ザ・グレート・展開予測ショー

続・そんな春の日の事


投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(03/ 4/20)




「忠夫… アレな頭だと思っていたが」

「何、泣き真似してやがる、バカ親父!」

 女房子供を紹介しての第一声に、思わず横島は大樹を殴り飛ばした。

「何しやがる、この馬鹿息子っ!」

「言うていい事と悪い事の区別が付かん馬鹿親を殴って、何が悪いっ!」

 あっと言う間に取っ組み合いの喧嘩を始めてしまう。

 馬鹿な夫と息子のスキンシップを横目に、百合子はタマモに向き直った。

「じゃ、本当なのね」

 子供達の入ったバスケットを抱えて、タマモはこくりと頷いた。
 すやすやと寝ている4人は、未だ起きている時しか人化していられない。 それを見越して時間指定したのだが、素直に従ってくれる親ではなく、狐状態での対面と相なった訳である。

 横手でどたばたと暴れている所為か、不意にホタルが目を覚ました。

「起きたの、ホタル?」

 こくりと頷く4本尻尾の娘に、タマモは笑い掛けた。
 本当のところを言えば、内心不安は尽きない。 今も、百合子ですら騙そうとしてるのではとの疑いを見せているし、大樹は完全に疑っている。
 自身、妖怪であるだけに、その事で受け入れられない可能性だって残っている。

 そんな不安を隠して、起きたホタルに声を掛けた。

「ちょっと人化してくれる? お話したい事もあるし」

 ホタルはこくりと頷くと、すぐ横のテーブルへ向かって飛び移り、そこでくるりと空中前転する。
 一瞬稲光が集まり、それが収まると見掛けは3〜4歳のおかっぱ……襟足から4本束ねられた尻尾が伸びているので、正確には違うのだが……の幼女が現れた。
 …但し、その背の丈は30cm程だったが。

「おや、まぁ…!」

 さすがに百合子も驚きを口にする。
 その声に、ぴくっと反応した後、ホタルはタマモに向かって「なに?」と首を傾げた。

「あなたのお婆ちゃんよ」

 言われて、百合子へと視線を向ける。

「あなた、ほたるちゃんって言うの?」

 こくりと頷くホタルに、手を伸ばして抱き上げる。
 素直に抱き上げられるホタルの顔を覗き込んで、百合子は笑い掛けた。

「あなたのパパのママよ、宜しくね。
 う〜ん、可愛いっ。 垂れ目気味な所は、忠夫譲りなのかしら…」

 スケールさえ気にしなければ、本当に可愛らしい子供なのだ。
 吊目がちなタマモに対して垂れ目なホタルは、確かにどちらかと言えば横島似だろう。

「じゃあ、そっちの子達もこんな風に?」

「えぇ。
 タマキとミナモはどっちかと言うと私に似てて、タダトはヨコシマ似」

 次女と三女は、短いポニーテールが3つに別れている事を除けば、幼くしたタマモそのものだった。
 タダトも襟足の二束の尻尾を除けば、横島の子だと誰もが疑わない容貌をしている。

「そう」

 抱えたホタルの頭を撫ぜながら、百合子は微笑んで頷いた。
 と、ホタルが右の方へ向かって手を伸ばしている。 百合子がそちらへ目を向ければ、驚愕に固まっている夫と、ほれ見ろと言わんばかりの息子の姿。

 ホタルに目を戻せば、何やら懇願する顔付き。

「なに? パパの所に行きたいの?」

 こくんと頷くホタルを、百合子は横島へと手渡した。

「ご機嫌ねぇ… ほたるちゃんは、パパが好きなのね?」

「そうなの。 私とヨコシマ、二人揃っていたら、絶対にヨコシマの方に行っちゃうんだもの…」

 横島の腕の中でこくこくと頷く娘に目をやって、タマモが苦笑い混じりでそう答えた。

「忠夫…」

「な、なんだよ?」

 母親に改めて呼び掛けられて、娘を抱えたまま思わず後退る。

「この子達が、お前とタマモさんとの間の子だってのは判ったわ」

「お、おう」

 妙にびくつく夫に向けた、タマモの視線に呆れが混じる。

「何時、どうして、こうなったんだい?」

「えぇとだな…」
「クリスマスに私から告白したの」

 詰った横島に、タマモが助け船を出した。

「その暮れに掛けて、仕事と学校に追われて寝込んだヨコシマを見舞いに行って、その…
 そうなったのよ」

 さすがに照れ臭そうにそっぽを向きながら、それでも彼女は一気に言い切った。
 卒業を前に、足らない日数を課題で補う事にしたのだ、横島の通っていた高校は。 膨大な量のソレを抱えて、しかし美神の人遣いの荒さは変わらなかった。
 結果、冬休みが始まると同時に、横島は寝込んだのだ。

 突然見舞いに現れたタマモに驚いた横島だったが、その場で告白されて更に驚いた。
 返事は保留にしたものの、1日と空けずにやってくるタマモに世話されて、盛り上がってしまった訳だ。 年末、美神とおキヌとシロがそれぞれ実家へと帰ってしまった為、年末年始は二人っきりだった事もある。
 成る様に成ってしまったのは、自然な成り行きと言えよう。

 戻ってきた3人が、状況に気付いた時には手遅れだった。
 尤も、彼女達が気付いたのは、1月も終わり掛けた頃。 タマモの妊娠が発覚してからの事なのだが。

 タマモの言葉に、じろりと百合子は息子を見据えた。
 びくっと肩を震わした横島に、腕の中のホタルが心配げな顔を向ける。

「…はぁ。
 じゃ、ここ半年くらいの事なのね」

「あ、ああ」

 頷く横島に、百合子は溜め息を吐いた後、肩を竦めてみせた。

「もうちょっと、どっしり構えなさい。 ホント、情けない子だねぇ…
 あんたも卒業して社会人になってるんだし、事もここまで来てるのに文句なんか言わないわよ、母さんだって」

 そう言うと、今度は現実に戻って来ない夫の耳を摘まんで、引き摺り寄せる。

「じゃあ、改めて。
 私が忠夫の母親の百合子です。 こっちのが父親の大樹。
 馬鹿な息子共々、宜しくね」

「は、はい。 タマモ…です、宜しく」

 頭を下げられ、タマモも反射的にお辞儀し返す。

「あんまり畏まらなくていいわよ。 こうなったからには、あなたも私の娘同然なんだから」

 義娘と言わないのは、戸籍が無いので籍が入っていないからだ。
 美智恵が手を回してくれる事になっているが、時間が掛かるとの事でまだ正式に結婚はしていなかったのである。

「判んない事があったら何でも聞いてちょうだい。 あなたはもう家族の一員なんだから、ね」

 人でない事に対する忌避などまるで感じさせない百合子に、タマモは嬉しそうに微笑んでこくりと頷いた。

 ・

 ・

 ・

「ほら、アンタもいい加減戻って来なさい! まったくもう…」

 未だ帰って来ない夫を百合子がどつく。

 大樹は、孫が半分人間でない、と言う事実で惚けている訳ではない。
 紹介された可愛らしい女の子が、揶揄ってるとか嘘とかでなく、本当にダメ息子の嫁さんだと言う事に思考停止していたりする。

 何と言うか、らしいと言えば実にらしいと言えよう。



 【おわる】



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……ぽすとすくりぷつ……

 ダメじゃん…

 思い付くまま打ってる所為か、オチが巧く着かなんだ(泣)
 ウチの横島は、母親の前だと萎縮していかんなぁ… もっと毅然とさせるつもりだったのに。

 ホタルの髪型は、某『天○無用』の阿重霞の様な感じで、幼ルシオラの襟足から束ねた尻尾が4本、肩甲骨の上辺りまで伸びてます。


 漸く落ち着いてきた花粉症。 だからと言ってペースが上がる訳ではないのが悲しい所(^^;

 次こそはおキヌちゃんを、とか思ってるけど… 今回だって、例えばの続きを書くつもりで居たのだから、当てにならない事甚だしい(苦笑)

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