ザ・グレート・展開予測ショー

Die Marionetten  〜真実〜


投稿者名:777&NAVA
投稿日時:(03/ 4/22)

画面がブラックアウトし、『再生』のテロップが走る。
そして唐突に映し出される少女の顔。この人形を自分に渡した少女だ。
どうやらビデオカメラの様子を覗き込んでいるようだ。残念ながら音声はない。
ビデオカメラを固定し終えたのか、少女の後姿が映し出される。
少女は後姿を見せたまま屈みこむ。椅子の上の部分が見える。ああ、人形が座っている。
恐らく…人形と会話しているのだろう。
少女は唐突に画面の外に出る。何か取りに行ったのか。
その間、人形が中央に映し出される。

(この人形とそっくりだ・・・。)

横島の内心の呟きを聞いたかのように、人形はカメラに向かってニヤリと笑い、パクパクと喋りだす。
音声がないので聞こえないが、どうやら何かの呪文を唱えているようだ。
時間にして数十秒、人形は呪文を唱え続け、最後にまたニヤリと笑った。
そしてまた、少女が登場する。
両手一杯に抱えた人形を、彼女は丁寧に画面の中へ並べ、画面真ん中の人形と色違いの人形――姉か――を手に持って、画面の中に映る。
少女が目を閉じる。
少女の周りには、彼女を守るかのように配置された7体の人形達。まるでおとぎの国のお姫様のようだ。
そして彼女は、ニヤニヤと笑う人形に手を伸ばした。
少女の手が人形に触れた途端、彼女の身体は電気が走ったように痙攣し、クタリと意識を失った。

人形が笑う。

やがて人形は画面から消え……画面の中に、ちろちろと赤い物が混じりはじめた。
火だ。
その火は次第に少女と人形を囲み始める。
人形は無造作に少女へ近づく。

ああ――――少女と人形は炎に包まれた。

だが少女は意識を失ったままであり、人形は己の身が焼かれようと意に介さない。
人形は少女の身体に覆い被さる。
その瞬間、画面がホワイトアウトするほどの光を放つ。
カメラのレンズが焼きついたのだろうか。妙に不鮮明な画像が映し出され、少女は焼け焦げた人形2体を両脇に抱えて邪悪に笑った………。

そこで画面は砂嵐になる。

「美姫(ミキ)は、アリスに体を奪われてしまったんです」

唐突に、声が聞こえた。
横島の抱えている人形だ。
人形は身震いして横島の手から抜け出すと、とことこと歩いて横島に向き直った。

「自己紹介が遅れましたね。私の名は舞姫(マキ)。妹の名は美姫と言います。そして……あの人形の名はアリス。ご察しの通り、美姫の魂は人形のそれと入れ替わってしまいました。美姫の魂が封じ込まれた人形は、アリスがこの屋敷のどこかに保管しているはずです。あなたにそれを見つけて欲しいのです」

ビー玉の瞳で、彼女は横島を見つめて言った。

「この屋敷は、ビデオの中の世界。映像として記録された『記憶の世界』なんです。ここを支配しているのはアリス。ここにいる者は皆、アリスに支配されているんです。嫌な思いをさせて、すみませんでした」

人形が頭を下げる。

「思い出を汚してしまったこと、謝ります。ごめんなさい」

急に饒舌になった人形に横島は呆然としていた。
その間にも、人形(以降、舞姫)は言葉を続ける。

「私達にはそれぞれにプログラムされた役割があります。ダンスパーティーをした人形達を覚えてますか?彼らはダンスをすることが役割。令子でしたか?あの人形達もまた、貴方の心の隙間を揺さぶるためだけに存在する不定形の人形。」

「君は……少し毛並みが違うようだけど……」

「はい。私はこの屋敷で一番、役割の多い人形です。貴方をこの部屋まで導き、その過程で色々と貴方に揺さぶりをかけるのが私の役割。楽しんでるんです!!この屋敷を支配するあの人形は!!私が美姫を助けるために努力するのを嘲笑ってるんです!美姫の身体で!美姫の顔で!美姫の声色で!!!!」

まるで人間のように、息を切らしながら激白する。
その様子に横島はそれが真実と悟らせられる。

「――――ごめんなさい。アリスは私の苦しむ様を見るためだけに、人を喰らいます。正確には、ビデオの中へ引き摺り込みます。もう、何人こうやって導いてきたか分かりません。でも……でも……私は諦められない……。そして私が諦めない限り、あの人形はそれを続ける……」

舞姫は血を吐くように告白した……。

「あなたは勇敢で、そして優しい人です。今まで引き込まれた人たちは、どの人もここまでたどり着けなかったから」

舞姫はそう言って、横島を見た。

「ここまでたどり着いた人は、ビデオから外にでることが出来ます。ですが、外へでた人は二度とここへ戻って来れなくなります。……どうか、お願いです。美姫を、妹を助けてください。妹の人形を見つけてください!貴方にしかできないんです!やっと貴方みたいな人に巡り合えたんです!!」

舞姫は深々と頭を下げた。
何も言わず、横島は舞姫の体を抱え上げる。

「………俺はゴーストスイーパーだ。もう少しだけ頑張ってみるさ」

横島の言葉に、舞姫は嬉しそうに微笑んだ。

「まずお爺さんに会いに行きましょう。彼は味方ですから」

舞姫の指さした先は押入。

「さぁ、戻りましょう。あの忌まわしい屋敷へ……」

横島は押入を開けた。

押入れの中もまた、不思議な空間だった。
時間の感覚が酷く曖昧な感じがする。
まだ1分も歩いていない気もすれば、もう1時間も歩いたような気もする。
しかし横島は歩みを止めなかった。確実に一歩一歩踏みしめながら進む。
今までは屋敷の悪夢を見てるような雰囲気に圧倒されていた。目の前で起こる事象に翻弄されていた。
しかし、今は違う。
今の彼は事態を理解している。
悪意の正体の何たるかを理解している。
その自信が彼の歩みに力を与える。
いつしか遠くの方に光が見える。そう思った瞬間、横島は光に引き込まれた。






目を開く。
彼の前では、例によって、安楽椅子に腰掛けた老紳士が微笑んでいた。

「ありがとう、お客人。君は本当に讃えるべき人物だ。あそこで現実へ帰ることを選んでいても、私たちは君を責めなかっただろう。感謝する」

老紳士は品のいい微笑をもって、横島を讃えた。

「ここは唯一、アリスに支配されない空間だ。アリスもここでの会話を聞くことが出来ない。君に、彼女たちを助ける知恵を授けよう」

「その前に……あなたは、何者なんですか?」

横島が問う。

「私は彼女たちの住んでいた屋敷の記録だよ。屋敷もまた、幾多の年月をもってして霊格を帯びていた。ただ、ここはビデオの中の記録でしかなく、私もまた屋敷の霊の記録でしかないのだが」

老紳士は、自嘲するように笑った。

「彼女たちを守るのは、本来私の役目だったのだが……私にはもはやそれだけの力はない。だから私は、訪れる者達に忠告を与えることしかできなかったのだよ。さっきも言った通り、私は屋敷そのものだ。私は自意識が目覚めた時から、彼女達の一族を見守ってきた。色々なことがあったよ。そう、色々と。彼女達の一族は私を優しく、丁寧に扱ってくれた。だから私も彼女達を大切に見守ってきた。私の中で育っていった人間達は全て、私の子供と言っても過言ではない」

そう言って、老紳士は自嘲気味に呟く。

「子供達を守りきれなかった無力な私だがね」

横島には、老紳士にかけるべき言葉が思いつかなかった。
黙って、彼の口が言葉を紡ぐのを待つ。

「お客人、私にも妹の人形がどこにあるかは分からない。だが、それは逆に言えばそれだけ人形が重大な意味を持つということだろう。そして、私はこの屋敷のすべてを把握しているにもかかわらず、関知できない部屋が一つだけあるのだ。姉の寝室だよ。子供部屋の隣にあったはずなのだが、そこへ至る通路がもはやない。お客人、寝室を探したまえ。きっとそこに人形があるはずだ。人形を見つけたら、ここへ戻って来ると良い。そこから先は、私が何とかしよう」

その言葉に頷いて部屋を出ようとすると、老紳士が待ったをかける。

「すまない。大事なことを忘れるところだったよ。君がゴーストスイーパーなる悪霊祓いの人間であることは知っている。だが、今の君は力を振るえない。そうだね?だからこれは私からのプレゼントだ。」

そう言って、老紳士は金と銀の鍵を手渡す。

「両方とも使えるの一度だけだ。金の鍵はこの部屋へ。銀の鍵は別の部屋に移動出来る鍵だ。そしてその鍵が導く部屋がどこかは分からない。完全にランダムなのだよ。もっとも、姉の部屋には移動出来ないがね。それでもあの忌々しき人形から逃げ出すことくらいは出来る。グズグズしてたら追いつかれるだろうが。まあ、そういうわけだ。大事に持っていきなさい。良いかい?たった一度しか使えないことを覚えておきたまえ。」

カギをポケットに入れ、横島は暖炉に入った。
梯子は相変わらずそこにある。はしごを登り、扉のある小さな部屋へ。
そこでまた、最初にこの部屋に来たときと同じ違和感を覚えた。
『妙な部屋だ』と。
扉を開ければ、そこは無数の扉の並ぶ一本道の廊下があるはずだ。
だが、この屋敷そのものが言ってみれば一本道だった。
彼はまず、この部屋を調べることにした。
梯子と扉以外は何もない、小さな部屋だ。すぐに何も見つからないことに気づく。
では、この違和感は何だろう?
途方に暮れて、彼は頭上を見上げた。そこで気づいた。

ああ、天井がない。

横島は、足下の梯子を引き上げた。壁に梯子を立てかけた。





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