ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−45a


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 5/14)








「「はぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!」」







広場を越えて、里全体に広がるような気迫を込めた掛け声。
ふたりの剣士が、それぞれに構えた計4本の霊波刀に力を込める。
先に技が完成したのは、男の方。少女は慣れぬ力の制御法に戸惑っていた。
だが、男は技を振るうことなく、少女の技が完成するのを待つ。
男は敗れるべくして、この仕合に臨んでいた。
少女は敬愛していた師の忘れ形見。
師が生涯を通して編み出した、たった一つの必殺技。
名も無きその技を少女に伝えるため。
彼は敢えて待つ。




『次は主が出ろ。』

『長老殿………?』

『今は亡き犬塚の忘れ形見。あの技の継承者としては申し分あるまい?
 血、実力、そして何より己の意思を貫き通さんとする真っ直ぐさ。
 例えこの100人抜きの結果がどうなろうとも、アレは里を出る。
 ならば………死なぬようにしてやる以外はあるまい。』

『そのための八房ですか?』

『この老体には堪えるよ。
 じゃが、あたら若い者が戦場に出ようとしている。
 それを止められないのならば、ワシの出来ることなどこれくらいじゃよ。』

『………仰せのままに。』




先だって長老殿と交わした約束は果たせそうだ。
相対する少女――――犬塚シロは、どうやらモノにしつつある。
慣れれば貯めの時間も短縮される。
今は使えることが何よりも大事。
考える間に、シロの貯めが終了する。

互いの間に、触れるだけで切れそうな緊迫感を伴った空気が満ちる。

男はゆっくりと霊波刀を振りかぶり、それに応じるように、シロも霊波刀を振りかぶる。

『威力比べで負けはしまい』
男はそう思っていた。
だが犬塚の姓を持つ少女は、父がそうであったように、娘もまた独自の技を持っていた。
失われた相方がいなければ最大の威力は出せない。
だが、彼女一人でも制御出来る程度に極々僅か、レヴァーティンの力―――天狼フェンリル―――の源をほんの少しだけ解放する。
初めて自転車を乗る際、補助輪を付けた記憶はないだろうか。
彼女にとって、タマモの存在は補助輪であった。
まだ長距離は乗りこなせない。しかしほんの少しの時間なら、補助輪無しでも乗ることが出来る。
それが今のシロであった。
この事実こそが、シロに百人抜きを決意させた自信の源であった。
そして父が作ったという技にその力を乗せて。

今、娘が新たな技へと昇華する!!!









轟!!!!!!!!!!!!










男の放った技と、シロの放った技。

見かけは同じでも、全く異質の技と化したそれらは、威力も全く別モノと化していた。

ぶつかり合った二つの技。

せめぎ合ったのはほんの一瞬。

シロの放った技は、相手の技を粉砕し、放った相手ごと吹き飛ばした。












「ん?」

ユーチャリス城内。
かつて、身を寄せていた平安貴族の屋敷など比べ物にならない広さの中、タマモは横島の盟約を果たさんとリグレットを探していた。
リグレットは涙ぐましいほどに働き者であった。
横島の指示には全力で従い、主のためならばと下働きのメイドのような仕事もこなす。
そんな彼女は一ヶ所に留まることを知らず、行き違いの連続。
溜息を吐きながら、リグレットの足跡を追っていたその時であった。

「馬鹿イヌ………フェンリルに触れてるわね。」

タマモは口に出すほど、シロを馬鹿にはしていない。
単純な奴だが、決して馬鹿ではない。
そして一人でも、ある程度までフェンリルの力を引き出せるように指南したのも彼女であった。
そのためだろうか。
シロ以上にフェンリルの扱いに長けるようになってしまった彼女もまた、どこかでフェンリルの力の影響を受けつつあった。
ただの鉄に磁石をくっ付けておけば、その鉄が磁力を帯びるように、彼女もフェンリルの存在を感じるようになっていた。

「除霊の仕事ってわけもないか………。
 特訓?
 それとも何か事が起きた?
 ま、アイツが簡単にくたばるわけもないか。」

美神がそうであるように、彼女も親友の実力には信頼を置いていた。









広場でシロの百人抜きを見ていた者達は唖然とする。

第一に、一度見ただけの技をコピーしてしまったこと。
第二に、コピーした技が対戦相手の男(里でも有数の使い手)を一撃で倒してしまったこと。
第三に、シロが天狼フェンリルの力を発揮したこと。

人狼ならば誰もが持つ天狼フェンリルへのアクセス権。
だが、少しでもそれを使いこなす者はおらず、それに触れたのは犬飼のみ。
その犬飼もまた、フェンリルに意識を乗っ取られてしまった。
繰り返すが、犬飼もまた一角の剣士であった。
少なくとも、里の剣士の中では1〜2位を争うほどの実力の持ち主。
その彼をしても、フェンリルの闘争本能に逆らえなかった事実。

40人を破ったことで、実力はあろう。
だが、里の男達で剣を極めようとする者は多くない。
それ故、実力の昇順で40人を抜いたに過ぎない。
彼らは自分達がシロを見誤っていたことに、ようやく気付いていた。


「だ、大丈夫でござるか?!!」

シロは相手の男に近寄ろうとする。
しかし、男は満身創痍の身でありながら、それを手で制す。

「………見事だった。
 だが、お前の相手は俺だけではあるまい?」

シロの後、広場の中央に向けられる。
釣られて視線を動かした彼女の目に映ったのは、折れた八房を持った長老。
全盛期の強さは無いけれど。
それを補う技の巧みさ、老練さ。

長老はシロへ向けて言い放った。

「それだけ戦えれば十分じゃろう。
 ワシで最後じゃ。
 八房とワシを破って見せよ。
 さすれば認めてやろう。」






45bへ続きます。

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