ひのめ奮闘記(その17(A))
投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 4/23)
ジャリ・・・
白いスニーカーが砂を噛み音を立てる。
ここは・・・・廃れた廃工場。
郊外に建設された古びた建物はもはや稼動することはない、
もう朝の9時半だというのに薄暗く、人の気配などまったくなかった。
そんなところに・・・ひとりの少女がいた。
「やってやる・・・・・」
ひとりの少女・・・・美神ひのめは誰に言うでもなく手に持った一枚の紙クシャっと握り潰す。
周辺経路が書かれたその紙をひのめはもはや用なしとばかりに地面に捨てる。
そこには・・・・
『A級難度 除霊作業依頼』
と、書かれていた。
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その一時間半前・・・・・
極楽ホテル2005室
コンコン・・・
乾いた音が二回・・・ノックの音で薄っすらと横島の意識が覚醒していく。
しかし、睡眠欲が勝ったのか・・・・上がりかけた瞼が再び閉じ視界が暗くなる。
(あとでいいや・・・)
今日は依頼の仕事もない、Gメンの仕事も午後から。
普段ゆっくりとれなかった眠りを謳歌しようと来訪者に対し居留守を使う横島だが・・・・
ペシペシペシペシ!!!
「いててて!!!」
突如として襲い掛かる頬の痛みに思わず叫びをあげる横島。
そして、今度こそはっきりした意識で今目の前にいる人物の名を呼んだ。
「あいてて・・・・・・あれ?令子?」
「『あれ?令子?』じゃないわよ、いつまで寝てんの!!?」
「いつまでって・・・・」
横島は上体を起こしながら枕元にある備え付けのデジタル時計に目を移す。
時刻は既にAM7:30。
遅いとまではいはないが、一般家庭のお父さんなら起きていておかしくない、
何より今日は月曜日なのだから。
「ふあ〜・・・最近お前のせいで寝不足で・・・・」
「な!?ど、どういう意味よ!!?」
あくびをする夫の一言にカーっと赤くなる令子。
そんな妻を可愛いなと思いつつ、横島はそこでハっと気付いた。
「あれ?ひのめちゃんは?」
「は?」
横島の一言に令子の表情が怪訝なものになる。
令子がわざわざ極楽ホテルまで来たのは夫を起こしに来たのではない、
そろそろ落ち着いたであろう妹・ひのめの様子を伺いに来たのだ。
だが、当の本人はいなく、連れ添った夫ですから分からないと言う・・・・
「ちょっと!ひのめどこ行ったか知らないの!!?」
「え、え・・・・と待て待て確か・・・・」
明らかに怒りのボルテージが上がって来てる妻に冷や汗を流しながら考える。
「あ、確か・・・今朝6時過ぎに早朝ランニングが日課だから走ってくるって・・・・」
「でも、もう7時半よ?学校・・・・は、まあ今日は休むにしても・・・そろそろ帰ってきてもいいんじゃないの?」
「そ、そうだな・・・」
妻の言葉に不安が広がる横島。
もしかしてこのまま失踪してしまうのでは・・・・そんな最悪のケースも考えてしまう。
「とにかく思い当たるところ探すわよ、ママには連絡しとくから」
「お、おう」
横島は令子の指示で動き出す。
何気ない日常の中でも非常時でもやはり横島家の指揮を執るのは令子で、
それに従う夫と子供。特に横島は昔からの習性とも言うべきレベルだった。
「え〜と、シャツシャツ・・・」
寝汗をかいた上着を脱ぎタンスから着替えを出す横島。
そのときふと気付いた・・・・・テーブルの上の様子が昨日と違っていることに。
「おい、令子・・・お前テーブルの上にあった依頼書いじったか?」
「は?知らないわよ」
おざなりに返事を返しベッドメイキングを続ける令子。
横島はカッターシャツのボタンを留めながらそのテーブルの周辺を探す。
「あれ・・・・ない」
「何がないのよ?」
相変わらず挙動不審な夫にズボンを手渡し問いただす。
しだいにその横島の額から冷たい汗が噴出してきた。
そんな夫の様子に令子も少し不安になり声をかけた。
「どうしたの?」
「え・・・と、やっぱないわ・・・・・A級難度除霊依頼書が一枚」
「はぁ!?」
横島の一言に声が大きくなる令子。
契約書と同じくらい大事な依頼書の喪失・・・・それはプロとしては許されないミスの一つだ。
その紙切れ一枚に顧客のプライベート情報、事務所の特有の除霊法も書かれてたりする。
もしそのことで損失が発生した場合、法律上訴えられてる可能性もある、
そんなことになったらGS事務所としての信頼度も当然下がるわけで・・・
「あんたねーー!あれほど契約書と依頼書はちゃんと管理しろって言ったでしょーーー!!?」
「ちょ、ちょっと待てって!!昨日の晩!寝る前には確実にあった!絶〜対あった!」
令子に胸倉を掴まれ苦しそうな表情でう〜んと考える・・・・
昨晩まであった依頼書の喪失、今朝にかけて外部から侵入者がいたわけじゃない。
部屋にいたのは俺とひのめちゃんなわけで・・・・
「あんたね〜、簡単な答えでしょ・・・」
「やっぱそれしかないよね・・・・」
これまで推理・・・・・というか、単純に答えは一つしかない。
ひのめが持っていった・・・・・
そこまで思考がいきついたとき・・・横島の背中にゾクっと戦慄が走った。
「あんた・・・・」
「ま、待て!令子!そりゃ俺にも非があるが何でも暴力で解決するのはよくないぞ!!!」
ポキポキと指を鳴らす令子に訴えかける横島。
しかし・・・結果は・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・言わなくてもわかるので割愛・・・・・・・・・・・・・・・・
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ザッザッ・・・・
ほこり、砂、泥、ゴミ・・・・
もはや清掃する者などいないがために工場内は荒れ放題だった。
そんな中をひのめは何か決意したような瞳で進んでいく。
(寒い・・・・・)
もう既に5月というのに、廃工場の中はまるで冷蔵庫の冷えている・・・・・・・・・・・感じがした。
もしこの場に温度計があれば17℃くらいは差しているだろう、熱くもなく寒くもない。
春と夏の隙間の調度いい過ぎしやすさのはずだった。
「近い・・・・」
それなのにひのめの肌は不思議な寒さ・・・・・・・・・・悪意の霊気のせい鳥肌が立つ。
弱いものこそ、危機を感じる本能センサーが発達するというがひのめの場合も霊力が低いせいで、
霊感だけは平均より少し優れているくらいだった。
ジャキン・・・・
ザッ
懐から神通棍を取り出しその刃を颯爽と出現させる。
360度どこから攻められてもいいように、周囲に注意を払い構えを取る。
(ごめんね、お兄ちゃん・・・・後で返すから)
ひのめは依頼書と一緒に置いてあった神通棍を勝手に持ってきたことを謝罪しつつ、
その柄に軽くキスをする。そして左手で右手のリストバンドをギュっと握る。
これは昔から不安になると無意識にしてしまうひのめのクセだった。
そして・・・・
「来る!!!」
ひのめがそう叫んだ瞬間!
ドガアアアアアアアア!!!!
どこからともなく現れた人魂がひのめ目掛けて飛んでくる。
ひのめはそれをさっとかわすが次の瞬間には死角からまた飛んでくる!
「くっ!」
ガシイィィ!!
バっと振り向き新たな人魂を神通棍で弾くと、すぐに自分のまわりの状況を確認する。
そこには先ほど飛んできた人魂が2つ、3つと増えていく・・・・その増加量は半端ではない、
40を突破したあたりでひのめは数えるのをやめた。
「全く・・・・悪霊が真昼間から出るんじゃないわよ・・・・」
強がったセリフも少し震えているのが分かる。
これだけの悪霊、見習いGSはもちろん、並みのGSでも一人では除霊不可能だろう。
ましてひのめの霊力ではまさに殺してくれといわんばかりだ。
『イタイ・・・イタイ・・・』
『シニタクナイヨォ・・・・・・・・』
『コロス・・・コロス・・・』
『マダシンデナイ・・・』
『カラダ・・・カラダホシイ・・・・』
ひのめの聴覚が耳障りな悪霊の声を捉える。
それは始めは儚いような声だが、しだいに生者であるひのめを認知すると、大きく、そして悪意に満ちたものへと変化する。
「私はおキヌさんみたいにあなた達に同情とか思いやれる程広い心は持ってない・・・・・・・・・・でも」
ギュ!
神通棍を握り締める力を強め輝く瞳で悪霊達を見渡した。
「あなた達を苦しみから開放してみせる・・・・・・・・・私の命と全存在を賭けてっ!!!!!」
その言葉が本格的戦闘の始まりだった。
今までの
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