ザ・グレート・展開予測ショー

セクシー・アドベンチャー


投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 5/13)

 その廊下は、異様な空気に包まれていた。

 その日、愛子は帰宅する友人たちを見送ったあと、職員室の片隅を借りて、今日の授業の復習と、明日の授業の予習をした。
 教師たちがすべて帰ってしまうと、宿直室でテレビを見て、11時すぎに自分の教室に帰った。
 
 いつものとおりである。別段、寂しいとはおもわない。明日になれば、また友人たちが登校してくるのだから。

 自分の机を背負って教室に向かっていた彼女は、その廊下で、ふと足をとめた。

 「だれ・・・・・・?」

 窓から月の光がさしこんでくる。今夜は月光がつよい。その分、闇も濃い。
 その闇の中に、何者かが立っていた。

 愛子は目を細め、闇の向こうを見透かそうとした。

 「はら、へった・・・・・・」
 「えっ・・・?」
 
 そいつは足を引きずるようにして、月の光のもとに姿をさらした。

 (メガネくん・・・・・・!?)

 愛子は声をかけようとして、しかし思いとどまった。
 ある異常に気付いたからである。

 彼の体が、痙攣を起こしはじめた。体のゆれがはげしくなり、彼はついにひざをおった。

 「お、オ、オ・・・・・・!」

 あごを上に向け、のど元をかきむしるような動作をしはじめたとおもったとたん、愛子は自分のものとは思えないような悲鳴をあげた。

 彼の口から泡があふれたとおもった次の瞬間、黒がかった紫の、ドロドロしたものが、彼の口を破るような勢いで飛び出してきたのである。

 愛子とて妖怪のはしくれだから、大抵の異常現象が起きても、そうそう驚くことはない。
 しかし、今の彼女を縛っているものは、単なる恐怖ではない。
 
 予感であった。自分の常識を遥かに超える異形のものに対面したすぐ先の自分の姿を、彼女ははっきりと見た。見てしまった。

 (殺される・・・・・・!)

 ドロドロしたものは、メガネの体を置き捨てると、自分の体を垂直に持ち上げた。徐々に、人の形に近付いていく。醜悪な口を開いたとおもった瞬間、愛子の方に近付いていった。

 (逃げなきゃ・・・逃げなきゃ!)

 愛子は、必死に自分に言い聞かせ、後ろも見ずに駆け出した。

 しかし、どこまで逃げても、敵の気配は消えなかった。

 (しまった・・・行き止まり・・・)

 左右を見回しても、もはや逃げ道はなかった。
 『正体不明の生命体』は、奇妙に体をゆすりつつ、愛子に近寄っていく・・・。

 (だれか・・・だれか助けて・・・!!)

 突然、窓ガラスを突き破る派手な音が廊下に響きわたった。愛子は、自分の前に飛び込んできた黒い影を見上げ、息を呑んだ。

 「ふう、なんとか間に合ったな・・・」
 「よ、横島くん・・・!!」

 横島は、愛子を背中にかばうようにして、敵の前に立ちはだかった。

 「昼間っからなにかおかしいとおもっていたら、間違いなかったな」

 横島はニヤリと笑うと、“栄光の手”を出現させた。

 「ナンダ、オマエ・・・オデノジャマスンジャネーヨ・・・」
 「しゃべれるのか。こりゃ意外だな。・・・いちおう言っておくが、このまま立ち去ってくれれば、命だけは助けてやるぜ。どうだ?」
 「フザケンナ・・・オマエコソキエロ・・・!」
 「ふん。交渉不成立か」

 




 次々に繰り出される攻撃を、横島は軽やかなステップでかわしていく。かわしながら、横島は口の中でなにかブツブツとつぶやいている。しかし・・・。

 「横島くん!そっちはダメよ!」

 横島は窓べりに追い詰められてしまった。『正体不明の生命体』は、体をゆすりつつ、勝ち誇ったような声をもらした。

 「バカガ・・・コレデオシマイダ・・・」
 「それはどうかな?」
 
 横島は胸の前で印を結んだ。『生命体』の周囲の床が光を放ち始めた。

 「ここは人外の者の棲む場所にあらず!偉大なる戒律の主よ、迷いし者を汝の回廊に導き給え!!」

 強さを増した光が『生命体』を包み込む。断末魔の声も残さず、ヤツは虚空に消え去った。




 「ケガは、ないか?」
 「う、うん。大丈夫・・・」

 愛子は、なんとか返事をかえしたが、緊張の糸が切れたのだろう。
 尻餅をつくように、床にすわりこんでしまった。

 「おいおい、しっかりしろよ。もう大丈夫なんだから」
 「う、うん。ありがとう・・・」
 「・・・その様子じゃ、この場に残していくわけにもいかないかな」
 
 横島はつぶやくと、愛子の目をのぞきこむようにして、

 「だったら、今夜は俺の部屋にこないか?」
 「う、うん。・・・・・・・・・え!?」

 愛子は、驚いて横島の顔を見た。
 横島の目が、いたずらっぽく笑っている。

 (横島くんの部屋に、横島くんの部屋に、横島くんの部屋に、横島くんの部屋
に、・・・・・・)

 



























 その教室は、異様な空気に包まれていた。

 「うひ、うひへへへへへへへへへへへへへ・・・・・・・・・(じゅるり)」

 めずらしく愛子が授業中に居眠りしているとおもったら、なにやら夢をみているらしい。
 となりに座っている横島は起こしてやろうかとおもうのだが、あまりの不気味さに手が出せない。

 授業をしていた教師は、頬をヒクつかせながら愛子に近寄っていった。

 「ダメだってばぁ・・・明日、どんな顔であなたに会えばいいのか・・・(じゅるっ)」

 愛子は顔を真っ赤にしながら、足のつま先で床にのの字をかいている。

 「・・・起きんかぁ!!」
 「・・・で、でも、これも青春よね・・・ふぁ?」

 怒声をあびせられ、ようやく愛子は起き上がった。醒めきっていない顔つきで、ゆらゆらと左右を見回し、・・・最後に横島の顔を見た。

 「・・・っきゃあぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

 彼女は絶叫するなり、自分の机を窓の外に投げつけ、続いて自ら上段足刀蹴りの姿勢で窓から飛び出していった。

 男子生徒A「なんなんだ、いったい・・・」
 女子生徒A「ここ、三階なんだけど・・・」
 男子生徒B「大丈夫なのか、(窓の下を見て)あ、いないや。机も」
 女子生徒B「ビックリしたよね・・・」
 男子生徒C「やっぱ、妖怪なんだな・・・」
 女子生徒C「愛子ちゃん、パンツみえてたわよ・・・」

 白のレース付きだったな、と横島は心の中でつぶやいた。
 ふと、窓の外の、軽薄なくらいに青い空をみた。


 これから、暑くなるなあ。

 

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