ザ・グレート・展開予測ショー

純文学(マテ)「グラタンの周囲で」


投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 5/ 2)

鼻で笑って読めばいい。そういう話です。



それはいつもどおりの午後だった。
おキヌは学校、シロとタマモは外出中。
事務所のなかは、令子と横島だけ。あまりのヒマさと暖かさにアクビが出そうだった。

「天気のいい日は、仕事が入らないわねぇ」
「そんなもんですか」
「やっぱ悪霊も、天気のいい日は出てきたくないもんよ」
「・・・そんなもんですか」

そんな、平和なひとときを破る闖入者は、突然あらわれた。

「やあ、令子ちゃん。調子はどうだい?」
「あら、西条さん!」

西条が顔をみせたとたん、令子の顔が輝きだす。なにも、こうまで露骨に顔に出すこたねーだろ、と横島はひそかに吐き捨てた。

「ふふふ。西条さんもヒマそうね」
「こう天気がいいとね。参っちゃうよ。・・・ところで、どうだろ。今夜あたり、ご飯でも食べに行かないかい?」
「すみません。あいにく多忙で・・・」
 
なぜか、横島が胸を張って返事をした。
 
「横島くん、だれが君の都合を聞いとる」
「そうよ、他人の会話に割り込むんじゃないわよ!・・・あ、西条さん、もちろんOKよ(はぁと)」

ニコニコしながら返事をする令子を見て、横島は、俺がこのおねーさんを堂々と食事に誘えるようになるのは何年くらい後だろうか、と思った。

「し、しかし美神さん、今日の仕事はどうするんです?」
「仕事?・・・今日はもういいわ。あんたも帰っていいわよ」
「そ、そんな・・・」

令子と西条は、まるで恋人どうしのように寄り添いながら部屋を出ていった。

「・・・なんでじゃーっ!?俺とヤツの違いはなんなんだ!?顔か?トシか?才能か!?人間はどうして不平等なんだ、人間を創りし神は責任を問われんのかーっ!!?」
 
横島が、第三者にとってはウザったらしい悲嘆の涙にくれようとしたとき、横島の携帯電話(最近ようやく購入した)が鳴った。


 


都心からすこし離れた、静かなレストラン。西条はここで夕食をとるらしい。
西条にエスコートされ、店に入ったとたん、令子はギョッとした。

そこに、横島がいた。
なぜか、横島がいた。

しかも、彼は一人ではなかった。横島の向かいに座り、組んだ手にあごをのせ、きょとんとしている女性がいた。彼女の名は。

「ま、魔鈴めぐみ・・・」
「あらこんばんは、美神さん。西条先輩」


「な、なんであんたたちがここにいるのよ!?」
「ええ、今日は横島さんに、ここのご主人と私とで創作した料理の試食をしてもらうんです」
 
魔鈴は、ニコニコしながら答えた。
 
「横島さんは、いつも私のお店に来てくださるから、こういう形でお返しできて、とってもうれしいです」

横島は、あわてて魔鈴を止めようとしたが、もう遅かった。

「いつもって、まさか毎日・・・?」
「いいえ、週に一度ぐらい・・・でしょうか。ねえ、横島さん?」

令子の周囲には、悪霊もビビって逃げ出すほどのオーラがたちこめている。
西条の息が荒くなっていた。横島の手の震え方も尋常ではない。
ひとり、魔鈴だけはニコニコしていた。

令子は、横島の全身を舐めるように観察した。いつものジーンズの上下ではなく、茶色のスラックスに革靴をはき、ワイシャツに黒のジャケット、ネクタイまでしめていた。バンダナは巻かず、バサバサの髪を、ざっとだが6・4にわけている。

「いつになくオシャレねぇ、横島クン・・・?」
「いえその、ば、バーゲンです、ハイ・・・」
「フン!事務所にも、そういう格好で出てくればいいのに・・・」
「いや、こんなの、仕事で着る服じゃないっすよ・・・」
「なんですって!?」
「いや、だって!ほら、俺、なんつーか・・・体はるでしょ!?だ、だから、だから・・・」
「へえ〜え、そうなの。ふう〜ん、そうなの・・・」
「ええ、そうなんです、ええ・・・」

やがて、それぞれのテーブルに、それぞれ料理が運ばれてきた。

「このグラタンが新商品なんですよ♪」
「そう・・・ですか。じゃあ、このスープは・・・?」
「あ、それは私のサービスです(はぁと)」

ビシッ・・・・・・

「おいしいですか、横島さん?」(魔鈴さん、罪のない笑顔で)
「は、とっても、おいしゅうございます・・・」
「よかったぁ♪これで、お店のほうにも自信をもってお出しできます♪」

ビシビシッ・・・・・・

令子のこめかみが震える音が聞こえるような気がする。味など、わかる状態ではない。



(チキショー・・・。美神さんだって、西条とうれしそうにデートに行ったくせに・・・。魔鈴さんとメシ食ってるってだけで、俺はなにもやましいことなんかないのに・・・。ささやかな幸せにひたっていただけじゃないか、こんな不条理なことがあるか・・・!)

 

 
だからといって、この心のうちを声に出す気にはなれなかった。

恐怖が、横島を支配する。

人間の本質とは臆病さ・・・であると、このときほど横島が実感したことはなかった。

 


昼間はあれだけ天気がよかったのに、日の落ちた今は、台風が襲来したような暴風雨が店を激しく叩いていた。

 

 








 















 




せっかく令子を食事に誘い、大枚はたいたにもかかわらず、味のわからない食事に終始した西条が何を思ったか、それは誰も知らない。

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