ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−42


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 4/18)




私が意識を取り戻したのは、どれだけ時間が経ってからなのだろう。
戦場は喧騒を失っていた。
私達のいる場所を除いて、全てが無くなっていた。
半球の中に一際高い切り立った塔があるような。そんな場所に私は立っていた。
創世の炎とか言ったか。
大地を削り、私達の結界の外側を根こそぎ消し飛ばしてくれたようだ。
人間も。神族も。魔族も。
私達の結界の外に居た奴は全員消し飛んだらしい。
結界の一番外側に、斉天大聖の背を思わせる巨大な金剛石(ダイアモンド)があった。
思わせるどころではない、西遊記が正しいとすれば、斉天大聖は金剛石から生まれた石猿とのこと。
力を使い果たして眠りについたのだろう。
ふと、泣き声が聞こえる方向を見る。
冥子が泣いている。
だが式神が暴れている様子もない。
ああ、結界を維持するために限界を超えた力を発揮したのだろう。
斉天大聖と同様に眠りについたようだ。
復活にどれだけの時間を要するのだろうか。
立っているのは私だけではない。
唐巣神父やエミ、ママ。結界の外縁を守っていた2人と、その2人に霊力を供給し続けた1人。
だけれどピクリともしない。
立って構えたまま気絶しているのだろうか。
カオスですらお行儀良く地面に横になっているのに。
ああ、西条さんはずっと気絶したままね。

そして強い風が吹いた。

立っている3人の身体が揺らぐ。
不思議ね。
唐巣神父は禿が進んでいると思ったけど、白髪なんてあったかしら?
ん?ママまで白髪になっちゃってまぁ。
まあ、そういう歳だからねえ。
あ、もしかして染めてたのかな?
エミまで白髪じゃない。何考えてるんだか。
でも綺麗かもね。
3人とも白髪というよりは、銀髪に近いかな。

更に強い風が吹く。
揺らいでいた身体が倒れる。






そして3人が立ち上がることは、二度と無かった。
そう、二度と。









「そうか………隊長が逝ったか………。」

深い溜息を吐く。
美智恵に。唐巣に。エミに。
浅からぬ縁があった人物達の死は辛いものだ。
それは事態を演出した横島にとっても同様のこと。
許されざる罪を重ねていることを自覚する。
だが、走り出した列車は止まらない。
自分が望む終着点に辿り付くその日まで。

「生き延びたのは、美神令子、西条輝彦、六道冥子、ドクターカオスのみです。神族・魔族ともに全滅のようです。西条輝彦はメドーサ達との交戦で怪我。六道冥子は式神を失ったようです。美神令子とドクターカオスは特に目立った外傷はありません。」

ワルキューレの事務的な報告は続く。

「今回の交戦で神界の主戦力の凡そ3分の1の殲滅に成功しました。また、創世の炎の影響で神界に通じる細々としたチャンネルにも影響が出ています。」

「つまり、神界の干渉は完全に封じたと考えて良いな?」

「その通りです。」

その返事に満足した横島は思考を更に進める。

(ここで進軍を止めれば、戦勝ムードの魔界は押さえられない。しかし、進軍するわけにもいかない。ジレンマだな………。いや、むしろ好都合か?大々的に秘密兵器を用意してると銘打って、地下の準備を進められるかもな。それなら色々と裏工作をしている"フリ"も必要か………。)

こうしてリグレットが呼ばれ、魔界もまた、1ヶ月の沈黙を保つことになる。






泣いた。
母が力の限りを尽くして。
厳しい表情で。
霊力を限界まで酷使して。
足りない分は己の魂すら消費して。
母は娘を守った。

泣いた。
師が力の限りを尽くして。
厳しい表情で。
霊力を限界まで酷使して。
足りない分は己の魂すら消費して。
師は弟子と仲間を守った。

泣いた。
友が力の限りを尽くして。
厳しい表情で。
霊力を限界まで酷使して。
もはや引けぬ状況に怒りを持って。
友は最後まで闘った。

泣いた。
もはや戻らぬ男を想って。
もはや戻らぬ日々を想って。
慰めてくれる人の居ない孤独を想って。
彼女は泣いた。

涙が枯れるなんて表現が嘘だと分かるまで、彼女は泣いた。
いつしか彼女は自分で涙を止めた。






事態が事態だけに略式の葬式で済ませた。
どこか感情が麻痺してしまっている部分がある。母達の死はそれほどに現実感に欠けていた。
それでも令子達はやるべきことがあった。
遠からず、その折れた心は奮い立つだろう。
しかし、今は。今だけは流され気味になるのは致し方ないことでもあった。
そんな彼女達は今、GS協会の幹部達に糾弾されていた。


ドン!!!!!


「一体どうしてくれるんだね!!!」

円卓を激しく叩き、協会幹部の一人が叫ぶ。
対して令子と西条は無表情。

「神族の増援が全滅。
 ママ達も死んだわ。
 それほどの状況を簡単に覆せるとでも思ってるの?」

冷ややかな、侮蔑を含んだ令子の指摘。

「元々、今回出てきたベスパにせよパピリオにせよ、我々以上の力を持っている。
 ボスの横島君は魔神級。
 全ては彼方達の傲慢が作り出した状況だ。
 我々に過分な責任を求めるのは止めてもらおうか?」

西条のゴミを見るような表情。未だ癒えぬ傷が彼の身体を痛めつける。

令子にせよ、西条にせよ、今は仲間割れしている場合ではないからこそ、協会と協力しあっている。
単純に協会の組織力を利用しているとも言える。
だが、それもそろそろ限界のようだ。
そもそも、組織されるべきGSが壊滅状態なのだから。

「黙れ!!貴様らは正式にはテロリストなんだ!
 横島が攻めて来なければ、独房の中にいるところなんだぞ!!
 貴様らは横島を倒さなければ、将来は無いのだ!!!」



『お生憎様。未来が無いのは、彼方達の方よ?』



唐突に女の声が響く。


一斉に視線が声のした方向に集まる。

「ルシオラ?!!」

その単語を聞いて、その女――リグレットは顔を顰める。

「………私の名はリグレット。
 ルシオラとは、魂の双子といったところかしら」

「な……?どうやって魔族が入って来たんだ?!」

慌てる協会幹部達。

「・・・・・・後悔か。
 横島君は、ルシオラを作り出すのに失敗したのね」

令子が何とも言えぬ表情で呟く。
それに想像以上に激しく反応するリグレット。

「私を失敗作扱いするのは、止めてもらいましょうか?
 マスターから貴女達に危害を加えることを禁止されてなければ、八つ裂きにしてるところよ?」

にっこりと微笑みながら、さらりと恐ろしいことを言うリグレット。

「分かったわ。それに関しては素直に謝るわ。
 で、何の用かしら?」

「マスターを酷い目に合わせた連中に、酷い目に遭ってもらおうかとね♪」

「それは私や西条さんも含まれるのかしら?」

「いーえ。安心して良いわよ?」

「じゃあ、お好きなようにどうぞ?」

「な、何を言っている!!!私達を守れ!!!」

狼狽に拍車がかかる幹部達。
鈍りきったその身体では、一瞬でミンチにされることは分かりきっている。

「彼方達も権力を得て腐ったとは言え、元は一流のGSばかりでしょうが?
 それに・・・・・・ここに武器を持って入室するのを禁止したのは彼方達でしょう?
 私も西条さんも丸腰よ?」

令子が楽しそうに答える。
常に安全な場所から愚かな物言いをする連中を相手に、更に安全な場所から嘲る。
かなり楽しい。

「10分待つわ。美神令子、西条輝彦。
 早くここから立ち去りなさい。
 私のやったことで、彼方達に嫌疑が持たれることは本意ではありません」

「では、ご厚意に甘えることにして、行こうか、令子ちゃん?」

「それではみなさん、ご機嫌良う。
 そして永遠にさようなら。
 大丈夫よ。彼方達がいなくても、横島君は何とかしてみせるから♪」

そう言って、二人は部屋を立ち去った。

幹部達はリグレットの放つプレッシャーに、声も出ない。
冷や汗がどっと溢れ出す。
永遠とも感じられる10分が経つ。

「そろそろ10分ね。
 お祈りは済んだかしら?」

ニッコリと笑ってリグレットが言い放つ。

その言葉で呪縛が解けたのか。
幹部の一人が急いで、緊急用のボタンを押す。
リグレットはそれを止めない。

あくまで、幹部達を殺害するのは自分だ。

これは令子達からGS協会という楔を抜く作業だ。
ここでこれから起きる惨劇は、全て自分に責任を帰さなければならない。
そのための目撃者を呼んでくれるのだ。
どうしてそれを妨げようか?

1分も経たずに突入した警備隊が目撃したのは、幹部達の頭部のない死体。
そしてその中でうっとりとしているリグレットの姿だった。


ああ、こんな大事な任務を、ワルキューレでも、ベスパでも、パピリオでも、メドーサでもなく、この私にお命じになったマスター!!
私は確かにあの方に信頼されている!!愛されている!!
あの方の期待に添えず、ルシオラにはなり損ねたけれど。
それでもあの方は私を大切にして下さっている!!


生まれたばかりの純真な心。
迫害されるわけでもない、だけれど歓迎されるわけでもない。

そんな状況に置かれ続けた心は歪に成長を遂げていた。



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