ザ・グレート・展開予測ショー

夜の電柱


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(03/ 5/24)

「じゃ、出かけてるワケね」
颯爽とバイクに乗るエミを送るタイガーも、
「どちらへ?」
野暮なことは聞かない。ままあることのである。
たとえ雨でも夜でも気が向けばバイクに身を任せることがある。
エミとて決して大柄な方ではないが、彼女がバイクに乗るとかなり大きく感じる。
というより、実際大きい。
使い込まれてる単車ではあるが、きちんと整備されているので、エンジンもまだまだ快調である。
ぐおん、と軽快なエンジン音と共に、風を残してもう薄暗い空へと飛び立つ。
「さて、と掃除でもしておく、かノー」
もう慣れているタイガーである。
大通りに出る寸前で前の車が黄色の信号を感知して減速していく。
「お先に」
とでも言うように道の真ん中までより車を追い越して、黄色から赤へ変わる寸前でもあるのに、右へとウインカーを切る。
「危ない運転手だな」
と車の中でもれてはいる。
その大通りは二車線になっている。当然選ぶは左側の追い越し車線だ。
三台目の車を追い越した時、やや渋滞している状況が目に入る。
「チッ」
舌打ちしたと同時に左にウインカーを切る。
これも黄色が変わる寸前でルート変更をしている。
東京のど真ん中ではあるが、一歩路地に入れば昔の町並みが残る街である。
静かな場所に響くのは人間の気のせいであろうか、星々が発する超音波にバイクの排気音である。
と、
奇異な物がエミの前に飛び込む。
奥には文明の象徴、鉄塔に団地が見える空き地にある電柱である。
「このご時世に木の、しかも裸電球?」
ぶるん、とバイクを鳴らし、ブレーキをかけるエミ。
飛ぶようにバイクから降りて、その電柱に身を寄せる。
「ふむ」
頭をフルカバーするヘルメットをはずし、長い髪を左右に振る。
「霊・・なワケね」
当然エミの霊感は日本、否世界でもトップレベルである。
「ちょっと、オタク」
その電柱にいる、という表現はともかく、蹲っている子供の霊。
何年いるのか、どうしているのかは誰もわからない。
だが、この坊やの所為で土地開発が出来ないのは事実である。
その男の子の霊も、久しぶりに声を掛けられ驚いて目を上げる。
うれしそうに何かを言いそうな霊に対して、
「邪魔だから、どこか行く事ネ」
えっと、驚いた顔をして、
「よかったら、後ろに乗っても、良い訳ネ」
と、バイクに乗るエミに対して、その男の子は動こうとしない。
「・・・・。三」
そういってエンジンを回す、
「・・・・。二」
アクセルを蹴り上げる
「・・・・。一!」
ぐおんと、エンジンが響くと同時にその男の子が慌てた様にエミの前に立ちはだかる。
「それでOK!乗るワケね!」
こくりと、頷いてよちよちと、空を舞うようにして後ろに乗る。
「ほら、飛ばすよ、バイクを走らせる。
今度は来た道を戻るエミである。
来た時はすぐ曲がれる道を選んだので、帰りは対向車線をまたぐ形になるので、
若干時間的なロスがある。
そして、時間にして30分位の旅が終わりを告げる。
「おりょ?今回は早いお帰りですノー」
事務所の掃除をしていたタイガーが主人の帰宅に気が付いて鍵をあける。
「只今、タイガー」
「お帰りなさいですノー、エミしゃん」
「ねぇ、ワタシの後ろに誰かいて?」
「・・・・?いえ」
「そう、なら好いワケ」
「はぁ」
そういいながら、ヘルメットをバイクに納めた。
数日後、ある依頼の帰り、あの場所を訪れたとき、かの電柱は近代化されていた。
「これで、OK」
そして、その場所からすぐ離れた場所の家では赤ん坊の誕生に大騒ぎであった。

FIN

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