ザ・グレート・展開予測ショー

シロい犬とサンポを(1)〜前編〜


投稿者名:志狗
投稿日時:(03/ 5/18)

お前の胸のうちまで、俺には手に取るようにわかっている。
俺がこんな事になって心配だが不満を隠しきれないというわけだ。
俺に聞こえないようにと思って声をひそめていても、ちゃんとわかるんだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


そんな沈黙してるっぽく中点を並べても無駄だぞ。


もう昼も二時をまわった。
朝から事務所に来た俺は挨拶を済ました後、お前の居場所を聞くとそこへと向かった。
今、美神さんとタマモはおキヌちゃんの作った昼食を食べている。
時折美神さんの声が聞こえる。苛ついた、不機嫌さを目一杯にあらわした声だ。


それはともかく、俺にはお前の胸のうちが手に取るようにわかるんだ。
俺がこんな事になって心配だが不満を隠しきれないんだ。


俺は今、事務所の一室、そこに置かれたソファーに横たわっている。
しっかりした造りの低めの木のテーブルに“不自由な”方の足をのせ、目を瞑っている。
眠っているんじゃない。寝たふりをしているだけだ。


こっそり細目を開け、様子を窺った。
すぐさま目を閉じる。

やめておけばよかった。
目が合ってしまった。
目を閉じていた時よりもダイレクトに、お前の感情が伝わってきた。

閉じた瞼の裏に焼きついた光景に苛まれるようにして、再び目を開ける。
目の前にある顔を見つめ、大きな瞳を覗き込んだ。

勘弁してくれ。
そんな目で見つめられ続けたらどうしたらいいんだ。


お前の気持ちは迷惑じゃないんだ。
お前が気持ちを突きつけたら今の俺は拒絶するかもしれない。多分、いや絶対イヤだって言う。
でも迷惑じゃないんだ。

だけどお前は言わない。

お前は・・・・まあ好く言えば素直だし、・・・・まあ好く言えば優しいのだろう。
言いたいことも言わずに引き下がるような性質じゃない。
でもだからこそ、そこで自分を引き止めている。

目の前のテーブルに顎を乗せて、脱力させた全身を持て余しながら俺をじっと見つめている。

きっと今のお前は心から俺のことを考えてくれているな。
確信などはない。
ただそう思う。
拗ねた様な雰囲気を出しつつも、俺を心配してくれている。




窓にかかったカーテンが、吹き込む柔らかい風に靡くさらさらという音が聞こえる。
五月の昼だ。
風の運んできた緑の香りが鼻腔をくすぐる。

天気もいい。
最高の日和だ。

鳥の声が聞こえる。
どんな種類かは判らないが、声から小型の鳥だという事は判った。
小さな囀りだが、今のこの場にははっきりと響く。


天気のいい日、ふたりでよく出かけた。正確に言えば、お前に連れ出されたんだが。
見知らぬ場所まで気の赴くまま行くなんてしょっちゅうだった。
俺が息を整えている間、お前はよく鳥の声に耳を澄ましていた。

呼吸に集中させた意識を戻すと、お前の肩に数羽の小鳥がとまっていたな。
忙しなく動き回りながら、お前に何事か囁く。


無邪気に鳥と戯れる姿が、俺は好きだった。
俺が近づくなり飛び立つ鳥達を視線で追いながら、ふと「何て言ってたんだ?」と聞いた。
お前は苦笑いを浮べながら、鳥達の囁きを教えてくれた。

・・・・全部俺をバカにする言葉だった。
貧相だのアホだのスケベだの・・・・。口の悪い鳥め、思い出したらむかむかしてきた。


子鳥達が姿を見せることは他にも何度かあったが、それから俺はただ見守るだけにしておいた。
見ている分にはいい光景であったし、なにより初めて見た時の好感は捨てるにはあまりにも惜しいものだった。

見守る事が、見つめる事が。とても楽しく、どこか嬉しい。


そんな気持ちをお前の瞳に思い出していた。



今だって、目の前に小鳥と戯れるお前の姿があるような気になる。

目を閉じる事なしにでも浮かび上がる光景。
自在に見れる白昼夢。
普段ならば自分の頭を疑いたくなるような事だが、今はそんな事までも当然のように思える。
どこか感覚が鋭敏になっているのかもしれない。


思考を巡らすうちに、お前の瞳に変化があった。

俺の表情に変化があったのだろうか?
もしかしたら笑みでも浮べていたのかもしれない。

不思議がるような、きょとんとした瞳。
お前を見つめる俺。それに気付いた時、お前がいつも見せる瞳だ。

その瞳に今度はしっかり自覚して、小さく笑みを浮べる。
そして再びお前の感情を読み取り始めようとした・・・・・・。

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