ザ・グレート・展開予測ショー

君がやりなさい。私が葬ります。


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(03/ 5/17)

「先ず、落ち着きなさい」
唐巣神父が眼鏡を治しながら諭した。
「ですがっ!」
鼻水も涙も構わず泣き、暴れるピートは絵にすれば喜劇だが。
「もう一度、言います落ち着きなさい」
後ずさりたい気持ちを抑え諭している状況である。
床に落ちている新聞に目を付けてみよう。
英字新聞かと思われたが違う。イタリアの新聞であるようだ。
やや黄ばんでいるのは既に半月が過ぎている事を現している。
珍しく小金を得た神父が奮発して街にあるイタリア食材専門の店で購入した野菜を包装した新聞であった。
イタリア語新聞であるが神父も読める。
今はともかく若かりし頃はバチカンにいた過去があるからだ。
[さる古城に巣食う吸血鬼一族の滅亡〕
とある。
『虐殺された』と文頭に冠されている。
人から隠れ住むようにしていた吸血鬼を狩の如く振舞った男が堂々と写真に載っている。
「彼等はっ、人間を襲わなかった。襲うものを逆に縛ってきた、なのに、なのに!」
暴れたいが諭されて出来ない。
まだ精神年齢が若い彼にはどうすれば判らない怒りを発散すべきパワーを持て余す。
どさっ、と鈍い音がした。
「・・・気絶しましたか、しかし・・」
一度思案した神父の行動は電話である。
「イタリア、ヴァチカン市国への電話をお願いします」
我々の判らないイタリア語で誰かと話した後、振り返ると、
蝙蝠に似た存在が窓から出て行く。
「・・・あの姿で海を渡る気ですか・・ね」
まだ若いな、と漏らした後、
「やぁ、エミ君。いやタイガー君に用事があるんだが・・」
幸い自宅でくつろいでいた所なので、
「ほー、そうじゃったのかー。気持ちは判るがノー、無謀じゃノー」
用件がすぐ理解したのか、直ぐに能力を使う。
この所、
タイガーの能力が大幅に上がっているので、少し工夫すれば、
ヒャクメに似た能力も出来るようになっている。
「海にいるンじゃな」
やれやれと重そうな体を一度上げれば後は虎のしなやかさで行動出来る。
小三十分でピートが休む波止場へと足を伸ばせた。
「タイガー君」
泣きつかれたのか、大人しいピートである。
春の光を嫌ってか松の木陰で休んでいる。
「ピートしゃん、どうするんじゃ?」
何故自分の置かれている立場が知られているのかを気に出来るような状態ではないようだ。
率直に尋ねられ素直に答えてしまうピートは彼らしいと言え、
若い危ない刃物とも取れなくもない。
「夕方になれば大陸へ吹く風が出ます、それに乗って・・」
乗ってイタリアに向かう、と言いたかったのであろうが、腹部に発した激痛に身を屈める。
「今は何を言っても無駄じゃろうからノー。すまんノー」
何故だという気持ちは目に宿ったが目前から光が消えていった。
「よいしょっと」
堂々とした体躯に軽々とピートを肩に載せた。
「神父にまかせんしゃい」
と言ったがピートに聞こえたかどうかは不明である。
それから、
後になって判明した事実だが、彼は四日間眠り続けていたという。
吸血鬼であるが故、その程度では生命の危機は無い。
「・・・ん?」
目が覚めると車の中にいることが数分で判った。
だが、場所に関しては薄暗い森であることに奇異を感じると、
「やぁ、目が覚めましたか、ピート君」
「先生・・すいません。僕は・・」
何と言えばいいかわからない風体に一度微笑む。
「先ずはこの手紙を御覧なさい」
二枚の手紙を見せる。すべてイタリア語で書かれている。
一つは唐巣神父直筆のコピーである。
『親愛なるバンパイア・ハンター殿』
の文頭に一瞬怒りを見せたが、
『この度活躍に我が極東の国からお助けの手を依頼したく存じます』
と続いている。
その吸血鬼が住む場所がさる山奥と断定できると書かれている。
「まさか、ここの事ですか?」
「そうですよ。さる山奥がここです、えぇ」
山に立ち込める霧を振り払おうとしたのか、手を動かしたが無駄である。
「さて、もう一つの手紙です」
送り先が流暢なイタリアの筆記体で、
『バチカン市国』
と認めてある。
 敬虔なクリスチャンを虐殺した男に対しては憤りを感じる
 神を恐れない者は神を恐れる者に召される事は自然の定理である
たった二行の文である。
誰が書いたのであるか聞くと、
「かの国で『神』を公的文書で文字に出来るのは枢機卿レベルの方ですよ」
それは何を意味するのか、なかなかに怪しい文章である。
と、そこに。
一台の車がやってくる。
「唐巣神父!」
どういう顔をすればいいか判らないピートに対して。
「君がやりなさい」
そういって一度眼鏡を拭いて。
「私が葬ります」

FIN

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