ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記(その18(B))


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 4/26)



バシュゥゥ!!!

背に何か当たったと思った瞬間、
ひのめを包む炎が一瞬にして消えていく。
何でだろう・・・そう思いひのめが振り向くと・・・

「お、お姉ちゃん・・・」

そこには肩で息をしている令子が立っていた。
自分の視界の死角にあるから分からないが、
さっきの感触は令子がひのめに背に発火封じの札を貼ったものだった。

「な、何でここに!?」

どうやらひのめは令子達の存在に気付いていなかったらしい、
さっきの令子のエールも極限の状況下での幻聴とでも思っていたのだろう。

「ひのめちゃん大丈夫か!?」

そして横島も追いつき慌ててひのめに声を掛ける。
横島はそのまま文珠に『治』という字を浮かべひのめに与える。
発動した文珠はその役目を果たし、暖かい光と共にひのめの傷を癒した。

「うん、全快全快♪お兄ちゃんありがと!」

「いやー、よかったよかった。あ、これ『封』を込めた文珠だからもし発火能力が暴走したら使いな、
それにしても凄いぜひのめちゃん、自分から封印破っちゃうなんてな」

と、笑顔で横島が文珠を渡そうとしたとき。


パシイィィィ!!!

「きゃっ!」

乾いた音とひのめの短い悲鳴が廃工場に響いた。
ひのめはそのまま地面に倒れこむとジンジンと熱く痛い左頬を右手で押さえた。
そして・・・
自分をいきなり叩いた姉をキっと睨み叫んだ。

「何よ!いきなりなにすんのよ!!!」

怒りに満ちた視線を令子にぶつける。
年が離れてるせいか今まで姉と真剣に姉妹喧嘩はしたことない、
しかしこのときばかりは本気で殴り返してやろうかと思った。

「あんたは・・・・」

令子は低い声でゆっくりと両手で胸倉を掴みひのめを強引に立たせる。

「自分が何やったか分かってんのっ!!!!?」

令子の怒号にビクっと震えるひのめ。
姉は何を怒っているのだろう・・・少し冷静になって考える。
依頼書と神通棍を勝手に持ち出して除霊したことか?
封印を勝手に解いてしまったことか?
どれも確かに自分に非はあるだがいきなりぶたなくてもいいではないか!?
そんな理不尽な怒りがひのめの心を覆った。しかし・・・

「あんたは死ぬとこだったのよ!!?
殺されるところだったのよ!!
悪霊にも!!自分の能力にも!!!?
どうして、そんな無茶ばかりするのよ!!」

「・・・・・・えっ!?」

「封印を解きたいなら一言相談してくれればいいじゃない!
除霊作業で試してみたいなら言ってくれればいいじゃない!
そんなに私は・・・お姉ちゃんは頼りないの!!?」

「・・・そ、そんなこと・・・・」

「私はね・・・・霊力が低いことであんたがこんなにも悩んでることを知らなくて・・・
ホントは悔しくて、悲しくて・・・・だからあの事件の話をしたあとは精一杯力になりたかった。
なのに・・・・ひのめが死んだら意味ないでしょ!?」

いつの間にか令子の目に涙が浮かんでいる。

「私は旦那にも、子供達にも、妹にも私より後に死んでほしいのよ!
だから・・・もうこれ以上無茶するんじゃないわよ!!!」

令子は話を締めるとひのめに背を向けるとそのまま涙を拭う。
自分でも何を言ったか覚えていない、
ただひのめが死にかけたという事実に頭が混乱して支離滅裂なことを言ったのでないか。
そんなことを思いながら腕を組む令子・・・・そして

「ごめんね・・・・お姉ちゃん」

「・・・・・・・・・」

ひのめもまた涙をながしながら・・・・令子の背に抱きつくのだった。
横島はそんな光景を暖かい笑みで見守る。
この絆の強さ・・・・・・・・・これも美神の血なのだろう・・・・

破れた工場の屋根から柔らかい陽の光が姉妹を・・・・・・・・・暖かく照らすのだった。






エピローグ

月曜日
AM11:59


「うううっ・・・・・・何かとても入りずらいんだけど」

ひのめは難しい顔で自宅の玄関ドアノブを握った。
横島は『大丈夫大丈夫』、令子は『はよ開けなさいよ』という表情で見守っている。
そんな二人に後押しされるようにひのめはゆっくりドアを開けた。

「た、ただいま〜〜」

ちょっと間伸びた声で帰宅の声をあげると・・・・


ドタドタドタドタドタドタ・・・・・・・・

「ひの姉!やっと帰ってきたのかよ!?」

騒がしい足音と共に現れたのは忠志だった。
その表情はまるで待ちに待ったプレゼントが届いて喜ぶ子供のソレ、
しかし、生意気盛りな小学6年生は思ったことを素直に口にはしない。

「へん、まあひの姉ならなら腹が減ったら帰ってくるかと思ってたら・・・その通りだな!」

「そりゃあんたでしょーが!なに?ホントは心配で寝れなかったんじゃないの?」

「ば、ばかやろー!誰がひのめおばさんのことなんか心配するかーーーー!!?」

言ったあとに殴られると覚悟する忠志だが・・・
ひのめはただ微笑んでるだけで何もしない。
そんな笑顔を不気味だと思いつつ、ドキっとする忠志だった。

「で、忠志・・・、ママは?」

「え・・・と、ばあちゃんなら」

意識を取り戻し祖母を呼んでこようとするが、それは必要なかった。
美智恵はすでに忠志の後ろに立っておりどこか悟ったような表情でひのめを見つめた。

「あ、あの・・・ただいま」

ひのめはちょっとおどおどした口調で言う。
怒られるだろうか・・・これだけ心配させたのだから当たり前だろう、
そう思い少しばかりの覚悟を決めるが・・・

「ひのめ・・・・」

「・・・・・・・」

「おかえりなさい・・・」

「!?」

ひのめは驚いた表情で顔を上げた。
そして母の顔を見る、目を見る・・・・一番安心できる表情、声。
『おかえり』・・・・母から一番聞きたかった言葉・・・・
その一言がひのめの涙腺を緩ませる。
ひのめは涙が溢れるのをこらえ・・・

「うん!」

と笑顔で応えた。

「じゃ、とにかく立ち話もなんだから上がりなさい」

美智恵に促され半日ぶりの我が家に足を入れるひのめ。
そしてキッチンまで来たとき

「・・・あ、あの、ひのめお姉ちゃん・・・」

ゆっくりと歩み寄ってくる少女・・・蛍がひのめの視界に入った。
その表情はまるで脅えた小動物のように不安げで、そして疲れと・・・・悲しみが混じったものだった。
蛍はそのまま顔を伏せ・・・体を振るわせ言葉を紡いだ。

「・・・・私・・・わたしぃ・・・・ぐっず・・・・お姉ちゃんに・・・えう・・・いっぱい酷いこと・・・」

そこで言葉に詰まる。
涙をこらえるだけで口は動かなくなる。
言わなくちゃ、謝らなくちゃ・・・・そんな思考が蛍の頭をさらに混乱させた。
しかし・・・・

「!?」

蛍が頭に感じる暖かい感触に顔を上げる。
そこにいたのは優しい笑みで蛍を撫でるひのめ。

「蛍ちゃん・・・ごめんね」

短い言葉・・・
何でひのめが謝るのかは分からない・・・・でも、
今の蛍にはその言葉とその笑顔だけで十分だった。

「うわああああぁぁぁ!お姉ちゃんお姉ちゃん!!うぐ・・・えぐぅぅ」

蛍は泣いた・・・敬愛するひのめの胸で。
心の中にあったひのめへの負い目を全て流すように。

「今度幻術教えてね♪」

ひのめはポンポンと蛍の背中を叩く。
その明るい声に涙で返事は出来ないがコクコクと頷く蛍。
昨日の自分もこんな感じだったのだろうか・・・
そう思うとなんだか少しだけ恥ずかしくなるひのめだった。

「ま、これで一件落着だな♪」

横島は目の前の光景に明るい声で令子に話しかけた。

「何言ってんのよ、むしろ発火能力に関してはここから問題じゃない。
取り合えず今日にでも妙神山行ってくるわ」

「妙神山に?何しに?」

「ま、歩行器をもらいにね」

一つウインクする令子に横島は「?」という表情を浮かべる。
そして、思い出すように言った。

「あ、そいや令花は!?」

いまだ現れない末娘の名を叫ぶ横島。
昨日会ってないから丸一日以上その顔を見ていないわけで、
親バカが入ってる横島は不安になるわけで・・・

「令花ならそろそろ起きるんじゃないかしら・・・」

義息子の問いに答える美智恵。
霊力の回復もそろそろ完了することだろう・・・いや、そうでなければ危険な兆候だと思い不安になる美智恵。
しかし、その不安も必要なかった。

「ふわ〜・・・・・あれ?みんなそろってどうしたのぉ・・・・」

令花は半開きのまぶたをゴシゴシと擦りながら居間から現れた。
今回唯一事態を知らないだけにその問いは純粋無垢なもの。

「ったく・・・気楽なもだんだな〜・・・あのな」

忠志がことの一連を説明しようとしたとき。

グ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・

「ねえ、なんかお腹へっちゃったぁ・・・」

ご飯おくれという胃の合図が鳴り、食事を求める令花。
そんな姿に・・・

「くっくっ・・・あはははははははははは!」

もう我慢出来ないとばかりに腹を抱え笑いだすひのめ。
ひのめだけじゃない・・・・・・・・・蛍も忠志も、美智恵も、横島も令子も全員が大声で笑い声をあげる。
令花はだけはその光景「え?え?」と不思議そうな表情を浮かべた。

「ふふふ、分かったわ令花!おばあちゃんが腕によりをかけてお昼ご飯作ってあげる♪」

「え!?やったー!じゃ、お顔洗ってくるね!」

「あ!ばあちゃーん!俺も俺も!」

「ふあ〜・・・私はもうダメ〜」

「うわ!蛍こんなことで寝るな!!」

「ったくしょうがないわねー!私の部屋あるからそこに連れていきましょ」

「私の部屋!?お前結婚してんのに実家にそんなもん作るなよっ!!!」

「いいでしょ〜♪」

「アホかー!」


家族の談笑、楽しいそうな声、あどけない眠り顔、頼りになる存在、温かい家庭、心やすらぐ場所・・・

封印の解除、霊力の開放でこれから自分が、周りがどうなるかは分からない。
でも・・・今だけ・・・・今だけは・・・・
・・・愛すべき家族と笑っていよう・・・・

ひのめは心に温かい光を感じながら・・・・・・・・・

             そう、心で囁くのだった・・・・・・・・・・・・・





                                      


                               その19に続く

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