ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−43


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 4/23)




「美神令子と繋ぎを持てと?」

リリスの居城アンタレス。
例によって、横島の情報を報告しようとそこを訪れたデミアンは、思いもよらぬ命令を受けた。

「そうよ。過日の戦闘ではっきりしたことがあるわ。
 ”横島忠夫は美神令子に執着している。或いは、彼の計画に美神令子の存在は必要だ“ってことがね。」

「であれば、殺しておくべきではありませんか?」

「殺すことはいつでも可能よ。
 だからこそ、生かしておくの。
 死んだ人間を利用するのは無理ってものよ。」

あの美神令子と繋ぎを持つ。デミアンにとっては殺すよりも困難そうに思える任務。
正直、断りたいところではあるが、彼にそんな選択権は無いことも承知している。
それでも彼は聞かずにはいられなかった。

「何故に俺なんです?
 これでも結構任務はこなしてるつもりなんですが?」

暗に自分の仕事へ不満があるのかと尋ねる。

「簡単なことよ。
 貴方が横島君の部下であることは先方も承知したでしょ?
 だからこそ彼女との交渉の余地がある。
 少なくとも彼女にとっては貴方と話す価値がある。
 そう思うでしょうね。」

「ある程度の情報も流して良い。
 そういうことですか?」

「むしろありのままに語りなさい?
 疑念を持たせてやりなさい。
 敵対心を持たせてやりなさい。
 彼女の復讐心を煽ってやりなさい。
 悪魔の誘惑を囁いてあげなさい。
 彼女を彼の計画の不確定要素に仕立て上げてやりなさい。
 古来より、本当の人と魔の関係はそういうものだったでしょ?」

そう言って彼女はワラッタ。

そしてデミアンは思う。

『正しくこの女こそ魔女だ』と。








開戦以来、他の魔神との折衝や偽と真の計画の推進。
多忙な横島はその激務の合間を縫って、タマモを呼び出した。
実のところ、開戦自体に反対していたタマモは何度も横島との会見を望んでいたのだが、ついに果たされることはなかった。
そうしてる間に人界侵攻が始まり、横島を罵る日々が続いていた。彼女が魔界へ来た理由からすれば当然のことではある。何せ、ついにタマモの知り合いから犠牲者が出てしまったのだから。
そんな中での横島との面会は実に棘々しいものであった。

「神族を見事に破った魔神さまが何の御用かしら?」

「おかげで忙しい毎日さ。」

「自業自得よ!」

「そりゃそうだ。今までの人生で一番真面目に働いてるよ。」

タマモの物言いにも大して動揺した様子もなく、横島は用向きを告げた。

「リグレットの相手をしてやって欲しい。」

「はぁ?何で急に………。」

「お前じゃなきゃ駄目なんだよ。」

「どうしろってのよ。」

「話し相手をしてやれば良いさ。
 お前だけなんだよ。
 ルシオラを知らない奴はな。」

「ルシオラの失敗だったっけ。」

「ああ、無理なんだよ。
 俺には彼女にルシオラを見てしまう。俺は彼女にルシオラを求めてしまう。
 彼女はルシオラじゃないのにな………。」

「ルシオラを知る者は全員、多かれ少なかれ同じ傾向を示す………か。
 それで直接の面識が無い私ってわけ?」

「そういうことだ。
 こればっかりはどうしようもないんだよ。」

「………報酬は?」

タマモが人の悪い笑顔でにっこりと微笑む。

「何が良い?
 払える限りの報酬は出すが?」

「人界侵攻のストップってのは?」

労働の対価はきちんと支払われるべきだ。美神の元で働いていた横島には痛いほどに良く分かる。

「無理だな。もう、魔界は止まらないよ。
 例え俺が行動を止めても、他の魔神達が動き出す。
 それを抑えているのは、第一位の功績を持つ俺の存在だ。
 勿論、裏で色々やってるみたいだけどな。
 さすがにそれを全部把握出来るほど魔神は無能じゃない。」

横島が溜息を吐きながら答える。
実際、他の魔神達の暗躍を防ぎながら計画の遂行は困難を極める。
これが普通の人間の身体ならゲッソリとやつれていることだろう。

「………じゃあ、私にユーチャリスの中のどこへでも行ける権利を頂戴。
 会議中だろうと作戦行動中だろうと、アンタに会いたければそこへ行ける権利。
 そして、地下へも行ける権利をね。」

その美貌でニヤリと笑えば、妖艶と言うべきか。
惜しむらくはまだ顔が幼いこと。長じれば間違いなく傾国の美女になるな。
そんなことを考えつつ、横島は疑問を口にする。

「そんなに知りたいのか?」

「矛盾してるのよ。アンタの計画はね。
 ちょっとばかりの友愛精神を全員が持ったからどうだってのさ?
 大量虐殺の指揮を取った人間も、家に帰れば優しいパパなのよ?
 そんなの人間に限ったことじゃないでしょ?」

「――――フゥ。
 伊達に長生きしてないな。人間の社会での経験も半端じゃないってことか。
 同じ長生きでも、妙神山に篭ってた小竜姫さま辺りとは違うな。」

「ってことはやっぱり………」

「聞いたら引き返せなくなるぞ?
 そして聞いたら俺に協力するか、死ぬかのどちらかしか選択肢は無い。
 それを知られたまま放っておくほど悠長な計画でもないのでな。」

横島の脅しに逡巡したものの、タマモの返事はYES。
元々、他人を利用することで生きてきたタマモにとって、何も知らぬままに利用されることなど耐えられるものではない。
何より、利用されていることを知りつつ、それが何のために利用されているかを知らないなど論外である。











そして横島から語られる真の計画。
その計画にタマモは驚き、そして呆れ、最後に畏怖を持つ。












「だから美神さんなの?」

「そうだ」

「でも……そんなことって……」

「アシュタロスは世界のシステムに気付いてしまった。
 だから壊そうとした。
 今思えばかなり惜しかったんだよ。
 システムを壊すのではなく、利用することを思いつけば、奴も最高指導者の仲間入りだったんだ。
 コスモプロセッサはシステムの利用ではなく、システムの改変だからな。破壊に準じる行動だ。」

「じゃあ、アンタも最高指導者の仲間入り出来るじゃないのさ。
 聞いちゃった私もだろうけど。」

「俺にその気はないし、お前もその気はないだろ?
 まだ舞台を降りる気はないんだからさ」

神妙な顔でコクリと頷くタマモ。

「未練がある奴は最後の階梯を登れないのさ。
 神族・魔族・人間・妖怪。古来よりそれに気付いたものは極稀だ。
 俺の行動を最高指導者達が黙認する真の理由は、俺がその資格を持つ者だからさ。
 俺のやろうとしてることは、ほんのちょっとの恣意的なシステムの利用だ。」

「………それが良いことなのか、悪いことなのか。
 私には分からない………。」

「悪いが、今すぐここで決めてくれ。
 俺に協力するか、ここで死ぬか。
 他に知る者はメドーサだけ。
 大したもんだよ。アシュタロスの元に居た時から色々調べてて、俺の元でも調べていた。
 意外なことにアイツが一番真相に近い位置にいた。
 その過程で俺に見つかってな。良い機会だからと引き込んだよ。
 無論、システム発動の時にアイツにも利があるようにするという条件でな。」

『ここで死ぬか』
もちろん自分を殺すのは横島だろう。
そんなことは横島の口調、そして瞳を見れば本気であることが分かる。
しかもこの計画のためなら躊躇なく………。
横島の視線から逃げるように顔を伏せたとき、ある光景がふと脳裏に浮かんだ、
それは初めて出会い。居候することになってからの楽しい日々。
楽しい日々もう戻らない………。
横島を止めることは誰にも………私にも出来ない。
私の存在など、横島の計画推進には何の障害にもならないのだ。
むしろ、仲間に引き込んでくれるのは彼の好意によるもの。
もう一度横島の顔を見る………そしてタマモは自嘲気味に微笑をこぼしながら言った。

「………私の希望は基本的に何も変わらないことよ。
 知らない方が良いってこういうことを言うのかしら。だから私の記憶とかも弄らないで。
 私は私の生き方に。私の歩んだ生に自信を持っているから。」

「それは俺に協力するってことと解釈するぞ?」

「………リグレットのことに関しても無駄になるんじゃないの?」

「気休めだよ。自分の罪悪感を紛らわすための………な。」

「最低ね。」

「ああ、最低だ。」

自嘲気味に横島は呟いた。











そしてその頃人界では。
美神令子が一人、人狼の里へと向かっていた。









今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa