ザ・グレート・展開予測ショー

桃太郎の桃−後編の2−


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 4/26)


 壊れてるつもりではいるんですけどね・・・でも、壊れてないかもしれない。これは、問題かもしれないんですけど。いえ、「壊れてますっ」て、誰かが言ってくれるなら・・俺は強くなれるかもしれない(前書き長っ)










 和やかなムードを漂わせている俺たちを睨む二頭が・・・。
 背中に感じる獰猛な野生。
 その時、俺は確かに『殺意』というものを感じました。
 何故そんなものを放っているのかは知りませんでした。が、どうせ、いつもの通り―――何時もよりも、ややたちの悪い喧嘩だろうと思っていたんです。

 そう、それは何時もよりも―――派手なものになりそうでした。

 きつねがまるでドーベルマンにでもなったかのように―――。
 鳩がまるで鷹にでもなったかのように―――。

 鋭い―――丸い刃のナイフのようなたちの悪さを感じさせる気配でした。
 触れたら切れて、患部が治りにくそうな。そんな気配でした。

 先手は―――ドーベルマンでした。


 「あんた・・・人のご主人様に何ちょっかい出してんのよ?」

 え・・・思わずタマモの顔を見ました。
 眉間に皺を寄せて・・・怒ってるんだってことは見て取れました。
 しかし―――どうして怒ってるのかは解らなかったんです。


 後手は―――鷹でした。

 「そうです・・・忠夫さんは私のご主人様なんですから」

 そんで、上を見ればまた・・・小鳩ちゃんも怒ってるわけです。

 二人とも、ぷんぷんです。



 しかも、どうやら―――攻撃対象は俺だったようでした。

 何故?

 「・・・ご主人様・・・?」

 竜姫さんが俺の方を見ます。
 何て言うか、とことんまでに悪い方向っぽい、複雑な眼差し。
 少なくとも、一流のペットブリーダーへの憧憬の眼差しとは思えませんでした。

 当たり前ですけど。

 「あの・・・横島さん?」

 俺は何を言えばいいのか分からなくて、頬を掻いてました。

 「これは・・・一体どういう事なんでしょうね・・・」

 落ち着いた響きの中に含まれている幾ばくかの負の感情。彼女に嫉妬してもらえたと考えるのは浅はかかもしれませんけど・・・でも、嬉しかったんです。
 多分、好きになった人ですから。

 「旅の連れですよ。ご主人様云々の関係になった覚えはないっす」

 正直に話すと・・・彼女の目は少しだけ柔らかいものになりました・・・でも。
 消えてはいないんです。疑うような色が。
 少しだけ・・・肝が冷えました。

 まさか、彼女も・・・アレか・・・と。

 でも、彼女は強張っていた表情をふっと緩めると穏やかに私に告げました。

 「そうですね・・・私は貴方の妻になるわけですし・・・過ぎた過去の事をどうこう言ったってしょうがありませんし・・・」

 聞き流してはならない言葉が一つありました。
 でも、それも良いかな?と、正直思いましたんで。
 別に苦でもない。そう思いました。

 でも―――その言葉を聞いて黙っていられない連中がいたんです」

 「九尾と鳩ね」

 「ええ、そうです・・・。あの・・・九尾ってのやめてもらえません?あいつ、そう呼ばれるの嫌がりますし・・・タマモって呼んだほうが嬉しそうですし・・・」

 「・・・解ったわ」

 「鳩ってのも・・・」

 「はいはい・・・解ったから」

 「すんません・・・で、さっきの答えなんすけど・・・正解です。あの二頭・・・無謀にも竜姫さまに喧嘩を売ったんです」

 「・・・竜にねぇ・・・」

 「そりゅあ、絶対的な能力の差がありますし。だから、竜姫さまも手加減して彼女らの相手してたんですけど・・・」

 「あんたらがここに落ちてきた時・・・あの娘は狂ってたわよね?」

 「逆鱗ってのに触れたらしくって・・・」

 「ふ〜ん、どこらへんにあんの?それ」

 「貧乳・・・」

 「へ?」

 「ぺちゃぱい・・・」

 「は?」

 「年増」

 「ちょっと、何よそれっ!?」

 「何で(そこで)鬼さんが怒るんすかっ!?・・・とまぁ、力で勝てないなら口で勝負しようと・・・姑息な戦法に変えたわけです」

 「・・・それって戦法って言うのかしら?」

 「まぁ・・・怒らせることは出来たみたいで」

 「狂ったの?」

 「はい。最後の『もう、成長の余地なし』と言う言葉で完全に」

 「・・・無様ね」

 で。

 俺は何だかんだで彼女に連れ去られた。というよりも、狂った彼女の口の中に放り込まれ、歯にしがみ付いていた。口が閉じられることは無かった。どうやら、彼女の一抹の理性は残っていたらしい。
 その俺を見ていた二頭も尻尾にしがみついた。
 特に目的地があると言うわけでもなかったらしく、彼女はほど近い島に落ち―――

 ・・・そこが鬼が島であることを知ったのは、金銀財宝の上で寝ている真っ赤な髪の美しい女性を目の当たりにしてからだった。






 細波に、作っていたお城を崩され、泣きそうな顔を浮かべる竜姫様。思わず、抱きしめたい衝動に駆られる。伸ばしかけた手を引いて、声を掛ける。
 彼女は、近づく俺に気付いていた。呆然とした表情を俺に向け、俯く。

 「竜姫様・・・」

 「忠夫様・・・ごめんなさい・・・こんなことになっちゃって・・・」

 「気にしないで・・・それよりも・・・大丈夫?」

 『こんなこと』には、比較的慣れっこだった。それよりも、彼女の精神的なダメージが気になる。でも、彼女は更に頭を下げた。

 「・・・私・・・忠夫様に迷惑かけちゃいましたね・・・」

 「そんなこと・・・」

 迷惑じゃないわけが無かった。確かに、鬼が島と言う場所に来たのは彼女のせいだと言えるだろう。でも、心を潤してくれたのは間違いなく、彼女で―――。

 「私・・・神界に帰ろうかな・・・?」

 「だめだっ!」

 「!」

 「駄目だ・・・竜姫様・・・俺、一人にしないでよ・・・」

 「・・・忠夫様・・・忠夫様は・・・私がここにいても・・・受け入れてくれますか?」

 「当たり前だろ?」

 「・・・私」

 「俺・・・体とか・・・少しは・・・まぁ・・・(こだわりとか)・・・あるけどさ・・・でも・・・まぁ・・・何というか・・・」

 「?」

 「俺、竜姫さまの事・・・好きだよ」
 
 「・・・はいっ・・・私もですっ!!」

 「それで・・・さ・・・」

 「・・・何です?」

 俺は言うのを躊躇った。言わなければならないこと、これを言ってしまうと、彼女は自分を軽蔑するかもしれない。
 今まで―――と言っても、それほどに長い時間、一緒にいたわけじゃないけれど―――全てを否定するかもしれない。自分のこの気持ちも、全てを。
 それでも、言わなければならない、そう思った。
 訝しげな顔をする彼女に、しばし、逡巡して―――告げる。



 「俺・・・実は・・・」






























 彼女が息を飲む。
 俺は不安そうな彼女の顔を見つめ―――彼女に癒された時間を思い返した。
 一瞬―――本当に短いながらも、桃として生を受け、最も恵まれた時間だったのではないか―――と、そう思い、何故か溢れ出る涙を抑える事ができなかった。
 告げることによって失われるかもしれない・・・幸せと・・・
 告げることによって得ることができるかもしれない―――永遠の安息。
 告げないでいることによって得られる幸せがどんなものかと考えて―――否定する。
 そんなものは、幸せなんかじゃない、と。










































 「・・・桃なんだ」





 彼女は・・・顔を歪めた。








 口元を、やや上向きに。












































 「知ってましたよ・・・」

 俺を見返す彼女の顔は―――笑顔だった。
 出会ったときに浮かべた―――穏やかな、包容力に充ちた微笑み。
 木の股より生まれし、母のない俺が感じた母性―――。
 それは、まさに、『女性』の姿だった。

 「分からないはずがないじゃないですか・・・あなたは、何処から見たって桃ですし」

 「・・・そうだよね。俺、どこから見たって桃なのに・・・」

 「不安だったんですか?あなたは・・・桃だったら、嫌われるんじゃないかって・・・」

 「・・・うん」

 「馬鹿です、あなたは・・・」

 「ば、馬鹿って・・・俺、竜姫さまのことが好きだから・・・」

 「好きになったのなら・・・桃であろうが人間であろうがかまぼこであろうが・・・関係ないです」

 「・・・竜姫さま・・・」

 「あなたは、私が人間だったら・・・嫌いになりますか?」

 「ならないよ。俺、竜姫さまが竜だろうと人間だろうとのやきだろうと・・・嫌いになることは絶対にないよ」

 「それなら・・・分かるはずです?・・・私は・・・あなたが好き―――」

 俺は、顔を赤らめる竜姫さまの身体を抱きしめた。桃である自分が抱きしめても・・・柔らかなこの身が潰れることなどありえない、桃なんかよりもずっと柔らかな体―――そして、良い香り・・・首筋に鼻を当てながら―――感じる、竜姫さまの気配。
 抱きしめて・・・気付く。自分は何て馬鹿な思い違いはしてたんだろう?
 彼女は愛してくれてる―――恐れを抱く必要もない。
 黙っていること、それさえも悪くはなかった。彼女がありのままの自分が好きであると言ってくれた―――例え、桃であろうとのやきであろうと自分を好きだと。

 信じるべきだったんだ。彼女を。

 そして、自分も、彼女が好きであると分かっていたはずなんだ・・・。好きなんだ―――そう、例え、彼女がはんぺんであっても―――。
 ゆっくりと熱を孕む心と体―――分かち合うお互いの気持ち。
 何も、恐れるものなどなかった。そう、何も・・・。



 続くかも。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa