ひのめ奮闘記外伝T(最終話(前編))
投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 5/14)
ブアアアアアアアアアアアっ!!!!!!!!!!!!
巨大蜘蛛の前足が一気に振り下ろされた。
その鋭い切っ先は人の頭蓋など簡単に砕き、脳漿を貫くだろう。
それでも・・・
───私はどかないっ!!───
目をつむり自分の数秒後の無残な姿を想像しつつもひのめは動かなかった。
親友を守る。
その第一目的を果たすために・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ザシュウウウウウウウウウウウウ────────────っ!!!!!!!!!!!
ビチャビチャっ!!
何かが勢いよく切断された音、血が激しく地面に叩きつけられる臭いをひのめの聴覚、嗅覚が捉えた。
しかし、それに伴う痛みを触覚から伝わってこない。
もしかして、痛みも感じず死んだのだろうか・・・薄っすらと目を開け視覚を働かせる。
そしてひのめが見た光景・・・それは───
「私の妹に何してんよ!!コラァぁぁぁぁぁ─────っっっっ!!!!!!」
と、神通鞭で巨大蜘蛛を5m程吹っ飛ばす姉・横島令子の姿だった。
「へ?お、お姉ちゃん?」
いきなりの姉の登場に目をパチクリさせる。
令子の足元には巨大蜘蛛の前足が血と体液を噴出しながらピクピクと痙攣しながら落ちていた。
ひのめは未だに状況を把握出来ずにいると・・・・
「危なかったわね、ひのめ」
「あ・・・ま、ママ!?」
ひのめの背後からヒョッコリと現れたのは母・美神美智恵だった。
美智恵は厚手のコートをひのめに肩にそっと掛けると震えながら起き上がる巨大蜘蛛に、
スタスタと歩みよった。
「まさか、結界と幻術で人を取り込んで殺していたなんてね・・・
しかも令子の探索から逃れるなんてかなりの物の怪だと思うけど・・・・」
『グルルルルルル・・・・コロシテヤルゾ・・・オンナァ・・・・』
怒気を込めて叫ぶ巨大蜘蛛・・・しかし次の瞬間。
ドンっ!ドンっ!!
『グギャアァァァァァ!!!』
巨大蜘蛛の絶叫と同時に新たにその足が二本吹っ飛んだ。
「ふぅ〜・・・逃げられたらまずいからね」
美智恵は笑顔のまま銃から流れる硝煙をふっと息で消しすと、
ニコっと笑みを浮かべながらさらに巨大蜘蛛に近づいていく。
『ぐ、グググぅぅ』
巨大蜘蛛は目元が笑っていない美智恵の歩みにジリジリと後退していく。
こうなったらこの場は退却・・・と思ったが・・・
『グ、グオオォォカ、カラダガアアア!!』
動かない四肢の異常に表情を歪める巨大蜘蛛(人間には微妙にしか分からないが)。
それを嘲笑うように令子が答えた。
「どう?あんたと同種の呪縛結界の味は?
こうやってあんたは動けない人達を食ってきたのよね」
スパーンと神通鞭を地に叩きつける令子。
その表情と眼はもはや『殺る』としか表現していなかった。
『た、タスケテクレェ!!!』
令子の殺気についに命乞いをする蜘蛛変化。
足を3本もがれ、背にはひのめから受けた傷もある・・・もはや満身創痍、
しかも令子と美智恵の最強母子に勝てるだろうか、いいや勝てない(反語)
そんな状況に助命する巨大蜘蛛。
「じゃ、結界解いてあげる♪」
令子がパチンと指を鳴らすと蜘蛛にかかっていた結界が解かれ自由になる。
ひのめはそんな姉の行動に驚きの表情を浮べる。
常に除霊を冷徹なまでに完遂する令子にとってこんな事をするなんて信じられないからだ。
案の定・・・
『バカガっ!!!』
巨大蜘蛛はその巨体と思えない俊敏な動きで飛び上がった。
狙いは、令子でも・・・美智恵でもない・・・その狙いは・・・
もはや動けないひのめだった。
『コノコムスメはクラッテヤルっ!!!!」
不意な行動、意外な標的。
このままひのめの頭をもぎり、地に潜れば逃げれる。
ニヤっと巨大蜘蛛が口元を歪めた。
が・・・
『ギャヒイィィィっ!!!!!』
そんな思考を切断するように体中がしびれるような電撃が走った。
空中で神通鞭がグルグルと巻きつき巨大蜘蛛の自由を奪っていく。
「バカねぇ・・・呪縛結界は解いてあげたけど『助ける』なんて言ってないじゃない♪」
『ギャ、ギャアアア!!も、モウシナイ!』
「あんたが外道で心が痛まずに済むわ・・・。・・・・・ママ!」
ブオオオオ!!!
令子の掛け声と共に神通鞭に引っ張られその巨体が地面へと落下していく。
そして、その落下地点には・・・
「あなたが食い殺した人達そして、私の娘を傷つけた罪を償いなさい・・・・」
その言葉の次に銃声と炸裂音が響き・・・
最後に巨大蜘蛛断末魔が2月の夜空を震わせるのだった───
「ほら、ひのめこのお札をおでこに貼っておきなさい。
少しは傷の治りが早くなるから」
心配そうな表情で護符を貼り付ける美智恵。
ひのめはそんな母の表情に静かに頷いた。
「あ!さっちゃん」
「大丈夫よ、この子はケガ無いみたいだし、あんたの言ってた媚薬も消えてるみたいだし」
「そっか・・・よかった」
姉の報告にほっと胸を撫で下ろすひのめ。
そして一段落ついたところで聞いてみた。
「何でママとお姉ちゃんがいるの?」
命の恩人に対しては失礼な問いかもしれないが、
ここは親子、姉妹ということで遠慮なく言ってみた。
「元々今の妖怪は私の除霊依頼対象だったのよ」
「え?」
つまり、先程の蜘蛛の変化退治は令子の依頼の一つだった。
それが結界と幻術により捜査が困難を極め多忙な夫の代わりに美智恵が手伝いをしていたのだ。
ひのめの活躍により巨大蜘蛛の結界が破れ、妖力を感知後すぐに駆けつけたというわけだった。
「そうなんだ・・・・」
ひのめは短くそれだけ言った。
助けてもらってよかった、感謝してる・・・確かにそれも嘘偽りのない本心だ。
「さっちゃん、私達助かったわよ」
まだ眠り続ける幸恵の身体をそっと抱き起こす。
親友を助け出すという目標も達成できた。
しかし・・・少しだけ心に浮かんだ感情、それは
(悔しい・・・・!)
それは悔しさの念。
親友を助けるのは自分の一人の力では出来なかった。
憧れる母と姉の実力・・・少しは近づけたかと思いきや、
今日の戦いを見る限りそれは縮まるどころか、広がったのではないかと思うくらいだった。
「・・・・強くなりたい・・・自分と大事な人達を守れるくらい・・・」
ひのめの小さな声は蜘蛛変化に殺された人達の魂を昇天させている母と姉には届かなかった。
ポタ・・・ポタ・・・っとひのめの両瞼(まぶた)から涙がこぼれた。
自分の非力さ、親友を危険に合わせておきながら自分の尻拭いも出来ない悔しさがひのめの顔を悲しみで歪ました。
「・・・・強くなろうよ・・・・」
「え?」
ひのめは涙で歪む視界で声の主を見つめた。
声の主・幸恵は薄目を開けそっとひのめの頬をに流れる雫を指で拭った。
「さっちゃん、いつから」
「うん、ついさっきね・・・」
「そ、そう・・・大丈夫?」
ひのめは幸恵を気遣いつつも危険に合わせたという負い目から目を合わせることが出来ない。
そんなひのめに幸恵は少しだけ微笑んで言った。
「二人一緒に強くなろ?
・・・・弱かった私だってここまで成長出来たんだからひーちゃんだって出来るよ」
「さっちゃん・・・・・」
「師範がいつも言ってるよね『悔しくて泣ける人は強くなる』って・・・だから・・・」
「・・・・・・うん」
幸恵の言葉にひのめは笑顔で応えた。
そうだ、私の限界はまだここじゃない!と。
その後、連絡を受けた千穂(幸恵の母)が駆けつけ、娘の容態に一安心すると、
令子とちょっとした昔話に花を咲かせた。
そんな母と姉の姿を見て自分達も将来はあんな感じになるのだろうか思うひのめと千穂。
美智恵はそんな二人に「なれるわよ」と軽く頭を撫でるのだった。
星々が輝く2月の夜空の下・・・・5人の談笑がこだました。
最終話(後編)に続く
────────────────────────────────────────
ツッコミ・・・・もとい、コメントは後編へお願いしますm(__)m
今までの
コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa