ザ・グレート・展開予測ショー

Die Marionetten 〜屋敷〜


投稿者名:777&NAVA
投稿日時:(03/ 4/21)


『呪いのビデオ』
数年前、一世を風靡したそのビデオは、見た者をその世界に引き込んでしまうと言う物だった。
それは小説の中の話であったが、現実でもたくさんの『呪いのビデオ』が出回ったものだ。
もちろんそれらは偽物だったし、今でこそ『呪いのビデオ』など笑い話にもならないが、当時はずいぶんと騒がれた物である。
"たった一本だけ本物が混じっていたために"

さて、ここに一本のビデオテープがある。

本物の『呪いのビデオ』はこの世に一本しかない。ダビングも出来ない。
ただ誰かがそれと知らずに所有している。そして唐突に持ち主に襲い掛かる。そういう類のものだ。
それは特定のテープに収まっているわけではない。テープからテープへと渡り歩く。それが騒がれた原因の一つでもある。
さて、話を戻そう。ここにある一本のビデオテープ。タイトルは『人形姉妹・背徳の調(しらべ)』と言った。
このビデオ、とあるレンタルショップのアダルトコーナーに並んでいたものだったが、今日めでたくある少年によって借りられることになった。
その少年の名は横島忠夫。これから自分の身に降りかかる不幸を知るすべもない、哀れな高校生である。
彼は家に帰ってビデオをデッキにセットし………そして、『恐怖』が始まった。

『あ〜ん、ふ〜ん♪』

ビデオの嬌声は横島のリビドーを激しく刺激する。入れ替わり、立ち替わりにアングルが変わる。
モザイクの裏が見えろとばかりに凝視する横島。
TVににじり寄り、鼻息も荒く興奮している。
それはTVの中の女性達の営みがクライマックスを迎える!そんな瞬間だった。
TVに顔をくっつけんばかりに寄せていた横島は、唐突にTVの中から伸びた手によって――――TVの中に引っ張り込まれた。


一瞬、何がなんだか分からなかった。
彼の知る限り、手の出てくるテレビなんてあり得ない。まず間違いなく、悪霊の仕業だろう。
そう考えた彼は、油断しないようにあたりの風景を観察した。
少しだけ、テレビに映っていた情景が目の前に展開するかと期待していたがそんなことはなく。
目の前にあったのは一軒の古い屋敷だった。
窓の一つから、誰かの顔が覗いているのが見える。
その顔を凝視する。その顔も凝視してくる。その顔は少女のもの。
左半分が血塗れた包帯で覆われ、残る半分で横島を見据える。
そしてフッと視線を逸らして窓際から立ち去った。だが横島は見た。



最後に視線を逸らす瞬間、少女の顔が邪悪に歪んだところを。




少女が窓際から立ち去ると同時に、屋敷の扉が音を立てて開いた。
どう考えても誘われているのだろう。
だが、どのみち他に手はないのだ。
彼は意を決し、扉をくぐり抜けた。
扉を抜けた先には、豪華なシャンデリアがかけられた巨大なホールがあった。
横島がホールの中央に立った途端に、ホール全体に明かりが点る。
そして唐突に音楽が流れ始める。
キョトンっとしていると、どこかともなく半透明の霊達が現れた。
それぞれに着飾った霊達は男女ペアになってワルツを踊り始める。
陽気な音楽、と言うわけではない。ただ、沈んだ曲というわけでもなかった。
何か…そう、同情するかのような不思議なメロディー。
踊っている幽霊達の表情もまた、どこか期待するような、あるいは同情するような分かりにくいものである。
………と、音楽とダンスに心を奪われていた彼の耳に、背後から大きな音が響いた。
驚いて振り返ると、目の前にあったのは閉められた扉。
まぁ、予想していたことだった。
嘆息してホールに向き直ると、そこにあったのは無数の顔。
幽霊達がワルツを踊るのをやめ、彼の顔を食い入るように見つめているのだ。


彼はそこで初めて気付いた。
年齢はマチマチだが、比較的若い者が多い。
象徴的なのは髪型だろうか。
一世を風靡した聖子ちゃんヘアーの者も入れば、リーゼントで決めている者もいる。
今風にウルフヘアーの女性が居れば、野暮ったい三つ編みの女の子も居る。
共通する点は一つ。
恐らくは全員がティーンエイジャーであろうこと。自分を含めてだ。
そして彼女達は横島をしばらく見続けた後、一斉に笑い出す。
限界まで目を開き、血走った目でこちらを見つめ、ひきつったように口を歪めて笑う彼女たち。
笑い声がホールに響く。
もう、あの不思議な音楽は聞こえなかった。
唐突に、ゲラゲラという笑い声が消え、幽霊達から表情が消える。
いつの間にか音楽も消えていた。一瞬の静寂が場を支配する。


――――と、横島の耳に何かが風を切る音が聞こえた。嫌な予感がする。


逃げ惑う幽霊達。
だがそれでも喧騒はなく、静かに逃げ惑っている。衣擦れの音一つなくだ。
よく見れば宙を浮いている。当然のことか。
次第に音は大きくなっていく。逃げ惑う幽霊達が金切り声で悲鳴を上げているのが見える。例によって声は聞こえないのだが。
そしてホール全体に激しい風が吹き荒れる。あまりの風の強さに横島は目を明けていられなくなる。
風の音の中に、何かが割れる音や、何かがきしむ音が混じる。
耳元をギリギリで何かがかすめていく感触があった。
頭をかばい、しゃがみ込んで丸くなる。
…どれだけの時間が経っただろうか、気づくと風の音は止んでいた。
恐る恐る目を開ける。
ホールは酷い有様だった。シャンデリアは落ち、壁紙は破け、絨毯はめくれ上がり、あの音楽を奏でていたであろうグランドピアノはひっくり返っている。
ただ、幽霊達の姿はどこにもない。一体どこに行ってしまったのだろう。
周囲を見渡す彼の目が、赤い色を捕らえた。





――――真っ赤なリボン。




それは後姿だった。銀色の髪をした少女の後姿。
腰まで届く長さの髪を一つに纏める大きなデコレーションの付いた真っ赤なリボン。
少女の背丈は大体150センチくらいだろうか。
その背中越しに大きな人形を抱きかかえているのが分かる。
横島の霊感が激しく警鐘を鳴らす。

『この少女の顔を見てはいけない』と。
だが少年は金縛りにあったように動けない。そして少女がゆっくりと振り向いた。






少女の顔が見える寸前に、少年は目を瞑ることに成功する。
暗闇の中、彼の霊感が告げる。

『少女が近づいてくる』

だが、彼は動けない。少女が少しずつ近づいてくるのが分かる。もう、すぐそばだ。
ヒヤリ、と言う感触が少年の頬を撫でた。
彼にはそれが少女の掌だと言うことが分かる。
耳元に何かが近づく気配。

『その子は、寂しがってる。お友達が欲しいって。お友達、探して上げて?』

彼女の気配が消えた。目を開くと、足下にフランス人形が転がっていた。




言いようのないラビリンスに迷いこんだ、不思議の国の忠夫くん。
馬鹿馬鹿しい。
そんな考えを捨てて、フランス人形を拾い上げる。
薄汚れた、けれどどこか気品のある面立ちをしたその人形には左目が無かった。
というより、左半分が焼け爛れていた。
悪寒が走る。
まるで人形のビー球の目から悪意が溢れ出んばかりに感じられる。
思わず放り投げる。
が、何故か横島の頭の上に落ちてくる。投げる。落ちてくる。投げる。落ちてくる。思いっきりぶん投げる。そしてその勢いのままに横島の頭の上に落ちてくる。

『お兄ちゃんのこと。気に入ったみたいだね。クスクスクスクスッ』

そんな声が遠くから聞こえたような気がした。





諦めて、人形を抱え上げた。
少女が言った言葉の意味を考える。
『お友達を探してあげて』
探せと言っても、どこを探せばいいのだろう。
見た限り、このホールには入ってきた玄関以外通路が………いや、それはおかしい。
この館には居る前に、窓際から笑ったあの少女。あの窓は3階だった。と言うことは、どこかに上へと続く道があるのだ。
彼は注意深くホールを見渡してみた。
………けれど、やはり通路は見つからない。
嘆息して、思わず人形に話しかけてみた。

「なぁ、お前の友達ってどこに居るんだよ?」

人形は応えない。

「ったくよー!!」

苛立ち紛れに壁を蹴る。いや、蹴ろうとした。
しかし、壁は少年が蹴ろうとした部分を避けるように凹んでしまう。何度繰り返そうと、同じように凹んでかわしてしまう。
ついにぶちキレて、

「壁なんぞに馬鹿にされてたまるか!!」

叫びながら体当たりすると、ぽっかりと壁に穴が空く。
その穴に思わず飛び込む。

「………………………#」

最後まで壁に馬鹿にされた気がするが、どうやらホールに面した隣の部屋に入れたようだった。








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