雪に唏く(2)
投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(03/ 5/19)
雪に唏く 〜ゆきになく〜 ──その2──
「ふふふ〜ん♪」
昨夜、食事の後片付けをしてくれた女性従業員に、リクエストした山菜の煮物。 それが朝も運ばれて来たので、タマモは頗るご機嫌だった。
言うまでもなく、煮染められた油揚げが気に入った為である。
「ついたぜ」
案内してくれた従業員は、地元出身のまだ若い男。 自身より年若い横島とタマモに、不信感を持っている事がありありと窺える。
まあ横島は格下に見られるなどいつもの事なので、全く気にしていないし、タマモは興味の無い相手にどう見られようと気にならないから、それでも問題は無かったが。
「ふぅ〜ん、ここがねぇ…」
覗き込んだ横島が呟いた。
ごつごつとした岩肌の剥き出しになった斜面。 かつての溶岩流の痕なのか、上から下へとこの辺りだけが、草や土に覆われていない。
「こんなトコで転べば、そりゃ死ぬかも知れないわね」
彼の横から、同じ様に覗き込んだタマモが嘲笑まじりにそう口にした。
聞いてた話からすれば、手前に張られていたロープを無視して入り込んだと言うのだから、彼女の声に馬鹿にした響きが混じっているのは当然か。
「夜か朝っつってたっけ?」
「あぁ。 密猟者ん方は日が暮れてから、山菜採りの婆さんは朝早くに。
昼にこの辺を調べた地元ん衆は、見掛けてねぇよ」
「ま、幽霊なんてそんなもんだしな。
んじゃ次行こうか」
先を促すと、若い男は眉を顰めた。
「なんだよ、もっとちゃんと調べないのかよ?」
何かこの場所でするのだと思っていた様だ。
だが、横島達はそっけなく答えた。
「見た感じ居ないし、密猟者が見付かった場所ってここじゃないんだろ?」
「自縛霊じゃないんなら、死んでたその場所なんて大して意味無いもの」
「っつう事だから、さっさと動こう。
どうせ、夜になんないと姿なんか見せないんだしな」
横島の声に苦笑が混じる。
それを馬鹿にされたと感じたか、男は横島に詰め寄ろうとした。
「GSだか何だか知らねぇが、田舎もんだと思ってナメんじゃねぇ…うわっ?!!」
掴み掛かろうとした手と横島との間に、ぼっと音を立てて青白い炎が舞い踊る。
男は慌てて飛び退いた。
「さんきゅ」
「さっさとしないとお昼に遅れるでしょ」
やる気のない声で、タマモが横島にそう答えた。
「な、なんだよ、今のは?!」
ポーズだけは崩すまいとしたものの、声が震えている。
「あんまり、怒らすんじゃないぞ。 俺にも手ぇ付けらんないんだからよ。
って事だから、昼飯に遅れない様にさっさと歩いた歩いた」
今度こそ本当に苦笑して横島は告げた。
むっとした顔をしたが、タマモも文句は付けずに男を見遣る。
「わ、判った。 次はこっちだ…」
態度を改めた男の先導に従って、二人は更に山の中を歩いて行った。
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「どうする〜?」
鼻歌交じりで、タマモが横島に問い掛けた。
配膳担当のおばさんは人が良かったらしく、彼女の油揚げ好きに応えてか、お昼はお稲荷だったのだ。
おかげで至極機嫌が良く、彼も気を使わずに済んでる分、気楽に受け答える。
「そ〜だなぁ…
夕飯食って一服したら、10時過ぎにでも出掛けよう。
見鬼くんを使って追っかけて、とっとと除霊しちまう、でいいんと思うけど?」
周辺図を眺めながらの返事に、タマモも見ているテレビから視線を戻して頷いた。
地図に書き込まれたポイントは、どれも実際の所、大して離れていない。 多く見積もっても、悪霊の行動半径は5〜6km程度と言った所か。 場所的なモノもあるのだろうが、強い相手とも思えないから、妥当な判断だろう。
「期日は後3日有るけど、感じた限りじゃ大したのでも無さそうだし、さっさと済ましちゃう方が良いわね。 ヨコシマと延々顔を合わせてても、私はつまんないし」
「悪かったな、つまんねぇ顔で」
「あんただって、とっとと戻りたいんでしょ?」
皮肉っぽく尋ねる彼女に、横島もしぶしぶ頷いた。
何せ若い女性が全然居ないのだ。
シーズンオフの平日と言う事で、そもそも客などほとんど居ない。 閑散期だから、バイトも今はシフトから外れていて、若い従業員も先の案内人の様に男性がほとんど。 配膳と言った接客に来てくれる人も、見たところおばさんばかり。
揚げ句、家族部屋と言う事で、心を潤す有料チャンネルも除かれていた。
食事で満足しているタマモと違い、横島にとっては当てが外れたと言って良い。
「観光地なんだから、若くて美人のねぇちゃんの一人くらい居たってよぉ…」
肩を落してしょげ返る。
ふふんと鼻で笑うと、彼女は立ち上がった。
「今の内にお風呂に入るわ。
覗いたら火を点けるからね」
そう凄むタマモに、横島は一瞥くれて答えた。
「あぁん? 覗かん覗かん…
ガキの裸なんか見ても、楽しくも何ともな…ぅわちゃあっ!!」
「フンっ!」
文字通り尻に火を付けられた彼が飛び上がるのを横目に、バタンと音を立ててバスルームのドアの向こうへと消える。
覗かれるのは嫌だが、見たくもないと言われるのも腹が立つものなのだろう、やはり。
鈍過ぎる自業自得を、横島も少しは理解すべきかも知れない。
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日の暮れ落ちた山道を、見鬼くん片手にディパックを背負った横島が歩いている。
その少し後ろを、こちらは軽装のタマモが続いていた。
「そろそろだな…」
見鬼くんの反応に、横島が呟く。
「そうみたいね」
こちらは自身でも霊気を嗅ぎ取ったか、臨戦態勢に入るタマモ。
気を配りながら歩く二人の前に、その姿は不意に現れた。
「居たっ!」
タマモの背後に、彼女の呼び出した狐火がいくつも浮かび上がる。
と同時に、横島が突進した。
「お嬢さぁ〜んっ!!」
『いやぁ〜っ!!』
飛び掛かって来る彼を、寸前で若い女性の幽霊は叩き落としたが、屁とも思わず横島はその足元にしがみつく。
ここに来て、漸く出逢えた若い女性だ。 しかも見掛けは悪くない。 と言うか、はっきりいって可愛い。
ふわふわした髪は背中まで伸ばされ、死んだ時の着衣かピンク色のスキーウェアを纏っている。
そばかす混じりの顔立ちは、綺麗と言うより可愛らしいが、さすがに幽霊になっては影が差して居るのは仕方有るまい。 尤も、今は迫って来る横島の所為かも知れないが。
とにかく、彼が襲いかかっても不思議ではない容姿の持ち主だった。
「何、やってんのよ、あんたはっ!!」
タマモの繰り出した狐火は、当然の様に横島へと向けられた。
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「で、あんた」
『は、はいっ…』
タマモにじろりと睨まれて、その幽霊は怯えた。
足元に転がっている横島の惨状が、作り出される過程を逐次見せられたのだ。 まぁ自然な反応だろう。
「あんたが、ここいらに出没するって言う、向こうの斜面で死んだ人?」
『は、はい… 多分そうだと思います…』
気弱なその様子に、タマモは首を傾げた。
明らかに聞いた話と違う。 この娘からは、どう見ても他人も引きずり込もうと言った、有りがちな悪意が全く感じられない。
「さぁ、涙を拭いて。 後の事は僕に任せて楽にしたまえ」
『あの… その… 困りますぅ…』
「何してんのよっ!」
幽霊の肩を抱いてナンパに掛かる横島に、再びタマモの狐火が炸裂した。
「のわぁ〜っ!」
一瞬にして火だるまになるも、転がりまくって火を消すと、すぐに横島は立ち上がった。
「熱いだろうが、タマモっ!」
『あの… 大丈夫なんですか…?』
彼に尋ね掛ける幽霊の顔には、見紛う事なき恐怖が浮かんでいた。 二人の前に姿を現した事を、後悔しているのは確実だろう。
「この程度の事でどうにかなるヤツなら、とうの昔に死んでるわよ」
「だからって、やりすぎだっつうの」
「ミカミに較べれば、随分優しいと思うけど…」
「うっ… そりゃまぁ」
『あのぉ…』
申し分けなさそうに幽霊が二人へと声を掛けた。
「あぁ悪かったわね…
ヨコシマ、あんたが邪魔するから」
『それでですねぇ… あなた達、GS…なんです…よねぇ?』
どうにも疑念混じりなのは、しょうがない。
「GS横島忠夫だ。 で、お嬢さんのお名前は?」
『私… 御台春香って言います…』
名前を聞いて、タマモは資料を纏めたメモ帳を捲った。
「えぇと、死んでいたのは、御台と黒澤… ふぅん、当人みたいね。
で、あんた一体どう言うつもりなの?!」
『その… お願いが有るんですぅ…』
【つづく】
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……ぽすとすくりぷつ……
むぅ… 予定通りに進まない(泣)
ここ用のだと、いつもの様な配分の仕方が出来ない……1話辺り、普段は16〜18Kbを基準にしているので……から、思い描いた進行にならなくて(苦笑)
そもそも、タグエディターとワードパッドだと、見た時の感じが全く違って来ちゃうし(^^;
単発話なら、向こうの挿話と同じ感覚で書けるのだが、続き物だとなぁ…
そう言や、ここって、1話辺りの限界何Kbなんだろ…(^^;
転がし始めた頃に、いくつかのお話からテキスト切り出して… 大体7Kb前後くらいかなぁ、と読んだんで、それ目処に書いてみてるんだけど、私。
なんか夏子流行ってるなぁ… 向こうで流れちゃったプロポーズ物持って来ようかしらん(^^;
今までの
コメント:
- タマモ〜ナーイスつっこみ!
それとも嫉妬の炎って言ったほうが正しいのか。
まあ、どっちで解釈するにしてもタマモは最高!
次回もがんばってください。 (キリランシェロ)
- 逢川さん、こんにちは。
こっちでコメントするのは、たぶんはじめてです。(あっちでは別ハンドル名です)
ストーリーはぼちぼち練れていると思います。
つーか、先がどうなるか楽しみな展開です。ただタマモとの仲は深まりそうにないですね(苦笑)
>1話辺りの限界何Kbなんだろ…(^^;
どうやら8.3KBみたいですね。私はたいてい1話を3K〜4Kで書くので、とりあえず
容量的には困ったことはないです。 (湖畔のスナフキン)
- >なんか夏子流行ってるなぁ… 向こうで流れちゃったプロポーズ物持って来ようかしらん(^^;
あっちの作品をうかつにここに持ってくると、かなり叩かれます。
まぁ逢川さんくらいの腕なら、大丈夫かもしれませんが。
それから、ここでこんな話をするのは反則かもしれませんが、プロポーズ物の登録を希望でしたら
あっちの掲示板で発言をお願いします。きちんと返事をしますので(^^) (湖畔のスナフキン)
- 横島とタマモの掛け合いが面白いです〜
燃やされまくってますね横島くん(笑
2人ともがんばれ〜(爆
次回もがんばってください。
>16〜18Kb
自分も他のページに投稿するときはそれぐらいになっちゃいます(笑
一話完結ものとかは特に短くまとめるのが大変ですよね。 (かぜあめ)
- キリランシェロさん
連続のコメ、どうもです(__)
二人きりだと、どうしても横島がボケに回っちゃいます(^^; シロと較べると突っ込みが出来る分、楽というのも有りますが…(苦笑)
湖畔のスナフキンさん
そうですね。 こちらでは初めまして(^^)
くっつかせるだと、あっちの『狐』と一緒になっちゃいますし…(爆) それとサイズ、8kちょっとですか、結構微妙な数字だなぁ(^^; …って事で全5話です、コレ。
ちなみに夏子のは、背中から未来の流れの延長線に、加工すれば置けるなぁと思っただけでして(^^; あのタイミングの遊びには乗り遅れたから、流れちゃった事自体は割と気にしてなかったんですが。 (逢川 桐至)
- むぅ… 長いってはじかれちゃった(^^; ので、2分割。
かぜあめさん
同じく、連続のコメどうもです(__)
掛け合いだけで、なんか連載になってしまった節が…(苦笑) 短く纏めるって、ホント難しいですよね(^^; (逢川 桐至)
- 相手が誰だとしても、女性に子供扱いはご法度ですよ、横島君…(−−;
タマモちゃんのツッコミが激しいのは、実はひそかに怒ってるのかもしれませんね♪
それにしても、普段からアレ以上の美神さんて…。 (猫姫)
- 猫姫さん
だからと言って、普段の横島の女性扱いをされても、やはり怒るのでは(^^;
『シロと違って私は大人』って意識は……実際はどうあれ……持っているでしょうから、怒ってるのは間違いないです(苦笑) (逢川 桐至)
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