ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記外伝T(その4)


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 5/ 8)






「はあぁぁぁぁっ!!!」

ズガアアァァっ!!!

ひのめ気合の掛け声と共にそのしなやかで強靭な蹴りが見事におかっぱ少女の顔面に炸裂した。
相手の背格好は六歳くらいの身長。
なのでその伸びた爪の長さを入れてもひのめの蹴りの間合いのほうが広かった。
なにより、拳で殴るのは気持ち悪そうだった。

「ど、どうよ?」

ひのめ自分で吹っ飛ばした少女の様子を見る。

『あぎゃががががぎゃがぎゃがぎゃ!!!!』

少女は顔を醜く歪めながら手足をバタつかせ地面をのたうちまわった
なぜなら先程の蹴りにはひのめの精一杯の霊力がこめたあったから。
ひのめは霊力が低い分、その霊力の使い方、駆け引きに長けている、
今の蹴りも相手に打ち込む一瞬だけ全身の霊力をつまさきに集中、そして炸裂させたのだった。
(中級GS以上なら防御力に霊力をまわしながら同等のことができるが)

パタン・・・

ひのめが息を整えたのと同時におかっぱ少女の手が地面にゆっくり倒れる。
そして、まるで蒸発するように煙となりまさに跡形も無く消えたのだった。

「や、やった!!勝ったのね!!?」

自分の勝利を確信しそれを噛み締めるようにガッツポーズをとるひのめ。
しかし・・・



・・・・・・・・・・・まだまだ遊んでくれなきゃヤダよぉお・・・・・・・・・・・・・・・・




「なっ!?」

男とも女性とも取れる声がひのめの脳に直接響いて来る。
その声に警戒を払いつつひのめは周囲に目をくばった・・・すると・・・

ボコ・・・

ひのめから3m程離れた地面がいきなり盛り上がった。
そして土を突き破り出てきたもの・・・・それは人の右手。

「な、なに!?」

ひのめは何事なのだと緊張を走らせる、
だが、そんなひのめを無視するように右手に続き左手が現れる。
そして・・・
長い黒髪で顔が隠れ表情は読めない頭部が出現する。
さらに、両肩・・・・上半身・・・・地面からまるで這うように出てくる

「な、何かこんなシーンこないだやった再放送のホラー映画で見たことある・・・」

ついにソレは全身を土の中から現した。
うつ伏せのような格好だから分かりにくいが、薄い光に照らされるソレは肉付けから見てどうやら女性らしい。

「・・・ゴクっ」

緊張からきた唾を飲み込む。
ここからどんな攻撃くるのか、もしかして映画通りに・・・・
そんな恐怖がひのめの背に冷たいものを流す。

しかし・・・

『あ〜、疲れた』

「え?」

予想外に明るいその声に思わず目を丸くするひのめ。
地面から這い出てきたソレはよいしょと何ら普通の人間と変わることの無い動作で起き上がる。
そしてパッパッっと赤いスーツとスカートについた土を両手で払うと顔隠してる髪を右手でかきあげた。

『ん〜〜〜、やっぱ空気っておいしいわねぇ。あなたもそう思うでしょ?』

女性はまるで受付嬢のようにニコっと笑顔を浮かべひのめに話しかけた。
その顔の左部分はまだ前髪で隠れているが、その女性は間違いなく美人に入る部類だろう。
生きていればの話だが・・・

「あなたが本体なの・・・?」

ひのめは構えを解かずに問いた。
先程のおかっぱ少女を操ってたのはこの女性なのだろうか、
知識、経験を総動員して今の状況を把握しようとする。
だが、そんなひのめの表情を見て女性はケタケタと笑った。

『あははは、本体ねぇ・・・。定義するのは難しいかも、
 だって・・・・・・・さっきの女の子も私であり、私もさっきの女の子なのよ』

「まるで謎掛けね」

『そんなに難しく考えないでよ、記憶は全て共有してると言えばいいのかな────「お姉ちゃん」』

女の語尾の言葉・・・そこだけは先程のおかっぱの少女の声。
目の前に立っている女性はどう見ても20代半ば・・・そんなギャップがさらにひのめから額から冷たい汗を流させた。

「とにかく!あなたを倒してさっちゃんを返してもらうわ!!」

『う〜ん、私は返してもいいんだけど彼らがねぇ・・・・』

女性は困ったなあと苦笑いを浮べながら腕を組む。
そして、パチンと指を鳴らした。

「なっ!」

ボコっ・・・ボコ・・・

その指鳴りに共鳴するかのように先程同様地面が盛り上がる。
しかし、その数はさっきの比ではないはっきりと数までは分からないが15箇所は越えているだろう。
そして・・・そこから先もさっきと一緒だった。

『ア〜・・・・』
『ウァ・・・・』
『グゥ・・・・あ・・・ァ』

腐敗臭を漂わせ次々と腐った肉体を現すモノ・・・・・・それはゾンビ。
出現方法は女と一緒でもその姿は全く違う。
生前着ていた服は無残に破れ、むき出しの筋肉は腐敗が進み灰色に変色し眼球は白く、瞳孔などが確認できない。

「こ、こんなシーンもこないだ蛍ちゃんがやってたレトロゲームで見たことがあるーーー!!」

そのときはどうやら銃でゾンビを倒していたようだが、残念ながら今のひのめは手ぶら。
もっとも銃火器など扱ったことはないのだが。

『どうするぅ?コノ人達凶暴だよぉ?ノロノロしてたら────こうなっちゃうわよ・・・』

クスクスと笑いながら女性は左半分の前髪をかきあげた。

「!!?」

それは・・・
まるで硫酸でも浴びたかのようにただれた皮膚・・・
筋肉まで腐敗しているせいで表情すら作れない顔の左半分。

『あなたもこうなってみる?くすくす・・・ウフフフふふっ!うあははははははは!!!!』

女が高笑いを挙げると同時にゾンビ達がひのめに向かってくる。
決して動きは早くないが、いかんせん数が多すぎる。
この狭い庭ではすぐに追い詰められるのは自明の理だ。

「取り合えず・・・・逃げる!!」

『三十六計逃げるが勝ち』
中国のことわざにならって逃げの姿勢をみせるひのめ。
確かに多勢に無勢、逃げるのも立派な戦術だろう・・・だが、
ひのめが親友を置いて逃げる性格ではないはみんなが知るところ・・・
それに既にこの藁葺き屋根の家は特殊結界で周囲から隔離されており脱出は不可能だった。

「はあっはあっはあっ!」

決して広くは無い庭をゾンビの攻撃をかわしながら走り抜けるひのめ。
しかし、しだいに隅へ隅へと追い詰められて行く。
そしてついに・・・・

ガサ・・・

家を囲む垣根の壁に追い詰められた。
それ以上は後には結界のため進めず、前にはゾンビの集団。
進退窮まるとはまさにこのことだろう。

『クスクス・・・・これでおしまいねぇ・・・・・・・・・・じゃあ食べられちゃいなさい♪』

女はゾンビの壁で見えないが、おそらく恐怖で顔を引き攣らせているであろうひのめの表情を思い浮かべケタケタと笑った。
しかし・・・そのとき・・・




パシュっ!

何かが光ったと思った瞬間。



バシュウウウウウウウウウウウウ──────っ!!!!!!!!!!!!!!!

『なっ!!』

小規模な爆音と爆炎と共に肉の壁・・・・ゾンビ達が肉片となり吹き飛んだ。

ボタ・・・ボタ・・ドザ・・・・

吹き飛んだ肉片が何事かと驚く女の周囲に降り注いでくる。
そして見た・・・・肩で息をするひのめが右手に何かを持っていることを・・それは

「はぁはぁ・・・効くでしょ?私の小遣い3か月分は・・・」

ピラっと紙切れ・・・・・
いや、『一万二千円破魔札』を見せた。
これは今年の初めにお年玉で令子から入手したもので『大セールで5千円』と譲ってもらったものだった。
もちろん威力はなかなか高い・・・それでも一般GSから見ればかなりの低レベル破魔札だ、
だからひのめは逃げるフリをしながらゾンビ達を固めギリギリまで引きつけそこで自分の霊力を限界まで引き出し、破魔札を炸裂させた。
・・・・・・・・結果は見ての通り、ひのめの作戦は大成功となった。

「どうだー!見たかってぇの!!」

まるで江戸っ子のようにはしゃぐひのめ。
女はそれを苦虫を潰すような顔で睨む・・・・だが、
やがてふうと一つタメ息をつくとクスリと一つ笑いを浮べた。

『いや〜やるわねぇ、あなた。
 今日はついてるわあ─────活きのいい獲物を二匹も食べれるんだから』

「なっ!」

獲物?食べる?二匹?
ひのめの頭の中が霞んでいく・・・
多分獲物は自分のこと。
食べる・・・つまり相手は食人妖怪なのだろう。
では二匹というのは・・・・つまり自分以外のもう一人・・・

『うごが・・・あが・・・』

ひのめは女性の奇妙な声に意識を取り戻す。
女性は右手を口の中に突っ込み何かを取り出すようだ・・・
しかし、右手の大きさに口の大きさがついていかないのか・・・


ブチブチ・・・

腐った肉が千切れ口が裂けていく・・・
そのおぞましい光景にひのめは思わず胃の中ものが逆流しそうになった。

『あ゛〜〜〜あっだ・・・』

女性はよいしょと口から何かをズルズルと引きずり出す。
そしてそれをひのめの目の前にポイっと放り投げた。

「な、何よ・・・・────・・・・・・・・・!!!!!?」

『それ』を見たひのめの表情が変わった・・・その表情が表すのは『驚愕』。
なぜなら・・・ひのめが見た『それ』とは


────幸恵の靴。


だったのだから。







                                  その5に続く


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