ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記外伝T(その6)


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 5/10)


ダッ!ギュッ!

ひのめは右拳に力が込め一足飛びで男の間合いに入った。
親友を卑猥な目に遭わせるこの卑劣漢に一撃を入れるために!
牽制の左などいらない、この距離なら自分の拳のスピードで相手を粉砕できる・・・・はずだった。だが・・・

「なっ」

ひのめの拳は確かに男の左頬を捉えた。しかし、男はまるで効いてないという感じで口元を歪める。
そして、ひのめの右腕を払い乱暴に腹部へ蹴りを入れた。

「ごはっ!」

腹部に強烈な痛みを感じながら地面を転がるひのめ。
今の攻撃には・・・

「よ、妖力が込めてある・・・」
『その通り』

男はニヤニヤと笑みを浮かべ、いまだ起き上がれないひのめに近づいていく。

『霊力、妖力は上手く使えば身体能力を向上させる・・・・
 今の俺の蹴りみてぇになぁ』

男は悔しそうに睨むひのめの髪を乱暴に掴んで持ち上げる。

『俺は妖力で攻撃力を上げた・・・だが、おめぇはもう霊力で防御力を上げることも出来ねぇだろ?』

確かに男の言うとおりだった。
ひのめはここまでの戦いを使い果たし今では一般人と同レベル・・・いやそれ以下だった。
元々少ない霊力を上手く使ったものの、酷使した霊的中枢はガソリンを失い回転することはない。
それはこの戦況を覆すことは不可能だと証明するものだった。

「うるさい!」
『うお!』

ベラベラと演説を続ける男の不意をつき蟹バサミ(柔道技)で男を倒すと、
素早くその左腕をつかみ、寝技・・・・いや間接技・腕ひしぎ十字固めを決める。
霊力はなくとも体力はまだある。
男の左腕は決して曲がらない方向へ傾き、ギシっと骨がなった。
しかし・・・

『おいおい・・・全然効かないぞ』

男はニヤニヤとひのめを嘲笑う。

『しかし胸小さいなぁ・・・お前・・・幸恵とは大違いだ』

プチ・・・

その一言がひのめの顔をカっと赤くさせる。
そして折るつもりで両腕と背筋に思いっきり力を入れるが・・・

ブチブチ・・・・ドチャ・・・

「!!!?」

折れるどころか男の左腕は腕の間接から下が千切れていく。
さすがのひのめもそんな事態に目を丸くして跳び離れた。
折れた箇所から漏れた腐った肉、血、蛆虫(うじむし)を吐きそうになりながら手で払うひのめ。
男はそんなひのめに『自分で千切っといてひどいなぁ』という視線を向けるのだった。

『元々痛覚なんて無いんだから・・・・霊力以外じゃ俺は倒せないぜ』
「このっ!」

ひのめが構えを取った瞬間。

「きゃっ!」

あの結界の重みが再び襲ってくる。
しかも先程とは比較にならない重さに一瞬で地べたに倒れるひのめ。

『今までの5倍の出力だからな・・・動けねぇだろ?
 ・・・まあ霊力は尽きてるみてぇだし使わなくても抵抗はできねぇと思うがな・・・
 ま・・・保険みてぇなもんだ。・・・───さあて」

ゴスっ!

「グフっ!」

男のつま先が無抵抗なひのめのわき腹に突き刺さる。
ひのめは苦しそうに息を吐くが、結界の中ではその作業すら難しくなっている。

『人様の腕ぇ千切りやがってこのクソガキがぁ!てめぇなんぞ吸血糸なんて使わねえっ!
 死にたくなるまで痛めつけてやらぁ!!』

男は動けないひのめに容赦することなく背、わき腹、足、腕・・・
おそらく見える部分全てに蹴りを入れていく。

「がはっ!・・・・ごほっ!うえ゛っ!」

服に隠れて見えないがひのめの肌は何箇所も内出血で赤紫色に腫れ、
おそらくわき腹にもひびが生えたているのだろう。
もはや痛みを通り越し、抵抗する気すら失せてきた。

『ふぅ・・・いけねぇ、いけねぇ・・・このボディは生前は凶暴な奴でな、 
 この身体使うとどうしても気が荒ちまう・・・・と、もう聞こえてないか』

全く動かなくなったひのめ『ククク』と笑いを上げる男。
もういいだろうと結界を解く・・・しかし、それがいけなかった。

(・・・・生前・・・?そっか・・・今まで出てきたのは全部ゾンビだもんね・・・
 ってことはどこかに本体が・・・・でも結界の外からだったら手の打ちようが・・・
 違う・・・こんな強力なゾンビは結界内でしか操れない)

薄れゆく意識の中で対策を必死に練るひのめ。
これまでの戦いで分かったこと、
敵の本体はこの結界内にいる、敵手は死体を操る、敵はゾンビの中にはいない、敵はどこかで妖力を供給している。

(問題はその敵の場所とそいつを引きづりだすための策)

すでに霊力も、道具も使い果たした。
これ以上策はない・・・と、思ったが・・・

『ん、まだ生きてんのか?』

「あんたの本体・・・・どこにあるのかしら」

『!!?』

「ビンゴ・・・かな」

『このアマァ!!』

バシィ!!

男に頬を叩かれ地面に転がるひのめ。
しかし、不思議な笑みを浮かべゆっくり起き上がった。

「ありがと・・・おかげで本体のありかが分かったわ」

『なっ!!?』

「あんたのそのボディ・・・生前はよっぽど単純だったのね・・
 今も無意識に目線が動いたの気付かなかったの?」

『この!』

男は結界を発動させようとするが・・・

「遅い!!」

一歩ひのめの行動のほうが早かった。
ひのめはズボンに入っていた最後の切り札・・・・文珠を取り出した。

「あんたの本体はここだぁぁぁ───っ!!!!」

『やめろおおおおおおおぉぉぉぉ───────────────っ!!!』

男の絶叫と共に文珠が発動する。その字は

『穿』

ひのめはその文珠を地面に勢いよく叩きつけた。

『うごごがが・・・・ががが・・・ああああああっ!!!!』

奇妙なうめき声を上げまるでドロ人形のように崩れていく男。
それだけではない、幸恵に取り付いていた吸血糸、石壁が崩る。
ひのめは痛む体を動かし、開放された親友を抱きとめた。

「・・・さっちゃん」

親友の心音を確認しホっと息をつくひのめ。
その間にも周囲に異変は続く。
震度3程の地響きの中、藁葺き屋根の家・・・・違う・・・周囲の空間にヒビが入っていく。
細かくヒビが入った空間はやがてもう限界とばかりに、


パリイイイイィィィ─────────────っん!!!!!!

ついにガラスのように割れ、その破片を飛ばした。





間。



「はぁはぁ・・・・助かったの?」

ガンガンと痛みが響く身体で薄っすらと目を開けるひのめ。
まず一番始めに視界に入ったのは穏やかな幸恵の寝顔。
そして、安否を確認すると周囲を見渡す。

「ここは・・・」

ひのめが見たもの・・・それは鬱蒼と茂る木々でも竹やぶでもない、ただの荒れた広場だった。
その町の光がすぐに目の前に映り、郊外とはいえ大都市東京を彷彿とさせる。
それだけではない、民家から家族の楽しい談笑が聞こえ冷たい2月の風が頬を撫で、これが現実だと知らせた。

「夢だったのかな・・・」

先程とかけはなれた環境に思わず戸惑うひのめ、
しかし自分の傷と隣にいる幸恵の存在があれも現実だと言っていた。
ひのめは連絡を取るためポケットから携帯電話を取り出しす。
が、どうやら先の戦いで破損、折りたたみの携帯電話は真っ二つに折れていた。

「だぁ・・・この携帯買ったばかりなのにぃ・・・」

ひのめウルウルと涙を流すとそっと着ていた傍に落ちていた自分のコートを幸恵にかけた。
凍死する前に幸恵が目を覚まして誰か呼んで来てもらおう。それが疲れたひのめの頭が出した結論だった。

しかし・・・・

冷たい風が容赦なくひのめの体温を奪っていく、体力も低下している今凍死という可能性は十分ある。
かと言って気絶してる親友を置いていくことも、背負うことも出来ないひのめはただじっと耐えた。

(はぁ・・・寒い・・・・・・・・・もう疲れたよ・・・・・パト●ッシュ)

と、ちょっと混乱気味。ってことで・・・

「さっちゃん!起きて!このままじゃ私達凍死よ!
 こんなところで若い美空で死にたくないでしょ──────っ!!!!」

ペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシペシ!!!!!!

親友の頬に容赦なく往復ビンタを食らわすひのめ。
しかし幸恵は「うぅん」と寝息を漏らすだけで一向に起きようとはしなかった。

「ったく!相変わらず寝起きが悪い!そんなんだから乳ばっかりでかくなるのよ!!
 ・・・・・・・・・・・・・・ふぅ〜・・・・もう!じゃあ近くの家で連絡してくるから。
 その間に凍死しても知らないからね!!?」

「むにゃぁ」

ひのめの提案に寝息で返事を返す幸恵。
そんな親友にはぁ〜とタメ息しか出ないひのめだった。
ひのめはよっこらしょと重い腰を上げたそのとき・・・

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!

突如地面が揺れ、ひのめ達から2mほど離れた地面が大きく盛り上がった。

「なっ!?」

ひのめは自分の前に現れたものに目を丸くする。
それは─『蜘蛛』─と、言ってもそこから中にいる虫などという可愛いレベルではない。
その大きさは『象』ほどの巨躯を誇り、牙がガチガチと鳴る。
4つの目がギョロギョロと赤い光を放ち、その口から『しゅー、シュー』と息を吐いた。
その背は何か炎に焼かれたように溶けた10cmほどの穴が開いていた。

『コロシテヤル!コロシテヤル!!』

巨大蜘蛛は明らかに敵意と殺意をひのめに向けている。
ひのめはその殺気にゴクっと喉を鳴らした。

「こ、これがあんたの正体・・・」

実はひのめもあのゾンビ達の本体の位置は分かりつつも、正体を見破っていたわけではなかった。
ただ漠然と感じる妖気の供給元である地面深くを文珠『穿』で貫いただけ。
しかし、それでも手ごたえを感じ倒したものだと思っていた。

『オマエカラ・・・・・・・オマエカラコロシテヤル』

「くっ!」

ひのめはザっと幸恵を庇うように構えた。
しかし・・・痛みで腕は上がらない・・・、霊力もない、道具も切り札も既に使い果たした。
こうして立っているのも奇跡に近かった。
だが・・・

「やってみなさいよ・・・でも。
 さっちゃんだけには指一本触れさせないっ!!!!!」

ギンっと発せられるひのめの眼光に思わず動きを止める巨大蜘蛛。
しかし、相手に余力がないと分かると『ガーーっ』とその前足を振り上げた。

『ツヨガリヲォォォォっ!!!!!!!!』

───その足が振り下ろされるのと、ひのめが目を瞑ったのは同時だった───


                          
                                   最終話に続く

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