ザ・グレート・展開予測ショー

悪夢 第五夜


投稿者名:ライス
投稿日時:(03/ 5/ 7)



「……みさん、美神さん!!」


 だれ?私を呼び起こすのは………?


 うっすらとまぶたを開く。なんだかやたらと明るい。視界がぼんやりしていて良く分からないが、蛍光灯の光のようだ。さっきまで闇の中にいたせいか、その蛍光灯の光さえもまぶしく思える。

 ……誰かが目の前に居る。私を見下ろしている人が何人も。しかし、視界がはっきりしないためか、焦点がぼけて、顔を認識できない。

「美神さん!!」

 聞き慣れた声がそろって、私の名前を言うのが聞こえた。ゆらめく視界の中、私は薄らぼんやりとした意識で、ベッドに寝かせらているのに気付くが、そんなことはどうでも良かった。その内に、私を呼びかける声も遠のいてゆき、次第に聞こえなくなる。視界だけが残るが、やたら周りが歪んでいるせいで、自分が何処にいるのかも良く分からない。
 …私の横で誰かが呼びかけている。しかし、何も聞こえなくなってしまったから、何を言っているのかも分からない。

 ……もう考えるのも嫌になってきた。視界もだんだんと狭まってゆく。意識も朦朧としてきた……。でも、ココは何処なのだろうか……?

 そして、声をかけていたのは……、ママ?西条さん?おキヌちゃん?

 それとも………、
























































「美神さんっ!?しっかりしてください!?」

 先刻、ようやくまぶたを、うっすらとではあるが、開いた美神ではあったが、再びそのまぶたを閉じてしまった。横島とおキヌちゃんはまぶたが閉じる瞬間、ほぼ同時に上の科白を喋っていた。
 
 ココは白井総合病院の一室。ベッドの両脇には、横島、おキヌちゃん、美智恵、その他、唐巣神父、シロ、タマモなど、美神と交友のある面々が見舞いに来ていた。

「美神さん!!」

 横島は身を乗り出して、美神の体を揺り動かそうとする。しかし、それは出来なかった。近くにいた唐巣神父とピートに押さえつけらたからである。

「放せ!!放してくれ!!美神さぁ〜〜〜ん!?」

「落ち着くんだ、横島クン!!」

「そうですよ、横島さん…、ココは落ち着いて……!」

「少し、頭を冷やした方が良いみたいね。神父、お願いします。」

「分かった。美知恵クン、君も……。」

「えぇ……。」

 唐巣神父とピートは横島を引き連れ、部屋を出て行った。美神の母、美知恵は沈痛な表情を浮かべている。すると、同席していたおなじみの髭を蓄えた医師が口を開いた。

「……あなたの娘、令子さんの容態に関しては異常はないものの、この様に意識がないままの状態です。先程、まぶたを開きましたが、あれも一時的なものであって、恐らく本人も無意識でしょう。後日、原因究明の精密検査を行う予定です。それでは……、」

 そう言うと、彼は一緒にいた看護婦とともに部屋を出て行った。取り残された人々は沈黙を守ったまま、動こうはしなかった。美智恵共々、床に伏す美神を見つめている……。

「令子………。」

 美智恵は呟くように娘の名を言う。

「おキヌちゃん……、もう一度、令子が倒れたときの状況、聞かせてくれる?」

「ハ、ハイ……。それは突然のことでした……。いつものようにお昼ごろに事務所にやって来た美神さんは、とても元気でした…。ちょっと二日酔いみたいな感じでしたけど、いつもの調子で……。で、私が薬持って来ますね?って言って、台所に行きました。薬を水を部屋に持ってきたら、美神さんがいなくて……。すると、トイレの方から何かが倒れる大きな音がしたので、行ってみたら、トイレからはみ出す様に美神さんが倒れていたんです。ちょうど、その時に横島さん戻ってきて……、」

「そう……。ありがと、おキヌちゃん。」

「イッ、イエ!!そんなこと……、」

「今日はもういいわ。……悪いんだけど、独りにしてくれないかしら?」

「アッ、ハイ。それじゃ、二人とも行きましょう?」

 おキヌちゃんは、そう言い、シロとタマモと一緒に部屋を出て行った………。彼女たちが出て行った後、美智恵はベッドの側の椅子に座り、美神の頬をそっと撫でる。

「令子………。」

 再びそう言うと、彼女は美神の体に寄り添い、そのまま眠りについてしまった……。そして日は沈み行き、窓の外は夕焼け模様を醸し出している。

「隊長、隊長………。」

 誰かが自分の体を揺り動かす。美智恵は目をこすりながら、上体を起き上がらせた。

「ぅ、うぅん……。ん〜〜っ、あら……。どう?頭は冷やせた?」 

 美智恵を起こしたのは横島だった。彼は少し物憂げな表情を浮かべている。

「えぇ……、おかげさまで何とか……」

 そう言うと、横島は美神の眠るベッドの前に立ち尽くした。彼は暫くそのままの体勢で、黙り込んでいた。数分後、横島はうつむき加減に訥々と喋り出した……。

「オレ………、怖かったんです……。」

「? 何が?」

「事務所に入った時、美神さんがいきなり倒れたって、聞いて………、その……、何って言ったらいいんだろう、言い知れぬ恐怖って、言うんですかね……?とにかくそれを聞いたとき、悪寒が走ったんです……。」

「悪寒?」

「ハイ。その時、あのことを思い出して……、」

「…………」

「あの時、オレは彼女に対して何もしてやれなかった……。そのことで幾度となく悩みましたよ…………。そして、今日、美神さんが倒れた……。救急車で運ばれてる時、もし、このまま美神さんが…、そう考えてふと思ったんです。オレはまた何もしてやれなかったんじゃないかって……。やっぱりオレには女性を愛する資格なんてなかったんだ……。そう思うと、オレ……、オレ……、オレ……、」

 彼は手で自分の顔を覆い隠して、涙を流し出した……。それを見た美智恵は、彼の肩に触れ、こう言う。

「大丈夫よ、令子はちゃんとここにいるじゃない?確かに今は意識不明のままだけど、死んだってワケじゃないはずよ?別にあなたがそんなに抱え込む必要はないわ……。この娘を心配してるのはあなただけじゃないはずよ?おキヌちゃんだって、シロだって、みんな心配してるわ……。だから、ホラ、元気を出して。」

「ハァ………。」

 美智恵からハンカチを渡され、横島はそれで涙を拭いとった。

「じゃあ、行きましょうか……。」

「……ハイッ。」

 横島は美智恵に肩を叩かれながら、部屋を出て行く。外は既に日が沈み、闇夜のカーテンが開き始めている……。

「じゃあね、令子……。」

 美智恵は眠る美神のお腹をポンポンッと叩くと扉を開けて部屋を出て行った……。

 そして、ガチャリッ、と部屋のドアは閉められた……


 

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