ザ・グレート・展開予測ショー

※ヨメ☆コン!「GWのある日…」


投稿者名:ゆうすけ(にゃんまげ)
投稿日時:(03/ 5/ 5)


 天に高く上っている太陽が少し傾きだした初夏の昼過ぎ。一台の白い乗用車が国道を脇道に逸れ、とある民家の前に止まった。その家の前には「駐車 一時間300円」と書かれた看板が立っている。運転席から女性が降り、縁台に腰掛けていた家主に声をかけた。


     ピー!  ピー!  ピー!

「おーらいっ!おーらいっ!すとっぷっ!」

その家の家主は丁寧にその車に指示をする。車のエンジン音が止まり、再び運転席のドアが開いた。

「じゃあお願いします」

運転手は小竜姫であった。彼女の服装はいつもの道着姿とはちがい、袖の無い白のワンピース。頭には大きめの麦藁帽子を被っていた。おそらくツノを隠すためであろう。

「パピリオッ!着いたぞ!」

助手席からは横島が出てきて後ろのドアを軽く叩く。スヤスヤと眠っていたパピリオはその音に起こされ、まだ寝足りないような顔をしながら車から降りた。

「…着いたんでちか?」

眠い眼をこすりながらドアを閉める。手にはしっかりと熊手が入ったバケツが握られていた。

「まだ小さいくせに夜遅くまでゲームしてるから眠いんですよ。いつも言ってるでしょう?規則正しくしなさいって」

彼女のその有り様に小竜姫は腰に手を当てながら、口を酸っぱくする。

「も〜、うるさいでち〜」

そう言いながらパピリオはけむたい表情をする。当然保護者の立場から言って、相手にこう言う事を言われると

腹が立つ。小竜姫は眉をしかめた。

「ままっ!そーゆー事は今日はいいじゃないっスか!せっかく久し振りの外出なんだし」

やや嫌なムードになったのを察したのか、横島がフォローに入る。

「まっ、そうですね。せっかく潮干狩りに来たんですし…」

彼のそのフォローに小竜姫もある程度納得する。

「そうでち!そうでち!細かい事気にしてるから何時まで経っても胸が大きくならないでちよ!」

仕返しと言わんばかりに横島のフォローに便乗し、彼女の気にしてる部位を鋭く貫く。

「!!こらぁっ!!調子に乗らないの!!」

横島のフォローは灰塵に帰した。







燻り返った板葺きが道の両端に見える小道を抜けると、車が激しく往来している国道が三人の前に横たわってお

り、その先には人で溢れ返った砂浜が見えた。

「す、すごい人ですね」

砂より人の方が面積を占めているそこに、小竜姫は幾らか驚いた。

「まあシーズンですからね、しょうがないっスよ」

横島は割り切った表情を浮べながら、近くに横断歩道が無いか左右を見回す。

「そんな事より早く行かないと貝をみんな取られちゃうでちよ!」

そんな横島の心遣いを気にもせず早く砂浜に行こうと道路に身を乗り出すパピリオ。

「ほらっ!横断報道を渡んなきゃダメでしょ!?」

小竜姫は彼女の上着の襟を即座に掴み、歩道に引き戻す。

「あっ、あっちにあるみたいスね」

横島は横断歩道を見つけ、指差す。結構遠くにあった。

「え〜!?あんなトコまで歩いてらんないでち!!やっぱりここを突っ切った方が近いでち!!」

「ほらっ!そんな事言わないの!行きますよ!」








上から先程見た以上に砂浜は混んでいた。

「こ、この状態で潮干狩りが出来るんですかね?」

「ま、まあどこか場所が無いか探しましょう」

「あっ、あそこ空いてるでち!」

この混雑に二人が困惑してる中、パピリオの指差した先には……
黒いスーツを着た男が数人立っていた。何れも髪型はパンチパーマである。
周りの人間はあからさまに彼等と距離を取っていると窺える。

「あっ、本当ですね」

思わぬ幸運にポンと手を合わせて喜ぶ小竜姫。

「えっ!?あそこ行くんスか?」

「あんなに空いてるとこ他に無いでちよ?」

パピリオはそう言って彼等に怯えている横島の腕を引っ張り、強引に連れて行った。





彼等の中央には中年の男性が一人、表情を緩ませながらせっせと熊手で海水で湿った砂を掘っていた。

「はぁ〜。血生臭い極道から足を洗い、幼少の頃を思い出しながらこうして平和な日々を送るのはなんて幸せな事だろうか…」

「組長…組はまだ組長の物なんですが…」

その男の周りに立っているの内の一人が、その男の変貌ぶりに冷や汗を垂らしながら口を挟む。

「だまらっしゃい!」

男は気分を害された仕返しに砂をかける。

「ヨコチマ〜!早くするでち!」

と、遠くから女の子の声がしてきた。

「ふふ、そういえば妹は今何をしてるだろうか…って、横島!?」

男は横島の姿を見ると、急にテンションが変わった。

「あっ、あんたは地獄組の…」

「おっ!お前がいると言う事は美神令子がこの近くに!?うっ、うわあああああああん!!!」

「くっ、組長!?待ってください!」

男こと、地獄組組長は砂浜を走り抜けて行った。彼の部下は彼を追いかける。

彼の傷はまだ癒えていないらしい……。





「あの人どうしたんでしょう?せっかくこんなに獲ったのにバケツも置いてって…」

彼の行動に少し戸惑う小竜姫。

「さあ…?」

同じく横島。

「そんな事より早く始めるでち!」

そう言い放つとパピリオはさっきまで組長が掘っていた場所を分捕り、潮干狩りを始めた。

「そうだな。いなくなった人のことなんて構ってらんないよな」

彼女の言葉に賛同し、横島は組長が使っていた熊手を分捕り潮干狩りに参加する。

「……もうっ!でもま、良さそうですね」

「あっ!大っきいのがあったでち!これなんて言うんでちか!?」

初めての潮干狩りにはしゃぐパピリオ。

「ああ、ハマグリってんだよ」

この二人の光景を見て小竜姫は微笑ましく思った。







「もう充分ですかね?」

バケツ一杯に入った貝を見ながら小竜姫。

「そうっスね。もう良い時間ですし…」

「えー!?もうちょっといたいでちぃ!」

熊手で地面を叩きながら抗議するパピリオ。

「ダメです!そろそろ潮も満ちてくる頃ですし」

小竜姫は海を指さす。実際波は三人の踝辺りを打っていた。

「ちぇ〜でち。…それぇ!」

「きゃ!」

と、パピリオが突然彼女に向け、海水をかけて来た。

「やったわね〜。それ!」

負けじと小竜姫もやり返す。

「わっ!冷たいでち!」

横島はきゃっきゃと騒ぐ二人を見ていてふとこんな事が頭に浮かんだ。

(こう言うのが父親…もしくは夫の幸せと言うやつなんだろうか…ってオヤジ臭いな、俺)

そして一人照れ笑いを浮べる。

「っわ、ぷっ!」

その時彼の顔に泥の塊が命中する。犯人は当然パピリオ。

「やったなこいつ!」

波が往来する狭間に素足を晒しているパピリオに向け、泥を投げ返そうと横島は振りかぶる。が、投げ返す前にまた当てられ仰向けに倒れるのだった。





車は帰路に着いていた。前方の信号が赤になり、停車する。

「ふふ、パピリオったら」

小竜姫は後部座席でスヤスヤと眠るパピリオの寝顔を見て笑みをこぼす。

「動きましたからねー。あっ、青になりましたよ」

そして車は再度動き出す。



「さすがに汚れちゃいましたね…」

運転席でハンドルを操作している小竜姫が隣に座っている横島に話し掛ける。

「ですね。でも正直驚きましたよ」

「何がですか?」

「小竜姫様が免許持ってる事ですよ。いつ取ったんですか?」

「つい最近ですよ。まあ1年くらい前ですが」

予想外の回答に横島は驚いた。

「って言うか小竜姫様神様じゃないスか!?神様でも免許取れんスか!?」

「いやぁ、これでもちゃんと教習行ったんですよぉ」

頭を照れくさそうにぽりぽりと掻く小竜姫。

「そう言う事じゃなくて…いや、もう良いです」







「あ、夕日が綺麗ですね」

それは今まさに夕日が海に沈もうとしている所だった。海面が夕日と同じオレンジ色に染まる。

「ホントっスね…」

そして横島は寂しそうな表情を浮べ、言葉を繋ぐ。

「ホント、一瞬にしか見れないから綺麗なんスよね…」

彼のその言葉と表情に小竜姫は顔を曇らせる。

「あっ!すいません!こんな事言って…」

彼女の表情に気付いた横島は申し訳なさそうに顔を伏せる。

「いえ、私の方こそ…ごめんなさい」

そして彼女は再び前を向く。

(…あなたは、いつになったら彼女の事を忘れてくれるのでしょうか…)

ハンドルにかけてある左手が目に入る。薬指にはリングがはめられていた。

(こんなのは形に過ぎない…あなたが私と向き合ってくれない限り…あなたが前を向いてくれない限り、これは意味をなさない形だけの物…)

車はトンネルに差し掛かる。

(でも私には強要するつもりはありません。待ちます。ひたすら待ちつづけます………)

不意に小竜姫は横島の方を振り向き

「今日は腕によりをかけますからね!」

笑顔を浮べた。

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