ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−45b


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 5/14)




『八房』



他者の血を、霊力を吸って力と成す、一振りで八度斬りつける妖刀。
だが、かつての戦いで八房は折れ、二度と同じ過ちを犯さぬことを誓いながら、人狼の里でひっそりと管理・封印されていた。
長老がソレを持ち出してきたことに、シロだけではなく、人狼全てが動揺を示す。
災いを齎すモノ。
それが八房に対する皆の評価。
その力の絶大さは認めるものの、誰もが握ろうとしない妖刀。
それを長老が握っていた。
折れた八房は、刀身部分と柄部分に分かれ、長老が持っているのは刀身部分。
当然、握る部分も刃であり、握ったその手からは血が滴り落ちている。

「安心せい。
 他の誰でもない、ワシ自身の血を吸っておる。
 これならば、災いを齎すこともあるまいて。」

一族の動揺を見抜いて、長老は静かに諭す。
その瞳には決意の色が見て取れる。
長老が何を意図してこんなことをしているにせよ、止めることは叶わない。
一族の者は固唾を飲んで見守る意外にないことを悟った。

「シロよ。
 天狼フェンリルの力、よくぞそこまで制御した。
 正直、度肝を抜かれたわい。
 じゃが、お主の父の技を持ってしても四太刀。八房は8太刀。
 どうやって破る?」

「………………………」

「ではヒントをやろう。
 お主の父はその気になれば四太刀以上振るうことも可能じゃった。
 じゃが、それでも彼は四太刀に制限した。
 何故じゃと思う?」

一度使った感触から、その技の特性を検討する。
タマモや美神がそう知っているように、シロは馬鹿なことはするが、決して馬鹿ではない。
殊、戦闘センスにおいては卓越していると言っても良い。
それは人狼という種族に許された特権。

「威力………でござるな?」

「そうじゃ。
 相手に致命傷を与えるに足る最低限の威力をキープしようとすると、四太刀以上に霊波刀を分裂させることは出来なんだ。
 しかし、お主はどうじゃ?
 霊力は大して代わりは無かろうが、フェンリルが居る。
 つまりはそういうことじゃ。」

結局、霊波刀の分裂攻撃なのだ。
基本的に両手の二本以上に霊波刀を出すことは、不可能ではないが、イメージがそれを邪魔する。
刀は手に握るものである。
そのイメージがある以上、霊波刀を具現化する枷となっているのだ。
他方で、何故に四太刀に分裂させることが出来たのか。
それはつまりは、鎌鼬の現象を引き起こしたと思って良い。
一瞬だけ具現化させて斬るイメージ。
それが技の正体であった。
長老の言っていることは理解出来る。
そしてそれをするだけの力もある。


――――だが、フェンリルを制御しつつ、霊波刀の分裂を制御出来るのか?



シロが考え込む姿を長老はただ眺めている。

『そうじゃ、それで良い。
 猪突で倒せるのは格下のみ。
 格上と戦って勝つには、工夫が、思考が必要なのじゃ。』

八房を握る手がズキズキと痛む。老体から霊力が吸われ続けているのが分かる。
だが、それは喜びであった。
一匹の狼が生まれようとする場を目撃する喜び。
犬塚が死んだ際、長老の地位を譲るに足る人物が失われたと思った。
だが、その跡を継ぐように娘が力を付けている。
『この娘が帰って来たら、隠居じゃな。』


彼のそんな決意を知らず。

目の前の狼は迷いを断ち切るように、霊波刀に力を込め始める。

どんな結論を出したにせよ、勝負は一瞬。

長老はシロに向かって、無言で八房を振るった。

















美神の運転するコブラの助手席。
シロは神妙な顔をして、八房を見つめていた。

「アンタ、大丈夫?」

怪我の具合を美神は心配そうに尋ねる。

「大丈夫でござるよ♪」

その表情とは裏腹に、シロの返答は明るい。

「肉を切らせて骨を絶つか。
 あんな戦法、あまりやるもんじゃないわよ?
 相討ちどころか、肉ごと骨をやられちゃ目も当てられないわ。」

「仕方なかったでござるよ。
 拙者とて8本も制御する自信は無かったでござる。
 だから、具現化出来そうな6本のうち、5本で迎撃して残り1本で攻撃したのでござる。
 3太刀喰らうのは覚悟の上でござるよ。」

「威力に物を言わせたってわけね。」

「父上の最低限の威力って話を聞いて、ピンっと来たでござるよ♪」

「じゃあ、何で時化た顔してんのよ?
 今更怖気づいたとか?」

「違うでござるよ。
 この八房を託された意味。
 それを考えていたのでござるよ。」









決着は付いた。
シロの技はたったの一撃で長老を沈めてしまった。
対するシロも、身体に何箇所か傷を負っている。負っているが、まだ戦える。
長老の方は八房の影響もあって、立ち上がるのも億劫そうな風情を見せている。

敗れた長老は、無言で血塗れた八房をシロに差し出す。

『???』

『持っていけ。
 お主ならば、八房の魔性に囚われることもあるまい。』

『しかし………。』

『父を切った刀が憎いか?』

『………正直、憎いでござる!!!
 犬飼殿も、八房さえ持たねば立派な御仁でござった!!!
 なのに、なのにこの刀が!!!!』

『気持ちは分かる。
 じゃが、お主が戦う相手は魔神なのじゃろう?
 善くも悪くも、力は持ち主を選ぶ。
 妖刀と呼ばれて久しい八房じゃが、言い伝えによれば、元は御神刀として祭られていたと聞く。
 お主の手で浄化してやれ。』

そう告げて、長老は力尽きた。
慌てて抱きかかえると、どうやら眠っているらしかった。
その世話を任せて、シロは八房をじっと見つめていた………。









「要するに、アンタが使えば安心ってことでしょ?
 それに使う度に、手は怪我をする、己の霊力を消費する。
 それが力の意味を教えてくれる。」

「拙者は出来るのでござろうか?」

「出来るじゃないの。
 やるしかないのよ!!」

「………そうでござるな。
 拙者、頑張るでござるよ!!!
 まずは先生を助けるでござる!!!」


シロの意気込みや良し。
その底抜けな元気さが、自分のささくれ立った心を癒してくれる。
絶望の中の希望。
陳腐だけれど、そんな言葉が浮かんでくる。
これを足掛けに、これからどんどん反撃の狼煙を上げていきたいものだ。
美神は内心で決意する。

だが、彼女は知らなかった。
一体の魔族が彼女を追っていたことを。
その魔族が、彼女に新たな混乱を齎そうとしていることなど、今の彼女は知らなかったのである。





「美神令子発見。
 ま、事務所に着いてからで良いか。」





役者と舞台が揃う時は近い。







続劇

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