罰が何もないというのは体裁っちゅーもんがあるからな。
 一週間体育館裏の庭掃除、それから体育の後片付けやぞ」

「ちぇ」

「何か言うたか?」

「い、いえ!!で、でも今日だけは勘弁してくれませんか?」

チラっと視線を幸恵に向ける。今は後片付けより親友を保健室に運ぶほうが大切だった。

「ったく、しゃーないな。こっちの三人はオレが説教したるからはよ行き」
「やった♪鬼道先生って物分りがいいから大好き♪」
「大人をからかうんやない、ったく」

少しだけ顔を赤くする鬼道に一礼し体育館を後にするひのめ。
その背を見ながら鬼道は思う。

(もう美神はんの妹なんて思ったらあかんな・・・
 にしても三世院の殺気・・・・ありゃただ事じゃないわ・・・アノ事が原因やろか)

鬼道はう〜んと考えながら不良三人組に活を入れるのだった。










間。



「う、う〜ん・・・・」

ゆっくりと意識を取り戻していく幸恵。
まず視界に入ったのは白い天井、それを視認してからもう一度眼を瞑る。
そして、ハっとして上体を勢いよく起こした。


ガバっ!!ゴチ────ン!!!

「「あいたぁっ!!」」

いつかと同じように額に痛みが走り、保健室にゴツっという鈍い音が響いた。

「いたたたって・・・ひーちゃん?」
「あいだだだ、目ぇ醒めたさっちゃん?」

ひのめは額を両手で押さえながら同じく額をさする幸恵に声を掛けた。

「あれ?ひーちゃん何で泣いてるの?・・・・・・・・・・・・・あと・・・・・・・・・・・・・ここどこ?」
「ここは保健室、ちなみに午前11時10分。
 私が泣いてるのは意識を取り戻しつつあるさっちゃん起こそうと思ったらさっちゃんがいきなり起き上がって頭突きをしてきたから。
 ・・・・・・・・・それと」

幸恵は言葉を止めた親友をキョトンと見つめる。
その親友はギュっと幸恵の『胸倉』を掴んで言った。

「やっぱりあんたの頭突きが痛かったから!!!」
「もっと優しい言葉かけてよ!!!」

親友の下らない冗談に涙を流す幸恵。
ひのめは「冗談、冗談」とケラケラ笑うが、幸恵はぷ〜と頬を膨らませるだけだった。

「ま、大したケガないみたいだしよかったじゃない」
「う、うん・・・えへへへ」

幸恵はひのめの言葉に苦笑いで答える。
親友への悪口にカっと来てケンカを売ってみればこの様だ。
そんな自分に対して複雑な感情が浮かぶ幸恵。

「全く・・・さっちゃんはケンカ売るタイプじゃなないんだから気をつけなきゃダメじゃない」
「!!・・・ううぅぅ・・・そうだけどさぁ」

『あなたのタメに売ったのよ』と言う気持ちはサラサラないが、
それでも親友の言い草に少し傷つく幸恵はちょっと涙ぐみ、布団がかかったまま膝を丸めて顔伏せた。

「ふぅ・・・」

ひのめはそんな親友に苦笑いを浮べながら、ぐっと肩を寄せた。

「でも、私でもさっちゃんの悪口言われたら許せないもんね。
 だから・・・ありがとね」

耳元で囁かれた言葉にバっと顔を上げる幸恵。
そして涙をめいいっぱい溜めながらそのウルウルとした視線をひのめに向けた。

「うううううっ!ひーちゃぁぁん!!!!」
「ちょっ!さっちゃん!危なっ!どわぁ!!!」

幸恵は感激のあまりに場を考えずにひのめに抱きつくが、
そのせいでバランスを崩して幸恵ごと転げ落ちるひのめ。

「あいたたた、もう何やってんのよぉ!」
「あ、はははは。ごめん、ごめん・・・そう言えば、あれからあの先輩達どうなったの?」

その問いにニパっと頬を緩めるひのめ。

「ふふふふ、もちろん新生ひのめちゃんの大勝利!!!」

ビっと親指を立てるひのめにワーと拍手を送る幸恵。
その様子に更にひのめの鼻が高くなっていく。

「カッカッカッ!まぁ私にかかれば楽勝楽勝♪」

まるで某成金のように扇子を扇ぐひのめ・・・そのときだった。

『何が楽勝だわさ・・・』

「「!!?」」

突然聞こえた謎の声に顔色が変わる二人。
保健室には自分達しかいない、しかも幸恵も反応したのだから幻聴ではない。
緊張感走るひのめ・・・そして、気付いた・・・幸恵が目を丸くして自分の右手を見つめていることに・・・

「ど、どうしたの!?さっちゃん!」
「ひ、ひーちゃんのリストバンドに・・・・」

幸恵は震える声、手で指差しながら言った。










「目がある・・・」

と。


                              その21に続く

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