ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記外伝T(その3)


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 5/ 6)




「ったく、さっちゃんってどうしてあんな強情なんだろ!」

ひのめは自室のベッドの上でゴロンと横に転がり愚痴をこぼした。
それはお互い様だろうが、人というのは大抵責任を相手に押し付ける傾向がある、
ケンカすれば原因を相手に求めるのも人の感情というものだろう。

「ま、明日さっちゃんが謝ったら許してやろうかな」

そう言いつつも自分が悪いかもと少し反省するひのめだった。
何せあれから自宅にまでの所要時間は普段の3倍の時間を要したのだから。

コンコン

「はーい」

ひのめの返事と同時にドアを開けたのは美智恵だった。
ひのめは母の来訪に『何かしら』という視線を向ける。

「ひのめ、幸恵ちゃんのお母さんから電話よ」

「さっちゃんのお母さんから?」

美智恵はそう言って受話器の子機を渡す。

幸恵の母、江藤千穂(えとうちほ旧姓・佐々木)はひのめの姉・令子とは高校の先輩後輩という旧知の仲で、
昔はよく一緒(つきまとった?)に遊んだものだった。
その後、一般OLとして企業に就職。同じ会社の同僚であった今の旦那と結婚し、
長男、長女、そして次女・幸恵の三人の子供に恵まれた。
ちなみに、霊力が強いのは末っ子の幸恵のみ。


「あ、それとママは今から出かけてくるから戸締りはちゃんとするのよ?」

「はいはい」

一言残して出かけていく母に適当に返事を返しながらひのめは受話器を耳に当てた。

「はい、もしもしひのめですけど」
『あ、ひのめちゃん!』

受話器の向こうから聞こえる幸恵の母はどこか慌てたような口調、
ひのめももちろん面識はあるが、これほど慌てた様子の千穂の声は初めてだった。

「あ、あの一体どうしたんですか?」

『幸恵がまだ帰ってこないのよ!携帯も通じないし・・・ひのめちゃん何か知らない!?』

「え!!」


ひのめは千穂の言葉に驚きの声をあげる。
首を動かして見た壁時計は既に夜八時半を過ぎている。
中学生が何の連絡もせずに帰ってこないというのは問題がある・・・というか親が心配するのは当然だろう。

『今日はひのめちゃんと道場行ったのよね?一緒に帰ったの?』

「う、うん・・・でも途中で分かれちゃって」

嘘は言ってない・・・。
しかし、どこか逃げというか言い訳じみた言葉を選んだひのめ。
もしかして自分のせいかもという恐怖心に少し目を背けたのだ。

『そ、そう・・・ごめんなさいね、夜遅くに。それじゃ・・』
「あ、あの!」
『ん?』

電話を切ろうとする千穂を呼び止める。

「わ、私も一緒に探し・・・」

『うん、ありがとうひのめちゃん。
 でも、大丈夫よ。私達でまずは探してみるし警察にも連絡してあるから』

「そ、そうですか・・」

ひのめは千穂のやんわりとした断りにそれ以上何も言えなく。
幸恵を心配しつつも中学生のひのめまで借り出すのは忍びないという千穂の気持ちが分かるからだ。

『それじゃあ、もし幸恵から電話があったら連絡お願いね』
「は、はい・・・それじゃ」

ブツン・・・プー・・プー・・プー

無機質な音を鳴らす子機をゆっくりと降ろすひのめ。
その表情は愕然と後悔が覆い、今にも不安と心配で押しつぶされそうだった。

(さっちゃん・・・)

行方不明の親友の名を呟く。
どうしてあの時ケンカしたのだろう、別れたのだろう・・・
全てが自分の責任じゃないかと責めるひのめ。

しかし、

「・・・・・」

ひのめはベッドから起き上がると椅子に掛けてあったコートを勢いよく羽織った。
その目は強い決意の瞳。

『悩むよりもまず行動』

それがひのめの行動理念の一つだった。










「はぁ、はぁ、はぁ!」

ひのめは走った。
冬の冷たい空気に肺が冷やされ、凍てつく風に身が切れそうになっても。

「確かここを右!」

ひのめは大地を力強く蹴り方向転換をした。
ここは昼の『近道』と言って通った『帰り道』、満月というのに光はやはり木々が遮り明かりは少ししか届かない。
それなのにひのめは枝にもひっかるどころか木にぶつかったりもしない、
むしろ寒さのせいで感覚が鋭くなっている気すら自覚していた。

「はあ・・・はあ・・・おかしい」

ひのめはその足を止め肩で息を整える。
おかしい・・・というか違和感がひのめの頭によぎった。
昼と夜とでは同じ場所でも『雰囲気』が違うというがひのめが今感じてる違和感はそんなレベルではなかった。

「昼は迷ったとは言えこんなに時間は掛からなかったのに・・・」

グルっと周囲を見渡す。
やはり視界には先程から同じ風景しか映らない。

迷い始めてる?二次遭難しないうちに帰るか?
答えはNO。

何故かは分からないがひのめの霊『勘』とも言うべき何かが『ここに幸恵がいる』と告げていた。
今は自分のこの感覚を信じ進むしかないひのめ。
そのとき・・・

「あれは・・・」

ひのめの視界に入ったもの・・・それはあの藁屋根の家。
薄っすらと光を灯すその家はここらへんで一際存在感を増している。
怪しい・・・怪しすぎる。
ひのめの危険感知の警報装置が『近づくな近づくな』と鳴り続けた、しかし。

「さっちゃんはあそこにいる」

その一言と共に歩き出すひのめ。
一歩一歩近づくたびに何か冷たいものがひのめの背中に流れた。
そして家の目の前まで近づくと視界に入ったのは

『どうしたのぉ、お姉ちゃん?』」

やはり鞠をつくおかっぱの少女だった。
おかっぱの少女はひのめを見るたびに細目と口を同時にニヤっと歪める。

「あなた人間じゃないわね・・・」

藁家の庭の一歩外の境界線からひのめは睨みながら言った。
正体を見破ったわけではない、ひのめの霊能力はそこまで高くなにのだから。
その逆、弱い者からだこそ敏感な危険察知能力が発達していた。
一目その少女を見た瞬間からその能力が『逃げろ、逃げろ』とうるさく言っている。
でも・・・

「私の友達がここにいるわね?・・・・・返してもらうわよ」

怒りで恐怖を抑えたながらひのめは言った。

『いいよぉ・・・・でもお姉ちゃんも私と一緒に遊んでよ』

おかっぱの少女はただでさえ細い目をさらに細めながらクスクス笑った。
まるで前進も後退も出来ない獲物を見るように。

「いいけど・・・・私って遊びでも手加減出来ないタチなのよね」

ザっ・・・

その一言と共についにひのめは藁家の敷地内に入った。
ひのめの進入を見た少女の口がニヤーと緩む。
しかし・・・


『!?』

ザッ・・・ザッ・・・ザッ

まるで何事もないように歩いてくるひのめに少女の表情に驚きが表れる。
なぜなら・・・

「どうしたの?自分の結界が効かないんで驚いてるの?」

少女の驚きに応えるようにひのめはふふんと笑みを浮かべる。
そして、タートルネックの襟を左手で少し引っ張り、右手でそこからネックレスのようなものを取り出した。

「これね、呪縛結界を無効に出来る除霊道具なのよ。
 まあさすがに上級結界とかには通じないけど、これくらいならね♪」

一通りの説明をしてそのネックレスをしまう。
弱いからこそ準備は怠らない、それがひのめの必勝法の一つであった。

「あなたどうせこの結界に獲物を入れて捕獲するような物の怪でしょ?
 結界が発動しない以上あとはボコボコにするだけだけど・・・今のうちにさっちゃん返すなら見逃してもいいわよ」

これは賭け・・・
程度の低い呪縛結界は封じても、相手の実力は未知数。
ひのめは先程の結界無効道具と同時に自分の霊力を大きく見せるアクセサリーも付けている。
もちろん実際に大きくなったわけではない、ただのハッタリ用で程度の低い除霊道具だ。
今はこの物の怪を倒すことなど二の次、幸恵を助けることが第一目標、
そのためにはハッタリで有利な条件まで運ぶしかなった。

「どうする?」

ひのめはもう抑揚のない言葉でもう一度言った。
あくまで自分が冷静なうえに奥の手を持っているように相手に見せ付けるため。
しかし・・・

『クスクス・・・・ダメだよお姉ちゃん・・・・もっと私と遊んでくれなきゃ・・・・』



おかっぱの少女の顔がゆっくりと右向きにまわっていく・・30度・・40度・・90度・・・140度・・・
およそ人間の限界だろうと思われる角度まで首が回った・・・だが。


グル・・・グル・・・ゴキゴキ・・・

少女の首の回転は止まらない・・・骨が砕けるような音と、筋繊維が千切れる音がひのめの鼓膜に響いてくる。
そして・・・・ついに・・・
少女の首は360度回転を果たした。
ダラリと垂れる顔・・・その目はまるで麻薬中毒者のように正気も生気もなく、口からはダラリと長い舌が垂れていた。


『遊ぼう・・・遊んでくれなきゃさっちゃん返してあげないよー、遊んで遊んでくれなきゃきゃきゃきゃきゃ・・・』

あまりのショッキング映像に顔を青くするひのめ。
ホラービデオならまだしも、リアルにこんなシーンを見せられては無理もないだろう。
それに・・・

「私って除霊初めてなのよね・・・ま、初陣にしては調度いい相手・・・かな!!」


強がってみたその言葉も震えている。
冷たい汗を額から流しながらひのめは構えた。

客観的に見て幽霊・・・悪霊の類が出現した場合低レベルなものなら、今のひのめでも十分対応、除霊出来る。
しかし、問題は霊力の低さではなく実戦を経験したことがないことだった。

「練習しても経験が無いっていうのは心細いなぁ」

ちょっとだけ弱音を呟いてみる。
そんなひのめの心も知らずに首の垂れたおかっぱ少女がひのめに向かって走ってくる。
その手の爪は獲物を裂こうと鋭くそして鈍い光を放つのだった。

「はあぁぁぁぁぁっ!!!」


裂ぱくの気合と共になけなしの霊力を高める。

ひのめの初実戦・・・・

それは誰かの命を守る戦いだった。








                                       その4に続く



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