ザ・グレート・展開予測ショー

Die Marionetten 〜決戦〜


投稿者名:777&NAVA
投稿日時:(03/ 4/22)


「お客人!銀の鍵をアリスに投げろ!奴だけ飛ばす!」



目の前の老紳士が叫ぶ。
どうやら、老紳士と横島の狙いは正確に一致していたようだ。
銀の鍵をアリスに投げつける。
光がアリスを包み、そこには美姫の人形だけが残った。
舞姫の人形がトコトコと妹に駆け寄り、優しく抱きしめる。

「さぁ、お客人。彼女たちと共にビデオを出るんだ。すぐにアリスは追いついてくる。ビデオの外なら、君は霊力が使えるはずだから」

老紳士が空中に浮かぶ光を指し示す。
その先にあるのは、横島の部屋。

「光に飛び込めば、君は元の世界に帰れるはずだ。そこで奴を、アリスを始末してくれ」

横島は頷き、姉妹を抱え上げた。そのまま光に飛び込む。




飛び出た先はいつもの自分の部屋。
食べかけたカップラーメンがまだ湯気を出している。
横島はすぐ姉妹を降ろし、文珠を生成する。
一個。
その一個で如何にして片付けるか。
悩む間にもアリスが画面の向こうから出ようとしてくる。
まずは両手。次に頭。
その間にも横島は思考を続ける。
これは美姫の、妹の身体だ。傷つけるわけにはいかない。

どうする?
どうする?
どうする?
どうする?
どうする?
どうする?
どうする?
どうする?
どうする?
どうする?
どうする?
どうする?
どうする?

そしてアリスが姿を現す。
だが少女の身体は霊的にTVの画面と繋がっている。
それを見た横島は文珠を発動する。込められた文字は『分』。
アリスとTVを、ビデオを切り離す言の葉。

言の葉に込められた霊力が解放される。

「ああっ……あああああっっっ!!!」

アリスが悲鳴を上げ、そしてその体から力が抜けた。

「殺してしまったんですか?」

舞姫の人形が、心配そうに尋ねる。
横島は油断せず、姉妹を背後に庇って答えた。

「いや、ビデオから彼女の体を切り離しただけだ……ビデオの中に逃げ込まれても困るからね」

その言葉に反応したかのように、少女の体がぴくりと動く。

「油断しちゃったよ、王子様……あのおじいちゃんに助けて貰ったりして、随分と情けなかったけどね」

顔を上げて、アリスは邪悪に微笑んだ。

「でも、ここにはおじいちゃんはいないよ、王子様? 悪い魔女が、倒せるかなぁ?」

少女がゆっくりと身を起こす。横島は霊波刀を構えた。

「倒してみせるさ。おとぎ話はハッピーエンドが基本だからな」

横島の言葉に、アリスはニヤリと笑う。

「ふ〜ん……でも、この体はお姫様の物だよ?どうするの?」

けれど、横島の不敵な笑みは変わらない。
その不敵な表情が気に食わないアリスは、その漆黒の髪を浮き立たせ、まるで触手のように展開して襲い掛かる!

「髪は女の命ってか?!俺が本気で怖いのは美神さんだけなんだよ!!」

霊波刀でそれをなぎ払う!

「クッ!!!」

例え髪の毛と言えども、そこには妖気が込められている。
その一撃は確実にアリスへのダメージとなる。
横島としては、この狭い部屋で暴れるのは好ましくない。
所謂、戦術的撤退を図ろうかと油断なく思考を進めていたその時!





「――――ゲフッ」





アリスが呻く。
アリスの胸から腕が突き抜けている。それは肉体をではなく、霊体をこそ貫く手。

「油断し過ぎだよ。アリス。ビデオと繋がっていれば外に出られるのはお前だけではない」

アリスの真後ろに立つ老紳士。
そしてそのままアリスの霊体を引きずり出す。

「お客人、私はこのままアリスをビデオの中に引き込む。アリスの霊体だけをな。すまないが、このビデオを壊してくれるかな?」

「そんなことをしたら、アンタは……」

横島の呟きに老紳士は頭を振る。

「永久に閉じ込められるのか。或いは消滅するのか。やってみなくては分からん。だが、何かを手に入れれば、他方で何かを失う。世の中はそういう風に出来ているんだよ。お客人。それに私はただの記録だよ。忘れてくれても構わんよ」

「爺さん……すまない。そして――――ありがとう」

横島は老紳士に頭を垂れた。
老紳士は微笑して、彼に言葉を返す。

「謝るのも、礼を言うのも私の方だ。すまない、そしてありがとう、お客人。君のおかげで、娘達を助けることが出来た」

老紳士は、慈愛を含んだ表情で姉妹を見やる。
人形達は泣いていた。
優しく笑って、老紳士は彼女たちに頷き、そして横島に向き直る。

「娘達のこと、頼んだぞお客人。では、ひと思いにやってくれ!」

老紳士はアリスの霊体ごと、ビデオの中に入ってしまった。
横島はビデオデッキの取り出しボタンを押す。軽い音をたてて、デッキから吐き出されるビデオテープ。
横島はそのビデオを……『栄光の手』で握りしめた。
あっけなく壊れるビデオテープ。
そして壊れたビデオテープから溢れ出す光、光、光。
恐らくは閉じ込められていただろう、人々の魂。
それらは部屋を飛び出してあらゆる方向へ飛び散る。


今、呪いのビデオはこの世界から消滅したのだ。


それと同時に美姫の本当の肉体と人形の身体が光り始める。

「お姉ちゃん………」

美姫が舞姫を見る。舞姫は首を振って、

「貴女の身体よ。ねえ美姫?私の分も生きて?私は貴女をずっと見守っているわ………」

そう言って舞姫の人形はコテンっと倒れる。
同時に美姫の意思に反して、魂が人形から抜け、肉体へと宿り始める。
横島は無言でその光景を見守る。
全てが済んだ時。そこには顔を覆って泣きじゃくる一人の少女がいた……。

「お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん………」

泣きじゃくる美姫に、横島はかける言葉が見つからなかった。
何気なく目をやった『元』美姫の人形を見て、驚く。
その顔から、火傷が消えていた。

「美姫ちゃん、君の顔……?」

顔を覆って泣く美姫の顔からもまた、あの痛々しい火傷が消えている。

「火傷……治ってるよ!綺麗だよ美樹ちゃん!!」

歯の浮くようなセリフを投げる横島を、美姫は涙目でにらみつける。

「こんなの……こんなの、ハッピーエンドじゃないよ!綺麗な顔なんていらない!!お兄ちゃん、王子様なら……王子様なら、お姉ちゃんを助けてよっ!!」

横島は答えられない。
ただ黙って、美姫に胸を貸してやることしかできなかった。

「お姉ちゃん、お姉ちゃん……」
人形を抱きしめ、横島の胸の中で美姫が泣く。
美姫の涙が、舞姫の人形の顔に落ちた。涙の当たった箇所から、火傷の跡が消える。
また一滴。また治っていく。




そしてその雫が人形の唇に触れた途端、最後の、最高の奇跡が起きる。
雫が強烈な光を放ち、その光の中、横島と美姫は見た。
光の中、一人の少女が走ってくるのを。




その少女の名は――――舞姫と言った。




「お姉ちゃん!!!」











何故、美姫の涙が舞姫を蘇らせたのか。それははっきりしない。

老紳士は言った。

「何かを手に入れるためには、何かを失う」と。

逆に言えば、

「何かを失えば、何かが手に入る」ということ。

だから横島は思う。

老紳士の犠牲は、娘達を想う気持ちは、二人の命を救うのと等価であったのだろうと。






「アリス……やっぱりおとぎ話はハッピーエンドで終わるのが基本らしいぜ?」







FIN







Die Marionetten(独語):操り人形達の意


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