ザ・グレート・展開予測ショー

続々・良い美神


投稿者名:ロックンロール
投稿日時:(03/ 5/ 6)

「ただいまぁ〜」


 私はその時、喜悦の余韻に浸りながらそのドアを開いていた。

 靴を脱ぎながら口元に未だ付着していた汁を舌で舐め取り(行儀が悪い)、満足感に相好を崩す。夏場につき、多少ボリュームを減らしている九房のポニーがその喜悦の余り震えるのが分かった。





 嗚呼、きつねうどん。甘美なるその響きよ――





 わざわざ早起きをして銀座まで行って並んだ甲斐があった。シロが出たすぐ後にこちらも屋根裏から抜け出したのだが、あれは十数キロの疾走と一時間半の行列の名に恥じない出来だった。

「ふぃ〜……」

 再び吐息し、私は室内へと足を踏み入れた。とにかく今は無断で家を出た事を謝らねばならない。それを怠ると、後々深刻な事態を招く畏れもある。ドアを開け――
 ――目を見開いた。


 眼前の廊下は、明らかに普段と様子を異にしていた。何故かいろいろなガラクタが散乱しており、まるで過激派のバリケードの如く高く積み上げられた机や家具もあちこちに見えた。


「……なにこれ?」


 勃然と、呟く。
 少なくとも、日常ここにあるべき姿ではない。

「これ、どーしたの? 人工幽霊一号」

 視線を漠然と天井に向け、そこにいないがいる、この建築物の守護神に向け声をかける。通常ならば、彼(?)に訊けばこの建物内に起こった事については大抵の事が判るのだが――

 今回に限っては、そうでもなかった。


「おーい、人工幽霊一ごぉ〜?」


 返事がない。


(……なんで?)

 異常な事であると言えた。
 少なくとも、私自身の記憶の中にはこの事態に類するモノはなかった。――恐らく、霊的機械とでもいうべきモノである以上付け入る隙はあるのだろうが――
 それが、起こっている。

「美神さん! おキヌちゃん! シロォ!?――こらこの馬鹿犬ッ、出てきなさいよ!!」

 返事はなかった。室内は不気味なほどに静まり返っている。――私は、決心を固めた。
 ゆるぎなき一歩を踏み出す。靴下越しに伝わってくる――床の感触は、冷たかった。
 まだ少しうどんの汁の味がする唾を飲み込み、取り敢えず行く手を塞ぐバリケードの隙間に手を伸ばす。九尾の狐は、変化によってその質量すら変化させる事が出来る。狐形態になれば、潜り抜けるのも問題なさそうだった。

(よぉし……)

 大きく息を吸い込み、私は適当な大きさの隙間を探した。――幸い、ちょうど真正面に、仔犬一匹がギリギリ通れそうな程の大きさの穴がある。まるでしつらえたかのような――







 ――その穴の向こうに、眼が見えた。











「――!」




 反応は、我ながら迅速だった。

 一歩飛びのき、右腕をバリケードに向ける。左足を引いて半身に構え、同時に全力で霊気を放つ。



「狐火ィッ!!」


 ――ボワッ!!









「って、待てタマぁちちちちちちちちちちちちちちちちぃぃぃぃっ!!」



「――え?」

 その声は、聞き覚えのある声だった。

「……横島ぁ?」

 私自身が言うのも何だが、狐火は相当な威力を発揮していたようだった。陳腐ながらもバリケード(らしきもの)を形成していた椅子や机は片っ端から燃やし尽くされ、『火気厳禁』の札が張ってある壁にまでうっすらと煤がこびりついている。そして無論、バリケードの奥にいた物体にも。



「えと……だいじょぶ?」



 判っていた。――だが、礼儀として一応訊いてみた。
 そして、物体は思った通りさほど問題もなさそうに立ち上がった。


「……タマモ」


「うん?」


 ぼそりとした、呟き。その言葉を聞き取りそこね、私は物体に顔を近づけた。自然と、私自身がその原因となった焦げ臭い臭いが鼻を付くが、あまり悪い気持ちはしない。元々が好きなにおいだ。

 と、同時に、両頬をつままれた。大きな掌に。



「っへ、ひゃひ!?(って、何!?)」


「お前が本ッ当ぉぉぉにタマモなのか確認させてくれ。いや他意はない。非常事態という奴だ――」


 言いつつ、ぐにぐにとほっぺを引っ張られる。上下に――左右に――混乱した頭は暫く活動を停止していたが、その復活と共に最良の行動を選択してくれた。


「……ひうへひッ!!(狐火ッ!!)」


 再び猛火が噴出し、物体を更に紅蓮で包む。



「うをおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉおおぉおおおぉぉおぉぉぉおおおおおぉおっ!?」




 背中に火がつき、その辺りを走り回る物体。何となくムカついたので、火は消さない。


「やっぱりタマモだぁああああああああっ!!」






 物体が叫んでいた台詞だけが、やけに印象に残った。





――続かせて貰えるのか?――

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