ひのめ奮闘記(その19(A))
投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 5/21)
ひのめの封印が解けて三日が経った・・・
今日は木曜日。
空は灰色の雲が太陽の光を遮り、5月中旬にしては冷え込む一日となった。
そして、本編の主人公美神ひのめは・・・
「くー、・・・すー」
先日行った戦闘の傷もほぼ完治し、静かに寝息を立てている。
文珠といえど、傷を治せても体力と霊力までは回復させることは出来ない。
強引に自ら霊力の封印を破ったひのめは、その反動で体力と霊力を一気に使い果たし、
深い眠りへと落ちていったのだった。
ガチャ・・・
静かにひのめの部屋の扉が開いた。
入ってきたのは母・美智恵。
どこかに出かけるのだろう、他所行きのスーツに身を包みそっと寝ているひのめに近づいた。
「ひのめ・・・」
そして、そっとその額に手を当てる・・・
母親独特の優しい笑みで・・・だが、次の瞬間のその表情が一変した。
「起ぉぉきなさいっ!!!!!ひのめ────────────っ!!!!!!!!!!」
「う、うわぁっ!!!」
応援団もびっくりな大声がひのめの右耳の鼓膜から脳を突きぬけ、左耳から抜けていった。
安眠を貪っていたひのめは突然の起床の呼びかけに目に星が浮かび、
慌てて起き上がるがバランスを崩しベッドから転げ落ちた。
「あいたたたた・・・・もう何よ・・・ママ」
ひのめは完全に眠気から醒めてはいなく、一つあくびをかきながら『う〜ん』と背伸びをした。
「『何よ』じゃない!何よじゃ!!
ったく何時だと思ってるの、もう10時よ、10時。
そろそろ起きて学校行きなさい!」
「え〜〜〜、まだ身体の節々が痛いんですけどぉ・・・」
ひのめはブスっとした表情で答えるが、それがさらに油をそそぐことになった。
「何言ってるの!!霊力回復のために強制睡眠に入ったのは最初の一日だけでしょ!
あとの二日は様子見で休ませたけど、もう十分ね!
ほら、さっさと着替えて学校行きなさい!」
「う〜〜〜」
ひのめは未練がましそうに羽毛布団を見つめるが、
母の眼光に黙るしかなかった。
「じゃあ、ママは出かけるから戸締りはちゃんとしておくのよ。
ちゃんと学校に行かなかったら来月のお小遣いなしだからね!」
「わ、分かってるって!行く行く!行きます!」
美智恵の『小遣い没収宣言』にやっと目が覚めるひのめ。
霊力が強くても所詮は一介の女子高生、小遣いという生命線を絶たれることは脅威なのだ。
「はぁ、バイトでもしよっかな」
供給線を保つ唯一の方法を呟きながら、パジャマを脱いでいくひのめ。
そして、ふと鏡に写る自分の背にある小さな三本傷に目が止まった。
12年前、冥府の番犬につけられた傷・・・
自分の霊力を封印することになった原因の一つ・・・
「でも・・・」
ひのめは目をつむり学生服用のシャツを羽織った。
そして、静かに目を開ける・・・
「私は乗り越えたんだ」
強い口調、自身溢れる言葉だった。
自らの封印と過去、それを自分の力で乗り越えた、
それはひのめの今までの劣等感を払拭し、新しい自分が生まれて来たという錯覚させ覚えた。
しかし、皮肉にもひのめの霊能力の高さゆえに、『発火能力』の制御はいまだに完全にコントロールすることは出来ない。
部屋に張られた発火制御の護符がそれを証明していた。
「へん!いつか完全にコントロールしてやる!
そんでもってそんでもって・・・・ふふふふふふ」
ひのめは嬉々とした表情で天井を見上げた。
霊力を封印され、惨めな思いをしてきたひのめにとって発火能力の制御という目標、
そして、それが使えなくても劇的に上昇して霊力を見て驚く周囲を思い浮べれば全然苦にならなかた。
「さ、顔洗って、朝ごはん食べて学校行くかな〜。今から行けば3限には間に合うし」
そう言ってトタトタと部屋を出て行くひのめ。
主人のいなくなった部屋は沈黙しかない・・・しかし・・・
『ヤレヤレだわさ・・・・』
誰もいないはずの部屋で、女性的な声が一言だけ響く・・・
そしてひのめ愛用のリストバンドがポウっと光るのだった。
・
・
・
・
・
「疲れたぁ・・・」
その一言ともに幸恵は冷たい床に腰を降ろした。
今は体育、霊能格闘の組み手授業の最中だった。
体育の授業はいつも後でその黒髪をまとめ、ポニーテールのようにしている幸恵。
授業と言っても、霊力そして、体力の消費は激しく3本もやれば結構な疲労が襲ってくるのだった。
「はあ〜、ひーちゃん・・・今日も休みなのかなぁ・・・」
幸恵はアンニュイな表情で体育館の窓から曇り空を見上げる。
いや、既に雨は降り始め野ざらしになっている全てのものに冷たい雫を与えた。
ひのめが休み出してから、毎日お見舞いに行っている幸恵。
しかし、美智恵の答えはいつも同じ、
『ごめんさない、風邪をこじらせて寝てるのよ。
移るといけないから・・・・ね?』
そんな美智恵の言葉と笑顔に幸恵はいつも玄関で引き返すしかなかった。
しかし、幸恵の霊感とも言うべきものがひのめになにか起こったのではないかと告げている。
(今日こそは強気で押してみようかな・・・・)
体育館で頑張る同級生達をボーっと見上げつつ決意する幸恵だった。
そのとき、
「ったく・・・何であたいら二年が一年の授業に付き合わなきゃなんねーんだ」
「雨だからなぁ、何かグランドが使えず急遽一年と同伴で霊能格闘の授業だとさ」
「はぁ〜たるっ。バックれるか?」
幸恵の耳に入ってきた、下品な言葉使い。
その声の方向に顔を向けるとそこには金髪でガタイがよく、
マスクをした三人組が『めんどくさい』という表情で壁にもたれかかっていた。
(うわ〜・・・恐そう)
基本的に不良系の人間が苦手な幸恵はそそくさとその場を離れようとするが、
不意にその三人の会話が聞こえてきた。
「そいや、この一年のクラス、三世院のクラスらしいな」
「ああ、さっき見かけたけど相変わらずあたいらを歯牙にもかけないって感じさ」
「けっ、いつか見てろっての・・・」
(・・・三世院さんっていろんなとこで恨み買ってるんだ・・・)
同級生に同情を馳せるものの、あの性格じゃ仕方ないかと妙に納得する幸恵だった。
すると、また話題が変わる。
「ああ、そうそう。このクラスに例の美神令子の妹がいるらしいぜ」
「美神令子の妹?・・・そいや、そんな奴もいたなぁ・・・くくく」
「名前は忘れちまったが、今日いれば是非またお手合わせしてほしかったんがなぁ」
「バーカ、こないだやってわかったろ?あんなのザコ、ザコ」
「確かになぁ、でもいいストレス解消にはなったのによぉ、今日は何でいないんだ?」
「へっ・・・どうせ落ちこぼれってことを自覚して家で引きこもってるんだろうよ」
「ちげえねぇ」
その言葉と同時に大笑いをあげる不良三人組。
よっぽど笑えるのか腹を抱え、壁をドンドンと手で叩いた。
だが・・・
「やめてくれませんか?ひーちゃんの悪口を言うの!」
「あん?」
威嚇めいた口調が三人組の鼓膜を揺らした。
その声の主に誰だという表情で振り向く、
そこにいたのは明らかに怒りの表情を浮べた幸恵。
「何だてめぇ?」
「あたいらに文句でもあるのかよ?」
「あります!」
ピシャリと言った。
普段の大人しい幸恵を知っている周囲の同級生が気付きザワザワと騒ぎ出す。
しかし、それを残った不良の一人が黙れという視線を周囲に撒き散らした。
「私の友達を悪く言わないで下さい!
ひーちゃんはザコでも落ちこぼれじゃないし、今は風邪で休んでるだけです!!」
さらに語気を強める幸恵。
しかし、そんな凛として声は不良達の神経を逆なでするだけ。
案の定三人組の表情に『生意気だ』と青筋が浮かんでいた。
「ほ〜、あたいらに逆らうなんていい度胸じゃねぇか」
「ひーちゃんとやらは美神令子の妹のことか?」
「あいつのダチってことはてめぇも弱いんだろ?」
三人組のリーダー格がガシガシと乱暴に幸恵の頭を撫でた。
「ひーちゃんは強いんです!私なんかよりも先輩達よりも!!」
幸恵はパンっとその腕を右手で払うとキっと三人を睨みつけた。
一番下っ端の不良がいますぐにでも殴りかかろうとするが、それをリーダー格の不良女子が制する。
「待ちな・・・今は先公もいるんだ。変に手ぇ出すんじゃないよ」
「しかしよぉ・・・」
「このままじゃ収まらないだろ」
下二人が抗議の声を挙げる。
しかし、リーダー格の不良は笑いながら首を横に振った。
「考えろよ・・・今は霊能格闘の授業なんだぜ」
その言葉にはっとする二人。
そしてニヤっと笑みを浮べて幸恵を睨んだ。
「あんたも分かるだろ?今からやるのは先輩の指導ってやつさ・・・
しかも三人同時に教えてやるぜ?」
そういってクイクイと親指で結界フィールドを指差す。
幸恵だってここまでくれば鈍くはない、要するに3対1でリンチまがいなことをやろうとしてるわけだ。
しかし・・・
「いいですよ・・・」
そう言って静かに結界の中へと入っていく。
ここまで来たら引くわけにはいかない、何より親友をバカにしたのを許すことは出来なかった。
周囲にまばらながらギャラリーが出来る。
多くは練習の中の休憩中の生徒だが、中には異変に気付き隣の結界フィールドの中から見る生徒もいた。
その中には・・
(霊力を消費した状態でどう戦うのかしら、江藤さん・・・)
腕を組みまるで楽しんでいるような視線を向けるカールかかった金髪少女・京華もいた。
ちなみに体育教師は他の三世院組の生徒が一番離れた結界フィールドに引きつけているので
この騒ぎにはまだ気付いていない。
「さ、行くぞ・・・・オラアアアアァァァァっ!!!!!」
まるで獲物を狩るような嬉々とした笑みを浮べた不良が三人・・・
その拳を容赦なく幸恵に振り上げた。
その19(B)に続く
今までの
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