ザ・グレート・展開予測ショー

さあ、どっち?(第7話・京都1)


投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 4/14)

 車を走らせる横島は、まったく急ごうとしなかった。
 宣言どおり名古屋にたちより、早速みそカツの老舗店に行った。
 「けっこう甘いみそだな。こらうまいっ!!」
 
 その日は名古屋市内のビジネスホテルに宿泊。
 
 翌日の昼ごはんはひつまぶしである。
 おひつに入ったうなぎの蒲焼を、一膳目はご飯といっしょにたべる。二膳目は蒲焼に薬味を加えて、ご飯にまぶして食べる。三膳目は蒲焼をご飯にのせ、お茶漬けにして食べる。
 「こんだけ食って一人2300円ってのは安いな」
 
 さらに、横島はえびせんべいを1箱、みそ煮込みうどんの袋詰めを5袋買った。事務所へのお土産だという。
 その上、天むすを1箱(5個入り)買った。これは、京都へ行く途中で食べてしまった。

 こうして、二人は信州を出てから二日かけて京都に入った。

 道中、雪之丞はあまり口をきかなかった。正直、横島のはしゃぎぶりについていけなかった。横島が京都に行ってなにをしようとしているのか、見当がつかないことも不安だったのである。



 京都に入ったのは、夜7時過ぎである。あらかじめ予約しておいたビジネスホテルに荷物を置くと、横島は雪之丞を部屋に残して本屋に行った。ほどなくして、彼は一冊のメンズファッション誌を買ってきた。
 ページをめくって、雪之丞の目の前にひらいてみせる。
 「見ろ雪之丞。こいつが護摩堂健一だ」
 雑誌なので背丈ははっきりわからないが、おそらく180センチ以上だろう。横島やタイガーあたりが毛ギライする(筈の)・・・まあ、『美形』というやつである。

 雪之丞は、首をかしげた。
 「こいつ、GSだろう?なんでこんな雑誌に・・・・・・」
 「思い出したんだ。本業はGSだけど、バイトでメンズ誌のモデルもやってるって。おキヌちゃんの学校でも人気あるんだってさ」
 「ふーん。・・・」
 
 雪之丞は、横島の顔をのぞきこんだ。
 「横島、お前・・・冷静だな?」
 「え?なにが?」
 「だってよ。いつもなら、『チクショー!なんだかとってもチクショー!!』とかいって、ワラ人形に五寸クギ打ち込んだりするだろ?」
 雪之丞のしごく当然の質問に、横島は表情をゆるめた。
 「思い出すぜ・・・。おキヌちゃんが事務所に雑誌を持ち込んで、キャーキャー言ってたのを」
 横島は、とおいものを見るような目をして、いった。
 「俺は悟った。男はカオだってな」
 「おいおい、本気でいってんのか?」
 「本気さ。物事は突き放して見なくっちゃ。自分も含めてな」
 「・・・といいつつ、ボールペンの先で写真をブスブス刺すの、やめろよ」

 

 次の日、ふたりは平安神宮にお参りに行った。
 その後も、横島は市内をブラブラ歩きまわるだけである。雪之丞はたまりかねた。
 「おい横島!お前、京都になにしに来たんだ!?」
 「なにしにって・・・。いっただろ、観光だよ」
 雪之丞は、横島の顔をみつめた。横島の顔つきは、いたってのんきだった。本気なのか、と思った。
 「明日は、大阪いこうか。ついでに神戸にもいって、三都物語の完成だな」
 「・・・・・・・・・」

 
 ふと、横島は足を止めた。
 「どうした」
 「あいつだ。護摩堂だ」
 雪之丞は、横島の視線を追った。きのう雑誌で見た男が、きれいな女性を連れて反対側の歩道を歩いている。
 「あ、おい。どこ行くんだよ」
 横島は車道を横切ると、反対側の歩道に歩いていった。


 「あのー、すみません。護摩堂健一さんですよね」
 「・・・ああ、そーやけど。あんたは?」
 横島はニコニコしながら、中途半端にさしだされた護摩堂の右手をとり、握手した。
 「はじめまして。ボク、東京の美神令子除霊事務所でアルバイトしている横島忠夫っていいます。護摩堂さんのお名前は以前からお聞きしていまして」
 「へえ、あの美神令子の・・・・・・」
 
 横島は、護摩堂が次にとった行動をみて、目を細め、口の端をゆがめた。
 護摩堂はポケットからハンカチを取り出し、握手した自分の右手をぬぐったのである。
 
 「ほんで、なんやの?」
 「いえ、つい声をかけてしまっただけです。お邪魔しました」

 
 横島は、歩いていく護摩堂の背中を眺めていた。
 「おい、横島・・・・・・」
 いつのまにか、雪之丞がとなりに来ていた。
 「雪之丞。見たか、今の?」
 「ああ、見たけど・・・・・・」
 「なかなか、ごリッパなヒトだったネ」
 「お前・・・腹立たねーのかよ?」
 「世の中、いろんな人間がいるさ。んじゃ、宿に帰るとしましょーかね」


 ふたりはビジネスホテルに帰ると、例の水晶玉をとりだした。
 横島は水晶玉に手をかざし、念を込め始める。
 「あいつの顔がわかったからな・・・」
 やがて、水晶玉はかすかな光とともに、護摩堂の姿を映し出した。
 どこかのホテルのなかだろうか。さっきのとは別の女性と一緒である。
 横島は荷物のなかから、ビデオカメラをとりだした。水晶玉に映るものを撮影するつもりらしい。
 「ふふん。いい絵が撮れる予感がするぜ・・・」


 横島の冗談まじりの予感は、不幸な意味で的中した。
 
 『あなたの子なのよーーーっ』
 『わかるかい、そんなの!!』
 『やめてぇ、おなか蹴らないでぇー!!』
 『ヤカマシーわい!!』
 
 水晶玉は、泣きながら必死に腹部をかばう女性と、容赦なく蹴りをいれ、女性の髪をつかんでひきずりまわす護摩堂の姿を冷酷に映し出していた。・・・・・・


 「いやいや、見たくないもの見ちゃったなあ」
 横島は溜めた息を大きく吐き出した。次の瞬間、「あっ!」とさけんだ。
 雪之丞が、水晶玉に拳をふりおろしたのである。玉の上半分はコナゴナにくだけちり、下半分は畳にめりこんでしまった。
 「あーあ、もったいない・・・」
 雪之丞の顔は、ちょっと突付けば血が吹き出るかとおもうほど赤黒くふくれあがっていた。
 
 「おいおい、なにもぶっこわすこたぁねーだろ、タダで手に入れたっつっても貴重品なんだから」
 「殺すぞ」
 「・・・はあ?」
 「こいつを、護摩堂を殺すぞ!!」
 雪之丞は、弾けるような勢いでたちあがった。横島は、ゆっくりと雪之丞の体をおさえつけた。
 「まあ、落ち着けよ」
 「落ち着け!?落ち着いてられるか!!俺はなぁ、何が許せないって、女に暴力ふるうヤツほど許せないものはないんだよ!!しかも彼女、妊娠してんだろ!?」

 「んなこといったって、しょーがねーじゃねーか。よくあることといったら、よくあることだし」
 横島の落ち着いた声に、雪之丞はさらにキレた。
 「冗談じゃねえぞ!!弓は、こんなヤツと結婚しようとしてるんだぞ!?」
 「本人が決めたことなんだろ?俺らが口を出すことじゃない」
 「・・・・・・・・・」
 雪之丞は、急におとなしくなった。
 
 
 横島は雪之丞を横目で見つつ立ち上がり、歌うような調子でつぶやいた。
 「最愛の恋人と引き裂かれ、弓さんは護摩堂と結婚する。しかし、美人は三日で飽きる。夫は地位を利用し、次々と若い女に手を出す始末。かおり奥様、不満ウッセキしながらどうにもできず、あわれな晩年を送るのであった、ああ、こはひ〜」
 「・・・やめろ!!」
 「雪之丞、お前は最低品だぞ」
 「・・・・・・・・・」
 「やれやれ。たとえ手遅れであっても手を尽くすのが、俺らGSってもんだろ。相手が人間であっても同じことだとおもうけどなあ」
 「・・・・・・どうしろってんだ」
 「自分で考えろ!っといいたいが、ヒントをやる。まずは決意表明だ」

 決意表明?それって、いったい・・・

 「いえよ、雪之丞。考えるな。今の自分の気持ちを正直にさけぶんだ」
 「・・・・・・あんなヤツには、弓は渡せねえ!」
 「かおり、だろ。彼女の名前は」
 「あんなヤツには、かおりは渡せねえ!!」
 「ん〜、もう一丁!」
 「かおりは、俺が一生守り通してみせる!!」
 「ん〜、もう一丁!」
 「かおりのためなら、俺はいつでも死ねる!!」
 「ん〜、もう一丁!」
 「かおり!!好きだ!!結婚しよう!!!」
 「よおし、オッケーイ!そんなもんだろ」

 横島は、よれよれの黒ジャケットの内ポケットから手帳をとりだし、あるページを開いて雪之丞に見せた。
 「これは・・・・・・」

 『護摩堂健一。父親は陽一。この父親と弓かおりの父親とは、弓式除霊術先代頭領の下で同窓。陽一は修行を終えると故郷の京都(寺院)に帰り、事務所を開いて繁盛』

 メモには、護摩堂除霊事務所兼寺院の住所、門下生のおおよその人数、親子の近所の評判なども書かれていた。
 「横島。お前、ひょっとして、最初から・・・」
 「ちがうよ。いちおう下調べだけはしていたが、ホントの旅行のつもりだった。けど・・・」
 横島は、やがて目をギラギラさせて、いった。
 「俺も、ああいう男は許せねえ。ヤツには天誅を下してやらないとな」

 
 横島は立ち上がると、窓を開けた。すでに日は沈み、古い町並みに夜の気配が忍び寄っていた。
 「雪之丞、主役はあくまでお前だ。決行は一週間後」
 ビデオカメラから取り出したテープを見つつ、横島はニヤリと笑った。

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