ザ・グレート・展開予測ショー

悪夢 第六夜


投稿者名:ライス
投稿日時:(03/ 5/15)





 どれくらい長い間、眠っていたのでだろう。気が付くと私は、ほの暗い洞窟のような場所で仰向けになっていた……。起き上がって辺りを見ると、奥の方からうっすらと光が漏れている。私はその方向へと歩いていくことにした。

 カツコツ………。自分のハイヒールの音が反響している。私は、壁づたいにゆっくりとその光を放っていている場所に近付いてゆく。


 辿り着いた先は、真っ暗なドーム状の広い場所。天井は見えないくらい高く、その間を深い闇が覆っている。そこに灯りがつく場所が只一つあるのみであった。近付いてみると、それは一台の机で光の源はその脇に乗っているスタンドライトみたいだ。おまけに誰かがその机の前で椅子に座り、その机上で上半身をもぞもぞと動かしている。

「………だれ?」

 私は言った。するとその机にいる人物は、私の声に反応して、私の方へ顔を振り向けた。

 男性のようである。その面立ちは、疲労困憊したようなやつれた顔で頬はコケ落ちている。目はギョロッっとしていて、獣が獲物を狙うかのような目であった。容姿も大きすぎず、小さすぎず、平均的な体つきでどちらかと言うと細身な方だったが、生気を失ったようではなく、何かこう、得体の知れない活力に満ち溢れた感じである。

「………美神さん……だね?ようこそ、ココへ……」

 男は振り向いたときに見せた野獣のような目つきから転じて、ニッコリと微笑んで、美神の方を見た。

「僕は『描く男』、ドロウ。ある人に頼まれて、君を待っていたんだ……。」

「ある人?……って、誰よ!?」

「悪いけど、それは言えない。ただ、僕はある事をするためにココへやって来たのさ。」

「話にならないわね……。私はね、そんなのに付き合ってる余裕なんてないの。アンタなら知ってるんでしょう?ここから出る方法。教えなさいよ!!」

「まぁまぁ、そう急く必要もない……、」

「問答無用!!こうなったら実力行使よ!?」

「無駄だよ、君は僕に勝てない。」

「もう遅いわ!!」

 私はそう言い放ち、神通棍を片手に男に襲いかかろうとしたが、バランスを崩して顔から地面に転び落ちた。男は椅子から離れていない。私は立ち上がろうとするが、何度もバランスを崩してうまく立つことが出来ない。足元を見て、驚いた。


 自分の足がない。


 それも切り落とされた、という訳ではなく、そこに『存在』していないのである。まるで消しゴムか何かで消されたように、足首の付け根から『足』そのものが無いのだ。

「ヤレヤレ、君がいけないんだよ?」

「一体、何ヤッたのよ、アンタ!?」

「ナニ、簡単なことさ……。」

 そう言って、男は一枚の紙を取り出した。そして、ペンを取り出すと、何かを書き加える。すると、足の付け根から再び足が生えてきた。この不思議な現象に美神は驚くしかなかった。

「………?」

「僕はね、漫画を書く事が出来るんだ。」

「それが何だって言うのよ……、」

「まぁ、最後まで聞いてくれないか?今、ココに君に対して、裏返している原稿が一つある。これに何が書いてあるか?……表にしてみようか。ホラ、今の君だよ……」

 表になった原稿。確かにコマ割りされた漫画の中に自分がいる。その中の場面は足が消えるところから今までの一部始終。そして椅子に座る男は雄弁に語り出す。

「君の足が『なくなった』のは、僕がこの原稿の君の足にホワイト修正をかけたからだ。つまりはこの原稿がある限り、僕は君を自由に操ることが出来る。このようにね……。」

 男は再び何か原稿に手を加え始める。すると、瞬く間に美神はいつものボディコン姿から裸体にされれていた。美神はそれに気付くと急いで、自分の体を手で覆い隠す。

「な……!?」

「ハハハ、なかなかセクシーじゃないか。でも、このままじゃかわいそうだから、服を着せてあげるとするか……、」

 男はまた、原稿の中の絵をいじくり出す。そしてその度に美神の服は変わっていく。水着、チャイナドレス、OLファッション、レースクイーン、着物、ウェディング・ドレス、普段着、パンダの着ぐるみ……、着せ替え人形にように衣装が変えられる。美神は動こうとはするものの、彼の持つ原稿のせいか、金縛りにかかったみたいに思うように動くことが出来ない。

「……チョット!!ヒトの体で遊ばないでくれない?」

「っと、お遊びが過ぎたか……。」

 男は原稿の中の美神の服装を元に戻した。と、同時に彼の目の前にいた美神の服装が元に戻る。

「分かってもらえたかな?」

「えぇ、充分にね。でも、アンタの能力について御託なんかどうでもいいのよ!!さっさと、ココを出る方法を教えなさい!?私はここから、一刻も早く出たいのよ!!」

「やれやれ……、まだ解ってもらえないのかな?」

「………さっきから聞いてたんだけど、アンタの口調、気に食わないわねぇ!!」

 性懲りもなく、美神は再び男に殴りかかろうとする。男は椅子に座ったまま、逃げようとも避けようともしない。神通棍を彼の頭に振り下ろした瞬間だった。それは彼の頭をすり抜けると、そのまま体をすり抜けて、地面はカチンッと響きを立てた。美神は何度も繰り返したが、結果は同じだった。

「言ったろう?攻撃は無駄だって。君はこの原稿に書かれているキャラクターだ。僕はそのキャラクターを書く人物。もう解るだろう。君は紙に書かれた二次元の人間だ。僕がいるのは三次元。つまり次元が違う。だから、いくら二次元にいる君が三次元の僕を攻撃をしても当たらないわけ。」

「とは言っても、神通棍が僕の体をすり抜けるのは気分が良くない。お仕置きとまではいかないけど、仕返しをしてあげようか……。」

 そう言って、男は机に向かって、一心不乱に原稿を書き始める。すると、まわりで地鳴りが始まると、上から岩盤が網の目のように崩れ落ちてくる。

「うわぁ!?」

 しかし、岩盤は美神の頭の上で止まると、たちどころに消えていく。その代わりに目の前におキヌちゃんが現れた。

「美神さん……。」

「おキヌちゃん?」

 美神は突然現れたおキヌちゃんに近付く。が、近付いた途端、おキヌちゃんは巨人のように大きくなったと思うと、今度はおキヌちゃんの顔だけが現れると、それが増殖してゆき、美神を呼ぶ。

「美神さん美神さんみかみさんみかみサンミカミさんミカミサン美カミさんミ神さんみカミサンみカミさん美かみサンみ神サンミかみサンmiかmiサンみkaみさん美kaみさんmikamisan……」

「なぁ!?」

 そのおキヌちゃんの顔の集団が消えると、今度は自分の体が鉛筆で書かれた線画のようになってしまった。それは、色が無くなり、自分の髪も服も皮膚の色も全て同じ無色で統一された状態である。そして、今度は、その状態のまま、自分が足元から消されて行く。足、太腿、腹、腕、首……と、徐々に上に這い登るかのように。

「あぁあぁぁぁああぁぁ!?」

 もう、頭しかなくなった時、美神は悲鳴を上げるしかなかった。男はその悲鳴を聞くと我に気付き、

「とと、やり過ぎた。」

 というと、ペンを滑らせて、美神の全身を書き上げると、美神も元に戻る。彼女は膝をつき、脂汗をダラダラと垂らして、息を切らせている。

「ハァハァ………!!」

「ゴメンごめん。ほんの仕返しのつもりがやり過ぎちゃった♪大丈夫かい?」

「………よぉく、解ったわ。アンタに抵抗しても、無駄のようね?」

「あ、やっと解ってくれた♪じゃ、これはほんのお詫びのしるし♪」

 すると、水を乗せたテーブルが現れる。美神はグイッと水を飲み干すと、口を腕で拭う。

「……で、アンタの目的は一体ナンなの?」

「よくぞ、聞いてくれたね♪僕は決して君と闘うために来たんじゃない。もちろん君もある目的のためにココに導かれたのだから、それをしなければいけない義務がある。」

「義務?なんの義務よ?」

「それは………、今に分かるさ♪」

 そう言うと、男は机に向かい、猛スピードで原稿を描き始めた。それは人間業ではないくらいに速く、限界を超えたようなスピードだった。そして、彼が描き続けている最中に描いたものが具現化されていく……。

「え?な、なに、コレ?」

 開口一番、美神が言い出した言葉がコレだった。なぜなら、彼、『描く男』ドロウが描いたものとは……、

























































































































































 幾千万もの横島だった。


 

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