ザ・グレート・展開予測ショー

Die Marionetten 〜真紅のドレス〜


投稿者名:777&NAVA
投稿日時:(03/ 4/21)

まるで催眠術にかかったかのように、彼はその指示に従う。
真紅のドレスを持ってきて、そして彼女の衣装を脱がす。厭らしい気持ちなど全くなかった。
熱にうなされているような精神状態で彼女の服を脱がす。
衣装の下から現れたのは、白のブラジャーに、白のガーターベルト。そしてその上に白のパンティー。
そこまでは良い。スレンダーな身体を覆うそれは、彼女にマッチしていたし、むしろ下着モデルの写真を見ているような清楚さがあった。
だが、横島の興味はそこに惹かれなかった。彼の目を惹いたのは身体の左半分。
顔だけではなかったのだ。彼女の身体は綺麗に左半分ほど焼け爛れていた。
目をそらしたくなるような、凄惨な光景。けれど、横島は目がそらせなかった。
見てはならないけれど、見なければならないような、そんな気がして。
不思議と、労することなく着替えさせることが出来た。彼女は嬉しそうに一回転する。

「ありがとう………」

そんな声が聞こえた、と思った瞬間には彼女は元の人形に戻っていた。ただ、服だけが真っ赤なドレスに替わっていたが。
人形がそれまで着ていた服――人間サイズのまま、脱ぎ捨てられている――を、真紅のドレスの掛かっていた場所にかける。

その途端、ドレスルームのドレスが一斉に『踊り出した』。
まるで人が着ているかのように膨らんだドレス達は、ふわふわと優雅に踊り続ける。
人形がそれまで着ていた服も、彼がかけた途端飛び出して踊り始めていた。彼は苦笑して首を振り、人形を抱え上げた。
次の部屋への扉は見つけている。鏡だ。鏡に映っている光景は、こことは全く違う場所なのだから。
優雅に踊るドレス達を後に、横島は鏡の中に足を踏み入れた。






鏡の向こうは、長い、長い、一本道の廊下だった。
黙ってその道を進む。5分も歩いただろうか?
いつになったら着くのだろう。そう思って当然のところだが、横島は別のことに気付いていた。
自分の身体が縮み始めている。
よく見れば、廊下の天井が低くなって来ているのに、横島の頭との相対距離が縮まらない。
そしてもう一つ奇妙なことがあった。
廊下や横島は縮んでいるのに、人形だけは全く変化がない。

そしてとうとう、人形は横島と同じサイズになってしまう。いや、彼が人形と同じサイズになったのか。
しょうがなく、人形を背負って歩き続ける横島。不思議と、彼はそれ以上縮まなかった。
人形を背負ったまま、彼は歩き続け………そしてまた扉を見つけた。
今の横島にぴったりな、人形サイズの扉。




扉を開く。





部屋中に置かれた人形。そこは人形部屋だった。

部屋中の人形を見渡す。
思えば、『背負っている人形の友達を探してくれ』と頼まれていた。
同時に、『人形の友達は人形ではない』とも言われていた。
はっきり言えばどうでも良かった。
人形には人形がお似合いではないか。そう思って、背中の人形にお似合いの人形を見繕い始める横島。
だが唐突に背負っている人形が横島の首を締め付け始める。

「グッ・・・ククッ・・・」うめく横島。

そんな横島の耳たぶをひと噛みしてから、背中の人形が囁いた。

「この子達じゃ駄目なの。ほら、上を見て?扉があるでしょう?あそこから次の部屋に進むの」

天井の扉。随分と大きい。そう、『人間』サイズだろうか。
けれど、一体どうやってあそこまでたどり着けと言うのだろう。
人形はもう横島を締め付けてはいないが、その代わりしっかりとしがみつかれてしまっている。

「なぁ、どうやってあそこまで行くんだよ?」

人形は答えない。黙ってしがみついている。嘆息し、彼は頭上を見上げた。
あるいは、『人間』サイズに戻れば、あそこまで手が届くかも知れない。
彼は手がかりを探しはじめた。周りに並ぶ人形達を、丹念に調べる。
人形は、全部で13体あった。人形達のポケットを探る。
最後の人形のポケットで、何かが手に触れた。
『リンゴ』だ。瑞々しい、まるで食べられるかのようなリンゴ。
………これを食べれば、人間サイズに戻るのだろうか?

「これを食えって?」

人形は答えない。

こんな怪しい場所にある、怪しいリンゴ。
別に飢餓状態でもない横島は躊躇ってしまう。
だが躊躇っているだけでは何の展開も無い。
この屋敷の特徴として、何らかの攻略法が必ずある。横島は経験則としてそれを悟っていた。

(次の部屋に行きたがってる人形。友達を欲しがる人形。その人形が黙ってるってことは・・・)

安全なのかも知れない。

全ては横島の願望であった。希望的観測であった。
そして一口、二口と口を付ける。美味い。
こんな状況でもなければもっと美味いだろうに。そう考えながら、リンゴにむしゃぶりつく。
食べれば食べるほどに空腹感が増すような気がする。それでもリンゴを食べるのを止められない。

そして最後の一口を食べ終えた頃、横島は意識を失っていた。

「人形だ…」「人形だ…」「人形が居るよ…」

声がする。誰の声だろう。

「バンダナを巻いた人形だ」「赤いドレスと仲良しだ」「人形だ…」「人形だ…」

歌っている。トタトタと、軽い足音がする。

「人間の扉は上にある」「人形の扉は下にある」「人形では届かない」「人間では入れない」

「人形だ…」「人形だ…」「人形が居るよ…」

彼は目を開けた。

そこには人形の顔、顔、顔、顔。総勢14個の顔が横島の顔を覗き込んでいる。
その全てが無表情であった。否、赤いドレスの人形だけはニヤニヤとしている。

「人形の友達は人形じゃない。人形の友達は人間じゃない。人形の友達は・・・・元人間の人形もどき。」

「「「「「キャハハハハハハハハッ!!!」」」」」 

一斉に人形達が笑い声を上げる。無表情なままに。

そして人形達は叫ぶ。

「赤いドレスに赤いバンダナの恋人が出来た!今日はみんなでパーティーだ!!」

 そう叫んだ瞬間、辺りの風景がガラガラと音を立てて崩れる。
8畳ほどの人形部屋が、50畳はあるパーティーホールに変化する。
そこには今か今かと待ち構えていた、ダンスホールで会った幽霊達の姿があった。
誰かが叫んだ。

「さぁ!音楽を!!」

どこからか、音楽が流れはじめた。
音楽に合わせ、人形達が踊り始める。幽霊達も踊り始める。
横島の手を、誰かが取った。赤いドレスの人形。

「さぁ、踊りましょう?」

彼の意志に反し、体がダンスを踊り始める。リズミカルに動く手足。
曲が終わる。
赤いドレスの人形の顔が近づいてくる。
その唇が、彼の唇と合わさった。彼は理解する。ここが、『人形の扉』の先だと。
なぜなら、彼女はこう呟いたから。

「ドレスのお礼に教えて上げる。まだ、扉は上にある」………と。

横島は天井を見上げる。――――確かにある。
問題はどうやってあそこまで行くかだ。文珠なら一発なのに………。

『文珠?!そうだ!どうして今まで文珠を使おうって考えなかったんだ?!』

そんな自分に愕然としつつ、いつものように文珠を生成しようとして………何も起きなかった。

何故?どうして?

何度やっても結果は同じ。霊波刀やサイキックソーサーも試すが、そっちも同様。

何故?Why?

頭が更に混乱する。

そんな最中のことだった。
急に天井がパカっと開いた。まるで鍋の蓋を開けるように無造作に。
そしてそこを覗き込む巨大な誰か。そこら中の人形が一斉に姿を消す。
そして残ったのは横島と赤いドレスの人形のみ。
その巨大な誰かは横島と彼女を掴んみ出して、天井にまた蓋をした。








<屋敷 3階>

「お友達、見つかったのね」

その声は、横島に人形を渡した少女のものだった。

「さ、お部屋に戻りましょう」

少女が横島と人形を掴んだまま、どこかへと歩いていく。

(違う、俺は人形じゃないんだ!)

横島の叫びは届かない。彼は『人形』なのだから。
いや、叫びどころか、体が全く動かせない。
やがて、どこかの部屋についた。
横島とドレスの人形を棚に置き、少女は微笑みかける。

「ずっと一緒だよ…」

ああ、けれど、その微笑みは。少女の顔は、焼けただれていた。
少女の目が横島の瞳を射抜く。

「あなたって、世間で言うごーすとすいーぱーって奴でしょ?私、知ってるんだ♪」

まるで子供が母親に学校で習ったことを報告するように、無邪気なことを言い出す。

「今まで色んな人と話したけど、ごーすとすいーぱーは初めて♪嬉しいな♪」

ああ、この少女は全てを知ってこんなことをしている。
俺が人形じゃないってことを知って、人形扱いしている。
それは絶望に近いものだった。

「おにぃちゃん、ずっと一緒にいようね…」
少女はそう言い残し、横島を置いて部屋を出ていった。
横島は動けない。隣にいるドレスの人形も動かない。動く物が何もない、少女の子供部屋。
怖い。怖い。怖い。心だけが揺れ動く。
少女は戻ってこない。状況そのものが動かない。このまま人形になってしまうのか
イヤだ。イヤだ。イヤだ………。 

「熱いよぉ…」

横島の耳に、誰かの声が聞こえた。








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