ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記外伝T(その1)


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 5/ 4)

これはひのめがまだ六道女学院に入る前のお話・・・

中学三年生のも残すところ1か月となった寒い2月の出来事。








「ふわ〜・・・・寒ぅ!」

声を漏らすたびに吐き出される白い息ににますます身を縮めるひのめ。
公立中学のセーラー服の上に紺のコートをはおり、首に巻くマフラーを口元まで持ってきた。

「うう〜、公立受験組はこの時期まで普通に授業やるんだからなぁ」

夕日に照らされる通学路を家路に向かいながら厚手の手袋で握る学校指定バッグを深く肩にかけた。
肩に圧し掛かる教科書とノートの重みが嫌でも受験戦争に自分が巻き込まれていると実感する。
しかし、ひのめの受験も実は終わりを迎えていた。

「どうしよっかなぁ・・・・・・・」

ひのめは歩きながら一枚のはがきをバッグから取り出す。
それは・・・

「ひぃ〜ちゃんっ!!」

「わっ!!?」

いきなり背後から大声と共にプッシュされ驚きの声を挙げる。
そして、ドキドキと高鳴る心臓を落ち着かせ自分を驚かせた者の名を読んだ。

「ちょっと!さっちゃんビックリしたでしょ!!?」
「あははは、ごめんごめん」

親友・江藤幸恵(えとう・さちえ)は悪びた様子もなく軽くペロっと舌を出した。

「あ、何か落ちたよ」

幸恵はひのめの右手からこぼれたハガキを拾いて渡そうとする。
その内容に気付くつもりはなかった、しかし幸恵の瞳は無意識にハガキの文字を読み上げた。

「これって」

「うん、まあ・・・・ね」

ひのめは言葉を濁らせながら幸恵からハガキを受け取った。
ハガキの内容を語らないひのめに幸恵は嬉しそうな表情で言った。

「ひーちゃんも『六女』受かったんだね!!!」

『六女』、つまり六道女学院のこと。
幸恵が拾ったハガキは六道女学院からひのめへの入学通知だった。

「やったね!えへへ・・・実は私も受かったんだ♪」

幸恵は嬉しそうに懐から自分の合格通知を取り出した。
もちろん、二人が受験したのは『霊能科』。

霊力はもちろん学力もそれなりになければ入ることは出来ない。
霊能科のある学校は他にもあるが、
将来GSになるものにとって登竜門としての価値は六道女学院とは雲泥の差があった。

「私は勉強のほうがやばかったなあ、ひーちゃん程頭よくないからね」
「さっちゃん3年生になってから頑張ってたじゃない・・・それより私のほうこそ何で受かったのかなぁ・・・」

ひのめは呟くような口調で少し遠い目をする。
六道女学院霊能科に入るのは学力よりも重視される項目がある・・・・それは『霊力』
将来のGS候補を育てる霊能科にとって霊力が高いことは必須だ。
しかし、ひのめ霊力ははっきり言って一般人より少し高い程度、おそらく受験者の中では最低ラインだったろう。
それなのに届く合格通知・・・。
まさか、母や姉が六道理事長と裏でやり取りあったのだろうか・・・三人が旧知であることは知っている。
もし、自分の想像通りの展開だったらひのめには苦通以外の何ものでもなかった。

「もー!ひーちゃん考えすぎ考えすぎ!
 試験官の人が言ってたじゃない『この測定値は潜在能力まで測ることが出来る』って」

「そ、そっか。そうだようねー!私にはきっとでっかい才能が埋まってるのよねー!うんきっとそうだ♪」

プラス思考の言葉を笑顔で親友に言った、幸恵もそんなひのめに『うんうん』と笑顔で返す。
ひのめはハガキをバッグにしまうと親友と再び歩み出す、受験の話ではなく極めて普通の世間話しながら。
しかし、そんな会話をしながらひのめは心で言うのだった・・・

(そんな才能があるなら早く目覚めてよ)

と。










「ひのめー、ご飯よー」

「はーい!」

母の呼び声に自室から返事をするひのめ。
学校帰りに買った少女マンガをベッドの上に放るとドアを開け台所に向かった。
台所に近づくにつれ晩御飯をいい匂いが鼻腔をくすぐる。
時刻は既にPM7:00を回ろうかとしていた。

「あ〜、お腹減った・・・・・・・・・・・・・って」

ひのめが席に着こうと椅子を引いたとき・・・
その視野に入ったのは今晩のおかずと美智恵だけではなかった。

「な、なんでいるの・・・・お姉ちゃん」

ひのめの席の隣で当たり前のように白米を口に運ぶ姉・横島令子。
いや、それだけではない。

「あ、蛍お姉ちゃんお邪魔してまーす」
「もぐむぐ、ばあちゃんの方が母ちゃんより飯うめぇや」
「あ!お兄ちゃん!それ令花のおかずーーー!!」

ひのめから見て令子のむこうには順番に蛍、忠志、令花が各々の前に並んだおかずを口にほおばる。
その食いっぷりはさすが育ち盛りだけあって壮観なものだ。

「な、なんでみんながいるのよ」

普段一人でご飯を食べることも珍しくないひのめにとって家族みんなで食事するのは結構だが、
さすがに何の前触れも無く食卓にいられては驚きを隠せなかった。

「いいじゃない、たまには」

令子はおざなりに返事をするとお茶をズーとすすった。

「あのね、今日はママがご飯作るのめんど・・・」
「令花・・・・食事中は静かにね(ニッコリ)」
「う、うん・・・」

真実を暴露しようとする末娘に笑顔でプレッシャーをかける令子。
令花はもちろんのこと、蛍も忠志も令子の笑顔に『我関せず』を決め込むのであった。

「まあいいじゃないの。ほら、ひのめも座りなさい」

孫が来てくれて上機嫌な美智恵に勧められ席につくひのめ。

「ったく・・・お姉ちゃんは気楽よね、私は受験で大変だっていうのに・・・」

「ん?何か言った?」

「何でもないよ」

こちらを見る令子の視線と合わせないよう味噌汁をすするひのめだった・・・・。









食事を終え順次にお風呂を借りる横島三姉弟。
明日は土曜日ということもあってのんびりと滞在するつもりなのだろう、
美智恵は美智恵でかわいい孫達のために食後のデザートを鼻歌交じりで作成中だった。

食後のひととき・・・そのときはひのめは

「え〜と・・・Xが3ってことは、この式に代入して・・・グラフはこうなるから・・・」

自室で机に向かって問題集を解いていた。
GSの名家、美神家だろうが受験生は受験生、
一般中学三年生とやることは変わらなかった。

コンコン・・・

「はーい」

解き終わったと同時に鳴るノックに返事をする。

「あら?勉強中だった?」

ゆっくりとドアを開き入ってくる令子。
ひのめは『構わないよ』と手振りをするとベッドに座ってと指を差した。

「おお、何か受験生っぽいわね」

令子はひのめの机に広がる問題集の束を見てからかうように笑いをあげる。

「『っぽい』じゃなくて、受験生なのよ。何?からかいに来ただけなら出てってよ」

ひのめは少しトゲのある言葉で令子をジロっと睨んだ。
ひのめだって人の子だ、受験戦争でナーバスになるのは当然。
今は姉の冗談に付き合う気はなかった。

「怒らないでよ、これでも心配してるんだからさ」

「どうだか・・・」

令子の弁解に背を向け再びペンを走らせるひのめ。
そんなひのめに令子はやさしい声で言った。

「ねえ、六道女学院には行かないの?」

「・・・」

その言葉にひのめの手の動きが止まる。

「ママに聞いたわよ?合格したらしいじゃない霊能科。
 六女の霊能科って言ったら勉学レベルもなかなかだしGSになるなら近道じゃない」

ひのめは椅子をしならせ令子のほうに振り返る。
そして少し言葉と口唇を尖らせた。

「別に・・・・私GSになりたいわけじゃないし・・・
 それに今度受ける公立高校のほうがレベル高いのよ」

それだけ言うとひのめはなるべく令子と目を合わさぬよう再び背を向ける。
その表情はどこか寂しげなものだった。

「そっか・・・・」

令子はひのめの背にどこか穏やかな視線をむけると、
ベッドからよいしょと立ち上がった。

「ま、あんたの将来だもんね。ひのめが好きに決めればいいわよ」

「始めからそのつもり」

ひのめは振り返らずにポツリと言った。
霊能科を受験しながGSになる気はないという明らかに矛盾した行動と言動、
今のひのめはそのことにも気付いていないのかもしれない・・・

そんな妹に心配そうな視線を送りながら部屋を出て行く令子だった。









「じゃ、帰るわ」

PM9:30。
そろそろ旦那も仕事から帰ってくるだろうと、帰宅の準備をする令子。
それにつられ上着を羽織り始める蛍達に美智恵は『帰らないで』とアイコンタクトを送る。

「ママ・・・そんな目したら帰り辛いでしょ、ったく」

令子は子供達が同情心を起こす前に先に車に行かせる。

「そんじゃ、また明日ねママ」

「明日?」

美智恵は何のことやらという表情で右手を頬に添える。

「忘れたの!?明日はいつも捜査に(半ば強制的に)協力してる御礼に今度は私の除霊に協力するって言ったじゃない!」

「ああー!はいはい。言ったわねそんなこと」

母のとぼけた言葉にグヌヌと握り拳を作る令子、
そんな娘にごめんごめんと困った表情で謝る美智恵だった。








カリカリカリカリ・・・・

ひのめの手の動きは止まらない。
数学、国語に始まり今度は理科の問題集を詰まることなく解いていく。
これでも成績は上の中くらい、確かに勉学なら六道女学院・霊能科よりも高いところには入れるレベルだった。
しかし・・・

「ゴーストスイーパーか・・・」

シャープペンシルを手放し、右手で引き出しを開ける。
そこにあったのは一枚のハガキ・・・
それは例の六道女学院合格通知だった。

「どうしよっかなぁ・・・」

ひのめは一言だけ呟くとハガキから目を離し引き出しを閉める。
そして再び問題集を解き始めるのだった。





おまけ・・・

その日・・・

仕事から帰宅した横島がテーブルに置いてある、

『子供達とママとこで晩御飯食べてくるね  by令子(はぁと)』

の置手紙と一緒に並べられたカップラーメンを見て泣き崩れ、
帰宅した蛍と令花に慰められるのはまた別の話。




                                    その2に続く


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