ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記外伝T(その2)


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 5/ 5)







2月中旬土曜日、午後2時半。


「せええええええいっ!!!!」

気合の声と共に少女の鋭い正拳突きが人型の藁に突き刺さった。
次の瞬間には回し蹴り、肘鉄、裏拳が人体の急所と思われる箇所を正確に打ち抜く。

「はあぁぁぁ・・・・」

残心の構えで体内の気、霊力を落ち着かせる。
そして、気合の入った表情を緩めた。
少女・・・ひのめはふぅと息を吐くと傍に置いてあった清涼飲料水を口にした。

「さすが、ひーちゃん。ここの道場じゃ同年代の男の子じゃ敵わないんじゃない?」

タオルを持って駆け寄る幸恵に『とんでもない』と手を横に振るひのめ。

「私より強い人なんてこの道場にたくさんいるって」

元オカルトGメン婦警が開いたこの道場、
ひのめは小学生から、幸恵は中学に入ってすぐから入門し、二人とも武道の腕を上げていった。
ひのめも幸恵もこの道場では様々な武道を教わっているが中でも霊力を活かした霊波道を熱心に学んだ。
特に幸恵はその成長は目覚しく、もはや霊力だけなら道場で一、ニを争うほど才能を見せたのだった。

「はぁ〜、空手の腕もいいけど霊力も上がらないかなぁ」

「きっとひーちゃんは晩成なんだって」

ぼやく親友をフォローする幸恵、それは自分ばかり霊力が上がることに罪悪感を少し感じてるからかもしれない。
当のひのめはもちろん悔しいという気持ちもあるが、親友の努力とその成果には納得している。

「そうだといいけど・・・さっちゃん今日はもうあがる?」

「うん、今日は適度に汗流すつもりだったしね・・・もう一本練習したら帰ろうかなぁ、ひーちゃんもやる?」

「空手?」

「ううん、剣道♪」

笑顔でお互いの得意分野に誘い込んで勝負をしようとする二人。

「やだよ〜、さっちゃん剣構えると性格変わるし」

「そっかなぁ?」

「そうだよ・・・後ろ見てみぃ」

ひのめが指差す幸恵の後方、
そこには幸恵に打ちのめされて、バテてる男子の屍が五体ほど転がっているのであった。








午後3時半 帰り道

「ね、ねぇ、ホントこっち近道なの?」
「大丈夫、大丈夫」

ひのめと幸恵が歩く道、
それはこのご時世、東京郊外とはいえあるのか?こんな獣道。
という感じの細い道だった。
道場の帰り、近道だからとひのめにつられてこられた幸恵に少し不安が広がった。
幸恵は三人兄妹の末っ子ということもあって、誰かに引っ張られることが多い、

「確かここを右・・・」

その引っ張る人代表のひのめは先ほどから曖昧な言葉を続ける。
同じ末娘とは言え、姉は20歳離れ、姪っ子は3つしか離れていないということで、
何かと面倒見がよく、活発なひのめはいつも明るく仲間内ではリーダー的存在だった。

今回の道も散歩がてらに発見したというものだが、
木々は陽を遮り、草が服や胴着を入れた袋ににひっかかる、
さらにはお気に入りのロングヘアーの黒髪が時折枝に絡まるのが気になった。

「ねー、もう戻ろうよぉ」

とうとうギブアップの声をあげ立ち止まる幸恵。
ひのめはその歩みを止め、顔をしかめる幸恵のほうへ振り向いた。

「もうあとちょっとだって」

何とか幸恵を説得しようとするが、親友は首を横に振るばかり。
稽古の後で疲れているのもあってこれ以上の疲労はごめんだそうだ。

「ったく・・・さっちゃんは根性ないんだから」

カチン・・・。

何気ない一言というのは時に腹だたしいことがある、
今のひのめの言葉がまさにソレだった。

「これ以上ひーちゃんのわがままに付き合えないだけですー」

「なっ」

幸恵のイジワルな口調にひのめの表情が険しくなる。
普段ならお互いこのくらいの冗談は笑い飛ばすのだが、
たまたま虫の居所が悪かったのだろう、だんだん口ケンカはヒートアップしていく。

「私のどこがわがままだっていうのよ!」

「こうやって無理矢理変な道とか連れ来るとことか!」

「嫌なら始めから付いてこなければいいじゃない!」

「こんなに迷うなんて想像できなかったもん!」

「だから、もうすぐって言ってるでしょ!」

「ここまで時間かかって信用出来ません!
 大体ひーちゃんは昔からアバウト過ぎ!」

「昔からって何よ!そっちこそもっと自主性持ったら!?」

「ベー!!」

「何よ!」

グルルル!!とまるで獰猛犬のように歯軋(ぎし)りをしながら睨みあう二人。
そして、最後は・・・

「「ふんっ!」」

ケンカしつつも息のあった言葉でお互い背を向ける。

「私、元の道で帰る」

「勝手にすれば」

二人は振り返らず歩み始めた。
気の合う二人だからこそ反発することもある、
今回はその言葉を体言するひのめと幸恵だった。





間。





「ふん、ひーちゃんのバカ」

自慢の黒髪を手でくしながら今はいない親友に文句を言った。
ただ、一見派手なケンカにみえるが、別に初めてというわけじゃない。
ひのめとコンビを組んで3年、これまで数度ケンカしたことはある、
しかし、大抵翌日にはお互い同時に謝るかいつの間にか普通にしゃべっているのが常だった。

「私からは謝らないもんね」

そうボヤきつつも明日にはどうにかなってるだろう楽天思考な幸恵。
しかし、今の問題はひのめよりも・・・

「ここどこ?」

ジト目で周囲を見回す。
ひのめに連れて来られた近道、そこはどこぞの山奥かとばかりに高い木々や竹が周囲を囲む。
親友にまかせっきりで付いてきた為に別れ道を覚えていない幸恵はどうやら迷い出したことに気付く。

「う〜ん、しかも同じような風景だし」

怪談話に山で同じところ行ったり来たりという話しはよくあるが、
それは目印がないと真っ直ぐ歩いてるつもりで人間は微妙に曲がりながら歩く性質があるから。
結果同じところをグルグル回っている・・・これを

「リングワンダリングという・・・」

誰に言うでもなく人差し指を立てながら解説する幸恵。

ヒュウゥゥゥ・・・ザアァァァァァ

時折吹く冷たい風が竹藪を揺らし、枝葉がこすれ音をたてる。
陽は既に夕日に変化し、世界を赤く照らす。
そんな雰囲気が幸恵の孤立と不思議な寂しさと不安を際立てるのだった。

「ううー、私こういう雰囲気苦手なのに」

寒さとは違う震えに顔が白くなる。
もちろん、この雰囲気とは幽霊とかその手の感じが出てくるような・・・

「は、早く帰ろう」

霊能科を受験しながら実は幽霊・・・というかその手の話や雰囲気が苦手な幸恵。
その歩みはしだいに早くなり、最終的は駆け足になっていた。

「はっはっ・・・もう、今度絶対ひーちゃんにあんみつ奢ってもらうんだから」

幸恵は自分の恐怖心を何とか親友への当てつけでごまかそうとする。
そのとき、幸恵の目にあるものが止まった。

「ん?」

それは竹やぶの中にポツリと建っている一軒の家。
現代風ではなく、田舎・・・重要文化財か昔話に出てくるような藁の屋根の家。

「やった!これで道を聞けるや!」

幸恵の表情がパーと明るくなる。
寂しがり屋なところがある幸恵の心に『人の存在』を感じることで安心感が沸いてきた。
幸恵は笑顔でその家に近づくと、庭をひょこっと覗いた。
そこにいたのは・・・

「こんにちはー」

幸恵は庭で鞠をつく6歳くらいのおかっぱの少女に声をかけた。
少女は幸恵の声に驚いた様子も見せず弾んでいる鞠を受け止めた。

「あ、あのちょっと道を尋ねたいんだけど」

こんな小さな女の子に道を尋ねるのは難しいかな?
そう思い他に大人がいないか聞いてみる。
しかし、その問いに少女は首を横に振った。
そして・・・

「あとちょっとでパパが帰ってくるの・・・・、だからそれまで一緒に遊んでくれる?」

「え?う、うん。いいわよ」

『あとちょっと』
おそらく15分くらいだろうか?それくらい待ってもいいかなと、
幸恵はゆっくりとその庭に向かっていく。
このまま迷うよりかはマシか・・・そう思い庭に入ったとき。

「あれ・・・・」

奇妙な倦怠感が幸恵の体を支配する。
これは・・・そうだ・・・。
幸恵の脳が知識の引き出しを開ける。
道場の師範が言ってた・・・

「あなた!」

幸恵はキっ少女を睨む。
しかしおかっぱの少女は・・・

「クス・・・」

そう一言だけ呟き口元をニヤリと歪めた。。
その3秒後・・・

幸恵の悲鳴が周囲に響き渡るのだった・・・。







                            その3に続く

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