ザ・グレート・展開予測ショー

悪夢 第七夜


投稿者名:ライス
投稿日時:(03/ 5/24)






 それは見間違こうことなく、横島クンだった。



 彼等(としか形容できない)は、闇が覆うその奥深くから、私の所目掛けてやってくる。それも何百、何千、何万と。机に向かっていた男は書き終えたようで、力が抜けきった状態で椅子に寄りかかって
いた。

「フゥ……。僕はアッチから走ってくる横島クンの大群の中に、たった一人、本物の横島クンを描いた。君は彼らの中から、そのホンモノを探し出す、いや、探し出さなければならない。それが君の試練だ。」

「………冗談でしょ!?あんな同じ顔の大勢いる中からなんて……!」

「大丈夫、探し出せるさ……、君なら。……僕の役目はこれで終わりだ、潔く消えるとするよ……。」

「え!?ちょっ、待ちなさいよ!?」

 男はふわりと飛び上がると、その姿は空高く、闇に包まれ消えてく。気付くと、机も陽炎の如く揺らぐと、スゥッと消えてしまった。


「美神「美神「美神「美神「美神「美神「美神「美神さぁぁぁぁ〜〜ん!!」


 その現象を見えている暇もなく、私はその何重にもハモった、横島クンの声を聞く。見ると、その大群はもう目の前までやって来ていた。


 冗談じゃない。

 
 私はそう思うと、彼らに背を向け、一目散に走り出した。一人でさえ、手に余るのにこんなに多いと思うとゾッとする。ホンモノを探し出せ?……やめてよ、無理に決まってるじゃない!!


――無理?誰がそんな事、決め付けたの?

「え?」

 私の頭の中で『声』が聞こえた。これは私の葛藤なのだろうか?いや、そんなことは如何でもいい。大勢の横島から逃げる中、とにかく『声』は私の脳内に響く。

――そんなの、やってみなきゃ分からないじゃない?逃げるなんて、あなたらしくも無い考えね……。

「そんな事、言われたって、あのバカがあんなに沢山居たら、逃げたくもなるわよ!?」

「美神さぁ〜〜ん!!」

「ヒッ!?」

 『声』に気を取られていると、横島の一人が美神にしがみ付く。すると、毎度の条件反射で美神は彼をド突き倒す。

「いい加減にしなさい!?ったく、何度怒っても、変化が無いんだから……、???」

 ド突き倒された横島。彼は倒れ込むと、そのまま動くことは無かった。そして、彼の体は氷が溶けるように跡形も無く消えてしまったのだ。美神はその光景をまざまざと、見入ることしか出来ずにいた……。

「ナンなの、一体……?」

――彼が単に『偽者』だったってことよ。ホンモノが見つけない限り、彼等はあなたに触れると、消えてしまうの。

「そんな……。」

――そして、見つける事こそ、あなたがここを出られる唯一の方法……。

「………分かってるわよ、そんな事!……でも、どうやったら、いいの?」

――そんなの、簡単よ?まさか……、出来ないの?

「そ、そんなこと、な……いわ、よ……!」

――クスクス、強情なんて張らないで、素直に言えばいいのに。

「うっ……。……あぁ、そうよ!分からないわよ!!だから、ナンだって言うのよ!?」

――そう怒らないでよ、からかっただけなんだから。それに、いいの?早く逃げないと、追いつかれちゃうわよ?

 背後から横島クンの大群が迫ってきている。私は再び走り出す。そして『声』は私の中で、囁き続けた。

――じゃあ、ヒントを上げるわね?



自分の気持ちに素直になることよ。



それが一番の方法だわ。






 そう言い終えると、『声』は私の中から消えた。

 素直になれ?どういうことよ、私はいつだって、自分に素直よ!?

「美神さぁ〜ん……!!」

 また別の横島クンが私に飛びついてきた。

「……いい加減せんか〜〜っ!!」

 私は横島クンの頬をえぐるようにぶん殴った。彼は宙を舞うと、その背後の集団にぶつかり、消えた。そのおかげで、私を追う大群は将棋倒しになり、一時、怯む。私は胸がドキドキしながら、また走り出す。



 ………?チョット待って、なんで胸がドキドキしなきゃならないわけ?



 
 確かに私は……、いや、でも……。モヤモヤする自分の気持ち。それを口に出そうとしても、恥ずかしいというか、もどかしいというか、なにか、口に出すことが憚れるようなそんな気持ちになる。



 アイツを目の前にすると。



 それが嫌だから、逃げているのかもしれない。本当の気持ちを知られたくないからかもしれない。このわだかまりをなんとかしたい。けど、アイツがいると………、アイツがいると自分がどうしようもなく不器用になる。


 何故?
 答えは簡単。 

 自分は横島クンのことが好きだからだ。でも、尻込みしている。だから逃げているんだ……。


――バッカじゃないの?好きなら好きで、そうだって言えばいいじゃない!そこまで奥手だなんて思わなかったわ!!

 『声』が再び頭の中で言う。

――ホント正直、呆れるわ。好きだって言うことに何か後ろめたいことでもあるっていうの?ないわよ、そんなもの!あなたが好きで、相手もあなたのことが好き、それでいいじゃないの?それでも逃げるようじゃ、あなたはただの意気地なしよ!!

「私が意気地なし……?言ってくれるじゃない……!」

 私は『声』に罵倒され、腹が立ち始めていた。負けず嫌いな性分もあったせいか、それはさらに増幅していった。

「分かったわ、そこまで言うなら、私が意気地なしじゃ無いところを見せてあげるわよ!!」

 決めた。もう逃げない。照れていてもしょうがない。ましてや、恥ずかしがるなんてのはもっての他。


 私は横島クンが好きだ。心の底から。


 これは何物にも変えられない、私の素直な気持ちだ。


「横島クン!!」

 私は仁王立ちして大声で言う。向かってくる横島クン達はそれに反応して立ち止まった。そしてその大群へと私は歩き出した。

「今まで言えなかったけど、私……、アンタの事……」






































「好きよ!!」































 私は思いのたけを声に出した。それもとても大きな声で。

 すると、どうだろう。その瞬間、大勢居た横島クンはあっという間に消え去って、最後に一人だけが残った。私は残った横島クンにゆっくりと近付く。横島クンも、私に近付いてくる。

「美神さん、オレも美神さんのこと……、」

 言い掛ける横島クンを私はぎゅっと抱きしめる。とっても大きな背中。いつの間にこんなに大きく思えるようになったのだろう?でも、今はそんな事どうでもいい。ただ、横島クンが一緒に居るだけで嬉しい。

「いいのよ、分かってる。もう離さないわ……。もう誰にもアンタを奪われたくない……」

「美神さん……」

「横島クン……」

 私達は見つめ合い、抱きしめあった。





 そして、唇を重ね合わせた。





 そうして私達は溶け合うように、光に包まれていったのだった。


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