幼馴染SS『サヤカ・独唱』
投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 5/20)
出逢った時のことさえも思い出せないくらい、本当に小さい頃からの付き合いだから、きっと、別れる事は無い。それは、腐れ縁と呼ぶにはあんまりにもあんまりな、そんな強い絆。
男と女を意識し始めて気付いた思い、二人で一人と同じだった私達が、まったく別々の二人になってしまった事、それが辛くて。
殴りあいしてても遠慮なしに。
嘘なんて吐かれることもなく。
私はあいつと一緒にいて。
あいつも私と一緒にいた。
子供の頃―――。
思い出せば笑っちゃうくらいに、くだらない思い出でいっぱいな過去。
あいつとの思い出でいっぱい、そんな素晴らしい過去。
優しくて、時には少し辛くて。時には、切なくて。今では、胸を締め付けるかのように、甘い、そんな過去。
―――ねえ、覚えてる?
なんて、乙女チックに言ってみてもさ。
あんたには届かない。
私の趣味でも無いし。
でも、さ。
時々は、あの頃が懐かしくもなる。
楽しかったから―――。
二人だったから。
ずっと、一緒だったから。
ずっと、一緒にいられると思ってたから。
そんなこと、思うことさえなかったね。
自然だった、二人で居る事が。
きっと―――。
気付かないうちに幸せだった。
銭湯の脱衣所のモップかけ、着替えしてるあいつをちらちらと見ながら、隅から隅まで綺麗に磨いていると―――。
声をかけられた、どこか、戸惑ってるような、苛立ってるような、そんな声。
「な、何見てんだよ、サヤカ・・・」
私はその声に嬉々として振り返る。
大義名分が出来た、とばかりに。
溢れ出す笑みを噛み殺して、微妙な笑顔を浮かべ。
私は彼を見る。
そこには、子どもの姿になってしまった彼が居た。
「・・・いや、さ・・・。本当に子どもになっちゃったんだって思って」
本当に、小さくなっちゃって―――。
あの頃と同じだねぇ。
「・・・人の股間見ながら言うんじゃねえっ!!」
「・・・あはははは(汗)」
面目ない―――でも、ねぇ。分かってくれるとは思わないけど。分かって欲しいとも思わないけど。―――ねぇ。
タオルで股間を隠し、振り向いて。顔を紅潮させながら、彼はそっぽ向いて吼える。
「全く・・・バイトっつってもプロなんだからな・・・客の・・・その、何だ・・・そんなとこを見るんじゃねえっ!!」
バイトといってもプロ、言ってる事は立派なんだけど、残念ながら、その身体で言われても何とも威厳のない、重みのない言葉にしか思えない。
かといって、元の身体で言われてもどうかなぁ、と思う程度だけど。
・・・って、そんなことじゃないのよ。問題はっ!
「み、見ないわよっ!!見たいとなんて思うはずも無いじゃないっ!!」
「・・・見たくせに・・・」
顔だけで私を半眼で見つめながら、ぼそっ、と呟く。
―――全く、子どもになっても―――生意気。
「そ、それはあんたのだから・・・」
「・・・な、何言ってんだ?お前・・・(汗)」
「な、何でもないよっ!」
ほ、ほんと、何を言ってんだろね・・・私も・・・(汗)
小さなあんたを見てると思い出す。
忘れられない・・・子供の頃。
降り注ぐ雨の中、傘を伝って落ちた雨粒が、濡れたアスファルトの上に浮かぶ。
路面の道の端のどぶに流れた水流を眺めながら、溜め息を吐く。
隣で傘を振り回すリョウに、何とも言えぬ苛立ちを感じながら。
「お前なぁ・・・傘差せよ」
土砂降りの雨の中、濡れた服、五月雨の中、五月病になんてなりたくてもなれないあいつと、降り止まぬ雨と湿気に憂鬱な私。
リョウは、私を見、言葉を捜して・・・言った。目を逸らしながら。
「別にいいじゃねえか、雨なんて久しぶりだしな。打たれたい気分なんだよ」
嘘―――。胸がずきっ、と痛んだ。
「風邪引いたらどうすんだよ」
「ひかねえだろ、俺馬鹿だし」
「どういう理屈だよ・・・いいから差せよ」
「良いじゃねえかよ」
良くねえよ。
身体に悪いじゃねえか。
「・・・こっちは親切で言ってやってんだ・・・差しやがれっ!!」
振り回されていた傘を奪い取って、片手で開く―――と。
「・・・」
その開いた傘は、降り注ぐ雨を弾く事無く、地面に落ちた。
穴が開いてた。カッターナイフで割かれたような、そんな穴。あいつは何も言わないで、そっぽ向いた。
そういうことかよ。―――つまんねえ嘘、吐きやがって。
馬鹿・・・だよ。
じん・・・と、胸を苦しめてた痛みが溶けてった。
「・・・穴、あいてんのか」
「おう。誰かが悪戯でもしたんだろうな」
「それならそうと早く言えば良いじゃねえか」
「言ってどうすんだよ」
「こうすんだよ」
私とあいつの間のわずかな距離を狭めて。
私はあいつの方に僅かに傘を傾ける。
ぼけ、っとした間抜け面をさらしていたあいつは、はっ、とした表情を浮かべると、私を見つめた。
信じられない、そんな顔で。
失礼な奴だ。
私は苦笑いを浮かべながら、あいつを見た。
「・・・ば・・・お前が濡れるじゃねえかっ!」
「だから?」
「だ・・・だからって・・・」
「んなの、たいしたことじゃねえだろ」
本当に、たいしたことじゃない。
それこそ、一人で濡らすような真似をするよりは。
たいしたことじゃない。
「・・・サヤカ」
でも、確かに私の肩が濡れてしまう。
これじゃあ、私が風邪をひく事になってしまう。
そんなのは、こいつにとっても、不本意だろう。
「濡れちまう・・・な。確かに。そんじゃぁ・・・」
だから、距離を詰めた。
広がりつつあった距離を。
あいつは少し抵抗があったみたいだけど。
でも、離れたりはしなかった。
傘の中で、触れる。
感じる―――
柔らかな感触。
僅かな肌の接触。
私は女で。
あいつは男で。
そんなことを意識する事もなく。
ただ、その時間の中。
私はあいつを。
あいつは私を。
感じていた。
―――相合傘なんて、からかわれても。
全然平気だった。
だって、私たちはそんなこと言われるような関係じゃない。
だから―――。
もてはやされようと。
一緒に居られると思ってた。
変わらずに居られると思ってた。
どんなに時間が経っても。
変わる事無く。
『無二の親友』で居られると思ってた。
あの日、あの時、まだ、幼かった私たち。
でも、違うんだって。
顔を殴られる事がなくなって。
あいつが私に嘘を吐き始めて。
気付いた事。
私が女で。
あいつが男で。
私がどうして、あいつと一緒にいたかったのか。
どうして、あいつと離れる事を恐れたのか。
あいつが女の子と暮らしているのが辛かったのか。
悲しかったのか。
苦しかったのか。
切なかったのか。
胸が、痛んだのか。
まだ、幼かったあの日。
私はまだ、大人なんかじゃないけど。
でも、きっと、この思いはホンモノ。
だから、変わってしまう関係でも。
強く、強く、君を思う。
一人、子どもになっちゃったのは、裏切られた気がしたけどね。
でも、変わらないよ。
あんたへの、思いは。
戻る気も無い、あの頃に。
もう、子どもじゃないから。
素直に―――伝えるよ?
「・・・リョウ、あんたが好きだよ」
穏やかな寝顔に向かって、私は呟いた。
僅かな休憩時間。
眠ってるこいつの傍で―――
私は、身を横たわらせた。
一緒に、いたいから。
今までの
コメント:
- いや、独唱だからといって、合唱だとかがあるわけでもないんですけども・・・(多分)。伴奏なんて書きようも無いですし(謎)
カナタを全巻、読んだぞ!記念SSです。
ナウな(をい)流行にのって(そんなに流行っても無いですが)幼馴染SSをば。
つまり、皆も書いてくださいよ〜、と言うことなんですけども(をい) (veld)
- 相変わらすお上手ですveldさん(しみじみ)
せつないですね〜勉強になります(笑
>伴奏
ちょっと見てみたいような気もしますね。なんだか面白そう・・(笑
投稿おつかれさまでした〜 (かぜあめ)
- てゆーか、カナタSS読んだの久しぶりですホントに(挨拶)
独白系らぶは好きですね。順序で言うと、ダークシリアスの次くらいに好きです(最高級賛辞w)。いや、彼女原作では今一不遇なキャラだっただけに……
次は是非とも、原作出世頭であるところの某宇宙船女史を書いてほしいものですw
(いわまわり)
- 私も久しぶりにカナタのSSを見させていただきました。
サヤカにもカナタたちのことがバレて、アルバイトにきてこれから面白くなりそうだったのに・・・!
そんな折、サヤカの話を書いていただいたveldさん、感謝です! (ヴァージニア)
- カナタSSって難しいんですよね(汗挨拶)
しかもGTYではユウリ様やセイリュートにくらべて
活躍の場が少ないっ!!
そんなサヤカ嬢を活躍させてくれたveldさんはすごいです!!
私なんてカナタで真っ先に思い浮かぶのが
アノイカ怪人ですもんw (ハルカ)
- 幼馴染って、難しいですよね…(溜息)
今までいろんなものを共有してきた分、思いきって気持ちを伝えたとして、ダメだったらその全部を、うまくいったとしてもその一部を、失う覚悟でいないといけないんですものね…(涙)
とにかく、サヤカちゃんガンバ!です。 (猫姫)
- コメント返し、遅れてしまって申し訳ないです。
んでば、させていただきますゆえ。
・かぜあめさん
上手くないっす(泣) いや、マジで・・・。
切なさ、感じ取れてもらえると嬉しいです、いや、本当に。勉強・・・になるのかなぁ・・・(汗) もしも、あなたのためになったのなら感無量ですが・・・。
>伴奏―――
いや、かなり難しいんではないかと。下手すりゃ文字書いちゃ駄目ですし(笑) んでも、書いてみたくなるかも(どうやってだ(笑)) (veld)
- ・いわまわりさん
カナタ・・・面白いっす。読んでみるまでどういう話か分からなかったんで避けてきたわけなんですけども、これからは書くかもしれないです。
書かないかもしれないです(をい)
独白系ラブ・・・最近こればっか書いてる気がします(汗) 脱皮を図らねば、と思ってるわけですが、なかなか上手いこといかず(泣)
不遇、そして、何よりも幼馴染。何よりも。というわけで、サヤカに。彼女、好きです。というよりも、嫌いなキャラなんていないわけですが。皆大好きなんで。
セイリュート・・・(汗) あんまり期待しないでくらはい(汗) (veld)
- ・ヴァージニアさん
カナタ・・・面白いっす(さっきと同じかいっ) 自分、好きです、本当に、もっと長くやって欲しかったのに・・・。自分も残念な気持ちで一杯です。
もっと長くやってくれたら、もっと、サヤカの魅力が見れたかもしれないのにっ!
もっと長くやってくれたら、もっと、ユウリの魅力が見れたかもしれないのにっ!(をい)
もっと、もっと・・・読みたかった作品でした。サヤカ、大好きです(強調) (veld)
- ・ハルカさん
イカ怪人SSを書いてくれると宣言してくれた(違)ハルカさんに感謝しつつ。
何と無し、書き易かった。です。上手く書けているんだろうか、という不安もありつつですけど。幼馴染SSとして。彼女を出してみました。
影の薄さは誤魔化せませんけど、自分、彼女好きですし(笑)
一巻ばっかアホみたいに読んでましたから(笑) 彼女が好きです、ええ、好きです(笑)
イカ怪人・・・よろしく♪ (veld)
- ・猫姫さん
むぅ・・・自分、幼馴染いないんですが(笑)
でも、気持ちを伝えたから、といって変わる物でも無い気がします。いえ、変わらなければならない部分は変わるでしょうけど、しかし、『腐れ縁』は切れないのではないかと(笑)
失うことも成長するには必要。割り切るにはいささか酷ですが、しかし、大事な事である気がします。変わらなければ何も始まらない、ぬるま湯はいつまでも使っていられる関係でも無いですし。 (veld)
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