ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−46


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 5/24)




<美神除霊事務所>


さすがに疲れもあったのだろう。
事務所に戻ったシロは、自分の部屋で泥のように眠り込んでしまった。
一方美神は、西条と連絡を取り合って、互いの現状を報告し合っていた。



『そうか、シロ君が戻って来たか。………良いのかい?これは我々のエゴだよ?』

「分かってるわよ。でも、きちんと説明したわ。その上で、彼女は付いてきた。」

『責任逃れかい?彼女を誘導しなかったとは言わせないよ?』

「否定はしないわ。今の私に、そんな余裕ないもの。」

『分かってるなら良いさ。
 僕の方はピート君を引き込むのに成功したよ。』

「そう………唐巣神父で攻めたのかしら?」

『そういうことだ。』

「まともな死に方出来ないわね――――お互いに。」

『何を今更。』

「ええ、今更ね………。」




電話の受話器を下ろし、美神はソファーに深く腰を下ろす。
西条が如何にしてピートを引きずり込んだか。彼女には容易に想像が付く。
大方、唐巣の死の責任をピートに求めたのだろう。
何もしなかったことが罪であると。
あの真面目なヴァンパイアはそれを否定出来まい。
それから一転して、親友である横島を救うというお題目を与えれば良い。
『復讐と救出』
この相反する行動目的をぶら下げてやれば、必ず彼は動く。
それは西条と美神の予想ではなく、確定事項。
そして案の定の結果だ。
次のターゲットは雪之丞とタイガー。
タイガーは良い。エミが死んだから、口説くのも簡単だろう。
雪之丞は………ピートとタイガー連れてって何とかするしかないか。
先に弓家に手回ししておくと良いかも知れない。




「問題はおキヌちゃんか………。」




400年も眠り続けた眠り姫。
ネクロマンサーの笛を持つ、慈愛の少女。
そして………横島君の身を本心で案ずる少女。
どこかお母さんみたいな匂いのする少女。



「お母さんか………。それも良いかも知れないわね。」

美神がひとつの決断を下したその時、人口幽霊壱号が来客を告げた。

『美神オーナー、招かれざる来客です。』

言われて初めて、彼女は来客の気配――――魔力に気付く。

「誰か分かる?」

『デミアン、そう名乗っています。』

「………デミアンは応接間へ通して。それからシロも起こしておいて。」




神通棍と、ありったけの精霊石を携えて、彼女は応接間へ向かった。








メイド服を着て、横島の私室を掃除するリグレットを見ながら、横島とタマモは溜息を吐いていた。
タマモは横島との盟約通り、リグレットとの接触を図った。
だが、リグレットの心は横島達の想像を越えるほどに偏った成長を遂げていた。






「初めまして。私はタマモ、九尾の狐よ。」

「………私はリグレットです。何か御用ですか?」

互いに、互いのことは知識として知っていた。
タマモは横島から詳細を聞かされていたし、リグレットはタマモのことを横島の客人として認識していた。
特にふたりの接点はなく、ユーチャリスの広さも相まって、実は初めての対面であった。

「用事って言えるのかわかんないけどさ。友達になりましょ?』

リグレットの性格がいまいち把握出来ていないタマモは、ストレートに切り出す。

「友達………?」

「そ、友達。私、このユーチャリスに居てもやることないしさ。親しいのは横島くらいなんだけど、あいつも色々と忙しいみたいだし。
 無理して構ってもらうわけにもいかないでしょ?」

事前に横島至上主義を聞かされていたタマモは、敢えてそこで横島の名を出す。
そして、忙しい横島に負担をかけるわけにはいかない。
そう彼女に思わせるように会話を運ぶことにした。

「ごめんなさい。友達っていうのが良くわかりません。」

『でしょうね。』
内心で頷きながら、タマモは優しく諭した。

「今は分からなくても良いわ。追々分からせてあげる。とりあえず、私と貴女は友達。OK?」

タマモの言葉に少し考え込み、リグレットは言った。

「やっぱり、よく分かりません。マスターのお許しも必要かも知れません。」

「問題無いわ。横島の許可は取ってあるの。」

それならと頷くリグレット。
友達という単語の意味は知っている。
だが、生まれてからずっとひとりで居た彼女に、友達とはどういうものか実感出来ていなかった。
だからこそのタマモであった。

『道のりは険しいわね。』
内心の呟きを隠しつつ、彼女は右手を出した。

「?」
その右手の手の意味が分からず、キョトンっとするリグレット。

「握手よ、握手。信頼の証。人間の風習だけどね。」

そんなリグレットの右手を強引に取り出し、握り締めるタマモ。
タマモの行動を理解しきっていない様子のリグレットは、ただ、されるままになっている。

「こういう場合は握り返すの!」

タマモの言葉に慌てて握り返す。
その様に満足したタマモは、右手を離して微笑んだ。

「これでふたりは友達ね。」

柄じゃないなぁと思いながら。






そんなやり取りがあったのが二日前。
そして、リグレットは思い切ってそのやり取りを横島に尋ねたところ、横島はにっこりと笑って、『良かったな。』と言った。

――――マスターが祝福してくれた。これはきっと良いことなのだろう。

そう判断したリグレットは、タマモのペースに乱されつつ、少しずつ学習を始めたばかりだった。


「アンタさぁ〜。常識を叩き込まなかったの〜?」

リグレットの働く様を眺めながら、タマモが横島に愚痴る。
対して横島は自嘲するように、呟いた。

「魔族を作るの、初めてだったからな。」

『ルシオラは最初から感情豊かだったな………』そんな言葉を飲み込むように、リグレットの淹れた紅茶を口に運ぶ。
横島が何かを言いよどんだのをタマモは察したが、敢えて聞き出そうとはしない。
殊、リグレットのことになると、横島がそういう表情をすることが多いことを彼女は知っていた。

『アンタも苦しんでるのね。』
同じく内心の呟きを表に出すことなく、タマモも紅茶に口を付ける。




ダージリンの香りが、無言になったふたりの間に漂っていた。












ユーチャリス地下にある、異空間内。
そこは横島の計画に必要な装置、儀式の類が理路整然と並んでいた。

『準備が整った!』

そうジークから連絡が入ったのは、タマモとのティータイムが終った直後のこと。
さすがに計画の要の完成ということもあって、横島は急いでそこに足を運んでいた。


「ドグラ?ジーク?どこにいる?」
広い空間に横島の声が響き渡る。
いざ足を踏み入れてみると、計画の準備は整っているようだが、ドグラ・マグラとジークの姿がない。
異空間、そして完成した積層型立体魔方陣。
このふたつの影響か。
異様な雰囲気の充満するその場所は、気配を探ることを許さない。
本来なら、呼びつけておいてと機嫌を損ねるところだが、目の前の積層型立体魔方陣の淡い光に眼を奪われる。
とりあえず、ふたりを探すのは止めて、その魔方陣の様子を間近で眺めようと踏み出した時!

――――カチャリッ

後頭部に銃口を当てられていた。





「何のつもりだ、ジーク?」
振り向きもせずに、横島は問うた。

「すいません。しかし、確認したいことがあります。」

「ドグラ・マグラは?」

「縛って端っこの方に置いてありますよ。」

「で、何を聞きたいんだ?」

「この積層型立体魔方陣の、“真の使い道”です。貴方が語ってくれた計画と<因果律>には何の関係もない!!!」

「………何のことだ?」

「惚けないでください!!!!」
ジークの激昂する様子に、横島は内心で溜息を吐く。

魔族の癖に妙な正義感を持ち、軍人の癖にクールになれない。
いつまでも姉を越えられないわけだ。

「知ってどうする?」

「………必要とあらば、魔方陣を破壊します。」

「俺に協力すると言ったのは嘘だったのか?」

「先に嘘を吐いたのは貴方です。」

「フゥ――――ッ」
あからさまに失望の意を表明する深い溜息。

「軍人が上官に逆らって良いのか?」

「今は友人として動いています。」

「欺瞞だな。」

「それは貴方もです。」

処置無しとばかりに、頭を左右に振る。

「ただの精霊石銃だとは思わないでください。この銃には貴方も使った『創世の炎』が込められています。いくら魔神と言えども、至近距離で喰らえば只じゃ済みません。」

――――なるほどね。それが強気の理由か。

「撃てば良い。」

「はぁ?」

「撃てと言った。」

「なっ?これは脅しではありませんよ?」

「ただの脅しだよ。お前は俺を撃てない。現状で俺を殺せばどうなるか。軍人なら予想も付くだろう?デタントは崩壊した。後はハルマゲドンへの道をまっしぐらだ。俺の真の計画が発動しなければな。」

「………………クッ!」

「それに!!!!!!!!」

言った瞬間に、横島の魔力<文珠>が発動する!
ジークは慌てて止めようとするも、既に彼の身体は動かない!

「詰めが甘いんだよ。友人だからか?両手を挙げさせるくらいするべきだよ。真後ろから銃を突きつけておけば、前の方で何もしないとでも思ったか?」
態々会話に付き合ったのは、ジークの注意を逸らすため。
友人に、上司に、魔神に銃を突きつけているという罪の意識からか、どこか注意力が散漫となっていた。

「……………」
背後からのストーキングが成功した時点で、どこか油断してしまっていた自分に歯噛みする。
同時に、横島はやはり変わってしまったということを再認識し、やり切れない思いに囚われる。

「安心しろ。殺さないよ。ちょっとだけ記憶を弄らせてもらうだけだ。」
そう言って横島が文珠を発動するのを見ながら、薄れゆく意識の中でジークは叫ぶ。

『止めろ!!!君は何をしたいんだ!!!!!』























「あ、あれ?」

「ん?起きたか?」

「僕は……………?」

「悪いな。完成が近かったせいで、働かせっ放しだったな。」

「あっ?!」

「大丈夫だ。お前が寝てる間に完成したよ。」

「す、すみません、横島さん!」

「気にするなよ、ジーク。………上司や部下である以前に、友達だろ?」







こうして横島の罪がまたひとつ………。




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