雪に唏く(1)
投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(03/ 5/18)
ひらひらと…
ふわふわと…
羽の様に軽く、塩の様に白い雪が降る。
独りぽつんと立ち尽くし、ただ雲に覆われた空を見ていた。
雪に唏く 〜ゆきになく〜 ──その1──
「ドコ行くのよ、ヨコシマ?」
そう声を掛けられて、横島は自分がふらふらと歩き出していた事に気付いた。
「えっ? …あぁ、いや、何でもない」
正面に見える山の頂で、夕日に赤く染まる鉄塔。
目に入っていたそれを認識して、自分が何処へ行こうとしていたか気付かされ、面に出さない様に胸の奥で苦笑した。
「そう、何でもない…」
「…?」
薮睨みで不審げな視線を向けるも、タマモはすぐに気にしない事にしたらしい。
彼の背を叩くと歩き始める。
「ほら、とっとと行くわよ。 あんたと野宿だなんて、私はごめんだからね」
「あぁ、判ったよ。 それじゃ、さっさと向かうか」
御札を含む、最小限の荷物を背負った横島と、荷物らしい荷物は無く小さなポーチを肩に掛けただけのタマモが、シーズンオフの閑散とした駅前を歩く。
もう一月くらい前ならば、この駅前は若い男女で溢れ返っていただろう。
だが、シーズンも終わり山肌を染めていた雪は解け掛けて、次の冬を待つばかり。 観光シーズンの狭間に、二人がこんなとこまでやってきたのは、勿論仕事の為だった。
事の発端は、前日の夕方に遡る。
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「ちょっとママ。 いきなり無茶言わないでよ。 こっちにだって仕事が入ってて、そんな余裕なんか…」
「…あるでしょ?」
入っている仕事の内容を思い浮かべて口篭る美神は、片眉を上げながらの一言で簡単にいなされた。
「そりゃ、今回の仕事へは横島君は連れてけないけど…」
夕べ電話で話した時に、美智恵に次の仕事の内容を口走っていた事を思い出したのだ。
「へ? そうなンすか?」
「男子禁制なのよ」
そう聞いてショックで固まる。
男子禁制とくれば、女子寮とか尼寺とか、色々とそそられる空間である事は間違いない。 悔しさで叫びそうになる彼を、ハイヒールの一撃が床に沈めた。
「だからって、横島君だけじゃ…」
「あら、横島クンならうまくやれると思うけど?
どうせ連れて行けない以上、休み扱いなんでしょ? そうなってから、直接依頼したって構わないわよ?」
「く…」
美神が爪を噛んで黙り込む。
美智恵には、どうやったって頭が上がらない。 望む様にされてしまうのがオチだ。
臨時雇用されては、美神の元には一銭も入らないし、それくらいならば引き受けた方が良い。
「除霊失敗の際の責任は、ママの方で取ってよね!」
結局、そう答えるしかなかった。
そもそも、美智恵から持ち込まれた仕事は、大した事無いと言えば大した事の無い除霊作業なのだ。
冬はスノースポーツ、春から秋は山登りやハイキング。 場所はそんなとある観光地。
雪のシーズンを終え掛けたその最後の最後で、二人の大学生が死んだ。
危険だから入るなと、書かれていたロープを越えて入り込んだその先で、二人して転倒したのだと言う。 場所が悪かった。 既に雪の厚みは薄く、頭を打ちつけたそこにはゴツゴツとした岩が有り、見付かった時には事切れていたらしい。
自業自得。 そう言ってしまえば、ただそれだけの事。
年に一度くらいは起こる事故で、死人が出たとは言え、それだけなら気に留められる事も無い。
通年の事故と異なったのは、その死者が悪霊化した事だ。
最初は密猟に入った若い男が、意識不明の重体で発見された。 続けて、山菜採りの老婆が被害に遭いかけるに至って、地元はGSに依頼する事に決めた。
スキーのシーズンが終わって暫く経てば、今度はハイキングの季節である。
良くも悪くも観光頼りの土地だけに、いつまでも放置する訳にはいかなかったのだ。
土地の政治家から、オカルトGメンへと相談が持ち込まれたのは、まぁ良くある話。 しかし、ある宗教団体の違法事件を調査中のオカGには、周せる人員の余裕が全くなかった。
折衝に当った美智恵とその代議士との協議の結果、そこから更に民間GS……つまり美神事務所へ、話が持ち込まれる事になった訳だ。
「けど、横島さんだけで大丈夫なんですか?」
心配そうなおキヌの言葉に、ちょっとだけ悩む。
今入ってる仕事に必要な最低数は3人。 自分自身の他に、ネクロマンサーの笛は外せないからおキヌと、彼女を庇い且つ荷物持ちが出来る者が要る。
部屋の隅で無関係そうにしている、シロタマに目を向けた。
その視線に、即座に反応したのはシロだ。 タイミングを窺っていたと言ってもいい。
「拙者が先生と共に…」
「却下!」
勢い込んだ言葉は、しかし一言で切り捨てられた。
「そんなぁ…」
「タマモ。 あんたにお願いするわ」
「私が…?」
こちらはシロと違い、露骨に嫌そうな顔をする。
同じ事務所で働いているとは言え、それ以上の好意は無い。 横島の普段の素行が、一定ラインの連帯感以上のモノを彼女に抱かせないのだ。
「別にこっちに付いて来て荷物持ちでも構わないけど、どっちがいい?」
「…はぁ、判ったわよ」
天秤に懸けて、しぶしぶ頷いた。 肉体労働なぞごめんだと言わんばかりに。
そんなタマモの了解を得て、美神は美智恵に向き直った。
「仕方ないから、この二人を回すわ」
「助かったわ、令子。
それじゃ、横島クンとタマモちゃんはちょっと付いて来てくれる? 詳細を説明するから…」
頷いて従う二人を連れて、出て行く美智恵に美神が声を掛けた。
「出向は今日からだからね、ママ!」
こすっからい娘の言葉を、してやったとばかりの笑顔が迎え撃った。
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そんな訳で、二人だけでの除霊作業と相なったのだ。
途中で会えた差し回しの車に乗り込み、山の方へ向かって走る事20分。
ログハウス風のコテージが立ち並ぶ一角へと着いた時には、日も暮れ落ちていた。
「ようこそ、遠いとこまでお越しんなられました。
私がこの辺りの纏め役をやっとる、難波いいます」
「以来を受けて来た、美神事務所の横島っす。 こっちは同僚のタマモ」
出迎えた初老の男性に、横島も挨拶を返して頭を下げる。 隣で、タマモも軽く頭を下げた。
「お疲れでしょうから、今日のとこはまんず休んで下さい。
現場へは、明日ウチの若いもんに案内させますんで」
「判りました」
「そいじゃあ、こっちへどうぞ」
横島の荷物を二人がかりで運ぶ従業員を伴って、難波に従って二人も建物へと入って行った。
コテージ群を繋いでいるガラス張りの渡り廊下を少し歩いて、連れて来られたのは連なる中でも大きめのモノ。
「ここ?」
眉を顰めてタマモが言う。
造りを考えると二人共ここへと言う事だろう。
「話しは伺ってたんで、家族用の一番いいコテージば用意させました。 中で、更に4部屋に別れてますから」
言いたい事を読み取って、そう答が返される。
「あぁ、そう言う事… なら、ま、いいわ」
「それじゃあ、中へどうぞ」
入ってすぐ、暖炉のある天井の高い広間があり、東南の面に2部屋、その上に1部屋。 トイレとバス、簡単なキッチンも付いている様だった。
「すぐにお食事ば運ばせます。 ここの風呂は近所の温泉のお湯ば引いてますから、今日はゆっくり休んで下さい。
詳しい話は、明日言う事で」
そう言って彼は出て行った。
ふぅと息を吐いて、横島はソファへと腰を下ろす。
「いつも、こんななの?」
遠出は初めてのタマモが、珍しそうに部屋を漁りながら声を掛けてくる。
「そうだな… 質素な方じゃないか?
美神さんが居たら、高級じゃなくって、最高級を要求してるだろうし」
「ふぅ〜ん」
代議士経由とは言え、本来話が行ったのはオカGなのだ。
それでもシーズンオフで、且つ早めの除霊を望んで居たからこその好待遇。 泊り掛けの仕事は、数を熟しているから、横島にもその程度は判っている。
「ま、今夜は言葉に甘えてゆっくりしとこうぜ。
明日、明後日は忙しくなりそうだからな」
「ん」
そこで扉がノックされた。
「はい?」
「お夕飯、お持ちしました。 よろしいですか?」
「はい、どうぞ」
女性の従業員が、お盆を持って入って来る。
山女の塩焼きと牡丹鍋、それに山菜の煮物など、地元の食材を活かした料理が並べられて行く。
二人は、取り敢えず夕食を堪能する事に決めた。
【つづく】
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……ぽすとすくりぷつ……
なんつうか、季節外れであ〜る(^^;
そもそも、前に転がしてから何日経った?(^^; 半月に一度どころか、そろそろ一月やん… 動き激しいんだから、忘れられてまうで。
つくづく計画性の無い男やわ、ほんまに(笑)
言うまでもなく、ここ用のがなかなか書けなかっただけなんだけど(苦笑)
…で、リクもあったんで『例えば』をどうにかしようとしたら、どうにもこうにも巧く纏められなくて。 しょうがないんで、単発でお茶を濁そうとしたら、これまた伸びた(爆) その上季節外れ。 前にあっちで冬にアイスの話書いた事があるから、それよりはマシなんだけど(^^;
それはそれとして、これまでのとは明らかに違う、完全な短期連載作(苦笑)
大丈夫なのか、私?
しかも、相変わらず横島とタマモだけだよ…(^^;
今までの
コメント:
- タマモだタマモだ〜!!ピロピロピンポンパン!!(ガフ
失礼しました。横島とタマモの二人旅(仕事だけど)
この展開私としては好きな展開です。
短期連載とのことですががんばってください。 (キリランシェロ)
- 最高です!!
うああ〜リーチ一発ドラドラドラドラドラ・・はい!2万7000点!!・・みたいな感じです(笑)
文章もお上手ですし・・、本当にうらやましいです。これからの展開が気になって気になって・・次回もがんばってください。う〜む2人きりの依頼かあ〜 (かぜあめ)
- キリランシェロさん
コメどもです(__) なんつうか、こう言う方向しか書けないんですよ、私(苦笑)
ともあれ、続けて見てやって下さいね(__)
かぜあめさん
今回は、さしたる山もなくて(苦笑) 二人きりなのは、人数が少ない方が書き易いと言う私の都合が大きかったり(爆)
続きはアップしましたんで、読んでやって下さいな。 (逢川 桐至)
- 理由の説明もなく、一言で切って捨てられてる、シロちゃんが不憫です…(涙)
横島君とタマモちゃん、ふたりっきりで除霊旅行ですか〜♪
美智恵さんにも、なにか狙いがありそうで、続きが楽しみです♪ (猫姫)
- 猫姫さん
だって、美神ですし(^^;
基本的に私の書く美智恵さんは、横島へ報いたい気持ちと、意地っ張りな娘への苛立ち、場を乱して遊んでしまう茶目っ気を合わせ持っている調停者……のつもりで書いてます、向こうとこっち作品を問わず(笑) (逢川 桐至)
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