無能なる人(?)を愛した末路(謎) −前編−
投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 4/27)
馬鹿話です。が、ほんのりと幸せ色です。
街灯がほんのりと闇を裂いて光を照らす。
その光に寄り付く虫たち、顔をしかめつつも、その光の中、俺は歩く。
ポケットに手を突っ込んで指に覚える、冷たくて固い何かの感触。
取り出して、手の平の上で、光に映す。
ボルト・・・?
そうこれは・・・確か―――。
俺の中に色鮮やかに蘇る、あの焦がれた日々。
手の平にほのかに宿る優しい光。心の中に映る何時かの記憶。
とりとめもなく、心の中に注がれる不思議な気持ち。きっと、心地良いんだって。
笑えないくらいに強く惹かれていた。魅力なんて、口に出来るほど多くもなくて。
ただ、何となく、一緒にいて幸せになれるから。そう思ったからだから、俺は彼女を選んだ。
笑顔が綺麗で―――上辺だけの優しさなんかじゃなくいと思えたから。
―――二人でいたら、きっと幸せ。そう思えたから。
街灯を抜けて、闇の中。
駅から遠くて、お世辞にも上等とは言えないボロアパートの前。
それなりの給料を貰っているのに、こんな所に住んでいるのには理由があって。
―――まさか、あんなに保証の利かなくなったロボットを修理するの、あんなにお金が掛かるなんて思わなかったからなぁ・・・。
苦笑しつつ、インターホンのボタンを押す。
返って来る明るい声に疲れが消えていくのを感じる。
君と過ごした日々を思い出すたびに。君との別れを思い出すたびに。
悲しくて、切なくて、愛しくて、何度となく君のことを思うけど。
でも、もう、泣く事はない。君はいるから。
そう、君はいるから―――。
開かれたドアの向こうに、年がら年中、俺の心を不安と愛で埋め尽くしてくれるある意味はた迷惑な君が。
「お帰りなさい♪」
今日の不安は杞憂で済んだらしい。三日に一度のペースで引き起こされる問題も今夜はなくて。
愛はあって困る事はない。
だから、今夜は不安も愛に回そう。
「ただいまっ」
抱きしめながら、そう思う。
―――何時かの記憶。
勉強してる俺の横で、正座して時計を見つめてる彼女。
時々は眠そうに頭を上下左右に揺らして―――。
はっ、と慌てた顔で時計に視線を戻して、ほっと溜め息をつく。
まるで人間のようなその仕草に苦笑いを浮かべながら。
俺は机の上でペンを走らせる。
眺めている時間は参考書よりも彼女の顔の方が長いってのは問題かもしれないけれど。
でも、少なくとも、有意義な時間と言うなら、ずっと彼女の顔を眺めているほうがいいのではないだろうか?
一瞬じゃなくて、一生の尺度で考えてみてもきっとそうだって。
俺は、その時、そう思ってた。
そして、今でも、それは間違ってはいなかったと思ってる。
いつものように時間が訪れる。
肩を揺する指先の感触。
タイマーの代わりになるのは彼女の声。
微妙に時間がずれたりするのはご愛嬌で。
彼女は照れ笑いとも、誤魔化し笑いともつかない顔で俺を見つめながら言う。
「あの・・・お食事にしませんか?」
「うん、んじゃ・・・食おうか?」
不器用な君が必死で作ったその料理はとても人の食べられるものではなかったから。
だから、必然的に料理を作るのは俺になる。
「・・・ごめんなさい・・・私が作れたら・・・良かったのに・・・」
「気にしないで・・・」
君が悲しげに俯くのは望まない。
笑って欲しい、でも、そんな君が愛しいから。
「・・・おかげで、料理の腕も上がったしなっ」
前向きな思考に切り替える。
すると、彼女は顔を上げて、何時もの君に戻る。
お調子者、半笑いの思考も、君の笑顔に溶けていく。
―――本当に、良かった。
ベランダに干された数枚の洗濯物。正確には俺が干した洗濯物。
それほど数はない、放っておくとすぐ溜まってしまうから、溜まってしまうと彼女の目に付く。だから、洗濯物が溜まる前に俺がやっておく。
「洗濯物、ありませんね・・・どうしてなのかしら・・・」
洗面所の横に備え付けられた洗濯機の前の籠を不思議そうに見つめる君に言えなかった事。―――何となく、簡単な洗濯機の操作でさえも致命的なミスを冒しそうな君に任せるのが不安だから・・・いつも俺がやってるんだ・・・って。
言えない、言わない、言う必要もない。
これは君への裏切りなんだろうか?
―――そう思うと少し辛いけど、君が俺に見せるのはいつも笑顔だから。
―――心底、愛おしい。
振り返り見て、優しく触れる。
柔らかな感触は、君の服。
今までの
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