ザ・グレート・展開予測ショー

ルシオラ救済SS!『CONTINUE?』


投稿者名:Iholi
投稿日時:(03/ 4/13)

「動くな!」
 力強い青年の声が長靴の上から足元を撫でた。アシュタロスは鷹揚にそびやかしたたくましい肩口から、足下に広がる瓦礫の迫間で立ち上がろうとする青年、横島忠夫を見下ろしていた。
 忠夫の右手には拳大の結晶体、今し方アシュタロスが探しあぐねていた魂の結晶――これほど高純度の結晶を得る為に、彼は数千年の時間と数え切れない犠牲を払った――が鈍い霊波の揺らめきを宿している。そしてもう一方、左手の二指にしっかりと挟まれた文珠――漢字から想起される様々な霊力を僅か4センチ径の小球に込めて一気に爆発させる、忠夫の特殊能力――、それに刻まれた文字(もんじ)に、アシュタロスの眼目は引き寄せられた。
 それは「破」。その後の忠夫の口舌を待たずとも、その文字の示す
意味は滑稽なほど明瞭だった。
 そう、滑稽なほど。
「ちらっとでも動けば……結晶を破壊するッ!!」
 予想通りの青年の口上に吹き出さなかったのが自分でも不思議に思える位、アシュタロスの頭脳は冷利に冴え渡っていた。
 彼は改めて忠夫を観察する。注意深く聞けば一見強気と見える脅し文句は、幽かだが言葉の端々が震えていて、極端な抑揚すらも虚勢と映る。己を鼓舞する様に突き出された両腕と指先もその震えを隠し切れず、それを無理に抑え付けようと肩に無用な力が入っているのが厚手のデニム・ジャケの上からも明らかだ。膝とくるぶしの位置がふらふらと思うに定まらず腰も若干退け気味なのは本人も気付いてはいまい。
 すっかり汗とほこりに塗(まみ)れたこの青年の表情は決して悪くない。そこから滲み出る、全くの格上の実力者と渡り合う心理的圧力に打ち勝たんとする努力は、それがたとえ虚勢であったとしても、人間だてらに敵する者として認めてやりたいものだ。しかし、かつて南極で私をまんまと出し抜いてみせた時に見せた、あの強(したた)かさな輝きが今は全くみとめられないとは。
 全く、魂の結晶を持っていると云う優位に立っていると云うのに、優位さの本当の意味にも気付かないでこのていたらくとは……いや、寧ろそれ故、この青年のごとき卑小な器には些(いささ)か荷が勝ち過ぎると云う事なのだろうか? それともあの時と違って、この青年から精神的余裕を奪い去る何等かの要因が作用しているのだろうか?
 ……そうか、「愛する者の死」か。……全く、それしきの事で自らを見失うとは、人間と云う種族にはほとほと失望させられる。にも関わらず多少残念な気持ちも有ると云う事は、私も少しはこのちっぽけな人間に何かを期待しかけていたのかも知れないな。
 ならば、自戒も込めて彼の努力に終止符を打ってやるのが、彼と「彼女」に対する私からの最上の花向けであると思わないかね?
『悪い冗談だな。そいつを壊せば困るのは私だけではないぞ。』
 そして、アシュタロスは表情一つ変えず言い放った。
『ルシオラを…見捨てるのかね?』


 ……とゆーよーな事になるともう取り返しが付かなくなるから、取り敢えずこの「結晶壊しちゃうぞ!作戦」はダメね。大体、結晶壊したらわたしが生き返れなくなる事くらい、すぐに気付かなくっちゃ。
 大体、前の頁のコミカルな作劇から一転して、珍しく真面目に締めようとするから……バカねえ。そんなんだから後であの女(ひと)に『シリアスな横島には存在価値が無い』って言われるのよ?
 じゃあ、どうすりゃ良いのかって? そんな事はおまえが自分で考えるの! そうね、最高クラスの悪魔と取引するに当たって、先(ま)ずは今の状況をきちんと確認なさい。
 第一に、おまえは「魂の結晶」を持っている。奪い返される危険性もあるけれど、結晶はとっても壊れ易いから、力任せに奪ってくる事はないでしょうね。まあ奪われたとしても、「宇宙意志」が働いている限りアシュ様が完璧に使いこなす事は不可能。これは大きいわよ。
 第二に、おまえは一度アシュ様を出し抜いている。対抗策としての霊力妨害も無くまた宇宙意志の作用が有効な今、アシュ様はおまえを敵手として警戒しているわ。そこに心理的に付け入る隙が在ると思うの。
 第三に、結晶と「宇宙処理装置(コスモ・プロセッサ)」があれば……ほぼ確実に、わたしの事は解決するでしょうね。そして勿論、装置はアシュ様の目的を成就するのにも必要な物だわ。つまり『アシュ様が悪役っぽく宇宙処理装置もろとも自爆』なんて事は、まず在り得ないでしょうね。
 ……さ、ここまで言えば、おまえが何を見失ってはいけないか、何を目指すべきなのか、判ってきたわよね? それじゃ、わたしとのベスト・エンディング目指して、頑張ってね!

 ……おまえの煩悩パワー、信じているわ。

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