ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−44


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 5/ 4)





<人狼の里>

かつて、人狼の里には戦があった。
妖刀八房を携えた、犬飼という男の暴走。
その戦いを治め、その過程で彼らの女神アルテミスをその身に降ろした人間、美神令子。
ドッグフードでの餌付けなど、狡い真似もやった甲斐もあって、彼女は人狼達に一目置かれ、その中でも犬塚シロが人界へ舞い降りた。

今、令子はそのシロを呼び戻そうと人狼の里を訪れていた。

人狼の里はシロの帰郷以来、人界との、いや、GS協会との連絡を絶った。
里を覆う結界を強化し、同胞以外の来客を拒むようになっていた。
恐らくは、シロの口から語られた蛮行に怒り、恐れ戦いたのだろう。
彼らは迫害された歴史も持っていた故に。

令子は思う。
犬塚シロはこんな事態に引っ込んでいる性格ではないと。
最近はどうも精神が失調気味の彼女ではあったが、犬塚シロは協力してくれるだろうことは確信していた。
一人でも欲しいのだ。
使える人材が。
そして誰かが。かつて横島がそうであったように、誰かにムードメーカーになって欲しかったのだ。
本来は自分がやるべきなのだろう。
だが、時を経て精神的に再建を果たした今でも、昔のように無邪気にはなれない。
母の二度目の死は堪えた。
横島、おキヌ、シロ、タマモ。
彼女の家族を形成していた存在は傍には居てくれない。
西条はひたすら、対横島の仕事に打ち込むようになった。
もはやかつての英国紳士風のダンディズムは影を潜めている。
誰かに傍に居て欲しかった。家族の誰かに。支えてくれる誰かに。
こんな時、自分が誰を求めているかを彼女は悟ってしまっている。
しかし、その相手が二度と自分の元には戻ってくれないだろうことも悟らされてしまった。
だからこうして、唯一、話が出来る存在を求めて人狼の里を訪れている。
弱くなった自分に自嘲しながら。



結界の直前まで立ち、彼女は拡声器を片手に叫ぶ。
人狼の持つ、超感覚に希望を託して。



「こんの馬鹿イヌッ!!!
 とっとと〜!!!帰って来い!!!!!!
 横島君を殴りに行くわよ――――っ!!!!!!!」






果たして、犬塚シロは閉じ込められていた。
罪人としてではなく、身内を案じる者達によってだ。
最初の頃こそ、師と慕う横島の不幸を嘆いていたが、次第にそれは彼女の闘志を燃え立たせるようになった。
だが、それは遅かった。
出立の準備を整える彼女の耳に入ったのは、結界で里を閉ざすという長老達の決定。
急いで自分が出るまで待って欲しいと訴えに行った彼女を待ち受けていたのは、完全武装の同胞達。
そして彼女は捕らえられた。


「何が拙者のためでござるか!!
 師の危機に馳せ参じることが出来なくて、何が弟子でござるか!!!」

シロの訴えは誰を動かすこともなく、虚空に響く。
その声に長老は一人呟く。

「もう、人間に希望を持つのは止めよう。
 彼女達ならばと信じてみたが………人間達は彼女達をすら排除した。
 我々はひっそりと静かに暮らすことにしよう。」

「先生や美神殿に助けられた恩を忘れるつもりでござるか?!!!」

長老は答えることなく、頭を振るだけでシロを連れて行くように合図する。

「●×◆▲○××□○☆×◆▲○××□○☆×◆▲○××□○☆!!!!!!!!」

シロが思いつく限りの罵詈雑言を放っているが、長老はそれを悲しげに聞き流す。

「そういう人間とは知っておったが、妙なところばかり影響を受けおって………」



そういう経緯を経て、今日に至る。
既に罵倒のネタは尽きたし、いい加減飽きた。
閉じ込められたと言っても、そこはきちんとした部屋であり、生活する上では特に問題ない。
食事もきちんと出るが、彼女にとってのライフワークである散歩が出来ない。
そんな毎日を過ごしていた。
鬱屈としたフラストレーションを溜め込みながら。
変化の無い毎日は、彼女の感覚を鋭敏にさせる。
外を歩く同胞の足音、お喋りの内容。
その超感覚でそれを察知し、彼女は待っていた。
変化が訪れるのを、自分がここを脱出するチャンスを、辛抱強く待ち続けていた。
そしてある日、唐突に里全体に響く声。


『こんの馬鹿イヌッ!!!
 とっとと〜!!!帰って来い!!!!!!
 横島君を殴りに行くわよ――――っ!!!!!!!』


待ち望んだ変化がついに起きた瞬間だった。







『シロは連れて行くわ。』

『静観?まさか人狼の里が人界に含まれないなんて思ってるわけじゃないでしょうね?』

『ママが………死んだわ。』

『何度も言わせないで。魔族にとって、人狼も人間も違いないわよ。』

『そうよ。その横島君よ。その横島君がGSと神族を壊滅に追いやったわ。ただの魔族じゃない。魔神としてね。』

『…………分かったわ。構わないわね、シロ?』


美神と長老のやりとりは平行線を辿った。
美神としては、前述した通りになんとしてもシロが必要だった。
長老としては、若く有望なシロを死地に追いやることなど出来なかった。
そこで彼が出した条件。

『百人抜き』

悲しむべきかな。
実際は百人も戦える者はいないのだが、それでも60名ほどの人狼を相手にシロが勝利し続けること。
それだけ強ければ、そうそう死ぬこともあるまい。
それだけ強くなければ、連れて行く必要もあるまい。
それが長老の言葉だった。
如何に無茶なことであるかは、言っている本人が一番分かっているのだが、それを言った相手が如何に無茶な存在であるかは分かっていなかった。

『もちろんでござる!!!先生を止めるのは拙者の仕事でござる!!!』

同時に、シロが如何に美神達の影響を受けていたのかも、分かってはいなかった。


そんな経緯があって、今、シロは百人抜きの真っ最中。
里の中央にある広場。既に夜も更けつつあるそこにはかがり火が煌々と辺りを照らしていた。
美神や長老達の見守る中、シロは己の霊波刀を、サイキックソーサーを駆使して戦い続けた。
当初は小娘と侮っていた人狼達も、今や本気で相手をしている。

シロの成長は著しいものがあった。
人狼たちの多くが、その優れた身体能力を駆使して戦おうとするのに対して、シロは如何に効率良く戦うかに留意していた。
受け止めるのではなく、流す。
己の全力を振り絞るのではなく、相手の力を利用する。
猪突だった昔とは明らかに違う戦い方。
その戦いぶりは、明らかに60人という先を見通した物であり、傍から見ても美しいものであった。
美神はその戦いぶりに満足し、長老達は驚きを隠せない。

「力の無い人間の戦い方よ。ある物は全て利用する。そう、相手の力さえもね。」
そう呟く美神の言葉に、長老はある決意をして姿を消す。
それを横目で眺めつつ、美神はシロを応援する。

「あと30よ!!!半分切ったわ!!!」








姿を消した長老が戻って来た時、既にシロは40人目を倒したところだった。
残り20人こそ猛者揃いであると知るシロは緊張を隠せない。
長老はそこである男に二言三言告げ、勝負するように指示を出す。
その男は驚いた顔をしたものの、それに頷き前へ出る。




父と犬飼に次ぐ実力の持ち主。
それだけにその剣先は鋭く、体裁きに無駄が無い。
『何故にこの段階で彼が?!』
シロは舌打ちしながらも、戦い続ける。
先を見越して霊力は温存し続けてきた。
霊波刀を常に出し続けるのではなく、具現化させるのは一瞬だけと限定してまで、霊力を温存してきた。
だが、今目の前に居る相手はそんな生易しい相手ではない。

「犬塚シロよ。貴様は確かに強い。戦い方も巧みになった。成長したことを認めよう!」
かつて、その男は父の弟子であった。
シロも知らぬことだが、父はシロの婿にと考えて節もあった。
シロは女としてはまだ幼すぎて、年の離れた妹としか思えなかった。
しかし、里へ戻ってきた妹は確かに強く、そして凛々しい女となっていた。

何合か剣を合わせ、鍔迫り合いに発展する。
触れ合った霊波刀はスパークを起こし、今にも爆発しそうな気配だ。
それだけ二人の実力が伯仲しているということだが、男はシロに問い掛けた。

「シロ、お前は霊波刀を何本出せる?」
男の問い掛けの意図が読めない。
そしてそれに答えることは、シロの手の内を明かすこととなる。
「言わぬか。当然だな。お前の実力なら、恐らくは2本。」
言いながらシロを突き飛ばして距離を取る。

「見ろ!これが我が師であり、お前の父であった男の必殺技だ!!!」
男の空いた方の手にも霊波刀が握られ、二刀流の構えを取る。
そしてそれを振りかぶって、シロへ向けて振り落とす。


衝撃波がシロへ向けて走る!
それを迎撃しようと、シロも両手に霊波刀を2本構える!
だが、シロは見た!
シロの間合いに入る直前、その衝撃波が4つに分かれるのを!



ズンッ




吹き飛ぶシロ。
3つまでは迎撃出来た。
しかし、残りひとつは防げなかったようだ。
土煙が巻き起こる中、シロは何とか立ち上がろうとする。
男は大人しくその様を眺めている。





「そうだ。立て。手加減したから立てぬはずが無い。
 そして、俺と同じレベルの実力を持つお前になら、同じことが可能なはずだ。」

ギリッ!

歯を食いしばって、立ち上がる。

(この威力で手加減したのでござるか?)
思いつつも、疑問を投げ掛ける。

「何のつもりでござるか?
 拙者なら確かに出来るでござろう。
 だが、それをしてどうするつもりでござるか?」

霊波刀を構えなおして、技のコピーを図る。
問題無い。今の自分なら出来る。

「やって見せろ!
 師はその技を持ってしても、八房を持った犬飼に敗れたのだ。
 そしてお前の次の相手は、八房を持った長老殿だ!!!
 勝て!そしてお父上の無念を果たせ!!
 お父上の技が八房に負けぬことを証明してみせろ!!」






折れた八房の刃部分を弄びながら、長老は静かに目を閉じていた。





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