雪に唏く(終)
投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(03/ 5/23)
「ども、戻りました」
ICPO超常犯罪課……通称オカルトGメンの支局へと、横島とタマモは足を運んだ。
依頼元がこちらである以上、まぁ当然なのだが。
「あら、ご苦労様。 で、どう?」
迎えた美智恵は、全く心配してなかったとばかりの笑顔を見せる。
「もう大丈夫っす。 二人共ちゃんと成仏しましたし」
タマモも、それに合わせてこくりと頷く。
「そう。 じゃ、細かい話を聞かせてちょうだい。
こっちはお役所だから、報告書を作んなきゃなんないのよ」
別室へと誘(いざな)いながら、美智恵はそう言った。
雪に唏く 〜ゆきになく〜 ──えぴろ〜ぐ──
一通りの話を終えて調書を纏めると、美智恵はハンドバッグから封筒を3通、取り出した。
「はい。 コレが今回の報酬よ。
後こっちのが、横島クンとタマモちゃんへの付け届けね。 令子には言わなくていいから」
厚い封筒の他に、大した厚みではない封筒をそれぞれ二人に手渡す。
だが、薄いとは言え中身は紙幣……万札だ。 寸志程度のモノであっても、横島にしてみれば月給にすら相当し得る。
「いいんすか?」
「えぇ。 能力のある人間には、ちゃんと酬いが有って当然だもの。
私の方の仕事は出来る時だけでいいけど、これからも令子の事よろしくね、二人共」
そう言って頭を下げて渡されたソレに、横島は小躍りせんばかりだった。
個人で行った除霊作業だから、やっていた間の時給の他に、今回の依頼料200万の内の2割が横島達に分配される。 付け届けと合わせれば、暫くはそれなりの食事が保証されるのだ。
普段、ろくな食事をしていないだけに、大喜びは已む得まい。
そんな彼に対し、タマモは何か考え込んでいた。
「ヨコシマ」
「ん? なんだ、タマモ?」
「私、ミチエにちょっと聞きたい事があるから、先に帰っててくれない?」
そう切り出されて、別段不思議に思わず彼は頷いた。
心は、久しぶりの牛丼に飛んでいたのかも知れない。 ここ数日、もっといい物を食べていたと言うのに。 …実に安上がりな男である。
「判った。
んじゃ、そう言う事で、俺は事務所の方に戻ります」
ほくほく顔の横島は、封筒をしまった胸ポケットを押さえながら、美智恵にそう挨拶して帰って行った。
完全に気配が無くなったのを見計らって、二人は再びソファーへと腰を下ろす。
「で、聞きたい事って?」
調書を作成する間の様子で判っていたが、それでも取り敢えず尋ねる。
「ヨコシマの事なんだけど…」
微笑んで、美智恵はどこまで話そうか考え始めた。
娘に危機感を与える丁度いいチャンスだ。 自身以外の誰も彼もが、目に見えた興味を彼に示し始めたら、いくらあの意地っぱりでも動揺せずには居られまい。
まだこの娘は興味の段階の様だし、その辺のさじ加減は難しいが、それもまた楽しめるだろう。
胸の内だけでにんまりと微笑んで、美智恵は話し始めた。
「何から話したらいいかしらね…」
・
・
・
この数日でタマモの彼に対する対応は、恋愛的な物には届かなくても、かなり好意的な物に変わってきていた。
「先生っ! 散歩に行くでござる」
日中にはこれと言った仕事も入っておらず、書類作業をしている美神とおキヌ以外は、手持ちぶさたの昼下がり。
じっとしていられる質でもなし、シロはいつもの様に横島へと飛びついた。
「横島っ! 五月蠅いからその馬鹿犬連れて散歩でも何処でも行って来なさいっ」
帳簿計算をやり直しながら、美神が叫ぶ。
「しょうがねぇなぁ…」
「ささっ行くでござるよ」
一緒に散歩に行けるとなれば、馬鹿犬扱いも気にならないらしい。
「ちょっと待って、ヨコシマ… 私も一緒に行くわ」
シロの顔が嫌そうに歪む。
実のところ、タマモがそうやって一緒に動こうとするのは、今日が始めてではない。 あの仕事から帰ってこの方、毎日の事になっている。
「おぅ。 外で待ってっから、とっとと支度しろよ」
「えぇ〜 タマモなぞ待たなくても…」
ごねるシロを引き摺って、横島は外へ出て行った。
部屋に戻ってさっさと支度を整えると、その後を追ってタマモも出て行く。
「どうしたんでしょうね、タマモちゃん…」
「さぁね… ママが横島に小遣いやってたみたいだから、またキツネうどんでもたかる気なんじゃないの?」
何となく気に入らない物を感じながら、二人は書類へと意識を戻した。 おキヌはそれでも、未練がましそうだったが。
しかし、気に入らないで済まなくなるのに、然して日数は掛らなかった。
一緒に出掛けるだけではなかったのだ。
他にも、判らない事や困った事が起きた時に頼りにしたりと、それ以前とは打って変わった様子でタマモは横島に接するようになっていた。 以前はする事も無かった、彼にたかるなんて姿もよく見かける。
そこには、以前には無かった仲間への信頼が見て取れた。
向けられたソレを嫌がる筈もなく。 だから横島も何だかんだ言いつつ、彼女の要求に付き合っていた。 …入ってきた臨時収入に、懐が暖かかった所為もあると思われるが。
そうこうしている内にそんな彼女に呷られたか、シロだけでなくおキヌも彼の傍に居ようとする事が、以前にも増して多くなっていった。
この事務所の女性陣は、基本的に焼き餅焼きばかりなのだ。
仕事の最中も含め、誰か一人は必ず横島にくっついているのが、何時の間にか普通に見られる光景になっていた。
となると、気分的に害されてしまう存在が出る訳で…
二人が美智恵の依頼を終えて、帰って来てから半月後。
そんな周囲の状況に抱いた不審と不満とを抑えきれなくなった美神が、母親の下を訪ね、口喧嘩の末に不貞腐れて帰る姿が目撃されたと言う。
【おわり】
────────────────────
……ぽすとすくりぷつ……
前話の最後にくっつけると大きくなり過ぎだし、蛇足は蛇足なんで分割〜(^^;
単に、ちょっと似た幽霊を祓って、そん時らしからぬ影を垣間見たってだけの話。 …だったんだけどなぁ(苦笑)
ま、いいやね、いいやね。
しかし、なんつうか… 結局、『狐』とやってる事は変わんない訳や(爆)
あっちほど、べたべたにくっついては居ないんだけどさ…(^^; ルシオラに関しても、そんなに詳しくは聞かされてないし。
ただ以前とは違って興味を持った、で終わってる。 …タマモの中では。
さて、と… これも終わった事だし、『例えば』の続きと、おキヌちゃんネタを考えよ。
そいでは、また。
今までの
コメント:
- タマモにとってはまだ横島は興味の段階のようですね、
それでいつの間にか”好き”という感情が芽生えてくるんですよね。
いつも楽しく読ませてもらいました。連載お疲れ様でした。 (キリランシェロ)
- よ、横島君が普通に報酬を貰ってます!?(びっくり)
美智恵さんは、やっぱり企むひとだったんですね(笑)
こりは美神さんも、うかうかしてられないですよ〜♪
連載完結、ご苦労様でした。 (猫姫)
- はじめまして。最終話だけのコメントですみません。
唐突ですが、おもしろかったです。気持ちを尽くしての除霊作業でホッとして、策士な美智恵さんにニヤリとして、横島を見直したタマモに舞い上がって(爆)
連載お疲れ様でした♪ (Kita.Q)
- ……うーん、困った。良作なんですが、なんとコメントしてよいか今一つはっきりしません(;^^)
良作だからといって必ずしもコメントがつくとは限らないということが、逢川さんの作品を
通してわかったような気がします。
横島の過去を知ったタマモが、横島に引かれていく様子がなんとも言えないですね。
長くつきあうほど味わいが出てくるのが、横島の人間性なんでしょう。 (湖畔のスナフキン)
- 完結おめでとうございます!
いやはや、タマモ好きの自分としては感無量です(笑
しかし横島くん・・かつてない量の報酬ですね。
今書いてる投稿作品が面倒くさくて・・くじけそうになっていたんですが・・
逢川さんの作品を見て元気を取り戻しました(笑)次回作もがんばってください。 (かぜあめ)
- キリランシェロさん
最後までの連続コメ、ありがとうございます。
まずは興味を持つ所からかな、と思うので(^^; 原作のままだと、良くて無関心ですし… この先、どうなるかは彼ら次第ですね(笑)
猫姫さん
『雪に…』全てへのコメ、ありがとうございます。
普通ったって、何もしてない美神の取り分160万ですよ。 充分、搾取されてると思いますけど(爆) 500万の仕事で20万の時よりは、マシになってるんですが(^^;
美智恵さんには、やはり色々と暗躍して欲しいです(笑)
Kita.Qさん
はじめまして(^^) 間隔開いてた訳でもなし、ほぼ日刊連載でしたから気になさらずに(^^;
結局、タマモとくっつけるにはどうすればいいか、でしか連載書けないのが判明した様な(爆) ともあれ、楽しんで頂けたなら幸いです。 (逢川 桐至)
- 湖畔のスナフキンさん
良いかどうかはともかく、幽霊二人の比重が増しちゃった分、全体が中途半端になった感は否めませんしねぇ(^^; …タマモなんか、いつもの私の話と較べると、かなり影薄いし(苦笑)
横島って、結局小鳩が見取った様に、目に付き難い所に良さが有って… だから、近くに居て馬鹿やりながら時折垣間見せる部分に気が付けるかが、やっぱり大きいんじゃないかと。 そう言う所を巧く書けたかは、かなり問題ですが(苦笑)
かぜあめさん
私もタマモ好きですし…(^^; 報酬、話に出てこないだけで、単独仕事して貰っては居たんじゃないかと。 アシュ戦後、大きな仕事が入ってくるまで細かいものが多かったでしょうし…
投稿作、頑張ってください。 (逢川 桐至)
- 完結おめでとうございます(遅)
すいません、今読み終わりました^^;
原作に近い雰囲気で読みやすくスラスラと最後まで楽しく読めました♪
何より、タマモの横島に対する評価ってのがしっくりきて(いきなり惚れてるとかいう展開じゃない)お話の展開にも納得できました♪
次回作も頑張って下さい^^ (ユタ)
- 逢川 桐至さん、はじめまして、ヴァージニアです。
6話までまとめて読ませていただきましたので、遅れましたが、コメントさせていただきます。
タマモと横島の話ですね。 楽しめましたよ♪
横島にしては多額の報酬もらえて、これで等分食事には困りませんね♪ 次回作も期待します。 (ヴァージニア)
- 遅いコメントで申し訳ありません(^^;
完結おめでとうございます。
基本的にはタマモと横島のお話ですが、最終話では他の事務所メンバーも魅力的に書かれていて良かったです。
日常の中で少しだけ変化を見せるタマモ。その少しの変化が何だか良かったです(^^)
次回作、頑張ってください。 (志狗)
- ユタさん
コメどうもです。 基本的には横島は原作のソレが好きなんで、そう言って頂けると(^^)
既にってのもアリだと思うんですが、好きになる過程ってのがやはり楽しいみたいで、私…(笑)
ヴァージニアさん
どうもはじめまして、コメありがとうございます(^^) 大抵、横島×タマモになっちゃうんです、私の話って(爆)
彼にとって、大金では有りますが… 有れば有ったでレンタルビデオとか、無駄に使っちゃいそうな気も(苦笑)
志狗さん
遅いとか言うのは全然問題無しです。 頂けるだけで、嬉しいですし(笑) …そのクセ、ロクにコメ入れてない極道者ですが(苦笑)
最後には事務所で…っていうか、のっけの(1)で出したんで、レギュラー陣を出すのは私的には予定調和的な〆だったり(^^; (逢川 桐至)
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