ザ・グレート・展開予測ショー

子守唄 −後編−


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 5/ 8)





 「こんにちわ、私は氷室キヌ、年齢は・・・言えません。好きなものは横島さん(ぽっ)、好きな人は横島さん(ぽぽっ)、好きな時間は横島さんと一緒にいる時間(ぽぽぽっ)、横島さんに料理を作ってあげる時間(ぽぽぽぽっ)、横島さんと料理を食べる時間(ぽぽぽぽぽっ)、横島さんが私の作った料理を美味しそうに食べているところを見る事(ぽぽぽぽぽぽっ)。横島さんが「すとっぷっ!!」・・・好きです(きゃっ)」

 ドアの先にいたのは青色の髪の少女だった。
 俺の知らない・・・いや、知っているけど、明らかに別人な少女だった。
 のっけからのハイテンションに、先ほどまでの悲しみも吹き飛ばされて―――出すべき言葉も見つからず、どこまでも果てしなく暴走していきそうな彼女を現世に食い止める言葉しか出なくて―――。

 探すけれど。

 「あ、あ、あ・・・あのさっ!!」

 そこから、先が浮かんでこない。
 言葉を捜す俺を、何やら紅潮しながら、彼女は続ける。

 「横島さんが好きです。この世の中の全てを標準にしてみれば。世界中の人間の命と比べてみても横島さんと比べてみればカスみたいなもんです(ぐぐぐっ、とにぎりこぶし)」

 「(ぞくっ)・・・えっと・・・おキヌちゃん?」

 背筋に感じる何か寒いものに引き攣り笑いを浮かべつつ、俺は彼女の名を呼んだ。
 そうすれば、何が変わると言う物でもない、そんなことは分かっていた。それでも、確認したかった。
 本当に、彼女は、『おキヌちゃん』なんだろうか?

 「横島さん・・・横島さんさえ傍にいてくれれば他には何もいりません・・・お金だとか、そんなもの欲しくもないです。そう、横島さんさえ、傍にいるなら・・・ええ、何を他に欲しがりましょう?(きっぱり)」

 彼女はまるで俺の言葉など聞こえないかのようにがんがんと間違った道へと突き進んでいた(気がした)。

 「おキヌちゃん・・・!?」

 「お揚げやらドッグフードやら、お金に現を抜かしているきつね、犬、年増など、横島さんにふさわしくないです(むっすり)」

 「・・・あ、あのさっ!」

 「私ほど、横島さんのことを思ってる女の子はいません、絶対に・・・いません・・・(いじいじ)」

 「・・・お、おキヌちゃん・・・」

 「他の人に・・・目移りしちゃ、嫌です・・・(ぷんすか)」


 か、可愛い・・・。しかし・・・だ。何かとても危険な匂いがするのは気のせいかっ!?
 否っ、言葉のところどころに、痛い女独特の声音が・・・(偏見)。
 しかし・・・ここまで良い娘は他のは絶対にいないぞっ!?

 「・・・お、お、お、俺はっ・・・」

 「・・・良いんです。ただ、横島さんのお傍にいさせてもらえるなら・・・それで良いんです・・・(ぽうっ)」

 「お、おキヌちゃんっ!!」

 俺は何とも言えない直球な告白(だと思う、思いたい)に戸惑いながら―――。
 俺はそれでも夢心地だった。

 ―――ああぁ、何か、良いなぁ。

 「でも、声を掛けてくれたの、私が最後ですよね?」

 「へ?」

 「・・・お・し・お・き・ですね・・・」

 「・・・へっ・・・」


























 「良いんです、ただ、横島さんのお傍にいさせてもらえるなら・・・それで良いんです(ぽうっ)」

 カーテンが開いた窓から差し込むほのかな光。黄金色の輝きに顔を染めながら、眠る少年の傍に膝をつき、耳元で囁く誰かの気配。
 草木も眠る丑三つ時、本来なら、一人しかいないはずの部屋の中にいる、その部屋の主のものとは違う気配。
 どこか危うく、そして、弱々しい生命の気配、それでも、その顔に浮かぶのは、そんなものなど吹き飛ばすかのように、色々な意味で生命力に溢れている表情だった。
 蒼い髪が月の光にきらきらと輝き、艶めいて、とても美しい。しかし、見るものは誰一人としていない、見る可能性があるとするなら、彼女のすぐ傍で眠りにつく少年くらいなものであろうが、その少年も悪夢か何かにうなされてでもいるのか、苦しげにのた打ち回っている。
 彼女は彼の耳元で囁くのを止めて、彼の布団の中に入っていった。入っていったというよりも、透けていった―――染み込んでいった、という言葉のほうが適当かもしれない。
 ―――今、彼女は幽霊だったから―――すると、苦しげな彼の表情も穏やかなものになり、ひんやりとした感触を感じた所為か、一瞬だけ眉をひそめ、ぎゅっと、その源に触れる。

 きゅん、とその手の平の感触に心を躍らせながら、彼女は恍惚の笑みを浮かべた。

 「・・・幽体離脱、便利な特技です。本当に・・・」

 ぽっ、と顔を赤く染めながら、毎日欠かさずに行なっている(洗脳)活動を終了したことへの充実感と達成感。そして、何よりも、すぐ傍で寝息を立てる少年の寝顔とその手の行く先に、心を休めながら、彼女は永久の眠りよりも一瞬だけ、深く落ちた。

 「・・・横島さん・・・可愛い・・・(ぽっ)」

 人はそれをトリップと言う。


















 「他の誰にも奪わせません・・・横島さんは・・・私のものです」

 月の美しい夜。
 あなたに会いたい、そう思ったから。
 いつものように幽体離脱。
 いつものように夜行飛行。
 あなたのためなら何処までも行くわ。
 あなたと私の為なら尚の事。
 辛い悪夢にうなされてるんだ・・・と言うあなたの為に。
 私が聞かせる子守唄。
 そのついでに・・・少しだけアピールをしてみたりもするけれど・・・。
 しょうがないじゃないですか・・・私・・・恥ずかしがり屋ですし。
 面と向かっては言えませんから。
 だから、夢の中で。


 ―――この子の可愛さ限りない
    星の数よりまだ可愛い
    ねんねやねんねやおねんねやあ
    ねんねんころりや・・・―――


 「お休みなさい・・・横島さん・・・♪」


 終わり

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