ザ・グレート・展開予測ショー

〜水と蛍と涙とキツネ〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(03/ 4/16)


〜水と蛍と涙とキツネ〜


「あ〜極楽〜」

気の抜けた声が露天風呂に響く。
ちまたを騒がす「山奥のゴーストペンション」
しかし実際ふたを開ければ低級霊が2、3匹暴れまわっていただけであり・・、
除霊にあたった事務所のメンバーは予想外の休暇を楽しむこととなった。

霊がいなければ緑に囲まれた普通のペンション・・・さながら慰安旅行である。
美神でさえ『今回は依頼はどうでもいいわ〜』などと言うほどの気の抜けよう・・。
シロやおキヌにいたっては・・もうフニャフニャといっていい。

犬掻きをしてはしゃぐシロをなだめ、おキヌが辺りを見回した。

「そういえばタマモちゃんは?」

「あの子なら川にいくって。蛍が見たいって言ってたから。」
そう言って持参した日本酒に手をかけ・・、
・・・・・。
・・蛍かあ〜、私も後で見に行こうかな〜

そんなことを考えながら美神は星を見上げていた。
          ・
          ・
          ・
          
「・・きれい・・・・。」
水面をただよう無数の光。
目の前に広がる光景に私は少しため息をついた。

素足に浸る水の感覚は・・ひんやりとして心地いい。
視界の端にはなにも見えない闇が続く。
淡い緑が空を舞い・・・・、幻想的とはこういうことを指すのだろう。

・・・。

しげみの方から音がして・・、それに私は振り向いた。


「?おお!?先客がいたか?」
素っとん狂な声・・。
横島だ。・・煩悩の化身だ・・・。

「・・・なにしに来たの・・・?」
迷惑千万と言っていいその来客をジロリとにらみつけみた。
「そんな人を邪魔者みたいに・・・。」
苦笑して・・・しかし大してたじろぎもせず、自分のそばに腰掛ける。

・・これは・・少し注意した方がいいだろうか・・。
私は少し身構えた。

なにせコイツは呼吸をするかのごとく人に飛びかかるし・・でもまだ蛍は見ていたい。

頭を抱え、本気で悩みだそうとした矢先、不意に横島が声をあげた。
「オレも蛍を見に来たんだよ。」

「え?」
予想外・・、というより予想もしていなかった言葉。
目を丸くして彼を見上げる。

「さっき聞いただろ?何しに来たか・・って。・・蛍を見に来たんだ。」
そう言って・・、彼は視線を蛍に戻し・・・、そのまま静かに目を閉じた。

・・・・・・。
・・?
どうしたのだろう・・。
いつもと様子が大分違う。
この状況なら獣の所業の5回や6回簡単にできるそうなものを・・(殴られて地面にめり込むのがオチだが)
いや・・自分に興味がないというならそれまでの話だが・・・何か釈然としなかった・・。
気になってちらちらと、横島の顔を見ていると、

「・・?どうした?」
などと不思議そうな顔で振り向いてきて・・・・、これでは自分が邪魔者ではないか。
ぶんぶんと首を振り、そのまま顔を下に向ける。
なんでもない、その言葉を最後にしばらく会話が途切れた。




・・風の流れと川のせせらぎ・・、それ以外にはなにも聞こえず、
なぜだろう・・なんだかひどく落ち着かない。
相変わらず横島は遠くを見つめたまま・・
・・・どうして何も言わないのだろう・・







「ねえ・・横島は蛍・・好き?」
光を映す水面を見つめ、気付けばこんなことをたずねていた。

「・・・ああ・・・好きだったよ・・・。」
目を閉じたまま彼が応える。


「・・・だった?」

「・・いや・・今も好きかな・・。」


そう言って・・、少し微笑む彼の笑顔は・・、
今まで一度も見たことのないもので・・
・・なにか・・。
・・・・・・。
・・・どこかが・・・・。

「・・タマモはどうだ?」

「!?」
問いかけられて体が震えた。

「な・・なにが?」

「蛍は好きか?」

横島の表情はよく見えない。
戸惑いながら、しかしなんとか頷いた。

蛍はすき・・・・。そう・・好きだった。
おぼろげにだが・・・昔のことを思い出す。
あのころは傍らに立つ人などいなかったけれど・・


「・・・そっか・・。」


また沈黙が訪れた。
彼はずっと蛍をみつめている。
瞬きもせずみつめている。

・・・・・。
それは衝動的なものであり・・
横島の顔がどうしようもなく寂しげで・・取り残された子供のような顔をしていたから・・・、

・・・だから・・私は無意識に横島を抱きしめていた。

どんなに力を込めたとしても、応えてくれない彼の両腕。

一つの雫が水面を揺らす。

ひらひら蛍が舞う中で、すべてが止まったようだった。
           ・
           ・ 
           ・
―― 翌朝 ――

「みっかみさ〜ん!!」
スパコオオオオオオオオオオン!!
帰り道、お決まりのごとく美神にとびついた横島は、これまたお決まりのごとく地面に頭をめりこませる。
・・・・。
一夜明ければ・・、横島はいつものバカでスケベば横島に戻っていて・・、
「みっかみさ〜ん!!」
スパコオオオオオオン!!!

昨日のことは夢だったのだろうかと、そんなことを考えてしまう。

タマモは軽く嘆息した。
倒れたままの横島に呆れ顔で手を差し伸べる。
「・・・いい加減にしないと・・いつか死ぬわよ・・。」
「いいだろー。オレの生きがいなんだよ。」

(・・どんな生きがいよ・・。)

本当にアレは夢だったのかもしれない・・・じゃなきゃこんな奴が・・・、

・・・と、そこまで考えて、タマモは頭にふわりとした感覚を覚えた。
見上げれば、横島が苦笑しながら手を置いている。

「昨日は悪かったな・・。かっこわりぃとこ見せちまって・・。」
・・・・・。
涙のことを言っているのか・・・。
その言葉を否定しようとした時には・・横島は前を向いて走り出していたわけで・・・。

タマモはまたも嘆息した。

「・・・蛍・・・か・・・。」

横島の大好きな蛍。
その蛍も彼に惹かれていたのだろうか・・。
・・・・・。
・・・・・・・も?
「蛍も」とはどういうことだろう。・・他に横島を好き女が居るという・・そんな口ぶりだ。
・・・・これではまるで・・・
・・・・・・・まるで・・・・・・

「・・・まさか・・・ね」
一人ごち彼女はゆっくり歩を進める。
その「まさか」であることを今の彼女が知る由もなく・・・
(そうだ!帰ったらアイツに油揚げでもおごらせよう!)

そんなことを考えながらタマモは家路を急ぐのだった。


         

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