ザ・グレート・展開予測ショー

素敵な夢を見ましょう?-前編-


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 5/ 5)


 veldにとってはらぶらぶのつもりですが。人によってはうずうずです。(謎)
 



 届かない思いなら捨ててしまおうか、いつも思う事。
 手に残る感触があるのなら、きっと、こんなに苦しくは無いのだど。
 人の気持ちを裏切るたびに覚える不快さと。
 のこる焦燥感に言い様もなく。
 切ない思いを覚える。


 いつまでもこのままでいられるなら幸せかも。
 そんな事を思うけれど。
 それでも。
 俺は一緒に生きていたいと思うから。

 まだ自分の中に残る不純さを否定する事はできないけど。
 失った大切な人の存在を割り引いても、やっぱり、俺はあなたのことが好きなんだって。
 本気で言えない悲しさが、言いようも無く切なくて。
 誤魔化してみせるけど。

 「み〜かみさんっ♪」

 たっち・・・

 「・・・こ、こんんのぉぉぉあほぉぉぉっ!!」

 どがずっ!!べきゃっ・・・

 後ろから掴んだ胸に。
 顔に当たる肘の衝撃に。
 毎日の中にある俺と彼女の関係と。
 そして、これから一生続くかもしれない楽しい日々と。
 不貞腐れたような顔を見せる、これからも同じ日々を共に過ごす人と。
 そして、俺の目の前で眉を寄せる人と。
 生きていきたい、過ごしていきたい。


 動き始める歴史の胎動。
 流されないように。
 変わらないように。
 ―――お願いだから。



 ざわめきの中に覚えた、一時の恐れ。
 忘れてしまうかもしれない、そんな不安。



 切り替えられるシーンの中。
 目を開ければそこにあるのは月夜。
 桜並木の立ち並ぶ広場の真中で。
 ベンチに座り、空を仰いでた。
 星一つなく。ただ、月がそこにある。
 ぞっとするほどに冴えた月。

 冷たく、鋭く肌を裂くような風が、吹いた。

 その風に、桜の花びらが舞い散った。
 その中で佇む俺。
 闇の中に映える薄い桃色の花びら。
 きらきら・・・
 穏やかな風の中で、地面に落ちる事もなく。
 見つめる俺の目を避けるように。
 遠くに流れて、消えてく。
 桜の木々についていた花が消え失せて、時の刻まれる音が不快に響く。

 触れなければならない―――夢の中でだけ感じる不思議な使命感に突き動かされて。
 駆ける足よりも素早く流れる風を追いかけて。
 飛び込んで―――俺は手を伸ばす。

 僅かに、指先に触れて。
 そして、手の中に入る。
 倒れながら―――手中のそれを眺めてみて。
 雪のように溶け、消え散るのを見る。






 変わらない―――そんなものがあるものか。

 花は散るのだから。





 黒髪の、そして、青い髪、そして、赤い髪の人の姿が脳裏に浮かび―――消えた。



 小鳥の囀り。
 窓から差し込む光。
 何より、目覚ましのけたたましい音。
 冷たい、朝独特のにおいが鼻腔に入り―――。
 白いシーツと毛布を跳ね除けて、俺は起き上がった。

 ―――夢?―――それにしては妙に現実感があって。

 頭が痛くなるほどに響く鐘を肘で黙らせて。
 見覚えの薄い部屋を見渡す。
 ぼやけ、潤んだ視界に移る後ろ姿。
 目覚めた朝に見えた人の後ろ姿。
 幻、だとすればあまりにも残酷な。
 遠い、背中。

 「美神さん・・・」

 どうしてここに?―――そこまで言葉にして、思い出す。
 俺は―――夢を見ていたのだと。
 それは、まだ、何も分かり合えなかった頃の話。
 それは、まだ、何も知らなかった頃の話。
 それは、まだ、お互いがお互いの時間をもっと持っていたころの話。
 それは、まだ―――素直になれずにいたころの話。

 でも、それは本当に夢?
 今、俺の持っているこの記憶が空想の産物に過ぎなくて、本当はあの夢が現実なんじゃぁ・・・。

 そんな事を考えながら、俺は彼女が振り向くのを待つ。
 彼女は戸惑った表情を浮かべて、俺を見つめる。

 「・・・美神さん?あんた・・・何言ってんの?」

 そこにあるのは、毎朝見る彼女の顔。
 あぁ、夢じゃなかった。
 これは、現実で。
 そして、今まで見ていた焦がれた日々こそが夢であったのだと。
 過去を見ていたのだと。

 「令子・・・何か、昔の夢を見たよ」

 苦笑しつつ、目の前でエプロンを身につけて朝食の用意をしようとしてる彼女に声をかける。

 「ふ〜ん・・・」

 「俺がまだ丁稚奉公やってて・・・お前の胸を触ったり、抱きしめたりして・・・殴られてんだ・・・」

 こんな事、普通話さないよな・・・でも、何となく、そんな昔の事を話したい気分だった。

 「ふ、ふ〜ん、本当に何時ものあんたの・・・行動ね・・・」

 「いつもの・・・?」

 「違うの?」

 思い返して―――。

 「違わない」

 「でしょ?」

 鈴が鳴るように、高らかと。
 でも、優しい笑い声。
 透き通るような眼差しの中にいる俺の心を優しく和ませる、そんな笑顔。

 「ん。でも・・・殴られる事はなくなったな」

 「・・・そうね」

 苦笑いと一緒に。
 彼女は踵を返して。
 ドアを開けて寝室から出る。

 真っ白な部屋の中に俺は残される。
 ベッドと、光が差し込んでくる観葉植物の置かれた窓際。夜露に濡れてきらきらと煌いている。その中で。
 辺りを見回し、名残を探す。
 何処にも見えないその部屋の中―――それでも不安にはならなかった。
 俺は、彼女と一緒になったんだって。
 そう、思ったから。



 続きます。

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