ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記(その15)


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 4/14)



「ひのめえええええええ!!!!」

業火に包まれる愛娘に気が狂いそうになる美智恵。
普通ならそうなってもおかしくないだろう。
しかし、美智恵は結界から飛び出し、ひのめに駆け寄りたい気持ちを何とか押させ踏みとどまった。
そんなことしても、二人とも助からないことが分かっているからだ。
もちろん、だからと言ってひのめ救出を諦めたわけではない。

(何か、何か手があるはずよ・・・・)

苦渋の表情のまま思考を巡らす、幸い燃えているのはひのめではなく着ている服のようだ。
念力封じのお札は?・・・ダメ、本部テントに置いてあるバッグの中。
自分とあの二人でひのめの霊力を封印・・・、却下。二人ともかなり霊力を消費してるうえにそんな時間はない。
どれも現時点では不可能な選択・・・。

「ママ・・・あついよ・・・ひっく・・あついよぉ・・・・・・・うああああああん」
「ひのめ!!」

もうだめだ!
これ以上泣け叫ぶ我が子をほうっておけない!
自分の情けなさに震える体を起こし結界から出ようとした、その時。

コロン、コロン・・・・・

立ち上がった拍子に美智恵の懐から何かが足元に転がった。
それは・・・

「・・・・文珠」

先ほど横島から受け取った文珠は二つ。
一つはひのめの発火能力から護るため『守』という字が輝き、結界を展開している。
今美智恵が手にしているのは残りの一つだった。

(どうする・・・・考えなさい美智恵!)

文珠でどうやってひのめの力を封印するか・・・一つの提議の結果を出すために脳細胞が活性化していく。

『封』・・・・だめだ。文珠一つではひのめの暴走を封印できるかは微妙なライン。失敗すれば後はない。
『水』・・・・これもダメ。今のひのめに使っても『焼け石に水』。
『氷』・・・・上手くいってもひのめを傷つけてしまう。
『消』・・・・今ある炎を消してもすぐに発火してしまう。

「どうすれば・・・いいの」

絶望感にうっすらと涙が浮かぶ。
ケルベロスを倒した今、美智恵の心を支配するのは母としての感情のみだ。
娘も救えない自分の無力さに怒りさえ覚える美智恵。

「ママ・・・・たす・・・・けて・・・・」

ドサ・・・

ヨロヨロと美智恵の結界まで向かう途中でひのめが力なく倒れた。
出血による貧血、炎に包まれているせいで酸欠状態も起こしたのだろう・・・
もう、歩けない・・・それでも母に助けを求めるように手を差し出すひのめ。

もうダメだった・・・

これ以上、我が子のこんな姿を見てられない!
『封』でも『水』でも『氷』でも『消』でも何でもいい!とにかくこの文珠でひのめを救う!
その思いだけで結界を飛び出そうとしたとき・・・美智恵は気付いた。

「炎が弱くなってる・・・」

そう周囲に燃え盛る炎が沈静しかかっていた。
ひのめがコントールしている・・・・・ことはない。
術者が死にかけている・・・・・・・・・・それもある・・・しかし完全に死なない限り炎が消えるなんてことはない。
つまり術者の意識があるか、ないか・・・それによって炎の強弱が変化している。
そこまで思いつき、美智恵の頭脳が閃いた。

「これだ!」

ダっ!

決意の表情で結界から飛び出す美智恵。

ボウ!!

結界から飛び出すと同時に美智恵の左腕が炎に包まれる。

「ママ!」
「隊長!!」

その光景に令子と横島が驚愕の表情で叫んだ。
しかし、そんな声はもはや美智恵には届いていない。

「このくらい何よ──────っ!!」
「ま・・・ま・・・」


パアアアアアアアアアアァァァァ!!!!


美智恵の叫び、ひのめの微かな声、文珠発動の輝き・・・・それは全て同時に起こったのだった。

















同日  
PM8:56
東京都 白井総合病院

左腕に包帯を巻いている美智恵、令子。そして横島の三人はそこの第2診察室にいた。
白井総合病院・・・今では日本有数の大病院となっている。
その大きな理由が霊障科というここ最近出来たばかりの新分野に長けているからだ。
あの頑固院長は

『あくまで特殊な病気であって霊なんていない!
特殊な症例が多発してるから特殊なスタッフと設備を整えただけだ!!』

と、一向に幽霊の存在は認めないが今の三人にとってはそんなことはどうでもよかった。

「え〜と、美神ひのめちゃんのご家族の方ですか?」
「はい・・・」

『山崎』と書かれたネームプレートを胸に下げた医者に短く返事する美智恵。
いつもの冷静さを取り戻しているように見えるが膝の上に置いた手が微かに震えていた。

「まずですね・・・火傷と背中のケガ・・・・」

ゴク・・・

美智恵の喉がなった。
いや、美智恵だけじゃない令子も横島も緊張の面持ちでドクター山崎の口元に注目する。

「幸い命のほうに別状はありません、ケガのほうも当院でヒーリング治療入院をすれば三日で完治するでしょう」

その言葉に安堵の表情を浮かべる三人。
ひのめの命は助かり、ケガも治る、これ以上ない最高の結果だと誰もが思った。
しかし・・・

「ただ・・・背中の3本の引っかき傷・・・それとそこに付いた火傷
これだけは完治しても跡は残ります。おそらくケルベロスの妖毒のせい・・・それと傷が少し深すぎたんです」

「!」

その一言に美智恵の表情が固くなる。
傷が残る?・・・・まだ四歳なのに一生の傷が・・・・
顔じゃないだけマシかもしれない、それでも女の子の体に傷が残る。
いや、それでも日常生活を普通に送れるのだ・・・・いいではないか。
美智恵は自分の心にそう言い聞かせて気分を何とか落ち着かせようとする。

「それで・・・ひのめは・・・娘は三日も入院すれば日常生活に支障はないんですよね」

冷静だ・・・自分は冷静に言った。
だから・・・だからその問いに「YES」と答えてくれ・・・美智恵は神にもすがる気持ちで返答を待った。
だが・・・

「いいえ・・・・」

短い「NO」の言葉。
その一言に美智恵から絶望で力が抜けていく。

「そ、それは・・・」

震えながら担当医に質問しようとする美智恵の肩を軽く令子が抑えた。

「それってどういうこと?」

そして美智恵の変わりに問う。
その口調は少し怒りが含まれている『ここ病院でしょ?何とかしなさいよ!』と。
もちろん、病院は神様じゃない、治せない傷だって病気だってある、
しかし、令子も家族のことになると冷静にいられなかった。

「今回のひのめちゃんの暴走・・・・これは幸か不幸か結果的に彼女の霊力を爆発的に上げてしまいました。
これはもう今まで使用していた『念力封じの札』ではあの発火能力を抑えることは不可能です」

「ちょ、ちょっと!だったらその札のレベルを上げればいんだろ?」

簡単な発想だ。
それでも横島は希望の言葉を発したかった。
だが、山崎はその言葉に首を横に振るだけ。

「いいえ、今まで使っていたお札は携帯用として最高レベルです。今の霊能技術であれ以上の札はないでしょう」

「・・・・・・・・・・」

嘘など言ってない山崎の言葉に黙るしかない三人。
そして山崎はゆっくり右手の指を立てていく。

「今後ひのめちゃんが生活していくなら3つ方法があります・・・
1つ・・・携帯用『念力封じの札』が使えないので特殊結界の施した部屋で過ごす。
2つ・・・発火能力をコントロールできるよう修行する。
3つ・・・霊力自体を封印する」

「待ちなさいよ!どれも選べない選択肢じゃないの!!」

一つ目はもちろん論外、ひのめをかごの鳥みたいな生活を送らせるわけにはいかない。
二つ目は不可能だ・・・4歳でコントロール出来るならとうの昔に教えてる。
三つ目・・・これはつまりひのめGSとしての才能を潰す。
どれも過酷な条件だった。

「特殊心霊医師として言います。・・・ひのめちゃんのGSとしての才能が惜しいは分かる。
しかし霊力の封印・・・・これが一番の選択肢ではないでしょうか・・・」

山崎の言葉に沈黙だけ存在する診察室。

「もう少し詳しく聞かせて下さい・・・」

「ちょ・・・」

沈黙を破った美智恵の言葉に異を唱えよとする令子。
しかし、令子はその言葉をグっと飲み込んだ・・・美智恵が少しだけ震えていたのが分かったから。

「令子、忠夫クン・・・・お願い、ここからは先生と二人きりにさせて・・・
母として・・・あの子のために何が一番いいかを相談したいの」

「ママ・・・」

横島は無言で令子の肩をそっと抱き、診察室をあとにする。

パタン・・・

無機質なドアを閉める音が非常灯に照らされる待合室に響いた。








同病院 特殊心霊治療室。

そこは入れば新生児室のようにガラスが張られ外から入院患者の状態をみることが出来る。
ひのめはそこで左腕に点滴と輸血のチューブ、天井からはヒーリング効果のある淡い光を当てられ、
その体には包帯が何重にも巻かれていた。
そして部屋全体が高等な結界を4重も展開しひのめの発火能力を抑えている。

「ひのめ・・・」

聞こえるはずのない声で妹の名を呟く令子。
N山で美智恵が使った『眠』の文珠が聞いているのか、それとも本当に眠くて寝ているのかは分からない。
ただ何も知らず無邪気な寝顔を浮かべるだけだった。

ダンっ!!

治療室に鈍い音が響き、ガラスが震える。
それは令子が拳をガラスに叩きつけたからだ。

「令子!」
「私が・・・・もっとしっかりしてれば・・・」

悔しさ、後悔の感情の浮かべながら、コン・・・とガラスに額をつける令子。
自分がもっと上手く戦っていたら、あのときひのめを先に本部テントに返しておいたら・・・
今更結果は変わらない・・・それでも、過去の自分の選択肢に誤りがあるとしか思えなかった。

「私が・・・私が・・・」

令子はなおも自分を責め続ける・・・横島はそんな令子を後からそっと抱きしめた。
始めは何事かと驚くが、やがて背中に広がる暖かい温もりに令子はその身を預けた。

「お前は悪くない・・・お前も俺も一所懸命戦った・・・」
「でも・・・でも」

妹をむざむざ傷つけさせたという後悔の念で涙を流す令子。

「うっうっ・・・」
「もう少しこうやっていようか・・・・」

横島の優しい言葉に令子は無言で頷く。
涙で歪む視界に入る傷ついた妹・・・そして自分自身の体と心も傷ついた令子。

・・・・・・・・・・そんな傷を癒すように横島はその暖かい腕と心で妻を包むのだった・・・・・・・・



                                   その16に続く

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