ザ・グレート・展開予測ショー

雪に唏く(3)


投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(03/ 5/21)




 雪に唏く 〜ゆきになく〜   ──その3──





「で?」

「さぁ、何でも言ってご覧。 代わりにデートし…のはっ!」

 タマモの拳が、横島の腹を強かに打ちつけた。

「やめなさいってぇの! 話が進まなくて、作者が呻いてるでしょうが。
 で、あんた。 あんたも、言いたい事はさっさとはっきり口にする!」

『は、はいっ!』

 思わず背筋を伸ばして、幽霊……御台春香は言葉を続けた。

『そのですね… 私、成仏したいんです』

「はぁ?」

 タマモの口から、呆れた様な溜め息が零れる。

『その… 私、死んじゃった事はしょうがないかなぁと思うし… 出来れば成仏したいんだけど、どうすれば出来るのか判らないし… 一緒に死んだお友達はどっか行っちゃうし…
 もう、どうすればいいのか判らなくって…』

 何処かで聞いた様な話に、横島は既視感に襲われていた。
 だからと言って、美神でもあるまいし、幽霊相手に金銭を要求するほど彼は非常識ではなかった。

「そいじゃまぁ、生まれ変わったら、一度デートして貰うと言う事で」

 いや、別の意味で非常識だったが。

「何を要求してんのよっ!」

「ふべらぁっ!」

 下からのショートフックで、横島の体が宙に舞う。
 伝説の車田オチだ。 曇天の夜空に、一筋の虹が架けられる。

『えっと、その… 私で良ければ…』

 その横で、春香は真っ赤になってもじもじしていた。

「あんたも、何、マジになって答えてんのよ…」

 今度は、疲れ切った溜め息がタマモの口から零れた。
 何を一人で一生懸命やってるんだろうと、自分を振り返って胸の内で涙する。

「ま、いいわ…
 じゃ、あんたは心残り無い訳ね」

『はい…
 あ、一つだけ』

 ふと思い付いた様に、春香は顔を上げた。

「それじゃあ、一晩の思い出作りをしようか」

『えっ? あ… その…』

 何時の間にか復活していた横島が、彼女の手を取って微笑んだ。

「あ・ん・た・は、黙ってなさいって言ったでしょうがっ!!」

「へんでろぱぁ〜っ!」

 またしても、横島の体が弧を描く。
 先程よりも高く、垂直とすら言える角度で。

「で?」

 再び真っ赤になっていた春香に、タマモがジト目を向ける。
 相変わらず、人外相手にはモテル男だ。

『えっ?』

「何が心残りなの?」

『あ… そうでした』

 繰り返し尋ねられて、春香は笑顔で曰った。

『お友達の蛍ちゃんが悪霊みたいになっちゃって、知らない人を襲ってるのが心残りなんです』

 あっさりとした物言いに、萎え掛かる気力を奮ってタマモは聞き返す。

「ほたる?
 それが、密猟者襲ったりした幽霊の名前?」

『えぇ、黒澤蛍ちゃんです』

 その言葉に弾かれた様に、周囲の気配が変わる。

「何?」

「名前を、喚(よ)ばれたからだろ」

 また、何時の間にか復活していた横島が、今度ばかりは真面目な顔で答える。

「あ、そっか」

 呪的には人の身においてすら、名前とは存在を縛る枷たり得るのだ。
 ましてや、今は幽霊なのである。 名を呼ぶと言う事は、相手を召喚する道を開く事でもあるのだ。 一般的なGSが幽霊の身元などをきちんと調べて事に当たるのは、そう言う部分を踏まえての事でもある。 所員の基本能力が一般的とは言えない美神事務所では、力押しで大抵どうにか出来てしまう為、そう言う調査などはほとんどやっていないのだが。

 濃密になっていく『陰』の気配。
 茂籠る常緑樹の創り出す暗がりの中、ぼんやりとした影が浮かび上がる。

 赤と紺、ツートンカラーのスキーウェア。
 キツめの綺麗な顔立ちに、黒のショートボブ。

 徐々に形成すその姿に、横島の顔が悲しみに歪んだ。

『蛍ちゃん!?』

『何でよ…
 私、春香の為に色々してあげてきたのに… 何でそんな奴らを連れてきたのよっ!』

 横島の葛藤をよそに、幽霊二人は会話を始める。

『でも… 良くないよ、こんなの…』

『だから?! 私はこんなトコで死にたくなかった。
 私はまだ無くなったりしたくないのよっ!!』

 若い身空で迎えた死だ。
 それが自業自得であれ、いやそれだからこその執着。 有りがちと言えばそうだが、その分嘆き羨む気持ちは強かった。

『そんな奴らなんか、そんな奴らなんか…』

 威圧する視線がぎらぎらと光る。
 その暗い光の中に、周囲がぼやけて行く。

「幻覚?! 舐めてるわね」

 自分の周囲に狐火を浮かべ、皓々と輝きながらタマモはその幻を打ち消して行く。

「って、ちょっとヨコシマっ!?」

 が、ふらふらと歩いて行く彼に気付いて、思わず叫んだ。
 その警告の声が聞こえないのか、横島の歩みは止まらない。 蛍の顔に、にやりとした笑みが浮かんだ。
 春香がその展開におろおろする横で、その勝ち誇った様な表情を見て密かにムッとしていたタマモが、仕方なさそうに行動に移る。

「…ったく、しょうがないわねっ!」

 片手を振り下ろして、狐火を撃ち放つ。 …横島に向かって。

「ぅあちゃぁあぁぁぁぁっ!!」

 火だるまになって転げ回る彼の姿に、蛍は紛れもない驚愕を浮かべた。

 いくら幻覚に囚われたからと言って、いきなり全身に火を放つなんてマネ、普通はしない。 …まぁ、美神事務所の常識は世間の非常識だから、タマモも染まりきってしまったと言う事か。
 ともあれ、既に一度見ている春香ですらその様子に呆然としているのだから、彼女が驚きと怖れで硬直しているのは当然と言えよう。

「なぁにしやがるっっっ!!」

 火が消えるなり、即座に立ち上がって横島が叫ぶ。 明らかに焼け焦げているのに、何の支障も無い様な動きで。
 その不気味なまでに不死身な姿にも、蛍は恐怖すら感じてか、じりじりと後退った。

「ふらふらと惑わされといて、何か文句でもあんの、あぁん?」

「…いえ、ありません」

 未だ背負ったままの狐火に照らされた彼女が向けてきた視線は、横島に冷や水を浴びせる様な威圧感を持っていた。

『あの…?』

「何よ?」

『…いつも、こんな事を?』

 おどおどと尋ねる春香に、苦笑するとタマモは頷いた。

「ヨコシマだもの。 こんなの日常茶飯事よ。
 言ったでしょ、このくらいじゃ死んだりなんかしないって」

『凄いんですねぇ…』

 声音に幾許かの羨望が混じっているのは、転けただけで死んでしまった我が身を振り返っているからだろう。

「ま、コレぐらいなんて事ないですよ。
 …ところで、タマモ」

「何よ」

「何処行った?」

 春香に向けたマジな顔のまま、そう尋ねる横島に、タマモは何だか判らないとばかりに首を傾げる。

『…あ、蛍ちゃんが居ない』

「えっ?!」

 言われて見渡せば、影も形も無い。 あれ程澱んでいた『陰』の気配も、気付けばすっかり晴れている。

「何やってんのよ、ヨコシマっ!」

「何って、おまえに虐待されてたんだが。
 …どうでもいいけど、タマモ。 おまえ、最近美神さんに似てきてないか?」

 そう呟かれて、ビシッと音を立てて真っ白に固まる。
 かなりの衝撃を受けたらしい。 何やらぶつぶつと呟き声が漏れてるから、ショック死だけはしていない様だが。

『あの…』

「あぁ、しばらくすりゃ、戻ってくるから」

 物言いたげな春香にそう答えると、横島は続けた。

「さて、どうすっかなぁ…?」

『どうしましょ…?』



 【つづく】



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……ぽすとすくりぷつ……

 掛け合いが、やけに行を持って行くぅ…(^^;
 もう少し先迄書ける予定だったんだけどなぁ。 切りが悪くなるんで、若干短めに切りました。

 って言うか、幽霊の春香嬢、本来ならこんなに出番も科白も無い筈だったんだが…(苦笑)

 それに、そもそも何話も続けるほど中身のある話じゃないし(泣)

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