ザ・グレート・展開予測ショー

悪夢 第三夜


投稿者名:ライス
投稿日時:(03/ 4/14)




「………ここは?」

 ドアの向こう側へ来た美神の第一声。そこは床から部屋の隅々まで鏡、鏡、鏡……。まるで遊園地のミラーハウスを全て、クリスタルで作ったような場所。上と下の区別がつかないような奇妙な感じに襲われる。彼女は幾つもの虚像が映し出される中を手探りにゆっくりと歩き出した。




 分かった事。まずここは円形の部屋だということ、それ以外は何もなく、鏡の壁が迷路のように入り組んで立ち並んでいるということ、そしてこの部屋には出口はないということ。それにさっきまであった自分が入ってきたドアも無くなっている。

「クソッ……!」

 美神はその鏡の壁を投げやりざまに蹴ると、そこに寄りかかった。あのおかしなテレビのいた所を脱出できたかと思えば、今度はダイアモンドの中心にいるようなこの、鏡張りの部屋に入り込んでしまった。もぅ、うんざりだ、彼女は思う。相変わらず、現実とも夢ともつかない奇妙な感覚にとらわれてる。一体ここは何処なのだろうか。……考えればキリがない。ひとまずここから脱出する方法を考えようとし、腕を組んだ瞬間であった。








































「グァッ!?」




 背後の鏡から腕がヌッと現れ、不意に美神の首を強く絞める。必死にもがく彼女。だが、腕は鏡の中から突き出ているだけなので、いくら後ろに肘打ちや蹴りを入れたところでは、ビクともしない。そうしてもがく間も首を絞める力は強くなり、彼女の呼吸活動は弱くなっていく。そして意識が遠のき始める。しかし、腕は急に力を緩めた。寸での所で助かった美神は、床に膝を付き、咽る。すると、鏡の方から、気味の悪い笑い声がした。

「カカカカ……ッ!いい気味ね?」

「!! お前は……!?」

「お久し振りね……、美神令子!」

 鏡の中には意外な人物がいた。勘九郎である。かつてGS試験、香港において、メドーサと共に美神達たちを苦しめた魔族化した人間、鎌田勘九郎。相変わらずオネエ言葉である。

「今頃、現れてきて、一体何の用?」

「アラ、随分な言い草ね?コッチは復讐(おかえし)がしたくてしたくて、ようやく地獄の淵から生き返ってきてあげたの言うのに……。」

「ハッ、何、冗談言ってるのよ!?私はアシュタロスを倒した人間よ?あれ以来、進歩も発展もないアンタがどうやったら、私に勝てるというのかしら?」

「……本気よ?まぁ、あたしも馬鹿じゃないから、真っ向勝負でアンタに勝てるなんて思っちゃいない

わよ。ただ、ハンデは付けさせてもらうわ!!」

 そう言うと、彼は姿を消す。美神は手に持っていた神通棍を構え、目を閉じ、自分の虚像を映し出す、周りの鏡から気配を感じ取る。







「そこよ!!」



 美神は目を見開くと、神通棍を斜め背後の鏡へと投げつけた。突き刺さる神通棍。しかし鏡にはヒビが入るのみで何も起こらない。

「残念だったわねぇ〜っ?もう少しだったって言うのに……」

「!?」

 天井から勘九郎の声がする。上を見上げると、鏡の中で小気味良くおどける彼の姿があった。

「ん〜、惜しい、惜しい。」

 すると美神は、フッと、笑うと、敵じゃないわとばかりに強気に出て言う。

「……相変わらずワンパターンね!!それじゃあ、私には勝てないわよ!?」

「そう粋がってられるのも、いつまでかしら?」

「何ですって?」

「そんなことより、いいの?後ろの彼、随分と苦しそうだけど。」


 彼?
 
 美神は不思議に思って、後ろを振り向くとそこには自分の神通棍が突き刺さって、血まみれになっている横島の姿が……!!

「よ、横島クン!?」

 すでに声も出せないくらいの傷を負っている横島。彼は倒れ込むと、そのまま息を引き取った………

。美神はその動かない横島の体を抱きかかえ、黙りこむ。そしてうつむいたまま、彼女が言う。

「そう……、これがハンデってわけね……?」

「そうよ!!気に入ってもらえたかしら?あなたの記憶を探らせてもらったわ。見たら、アンタ、前世でそいつの前世と恋仲だったそうじゃない?それに怒ったアシュタロスが自ら手を下した。つまりそいつの前世が死んだのはアンタ前世のせい。私はそれを再現してあげただけよ!!いい趣向でしょ?カーッ、カカカカッ!!」

 勘九郎は鏡の中を移動しながら、狂ったような笑い声を出す。美神は再び黙ったまま、横島に突き刺さっていた、神通棍をゆっくりとに抜き、彼の体を横たえ、まぶたをスッと手で下ろしてやった。

「さっきから、黙ってばかりつまらないわねぇ?まぁ、かつての恋人を殺されちゃあ、仕方がないしょうけど。クククッ!!」

 勘九郎は鏡から身を乗り出し、美神の周りで、嫌味誑しそうに喋る。

「ウルサイッ!!!!!!!!!!」

 美神は神通棍を振り払った。しかし、勘九郎はそれを軽々と避けた。

「過去が何だって言うのよ……!!前世で何が起こっていたとしても、私は私よ!!」

「それにしちゃ、妙に怒っているようだけど、気のせいかしら?」

「だっ、黙れぇぇぇっ!?」

 美神は、我を忘れ、勘九郎目掛けて、神通棍で鏡を粉砕する。しかし、勘九郎は今一歩の所で瞬時に別の鏡へ移動するので、一撃も浴びせられないでいた。

「ホラホラ、♪鬼さん、こちら、手の鳴る方へ〜」

 ガラスの破片がそこら中に散らばり、美神は息を切らしながら、鏡の中に潜む相手が現れるのを、精神を統一して、立ち尽くしていた。


「……………」

 
 移動する姿は目に見なくとも、霊気の動きは感じ取れる。美神は目を閉じ、相手が次に移動するのを静かに待つ。そして、


「!!」


 気配を感じ取った美神は、その方向へと神通棍はかざし、一気に振り下ろした。鏡は割れ、破片は宙に舞う。彼女はこの一撃に手応えを感じた。

「……やった!」

 割れた鏡の中から倒れ込む肉体。それはちょうど、近くの横島の遺体に覆い被さるように。彼女は勝利を確信した顔でその倒した魔族を見るために下を向いた。しかしそれは、勘九郎の肉体でなかった。

 





























「ルシ……、オ…、ラ…?」





















 横島に覆い被さるもの、それはルシオラの身体。美神は動揺しながらも、その重なり合う二つの肉体を直視した。すると、また鏡の中の勘九郎が現れる……。

「前世で愛し合ったあなた達は必然的にこの現世で再び出会った。しかし、この魔族の娘のせいで大きく歯車が狂い出した。二人は恋に落ち、将来を誓い合った……。アンタは心の底で嫉妬し、憎んだ。そして最終局面。彼は選択を迫られた。アンタは彼にそれを委ねたわけだけど、本当は彼女が復活しなければ、な〜んてこと、思ってたんでしょう!?」

「………」

「あら、また黙り込み?ま、いいわ。でも、どうかしら?アンタが前世で彼に出会わなければ、こういうことにならなかったかもしれない、つまり、アンタという存在が前世から全ての出来事の原因だったワケよ!!」

「……」

 勘九郎は蛇の様に下の鏡から美神に纏わりついた。

「あら、まだ黙ってるつもり?いい加減……ブッ!?」

 勘九郎の頬に拳骨が入り、美神は彼の出ている鏡から離れた。そして威勢良く言い出した。

「さっきからゴチャゴチャと……!たらればの話なんてウンザリよ!!私の存在がどうのこうの、なんて

関係ないわ!!第一、私の心の内が分かる様な口調で語りださないでくれる?虫唾が走るわ!!」

「グググ…ッ」

「さて、いい加減しつこくなってきたから、さっさとアンタを倒すことにするわ
!?」

「アラ、さっきまであんなに手間取っていたのに、どうやってこのあたしを倒すつもり?」

「話が長かったおかげで、ある事に気づいたわ。アンタ、実体がないでしょう?だから、腕や身体の9割を鏡の外に出せても、完全に出ることはない。違う?」

「……良く気づいたわね?でも、だからと言ってそれがあたしを倒せる根拠ではないと思うけど?」

「確かにアンタは鏡の中にさえいれば、無敵といっていいわ。でも、鏡の無い所じゃ、どうかしら?」

 そう言いながら、美神はイヤリングとペンダントとを引きちぎった。

「ま、まさか……、や、やめろぉぉぉぉぉぉ!?」

「精霊石よ!!」










































 漆黒の闇。そこに浮かぶ巨大な球体状のクリスタル。その中から突然、溢れ出す光。光に包まれると、クリスタルはビッグバンの様な閃光を放ち、音も無く粉々に砕け散った。そのダイアモンド・ダストのような破片と共に、女性が一人、闇の中へと力無く落下してゆく。彼女は思った。これで良かったのだと。しかし、悲しくも無いのに一筋の涙が零れ落ちてゆく。何故?自分に問うた。しかし彼女は答えを見つけられないまま、その救いの無い闇へと、身を委ね、落ちていった……。



 

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