ザ・グレート・展開予測ショー

Die Marionetten 〜魔女〜


投稿者名:777&NAVA
投稿日時:(03/ 4/22)





横島は、またシュールな光景を目にすることとなる。



梯子を上ろうと、手をかけ、上を見上げた時に彼女と目があった。
そう、忌々しきあの邪悪な少女――アリスと。
アリスは巨大だった。
横島のいる部屋は本当に小さい。畳にして2畳半。
それでもその吹き抜けの天井は少女の顔を一部しか見せてくれない。
そしてその目はニヤリと言わんばかりの形になり、アリスは顔を天井から離した。
――――心臓の鼓動が激しく脈打つ。
脚が震えそうになる。
あんなにも巨大で、あんなにも邪悪そうな敵と戦わねばならないのか。
横島は我知らず、ゴクリと唾を飲んだ。
横島の緊張を感じ取ったのだろう。ずっと無言で付いて来た舞姫人形が励ますように言った。

「大丈夫です。アリスはこの屋敷の中では巨大な力を持っています。だけど、万能ではないのです。思い出してください。あの人形が貴方に危害を加えたことがありますか?」

言われてこれまでのことを思い出す。

「とんでもない風を引き起こして、危うく怪我しそうになったけど?」

「そうですね。でも、彼女は風を起こしただけ。結果的に貴方が危ない目に遭った。それだけです。彼女は具体的に貴方に対して何か出来るっていうことは無いんです。そう、屋敷内でたった2人だけ干渉出来ない存在。それがさっきのおじいさんと貴方だけなんです。何故なら2人とも人形ではないから。」

「それって君は操られるってことだろ?君を使って俺に危害を与えることも出来るんじゃないのか?」

「その通りです。だからこそ貴方に同行願ったんです。所詮、私は人形です。純粋な腕力では人間には敵いません。そして私では美姫の人形を見つけても、ほんの少し力を使われるだけで、それを手放してどこかに飛ばされてしまう。でも貴方ならそれに抗うことも可能なんです。」

「………場合によっては、俺1人でやるしかないってことか………」

舞姫は目を伏せて謝った。

「ごめんなさい………何度も試したのに……無理でした……」

その姿に慌ててフォローを入れる。

「良いさ、4階から脱出しなかった時点で君に付き合うって決めたんだ。ちょっと弱気になっちゃっただけだよ。ごめんな」

頭を振る舞姫。
このままでは埒が明かない。
そう思った横島は舞姫を抱えて梯子を上り始めた。

「………」

舞姫は終始無言のまま。
だけれど横島の気遣いは確かに伝わっていたのである。



梯子を上る。
無言で上る。
そして3階に到着。油断なく辺りを見回す。
幸い、アリスは居ない。
というか、そこは横島サイズの天井の高さしかない。何故にあんな巨大な少女が収まったのか不思議なくらいだ。

(恐怖を煽るための幻ってところか。)

内心で呟き、取り敢えず、目についた扉に手をかける。
ドアノブを捻る。だが、全く回らない。力強く捻る。

すると

「ギャーーーッ」

ドアノブが悲鳴を上げた。思わず手を離す横島。
ドアノブはそんな横島を怒鳴りつける。

「ふざけんなゴルァ!!こちとら鍵がかかってるんだよ、鍵がよぉ!開くわけねーだろ、この大馬鹿ヤロー!!開けたかったら金の鍵を持ってきやがれコンチクショー!!」

戸惑う横島に、扉は大声で続ける。

「そのポケットに入ってるカギだよ!それを鍵穴に入れろってんだバカヤロー!」

「ダメです!これはアリスの罠です!」

舞姫が叫ぶ。

「うるさい!お前は黙ってろ!」

扉がそう吠えた途端、舞姫はぴたりと固まってしまった。
それを見て、横島は確信する。

「芝居が下手だな……彼女を意のままに操れるのは、この屋敷の中じゃお前だけなんだよ!」

横島は扉を蹴破った。
扉は悲鳴を上げて壊れる。

その先にあった部屋。
そこは寝室だった。
真っ白なシーツが掛けられた、年代物の古いベッド。
そして、そこに腰掛ける人形を抱いた少女。

「あーあ、失敗しちゃった」

少女は笑う。意外にも、その顔に悪意はなかった。
ただ純粋に楽しんでいるだけ、そんな笑みだ。

「馬鹿そうな顔してるのに、結構頭良いね、お兄ちゃん?」

小生意気な笑みを顔に浮かべたアリスは、人形をぎゅっと抱きしめた。

「さて、これからどうするの?王子様。白雪姫は悪い魔女に捕まっちゃってるよ?」

アリスに抱かれた人形は、悲しげな顔をしている。

アリスは自分に直接危害を与えることは出来ないという。
部屋の片隅にあった椅子を引っ張り出してそこに座る。丁度、少女のまん前に。

「白雪姫の話は最後まで知ってるのか?」

横島の問いに、アリスはにっこりと微笑んで答える。

「知ってるよ?この子が何度も絵本を読んで聞かせてくれたもの♪」

アリスは抱えた人形の頭を良い子良い子と撫で回した。

「最後は王子様のキスで目覚めるんだよね♪そしてハッピーエンド♪王子様と結婚して幸せに暮らしましたとさ♪」

「それは子供向けの童話さ。本当に伝わってる昔話は違うんだよ?知らないのか?」

横島のやれやれと言った風情に眉を顰めるアリス。

「じゃあ、教えてよー!!」

「どうしようかな〜?」

「教えてよ〜!!」

「じゃあ、俺の質問に一つだけ答えてくれるか?そしたら俺も教えてやるよ。」

「じゃあお兄ちゃんから言って♪」

「いーや、そっちからだ」

「………王子様は分かってないなぁ。白雪姫は悪い魔女に捕まってるんだよ?ほら、こうやって………」

人形の腕をありえない方向に曲げる。

「――――ッ!!!」

声にならない悲鳴を上げる美姫人形。
そして人の悪い笑顔を浮かべてその腕を戻す。

「お人形だから元に戻せるけどね。痛いものは痛いんだよ?」

「チッ」

舌打ち一つして横島は降参とばかりに両手を挙げる。

「白雪姫は王子様と結婚して幸せに暮らした。だけど悪い魔女は最後にどうなった?」

「え………?」

「悪い魔女の最後だよ。」

童謡の白雪姫は、お姫様が幸せになることにスポットライトが当てられている。
今までそれを考えたことの無かった少女は、ここで初めて絶句した。






「どうなったの?悪い魔女は、どうなったの?」

アリスは、慌てたように聞いてきた。
横島は意地の悪い笑みを浮かべて答える。

「王子様とお姫様の結婚式に呼ばれて、なぶり殺しにされたのさ」

「え〜!?」

アリスは驚いたような顔をして、けれどすぐににっこりと笑った。

「でも、私には無理だよ。だって、お姫様は魔女の手の中。結婚式はいつまで経っても始まらないんだから♪」



「それは……どうかなっ!?」

不敵に笑い、彼は隙をついて少女に飛びかかった。
そのために、少女の目の前に腰掛けていたのだから。
少女と人形をしっかりと抱きかかえ、アリスの耳元で囁く。

「結婚式に招待してやるよ……」

そして少女を抱えたまま、横島は金のカギを振りかざした。

「カギよ!あの部屋に連れて行け!!」

横島達の体が、光に包まれる。







「ふむ。そう来たか。」

老紳士は金の鍵が使われたことを知る。
それならばと、彼は己の力の全てを凝縮させる。
彼はアリスの干渉を受けない唯一の存在でありながら、アリスの支配下にあった。
彼は屋敷の記憶だった。故に彼は自由だった。そう、この屋敷の中で出来ないことは無かった。
妹の人形を人質として囚われたために、彼はアリスに隷従せざるを得なかったのだ。
いつか、解放者が現れるその日を待ち望んで。
今、彼が待ち望んだ解放の時が来ている。
彼の解放とは=姉妹の解放である。
真に万能なのはアリスではなく、老紳士の方であった。
彼には横島の狙いが読み取れた。
この事態は隷従の時を過ごす彼の想像したシチュエーションの一つ。
だからこそ、彼は次に自分がどうするべきかを知っていた。
キーアイテムは『銀の鍵』。
今、目の前に横島たちが姿を現す。そして老紳士は力を解放した。





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