ザ・グレート・展開予測ショー

黒き翼(22)


投稿者名:K&K
投稿日時:(03/ 5/23)

 「ワルキューレを匿っていた結城という学生のことなんだが、なるべく早いうちに会って話しを聞い
  ておきたいんだ。彼がどの程度この事件に巻き込まれているのか確認しておきたいし、場合によっ
  ては我々で保護することになるかもしれない。そこで君に、明日の放課後でも会いたいと彼に伝え
  てほしいんだ。」

 「そんなことお前が学校にきて直接伝えりゃいいだろ。」

 「いや、彼の安全を考えるとまだあまり表ざたにしたくない。」

 横島は暫く考えたのち、しかたなさそうに、わかったよと答えた。

 西条は、連絡はここへ、と言って自分の携帯電話の番号を書いたメモを横島へ渡すと大きく伸びをし
て立ち上がった。

 「さて、貴重な情報も手に入れたしそろそろ仕事にもどるとするか。それじゃあ令子ちゃん、お礼は
  いずれ機会をみてさせてもらうよ。」

 「期待してるわ。西条さん。」

 令子はそう言うと西条を見送るべく立ち上がった。俺には何の見返りもなしかい、という横島の呟き
が聞こえたが二人とも聞かなかったことにした。

 「西条さん。」

 事務所の玄関を出ようとした西条に令子は声をかけた。

 「一つお願いがあるんだけど聞いてもらえるかしら。」

 「なんだい、令子ちゃん。」

 「今回の事件のことなんだけど、なんだか嫌な予感がするのよ。だからあまり横島君を巻き込まない
  でほしいの。ワルキューレが関わっている以上、もし彼女の身に危険が迫っていると知れば彼は自
  分一人でも助けにいこうとするわ。でも今回はひどく相手が悪いって気がするのよ。」

 西条は妹を見るような柔らかな眼差しを令子にむけた。

 「心配なのかい。彼のことが。」

 「そっ、そんなんじゃないわ。横島君が巻き込まれれば師匠としてほっとくわけにはいかないでしょ
  う。挙句の果てに余計な出費が増えるのがいやなだけよ。」

 令子は慌てて否定したが、その頬は微かに色づいていた。

 「大丈夫だよ。今回はあばれている悪霊や悪魔を祓うといった単純な事件とは訳が違う。人に銃口を
  向けるのをなんとも思わない連中を相手にするかもしれない事件に、未成年を巻き込むつもりはな
  いよ。」

 西条は令子を安心させるように言葉をかけると事務所をでていった。



 翌日、西条は午前中に横島から連絡のあった、横島達が通学に使っている駅のそばにある喫茶店の前
にいた。ウィンドウから店内を覗きこむと、10個ほどのテーブルがあり、3組の客が座っている。駅
前という立地条件のわりに客がすくないのは、ここが繁華街とは線路をはさんで反対側だからだろう。
あまり目立たずに話しを聞くという目的にはピッタリの場所だった。

 ふと視線を感じてそちらをみると一人の学生が一番奥のテーブルからこちらをみていた。彼が結城健
一であることはすぐにわかった。ほかに学生服を着ている者が店内にいなかったからだ。腕の時計を見
ると、約束の時間にはまだ10分ほど余裕がある。
 西条は店内に入ると真っ直ぐに彼が座っているテーブルに向かった。

 「君が結城君だね。僕はICPOの西条だ。今日はこちらの急なお願いを聞いてくれてどうもありが
  とう。それにどうやら少し待たせてしまったようだね。申し訳ない。」

 店内に声が響かぬように気を付けながら謝罪を兼ねた自己紹介をする。

 「気にしなくてもいいですよ。まだ約束の時間には早いですし。それに今日はバイトも休みで空いて
  ましたから。」

 謝罪にたいして落ち着いた答えが返ってきた。西条は椅子に座り、水とメニューを持ってきた店員を
アメリカンを注文して追い払うと改めて結城を観察した。横島から聞いた話から想像していた以上に大
人びた雰囲気をもっている。たしか横島と学年は同じだが年令は一つ上ときいていた。一年違うとこれ
ほど違うものかとおもう。

 「ここに来てもらった目的はもう横島君からきいているね。」

 西条は店員が持ってきたコーヒーを一口飲んだ後用件をきりだした。

 「ええ。」

 「じゃあさっそく要件にはいりたいんだが、その前に確認したいことがある。」

 「なんですか。」

 「彼女のその後の消息についてなんだが、まだ君ところにいるのかい。」

 「いいえ。横島が来た日の夜、俺が寝ている間にに消えてしまいましたよ。どこえ行ったのかはわか
  りません。」

 「だと思った。一応確認したかったんだ。それじゃあ事件について君の知っていることを聞かせてく
  れたまえ。」

 結城は自分のコーヒーを一口飲んだ。

 「横島からどんな話をきいてます?」

 いきなり質問で切り返され西条はすこしおどろいた。

 「まあ、事件のあらましぐらいは。」  

 「俺の知っていることもそれと同じですよ。あいつと同じ場所で話をきいたんだから。」

 「でも君は彼女と5日間も一緒にいたんだろう。その間になにか聞いているんじゃないのかい。」

 「あいつはなにも話しませんでしたよ。俺も巻き込まれるのが嫌だったから聞かなかったし。第一、
  たまに起きてニュースを見たりする以外はほとんど寝てましたから。」

 西条は結城の答えに更に驚かされた。その内容自体は、ワルキューレのダメージが想像より深かった
こと以外はなんとなく想像していたとおりだった。だが、先ほど彼はほかの客に聞かれることを警戒して
敢えてワルキューレの名前をださななかった。このような場所で話す時は直接的な表現は使わず、聞き
手のほうも相手の思考をたどりその意をくみとる。こうした用心深さはオカルトGメンとしての訓練と
その後の現場での活動によって骨の髄まで叩き込まれ、もはや習慣となっている。ところが、そういっ
た訓練などうけているはずがない結城の方も僅かな会話の中でこちらの意図を読み、ごく自然にそれに
あわせたように西条にはおもえたのだ。単にカンがいいだけなのかもしれない。だが西条にはなぜか
結城がこうしたやりとりに慣れているように感じられた。心の中に微かな違和感が生じる。

 「たとえ同じ内容の話でもかまわないんだ。話す人間が違えば聞いたほうの印象も微妙に違ってくる。
  そういった所に重要な発見がある場合も多いからね。」

 心の中の違和感を一時的に封印して西条は言葉をつづけた。結城は「そんなもんですかね」などと言
いながらも納得したのか、事件当日からのことを語りはじめた。

 話の内容は横島から聞いたのと大差なかった。新たな情報は事件当日のワルキューレの状態。彼女は
結城の部屋に転がりこんだ時、三種類の傷を負っていたようだ。右胸に貫通銃創、全身に軽度の火傷、
その後の倦怠感は聖霊石の波動を大量に浴びつづけたせいであろう。これは事件現場の状況と一致する。
だが、彼女の全身に鋭い刃物のようなものでつけられた切傷は異質だった。
 
 ワルキューレを襲った武装グループは第一撃を加えてからほとんど反撃を許さず一気に殲滅している。
現場の状況からその手際よさがよくわかった。だが、切傷の方からはなぶり殺しにしようとする意図が
感じられて、事件現場のプロフェッショナルな印象とはかけ離れている。これにはなにか重大な意味が
あるような気がしたが、それが何なのかはまだ判らなかった。

 「君はなぜ我々やGSに彼女のことを通報しなかったんだ。彼女が普通じゃないことぐらいすぐに
  わかっただろう。身の危険については考えなかったのかい。」

 結城の話が終わるのをまって、西条はこの話を聞いた者なら誰もが感じるであろう疑問をぶつけてみ
た。

 「普通じゃない連中の全てが危険というわけでもないでしょう。横島と顔見知りなら知っているだろ
  うけど、うちの学校には普通じゃない生徒もいるし、時々顔をだす横島の弟子とその連れも結構皆
  とうまくやってますよ。」

 「だが、彼女は彼らとは訳が違う。」

 「たしかに、彼女に関してはへたに通報して恨みを買うよりさっさと傷を癒して出て行ってもらった
  ほうが安全だと思ったのは事実ですが、そんなに悪い奴にもみえませんでしたよ。」

 「でも傷が癒えればおとなしく出て行ってくれるという保証はなかったのだから、君の判断はすこし
  軽率だったんじゃないか。」

 「確かにそうかもしれませんね。」

 「詳しいことはいえないが、彼女や彼女の仲間は今のところ人間の敵ではない。だが少なくとも我々
  の味方ではないことは確かなんだ。このことは良く覚えておいた方がいい。」

 「わかりました。」

 西条はすでに冷えてしまったコーヒーを口にすると時間を確認した。すでに1時間が経過している。
そろそろ潮時だった。

 「最後にひとつ。最近、君のまわりで何かかわったこと、たとえば見知らぬ連中が家の周りをうろつ
  いていたりといったようなことはないかい。」

 「とくにないです。」

 結城の答えにひとまず安心すると、西条はなにかあったらここへと言って名刺と封筒を渡して立ち上
がった。

 「今日はわざわざ時間を取ってくれて本当にありがとう。その封筒は今日のお礼だ。僕はこれで失礼
  するけど、帰りになにか美味い物でも食べていくといい。あと、ここのコーヒー代は僕が払わせて
  もらうよ。」

 結城が無言でペコリと頭を下げたのを確認して西条はレジへ向かい、二人分の支払いを済ますと店を
でた。心のなかにはワルキューレの傷と結城という学生に感じた微かな違和感がいつまでもひっかかっ
ていた。

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