ザ・グレート・展開予測ショー

桃太郎の桃 −後編の1−


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 4/26)


 壊れてます。壊れてないかもしれません。でも、壊れてる、と本人が言ってるんだから壊れてるんでしょう、ええ、壊れてます。壊れてるさっ!!―――多分。





 「・・・ああ、あの竜ですか?彼女は・・・















 タマモと小鳩ちゃんの仲は相変わらず最悪でした。喧嘩も絶えない二匹、その間に挟まれる俺は無いはずの胃が酷く痛む日々を過ごしていたんです。
 まぁ、桃ですから。恐らくは種のある辺りを押さえてたことになるんでしょうけど。
 ただひたすらに歩き、疲れたら山の幸を摂取して、眠る。食べ物は、彼女らが競うように収拾してくれたので困ることはありませんでした。
 それでも、幾ら川から流れて来た大きな桃と言えども限界はあるわけです。
 ストレス―――植物がそんなものに影響されるかは解らないんですけど・・・確かに何かが俺の体と心を蝕んでいるのを感じていました。

 んでも、所詮、桃の言うことです。

 「ストレスで胃が痛いんだよぉ・・・」

 とか言ったって、鼻で笑われるに決まってます。桃がストレス感じるわけが無いってね。小鳩ちゃんはどうかな・・・?でも、幾ら面で笑わなくとも、心の中で笑われそうな気がしました。誇大妄想かもしれませんし、実際、彼女はそんな子じゃないんですけど・・・。でも、そう思うのは無理ないでしょ?自分、桃ですし。
 いえ、まぁ、植物がストレスを感じないかなんて俺、解らないでしょ?だから、言うことも出来ずに、いつものように目的地も無くぶらぶらしてたわけです。
 小鳩ちゃんが、借金取りに追われてるって事もあったんで・・・。
 何故かは聞けなかったんですけど・・・あの、変な格好をした子供に「銭の花」とか何とか言って誤魔化されそうな雰囲気がひしひしと感じられたんで・・・。


 そんな生活を送っていたある日の朝の事です。
 目覚めてみると、山の中を一日中包んでいた生き物の気配が消えていたんです。虫や、獣の鳴き声、木々のざわめきまで、ひょっとして・・・桃らしく耳なんてものがなくなってしまったんじゃないかと、期待と不安が綯い交ぜになりました。
 ようやく桃らしくなれる・・・という焦がれていた日々が成就する思いと。
 ああ、いよいよ桃になってしまうのか、という漠然とした不安。

 まぁ、隣から聞こえてきた欠伸にその複雑な心境はぶち壊しにされたわけなんですけどね。

 彼女らもその違和感って奴を無意識に感じたらしく、いつも寝覚めの良い小鳩ちゃんはともかくとして、低血圧なタマモまで何時もよりも早く目覚めたんです。

 皆で軽い朝食を取った後、この森をいったん出る事に決めました。
 同じ動物である彼女らは感じなかったみたいですけど、何というか、危険な出来事が起こる予兆、って奴ですか。きっと、何か恐ろしいものが迫る、そんな気配を森の中で生ける獣たちは感じ取ったのではないか・・・。勘違いかもしれません。危険だとか、そう言う類いのものでないのかもしれませんけど、何分こちらは狐と小鳩と桃です。RPGでやったなら、初戦闘で全滅になりそうな予感がぷんぷんするような最弱パーティー。
 ちなみに、雑魚キャラのMVPは桃の俺であることは言うまでもありません。

 タマモは、「どってことはないわよ」って言ってましたし、小鳩ちゃんも森から出て借金取りに・・・云々の事情であまり好ましくは思っていなかったみたいです。
でも、俺はどうしてもこの森から出ないと行けない、そう言うと、しぶしぶながら二人共従ってくれました。

 「ああ、これが忍ぶ愛なのね・・・」

 「一生忍んでなさいよ」

 ―――喧嘩になったりもしたんですけど・・・。何とかなだめて・・・。
 三日分の神経痛が種を震わせました。

 何だかんだで・・・とにかくこの森を出ようということになったわけです。森の中の地理は把握していますっ、と豊かな胸を張る(いいでしょうがっ、幾ら桃とは言っても俺だって男ですっ!!そこに目が行くのは当然の成り行きですっ)小鳩ちゃんを先導に、二日間掛けて俺たちは森の外に出ました。・・・開けた大地一面に広がる田園風景、長い間、木々に囲まれる生活をしていた俺たちにとって、その光景は懐かしさを覚えさせてくれるものでした。
 が、どういうわけだか、そこに日の光が当たっていませんでした。森の中の薄暗さに慣れた目には丁度いい、優しい程度の光度でした。
 人の姿も見えない。近くに農村があることは間違いないでしょうが・・・日中ですから、農作業をしている村人の一人見かけないのは不自然です。どういう事だろう、と二匹と一個で訝しんでいたんですけど。・・・簡単なことでした。

 空を見上げると―――そこに、巨大な竜がいたんです。いえ、比較的近くにいたんで、鱗しか見えなかったんですけど・・・。

 「ああっ」

 と俺が驚いた声をあげたと同時―――。

 ―――空から竜が舞い降りてきまして・・・その竜が美しい女性に姿を変えると俺にこう歌いかけたわけです。
 びっくりしてました、俺。だって、空を見上げると竜がいて・・・その竜が突然にその姿を変えるわけですよ?
 食べられるのかな?と思っていたら美人に姿を変えたんです―――
 美人・・・それなら、良いかも・・・と不覚にも思ってしまったのは内緒ですけど。

 んで、まぁ、食べられると言う事もなく・・・。

 「・・・桃さん桃さん。お腰につけたキビだん・・・」


 美しい歌声、思わず聞き惚れるほどです。ですが、その内容を省みて、焦りました。
 いや、まぁ・・・もう、つけてなかったわけです。あの二人、喧嘩してる間に袋破ってしまったらしくって・・・まぁ、あんな毒薬なんてない方が良いんですけど。

 「あ、ごめん・・・ないんだ」

 悪いことしたかなぁ・・・と思いました。何故だか解らないですけど、彼女・・・凄く楽しみにしてたらしくって・・・可愛そうなくらいに残念そうな顔してましたから。

 「ごめん・・・そんなに欲しかったんだ・・・アレ・・・」

 『アレ』とカタカナになったことに深い意味はまるでないんですけど。
 代わりになるものはないか、と腰に結んでいた袋の中を覗いて見たんですけど、彼女が喜んでくれそうなものなんてありませんでした。
 干し肉や、木の実なんて、喜んでくれそうなものには思えませんでしたから・・・。

 「あ・・・いえ、良いんです。ごめんなさい、気を使わせてしまって・・・」

 慌てたように両手を振って―――取り繕うように笑顔を浮かべ、礼儀正しくお辞儀をする彼女。
 ―――今までにないタイプの女性でした。
 心を・・・奪われました。
 疲れきって・・・乾いた心が潤うかのように―――貧しくなっていた心が豊かになったかのようで―――嬉しかったです。
 たまっていたストレスなんて・・・一瞬で吹っ飛びました。
 気が付けば、しげしげと彼女を見つめていました。
 すると・・・彼女も顔を上げ、俺の顔を見つめ返して・・・。
 ぽっ・・・と音が成る程に顔を赤らめたんです。

 「これはいけるっ・・・」と、思いました。

 桃が何を色気づいてんのよ・・・ですって?良いじゃないですか・・・桃にだって青春を甘受する権利はあるはずでしょ?

 だから―――。

 「あ・・・あの、お名前は・・・?」

 「えっと・・・小竜姫と申します。あなたは・・・」

 「あ、ごめんなさい。俺の名前は・・・も・・・横島忠夫です」

 「忠夫さま・・・」

 「あ・・・何か・・・くすぐったいっす・・・」

 「あ、ごめんなさい・・・横島さん・・・」

 「あ、構いません・・・寧ろ・・・忠夫って呼んで下さい」

 「忠夫さま・・・」

 「小竜姫様・・・」

 「あら、私も・・・竜姫と・・・」

 「りゅうき様・・・」

 「・・・(ぽっ)」

 『桃』とは言えませんでした。口から出たのは、何時か誰かが言った理解不能な名前だけ。
 決して『桃』、などと口に出せばこの恋が終わる―――などと考えたわけじゃないですよ。何時の間にか頭の中に組み込まれてたのかもしれません。―――横島忠夫・・・なんでこんな名前が口から出てきたのやら・・・。

 でも、そのおかげか、彼女は俺の事を『桃』と思わず、『人間』の横島忠夫と勘違いしたんです

 まぁ、そのおかげで―――幸せでした・・・ええ、幸せでしたとも」

 「・・・(何か聞いてていらいらするけど・・・)それで?」

 「でも―――俺はすっかり忘れてました。俺の後ろには猛獣が二頭いたんです。







 続きます

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